ハイスクールD×D
~堕ちた聖女の剣~
第十九話
「聖女の守護者」
教会側から齎された警告、悪魔が今回の一件に一切の介入を許さず。エクスカリバー奪還は自分達二人だけで行うから、その間は悪魔は何もしないで黙っていろということ。
聖書にも載るほど古き堕天使を相手に、まだ二十歳にも満たない小娘二人が、エクスカリバーを持つとは言え、たった二人で戦ってエクスカリバー奪還を無事に成功させることが出来るとでも思っているのだろうか、というのがアーチャーの見解だった。
そして、それはリアスも同じ意見だったらしく、イリナとゼノヴィアの二人に少しだが心配そうな視線を向けている。
「大丈夫なのかしら? いくらエクスカリバーを持っているからって、あなた達二人だけでコカビエルなんて大物を相手にするなんて」
「悪魔の心配は無用だ。そもそも、これは任務である故に、その結果が死であろうと主の為に戦い滅びるのであれば本望、後悔など無い」
キッパリと言い放つゼノヴィアにアーチャーでなくとも不快感を感じるのは当然だった。主の為、そう言って命を投げ出すなど馬鹿げている。
教徒というのは、主の為であれば、神の為であれば自身の命すら天秤に掛けてしまえるのかと、同じ教徒であるアーシアとて、そこまでではない。
「そう……ならお好きにどうぞ、私達は今回の件に関しては一切介入しないわ。魔王様の名前に誓ってね」
「それが聞けて安心した。では、悪魔の本拠地に長居するつもりは無いのでね、ここらで失礼させてもらう」
そう言って、ゼノヴィアとイリナが立ち上がり、扉の方へ歩き出した所で二人の視界にアーシアの姿が映った。
嘗ては教会で聖女と呼ばれ、後に悪魔を癒した事で魔女とされ教会を追われたアーシアの事は、二人も当然だが知っていて、その顔も写真などで見たことがある。
故に、このような……悪魔の本拠地にアーシアが居る事に驚いていた。
「まさか……魔女アーシア・アルジェントか?」
「は、はい……」
「え~!? 魔女として教会を追放された元聖女が、何で悪魔の本拠地に居るの?」
「アーシアは堕天使に騙されて死に掛けていたのを保護して、現在は私の監視下に置いてるのよ」
アーシアがここに居る理由をリアスが説明すると、二人は納得した様子だったが、ゼノヴィアは厳しい視線をアーシアに向けている。
「元聖女と呼ばれていた貴様が、魔女と呼ばれた後は悪魔の下に居る、か……まぁ、上には報告しないでおくが、悪魔の庇護下に居るなど、元聖女も随分と落ちぶれたものだ」
「なっ!? てめぇ!!」
ゼノヴィアの言葉に一誠が怒鳴り声を上げた。アーシアの優しさを、彼女の人柄を知るが故に、友として、同じ部活仲間として。
「まぁ、悪魔になっていないだけマシというものだが、その分なら主への信仰は捨てていないようだな?」
「は、はい……ずっと、主へ祈りを捧げてきたんですから、捨てられるわけ、ありません」
「ふん、魔女として追放されて尚、主への信仰を捨てない信仰心には敬意を表するが、もし悪魔になろうものなら、貴様の身、エクスカリバーの錆にしてくれる。それだけは忘れるな」
「っ!」
その言葉を聞いた瞬間、リアス達は青ざめた表情でアーシアの後ろに立つアーチャーに視線を向けた。
「小娘、それはアーシアに危害を加えるという解釈で捉えても構わないのだな?」
「……何だ? 貴様は」
「マスター、アーシア・アルジェントのサーヴァントだ」
「サーヴァント……? 使い魔のことか? まさか、アーシア・アルジェント、貴様は魔術師になったというのか?」
アーシアが頷いて肯定する。
その瞬間、ゼノヴィアはエクスカリバーを包んでいた布を取り払って、その切っ先をアーシアに向けた。
「魔術師とは、悪魔に力を求めて契約する者が多いと聞く……貴様、まさかリアス・グレモリーと契約したのではあるまいな!」
もし、そうなら主を信仰しながら悪魔と契約する異端者として、ゼノヴィアはアーシアを断罪するつもりだった。
過去に悪魔を癒して教会を追放された身であるアーシアなら、その可能性があると踏んだからだ。
「ちょっとゼノヴィア! そうとも限らないのにいきなりエクスカリバーを向けるのは……」
