ハイスクールD×D
~堕ちた聖女の剣~
第十七話
「聖剣」
無事にアーシアが使い魔を手に入れた数日後のことだった。
いつも通りオカルト研究部員は放課後になって部室に行く筈だったのだが、実はこの日は部室のある旧校舎が改修工事のため立ち入り禁止になっているので、本日の部活は急遽、一誠の自宅……彼の部屋で行われることになったのだ。
現在は一誠と、それから彼の家で暮らしているリアスの案内で兵藤家へと向かっている途中である。
「あ、そういえば部長、アーチャーさんのこと、母さんに何て説明するんすか?」
「……考えてなかったわね」
現在、アーシアの隣を歩くアーチャーに目を向ける。
黒いジーンズに同じく黒いワイシャツを第二ボタンまで開けたラフな格好をしているので、普通に一般の成人男性にしか見えないのだが、少なくとも教師には見えない。
「それなら心配無用だ。兵藤一誠の家の前に着いたら私は霊体化してアーシアの後ろに控えているから、君の母に私の姿が見られることは無い」
「あ、そっか、アーチャーさんって本来は実体が無いんでしたよね」
今思い出したとばかりに祐斗が先日説明された中にあるアーチャーの、というより英霊という存在の実態を口にした。
そう、本来実体無き魂のみの存在であるサーヴァントは、マスターからの魔力供給があって初めて現世に実体を得る。
つまり、霊体化……本来の魂のみの状態になれば一誠の母はおろか、この場に居る全員が彼の姿が見えなくなるのだ。
「あ、でもそれなら俺の部屋に着いたら実体になって良いっすよ、流石に部屋の中でまで霊体化してもらうのも悪いし」
「ふむ、ではお言葉に甘えるとしようか」
そろそろ兵藤家に着く。
遠目に兵藤という表札が見えたので、アーチャーは霊体化して変わらずアーシアの背後に控えた。
そして、一向が兵藤家に着いて、彼の母に本日の部活は一誠の部屋で行う旨を伝えると、そのまま玄関を上がって二階にある一誠の部屋へ入っていく。
「意外と綺麗です……」
「本当ですわねぇ、てっきりエッチな本とかが見える所に置いてあると思っていたのですが」
「いや、小猫ちゃん、朱乃さん、流石に俺もそれは」
「あら、でもベッドの下とか本棚の上から2段目にある漢字字典に偽装したやつとかあるじゃない」
「ぶちょーーーーっ!? 何で今ここでそれを!? てか、何で知ってるんですか!?」
哀れ兵藤一誠、一緒に住んでいる憧れの女性に
「あらあら、イッセー君も男の子ですわね」
「……不潔です」
「い、いや! 俺だけじゃないはずですって! 木場! アーチャーさんだってエロ本くらい持ってますよね!?」
「僕は興味が無いから持ってないよ」
「私も生前死後合わせて、その手の本に興味を持ったことは無い」
ついでに言うのであれば、アーチャーは一誠とは違い、童貞ではない。
「クッソ、これだからイケメンは……」
「いや、イッセー君、別に僕は本に興味が無いだけで女性に興味が無い、とは言わないよ? ただ関心が薄いだけだけど」
「祐斗、少し私から離れて貰えるかしら?」
「部長!?」
まさかのカミングアウトをした祐斗に、リアスが軽蔑の眼差しを向けたことで祐斗が崩れ落ちた。
「アーチャーさんも女性に興味があるんですか?」
「興味云々以前に、私は女性を性的に見る事が無いな……思春期の頃であれば、憧れた女子も居たが、成人して戦場に立つようになってからは、そういった欲求は皆無だった」
生前、戦場に出るようになってからも女性を抱く機会は確かにあったが、それは別に欲求不満とかそういう理由からではなく、もっと血生臭い理由からであったし、そもそもアーチャー自身がというより、エミヤシロウ自身が性的欲求があまり無いのだ。
勿論、まだ衛宮士郎として学生であった頃であれば年相応に性的欲求はあったものの、まぁ同世代に比べれば低い方だったのかもしれない。
