ハイスクールD×D
~堕ちた聖女の剣~
第十八話
「教会よりの使者」
唐突だが、一誠の部屋で部活をした日から、祐斗の様子がおかしくなった。
普段の雰囲気も一変しており、近寄り難いオーラを日常から常に放っており、目つきも鋭く、時折殺意やら憎悪といった感情すら滲み出しているほど。
それは部活中も同じであり、つい昨日などはぐれ悪魔討伐の依頼が入った際にも彼らしくないスタンドプレーによるミスで危うく危機に陥るところだったのだ。
「アーチャーさん、木場さんはどうしたんでしょうか?」
「ふむ……さて、兵藤一誠の部屋で部活をして以来あの様子だ、恐らくは何かあったのだろうが、皆目検討もつかんな」
朝食の席でアーシアがしてきた質問にそう返したアーチャーだが、実は嘘だ。
本当のことを言うのであれば、アーチャーにはある程度の予想が出来ている。あの日、写真に写った聖剣を見て以来あの様子ということは、恐らく彼の過去に聖剣にまつわる何かがあり、それが原因で聖剣を憎んでいる、のだろう。
今、彼がしているあの目は、嘗てアーチャー自身も生前に多くの人々から向けられていたものと同じ、憎しみを抱いた者、復讐者の目と全く同じなのだから。
「それとマスター、今日は君に渡す物がある」
「渡すものですか?」
「ああ、これだ」
アーチャーが差し出したのは銀で出来たロザリオの通ったブレスレットだった。
「このロザリオも以前マスターに渡したネックレスのロザリオと同じでタリスマンの役割を果たしているのだが、本来の用途は別だ」
「はあ……」
「このブレスレットの用途は……攻撃用だ」
「え?」
攻撃の用途を持ったタリスマン、それは本来争いを好まないアーシアには相応しくない。
それはアーチャー自身が一番よく判っているはずなのに、何故あえてそんな物をアーシアに渡したのか。
「マスターが相手を攻撃することを好まないのは私とて理解している。だが、だからと言って攻撃手段を全く持たないというのは愚か者のすることだ」
使う使わないにしろ、攻撃手段というのは自衛の為に必要不可欠。
どうしても攻撃しなければならないという状況に陥った時に攻撃手段がありませんでは話にならないのだ。
「勿論、使わないに越したことはないが、それでもマスターの身の安全の為にネックレス同様、肌身離さず持ち歩いてくれたまえ」
使用方法はネックレス同様、ロザリオの中心にある青い宝石に魔力を通す事で、宝石に刻まれた術式が発動する仕組みになっている。
宝石に刻まれた術式は過剰治癒のもので、相手に過剰的な治癒を行う事で肉体を崩壊させるという魔術だ。
過ぎた薬は毒になる、という言葉があるが、治癒とて過剰に治癒すれば当然だが危険なもので、そもそも治癒魔術は魔術を用いて細胞を活性化させ、自己治癒力を促進させる事で癒すという物だ。故に、過剰に細胞を活性化させてしまえば待っているのは肉体の崩壊……死。
「わかりました、受け取ります」
案の定、幾分か迷っていた様子のアーシアだが、アーチャーが自分のために用意してくれて、そしてそれが身の安全を考慮した上でのことだと理解したのか、素直に受け取ってくれた。
腕にブレスレットを通したアーシアは朝食を食べ終えて鞄を持つと登校する準備を整える。
アーチャーもいつも通り霊体化してアーシアの背後に控えると、二人揃って教会から出て学校へ向かうのだった。
授業も終わり、放課後になってオカルト研究部員は改修工事が終わった部室に集まっていた。
祐斗も一応来てはいたのだが、相変わらず誰とも会話すること無く窓際に立って外を眺めているだけなのだが、その所為なのだろうか、部室の空気が随分と重苦しい。
ただ、アーチャーだけは気にした風でもなく紅茶の用意をして全員に配り、アーシアの後ろに立って投影した櫛でアーシアの髪を梳いていた。
「む? アーシア、トリートメントを変えたか?」
「あ、わかりますか~? 実はクラスの方におススメして頂いたトリートメントにしてみたんですけど、どうでしょうか?」
「うむ、前のよりアーシアの髪がさらさらになって、より君の魅力を引き立てている」
綺麗な金糸の如き髪を丁寧に梳きながらアーチャーは賛辞を述べた。
実を言うと、アーシアが髪の手入れを本格的に拘るようになったのはこの町に来て、アーチャーと暮らすようになったからなのだが、まぁ生前も死後も人からの好意に疎い朴念仁には気づけるはずもない。
「む、リアス・グレモリー」
「どうかしたのかしら?」
「旧校舎に誰か入ってきたようだ……気配からして恐らく人間の少女二人か」
それは妙な話だ。
そもそもこの旧校舎は駒王学園の生徒も存在こそ知っているが、結界の影響で近づくという思考が出来ないように誘導されているため、一般生徒が近づくことは無い。
