ハイスクールD×D~堕ちた聖女の剣~   作:剣の舞姫

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今回から聖剣編です。


月光校庭のエクスカリバー
第十五話 「夢」


ハイスクールD×D

~堕ちた聖女の剣~

 

第十五話

「夢」

 

 自分が今、夢を見ているのだと自覚出来たのは、初めてなのかもしれない。

 そう、アーシア・アルジェントは何処か他人事のように思いながらも、見ている夢の光景を虚ろな表情で眺めていた。

 それは、多くの戦場の光景、多くの涙と血が流れ、同じ数だけ命が失われていく地獄と言っても良いのかもしれない。

 ただ、その地獄の中を只管救わんがために駆け抜ける赤い騎士の姿がある事に気がついた。

 その騎士は、両手に黒と白の双剣を握り、常に多くの人を救い、そして同時に多くの人を殺め、見殺しにしていた。

 浴びせられるのは感謝の言葉ではなく、罵倒。なぜ救ってくれなかったのか、なぜ見捨てたのか、なぜ殺したのか……。

 騎士は常に人々を救っているというのに、誰も彼に感謝の言葉を述べなかった。

 

「どうして……」

 

 ふと、そんな言葉がアーシアの口から零れ落ちた。

 沢山の人を救い、自分が死にそうになりながらも救われぬ筈の命を救ってきた騎士が、どうして罵倒されなければならない、どうして恨まれなければならないのか。

 やがて、騎士の心は磨耗していき、ただただ救う為に殺すだけの機械のようになっていく。

 己の心が壊れていくのを自覚しながらも、なお救うために戦う騎士の最期は……救った筈の男に裏切られ、全身を数多の剣で貫かれ、絞首台へと送られるというものだった。

 

『ああ、それで良い……俺の死で皆が救われるのなら、俺は喜んでこの命を捧げよう』

 

 何処までも自己犠牲だ。

 自分の身の危険を顧みずに戦った男は、最期の最期まで自分の命を犠牲にする事を厭わず、その生涯を終えたのだった。

 

 

「いやぁああああああああああ!?」

 

 朝、教会にある自室のベッドの上で、アーシアは悲鳴と共に飛び起きた。

 全身に嫌な汗を浮かべ、目からは大粒の涙を零しながら荒い息を吐くその姿は艶かしさがありながらも、どこか儚げなものだ。

 

「ゆ、夢……?」

「アーシア、どうした!?」

 

 アーシアの悲鳴を聞いて部屋へ飛び込んできた赤い人影、アーシアのサーヴァントにして、今や彼女にとって兄にも等しい男、アーチャーがいつの間にか手に持っていたタオルでアーシアの額の汗を拭う。

 そんなサーヴァントの姿を見つめながら、アーシアは先ほどの夢に出て来た騎士が、今目の前に居る己のサーヴァントなのだと、気がついた。

 

「アーチャーさんが、夢に出てきました……」

「む……?」

「沢山戦って、多くの人を救ったのに、最期は……」

「なるほど……私の生前の事を夢に見たのか」

 

 サーヴァントのマスターは時々だが己のサーヴァントの生前の出来事、記憶を夢に見る事がある。

 今回、アーシアが見た夢はアーチャーの生前の記憶、戦場を駆け巡り、多くの人を救いながらも、同じく多くの人を切り捨ててきた頃の記憶だろう。

 

「アーチャーさんは、後悔してないんですか? 沢山の人を救ったのに、処刑されちゃうなんて」

「……さて、どうだったかな」

 

 後悔は無い。そんな事、ある訳がない。生前は多くの人を殺め続け、死後は己の意思など関係無く人類の尻拭いをさせられ、人間というものに絶望してしまった。

 そう、エミヤシロウは……英雄になど、なるべきではなかったのだと、そう思ってしまうほどに。

 だけど、それを言葉にすれば、恐らく目の前に居る心優しいマスターは涙を流すのだろう。それならば、ここは誤魔化すのが一番だと判断した。

 

「私自身が生前の事を殆ど覚えていないのでな、後悔したかどうかなど、今更確認のしようが無い」

 

 ただ、後悔とは違うのかもしれないが、どうしても許せないのは己の存在だ。

 借り物の理想を掲げ、偽善で行動し、挙句に死後すらもその理想に裏切られ続ける己自身を、アーチャーは殺したいほど憎んでいる。

 記録では、答えを得た自分も居るのだろうが、今この場に居るアーチャーにその記憶も記録も無い。

 

「さて、そろそろ支度をして食堂に来るといい。時間が押しているから、朝食を食べる時間が無くなるぞ?」

「ふぇ……? ああ!!!」

 

 時計を見ればなるほど、確かに急いで着替えて朝食を食べなければ遅刻してしまう時間になっていた。

 苦笑しながらもアーチャーは着替え始める主の為に部屋を出ると食堂へ向かって朝食を並べる事にした。

 ふと、朝食を並べながらアーチャーは窓から見える外へ視線を向け、今の己の状況を改めて思い返す。

 

「……この世界に衛宮士郎が居れば良かったのだがな。世界というのは何処までも私を裏切るのが好きと見える」

 

 慌てて食堂に駆け込んできたアーシアにもう一度苦笑しながら、アーチャーは椅子に座ったアーシアの前に紅茶を置くのだった。

 

 

 学校に来てからも、アーシアは今朝の夢のことを考えていた。

 あの夢に出てきたアーチャーは、とてもではないが幸せだったとは思えない。誰かの為に、ただそれだけを考えて行動し、自身の命を顧みず戦い続ける人生、己の幸せなど何一つ考えず歩んできた道、それを見てからというもの、アーシアの胸の内には今まで感じたことの無い感情が燻っているのだ。