「あら意外ね、英雄色を好むっていうから、てっきりアーチャーも英霊の一人としてイッセーが望むようなハーレムとか築いていたものだと思っていたのだけど? 古の英雄は結構な確立で重婚やハーレムを築いているじゃない?」
「否定はしない。確かに英雄という存在は得てしてそういう機会にも恵まれるのだろうが、私は生憎だが女性を愛するような余裕など無かったのでね、女性を愛する暇があるのであれば戦場に立っていた……む?」
話の途中でアーチャーが突然霊体化する。
皆が何事かと思ったその時、一誠の部屋の扉をノックする音が響いた。
「一誠、入るわよ~」
「母さん、どうしたんだよ?」
「どうしたも何も、お客様がいらっしゃってるのに飲み物やお菓子が無いんじゃ失礼じゃない」
「あ、そっか、サンキュー」
お盆に載ったコップにはジュースが注がれており、それを受け取った一誠はリアスにそれを渡すと、続いてお菓子の入った籠を受け取って部屋の中央に置いた。
「それとねぇ」
「まだ何かあるのかよ?」
「これを部活の皆さんに見せようと思って」
「これって……って、ちょっと待てぇえええええええ!?」
兵藤母が取り出したのは、アルバムだった。それも、一誠の慌て様から察するに恐らく一誠のアルバムなのだろう。
「祐斗、小猫」
「はい、部長」
「了解です」
「は、はなせぇええええええ!! それは! それだけはぁあああああ!!!」
祐斗と小猫に押さえ付けられて身動き出来なくなった一誠を余所にリアスがアルバム数冊を受け取る。
そしてそのアルバムを眷属達とアーシア、そして一誠の母が居るため実体化出来ないアーチャーが霊体化したままアーシアの後ろから覗き込む形で見始めた。
「ぐすっ……もういっそ殺せぇ」
「あはは、ごめんねイッセー君、でも僕達も君の小さい頃に興味があるからさ」
「うっせえやい! この裏切り者!!」
男子二人のやり取りを無視して女性陣は随分と盛り上がっていた。
今でこそ顔は良いのにスケベな点が台無しにしている一誠だが、幼少時は本当に可愛らしい所があったらしく、特にリアスが熱中して写真に写る幼い一誠を見ている。
ただ、時折唾を飲み込んだり舌なめずりをするのは勘弁してもらいたいと思う霊体化したアーチャだった。
「はは……ん? これは……っ」
唐突に、祐斗の雰囲気が変わった。
隣に居た一誠がそれに気づいて怪訝そうな表情を彼に向けたのだが、当の祐斗はアルバムの中の一枚の写真を、睨んでいる。
「イッセー君」
「どうした?」
「この写真なんだけど……」
「ん? どれどれ……ああ、これは昔一緒に遊んだ幼馴染の家で撮ったやつだな。今はこいつも海外に引っ越しちゃって居ないけど、この写真がどうかしたのか?」
「この写真に写ってるこの剣、何だか判るかい?」
剣という単語が気になりアーチャーも霊体化したまま二人に近づき、裕斗の手にあるアルバムを覗き込んだ。
なるほど、確かに幼い頃の一誠が、その幼馴染だという少女と一緒に写っている写真があり、その写真に写る二人の後ろの壁に掛けられている一振りの剣も写っていた。
「剣? ああ、何だっけ……? 確かこの子の親父さんの所有している家宝だったかな? 何だ、見たことあるのか?」
「この剣自体は初めてみたけどね、でも判るよ……これは、聖剣だ」
聖剣、その言葉を発した時の祐斗からは、憎しみという負の感情が発せられていた。
アーチャーは祐斗の様子に何かあると思いながら、静かに天井を抜けて屋根の上に出ると、霊体化を解いて実体化して、夕暮れに染まった空を見上げる。
「さて、何やら騒動が起きそうな予感がするな……」
見上げた空には、早くも一番星が輝いていた。
次回はついに登場! 教会からの使者。
血の雨が降るのか、それとも剣の雨が降るのか……あれ? どっちも同じ意味じゃね?w