となると裏の関係者かと思ったが、この学園の裏関係者で人間はアーシアのみ、それ以外の人間は基本的に裏の世界を知らない一般人の筈だった。
と、ようやく気配の主が部室の前まで来て、扉をノックしてきた。
「どうぞ」
「失礼する」
入ってきたのはアーチャーの予想通りリアス達と同世代の少女二人で、白いローブで顔以外の全身を隠している姿のまま部室に入ってきた。
一人は青い髪の一部に緑色のメッシュが入った少女で、布に包まれた剣らしき物を所持している。
もう一人は茶髪の髪をツインテールにした少女、こちらはどこか活発そうな雰囲気を持っており、もう一人の少女のように剣を持っているということは無い。
「突然の来訪失礼、我々は教会から来た者だ。私はゼノヴィア、こっちは……」
「紫藤イリナです、よろしくね」
「あら、態々敵地へ教会の使者さんが何の御用かしら?」
朱乃に勧められてソファーに腰掛けた二人は対面席に座ったリアスにまずは突然の来訪を謝罪し、己が身分を明かした。
リアスの言うとおり、教会の人間にとってこの場所は敵地だというのに、一体何の用事で来たのか、恐らくは厄介事だというのは何となく予想出来るのだが。
「実は、つい先日の話だが、カトリック教会本部ヴァチカンとプロテスタント、それから正教会に保管されていた聖剣エクスカリバーが堕天使側に盗み出された」
「エクスカリバーですって!?」
エクスカリバー、その聞き覚えのあり過ぎる名前にアーチャーも微かにだが反応した。当然だろう、その名はアーチャーにとって……否、エミヤシロウにとって特別な意味を持っているのだから。
「あの、部長……エクスカリバーってあのアーサー王伝説で有名な聖剣ですよね? 何でそれが複数あるみたいな言い方されてるんですか?」
「そっか、イッセーは知らなかったわね」
教会の者に一言断り、リアスは悪魔になったばかりで知識に疎い一誠に説明することにした。
「まず、エクスカリバーについてだけど、そもそもエクスカリバー自体はもう存在しないわ」
「え? でも盗まれたって……」
「イッセー君、エクスカリバーはね、昔の大戦で折れちゃったんだよ」
「折れたぁ!?」
「そうですわ。それで、その折れたエクスカリバーの破片を錬金術師が再生させ、7本のエクスカリバーへと生まれ変わらせたのですわ」
「そう、今はこんな姿だ」
祐斗、朱乃の説明の後、ゼノヴィアと名乗った青髪の少女は布に包まれていた剣を見せた。
布を取り払って出てきたのは一振りの長剣だが、それが聖剣である以上、当然だがその姿を見た悪魔達は背筋に悪寒が走る。
「ふむ……」
エクスカリバーが折れたという辺りから蟀谷に青筋を浮かべていたアーチャーがゼノヴィアの持つエクスカリバーを解析してみたのだが、解析して落胆した。
何故ならその剣はアーチャーが知る
「これが今のエクスカリバーの姿だ。七振りの内の一つ、
「因みに、私のはこれ」
イリナと呼ばれたツインテールの少女が腰から下げていた紐を手に取ると、その形状が瞬く間に変わり、一振りの刀へと姿を変化させる。
「
「イリナ、悪魔なんかに聖剣の能力を教える必要は無いだろう」
だが、先の
本物の
もっとも、折れたという段階でエクスカリバーの名を名乗る資格すら無いというのがアーチャーの感想なのだが。
「それで、その二振りをあなた達が持っているということは、行方不明の一本を除けば盗まれたのは4本って事かしら?」
「そうだ、そしてその4本がどうやらこの街に持ち込まれたらしい」
「なんともまぁ、イベントには事欠かないわね、最近」
思わずリアスが愚痴を溢してしまう。
最近のイベント続きに、どうやら随分と心労が溜まっているようなので、アーチャーはすぐさまハーブティーを用意して、空になったリアスのティーカップに注いだ。
「ありがとう……盗んだ者の正体は判明しているの?」
「ああ、犯人は
「……随分と、大物が出てきたわね」
何故だろう、リアスの胃がキリキリと痛む。
天使コカビエルは天使シェムハザを含めた200人の天使と共に人間の女性と交わる誓いを立て、人間に天体の兆を教えたことで200名の天使達と共に堕天したと言われている。
その後は
「それで? 大変な状況なのは理解出来たけど、じゃあ何故態々この部室に来たのかしら?」
「それは、貴様らに依頼……いや、注文をするためだ。私達と堕天使の戦いに、貴様ら悪魔が関わるなと、一切の介入をするなとな」
自分たちだけで戦うから、リアス達には一切の介入をしないで貰いたい。それが教会側の注文……否、警告だった。
やべぇ、教会の使者を教会の死者って書きそうになったww