 それが、何なのかはアーシア自身気づいていないが、それは明らかな苛立ち。偽善とも言える人生を送り、最期まで誰かの為に己の命を使い続けた男への、確かな苛立ちである。

 

『アーシア、考え事も良いが、授業に集中したまえ』

「(はわ!? そ、そうでした……)」

 

 見れば考え事をしている内に黒板がずいぶんと埋まっていたので、慌てて板書をするアーシアを後ろから眺めながら、アーチャーは彼女が何を考えていたのか大よそ検討が付くため、ため息がこぼれてしまう。

 

『(少し、昔話をする必要がある、か……)』

 

 己の原点、磨耗した記憶の彼方に今も尚、色あせず残るあの月の夜の、亡き義父との最後の会話のこと。

 そして●●士郎が衛宮士郎になったあの出来事を、アーシアに聞かせる良い機会なのかもしれない。

 

『(それと……)』

 

 まだ警戒こそ完全に薄れてないが、そろそろリアス達にサーヴァントというものが何なのかを説明しても良い頃合だろうと判断したので、放課後にでも部活で皆が集まった際、説明する事にした。

 アーチャーが人間ではないという所までは理解しているようなので、アーシアに改めてサーヴァントというものがどういうものなのかを説明する意味合いも込めて、丁度良い機会なのだろうと思うのだ。

 まぁ、もっとも、一先ずは……。

 

「はうっ!? まだ書いてないところを消されてしまいましたぁ~」

『私が覚えているから、後で説明する』

 

 考え事ばかりして授業に集中していなかったマスターのサポートに、徹する事にした。

 

 

 放課後になり、アーシアとアーチャーはいつも通り、一誠と、途中で合流した祐斗、小猫と共に部室へ行き、既に来ていたリアスと朱乃と共に一息入れた。

 そして、ずっと霊体化してアーシアの後ろに待機していたアーチャーは徐に実体化し、何事かと目を向けてくる面々に顔を向けると、口を開く。

 

「そろそろ頃合だと思ったのでな、リアス・グレモリー達にサーヴァントというものが何なのか、説明しようと思っただけだ」

「そう……それは私達を信用して貰えたと判断して良いのかしら?」

「完全に信用した訳ではない。ある一定の信は置けると判断しているが……まぁ、それは別に良かろう。今は私の話を聞いてくれ」

 

 そして語る。己が……否、サーヴァントというものが、英霊というものが何なのかを。

 

「そもそも、サーヴァントとは普通の使い魔と違う。その正体は神話や伝説などに語られる英雄や勇者達……即ち英霊だ」

「神話や伝説の存在ですって!? そんな存在がどうして使い魔みたいな……」

「サーヴァントという型に、英霊という魂のみの存在を押し込める特殊な術式を用いているから可能なのだ。本来であれば英霊を使い魔にするなどという高等技術、人間には……いや、悪魔ですら不可能だろう」

 

 話を続けた。

 アーチャーは、自分もその英霊の一人ではあるが、古の英雄や勇者などとは程遠い、亜種の存在、守護者という分類に属する英霊だと語る。

 

「守護者とは、生前に人の身では成し得ない奇跡を起こす代わりに死後を世界に売り渡す契約を結び、その死後に世界によって魂を精霊の域まで高めた存在。後に起きるであろう人類滅亡を回避する為に存在するが故に守護者(カウンター・ガーディアン)と呼ばれている」

守護者(カウンター・ガーディアン)ね……初めて聞く単語だわ」

 

 一応、この世界にも意思のようなものは感じられるし、抑止力も健在だ。

 ただ、悪魔と神、天使や堕天使などが普通に存在しているこの世界の抑止力は、守護者を召喚するほどの力は無いようだが。

 

「兎に角、理解したわ。アーシアのサーヴァントは、亜種の存在とは言え、英霊の一人だという事……人間でありながら人間を超えた存在、そう理解したら良いのよね?」

「そう捉えてもらって構わんよ」

 

 流石に頭が良いだけあって理解力も高い。

 リアスがもし偶然にもサーヴァントを召喚していたら、きっと良いマスターになっていただろう。

 

「所で、そのサーヴァントの召喚って私達にも出来ないのかしら?」

「ふむ……少し、皆の肩に手を置かせて貰っても構わないかね? 調べてみよう」

「ええ、どうぞ」

 

 アーチャーは一人一人の肩に手を置いては解析をして、彼女達の魔術回路の有無を調べて行く。

 そして、全員を調べ終えて分かったことは、この場で魔術回路を持つのはアーシア唯一人だけだという事だ。

 

「残念ながら君達にサーヴァントを召喚する事は出来ないようだ」

「そう、残念ね」

 

 それと、少し調べて分かったことなのだが、祐斗には魔術回路が昔はあったと思われる痕跡が確認出来た。

 今は完全に死滅しているので、恐らくは人間だった頃は生きていた可能性がある。

 

「ふむ……(悪魔になり魔術回路が死滅した……この世界の悪魔には魔術回路が致命的に相性が悪いのか、それとも悪魔の魔法を使うのに魔術回路は邪魔なのか)」

 

 この分ではアーシアが悪魔にならなかったのは本当に正解だったのかもしれない。

 もし、悪魔になっていたら彼女の魔術回路が死滅して、アーチャーとのパスも途切れてしまっていたかもしれないのだ。

 

「さて、私の話はこの辺りで良かろう。リアス・グレモリー、確か今晩は仕事が入っていたのではなかったかね?」

「ええ、そうだったわね」

 

 アーチャーの話は此処で終わり。

 オカルト研究部、今日もいつも通り通常営業と相成った。




とうとう、アーシアがアーチャーの過去を夢に見ました。
今はまだ影響はありませんが、後々に……。

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