「いや、そうでないとしても、魔術師になったのであればいずれは契約する可能性だってあり得る話だ。ならばそうなる前に主の敵となる前にその命を主の下へ送るのが一番だ」
「ほう……では、貴様はマスターに剣を向けて、それを振り下ろすということか」
「っ! アーチャー! やめなさい!!」
リアスの制止も空しく、干将・莫耶を投影したアーチャーはゼノヴィアのエクスカリバーを弾き、逆にその刃をゼノヴィアの首筋に添えた。
「なっ!? 貴様!!」
「ゼノヴィア!」
「動くな……私は君達の言う教会をよくは知らぬし、アーシアのサーヴァントとはいえ、教徒でもない部外者だから教会の決定に対しとやかく言うつもりはないが、マスターに刃を向けるというなら、その刃を防がせてもらうとしよう……勿論、マスターへの暴言を撤回し、害をなさぬと君らの主に誓うのならば、私も君らと敵対するつもりはない」
教会の戦士として修練してきたはずのゼノヴィアとイリナが、ゼノヴィアの首に剣を添えられるまで一切反応出来なかった。
それはつまり、アーチャーの実力が圧倒的に二人よりも上であるという事を意味しており、だがゼノヴィアは聖剣使いとしての誇りからか、それを認められなかい。
「貴様……私に剣を向けて無事で済むと思うなよ、表に出ろ!」
「ふむ、既に勝敗がこの時点で決しているというのに、そのようなことを言うのでは程度が知れるぞ? そこの所を弁えるべきだと私は思うがね」
「黙れ! 異端者如きに聖剣を賜った私が敗れる道理は無い!」
「……ふむ、やれやれ、仕方あるまい」
ライザー・フェニックスのように自分と相手の実力差を見抜けずに相手を見下し、自分の勝利が揺らがないというのではなく、アーチャーは自分とゼノヴィアの実力差を把握した上で自分が上だと判断している。
そもそも、一部の例外を除けば人間ではサーヴァントに勝てない。英霊という存在は人間の上位互換ともいうべき存在で、基本スペックがまず人間を上回っているのだ。それに加えて本人の戦闘技術や経験が加算されるので、基本スペックで劣る人間がサーヴァントに勝つのは基本的に不可能。
つまり、ゼノヴィアは確かに教会の戦士として経験もあるだろうし、鍛えてもいるだろう、エクスカリバーという最強を謳う聖剣を所持しているのだろう。
だがしかし、アーチャーは上記の通り、基本スペックが人間のソレを上回り、生前は多くの戦場で戦ってきた経験もある上に、その実戦の中で鍛え上げた肉体と丘に貯蔵される無限の剣がある。
故にゼノヴィアがアーチャーに勝てる道理は無いのだ。
旧校舎敷地内の庭に出てきた一同は並び立つゼノヴィアとイリナに対峙するアーチャーと、そして祐斗、それを見守るリアス達という構図が出来上がっていた。
そもそも、なぜ祐斗が? という疑問が出てくるが、それはここに移動してくる間に、祐斗がアーチャーに自分も参加させて欲しいと頼み込んできたからだ。
アーチャーは祐斗の目の奥にあるものが何なのか凡その検討はついていたが、好きにさせるのが現状では一番だろうと考え、イリナの相手を頼み、アーチャーはゼノヴィアを相手する事になっている。
「さて、やるからにはマスターに勝利を捧げよう」
「ふん、異端者の使い魔など恐るるに足らん! この
今まで纏っていた白い外套をゼノヴィアとイリナは脱ぎ捨てて黒いボディコンのような姿になった。
身体のラインがピッチリと出るその服装はあまりに扇情的で、それでいて身体の動きを一切阻害しない近接戦闘において理想的な服装だ。
さらにイリナは左の二の腕に巻いていたリボン状の
対する祐斗は
「貴様、ふざけているのか?」
「ふむ、何をもって私がふざけていると?」
「
「……この剣が唯の剣にしか見えないのであれば、それはまだ貴様が未熟だという事だ」
「何を……!」
確かに、宝具としてのランクは低いが、それでも干将・莫耶は間違いなく宝具に分類されている剣だ。
投影品とはいえ、アーチャーと幾千もの戦場を共にした、アーチャーにとって自身の宝具と言っても差し支えないほど愛用してきた一品。
宝具のレベルにようやく届くか、といったところでしかない聖剣に、敗れる道理は無い。
「心して掛かれ、貴様がこれから挑むのは……最強のサーヴァントだ」
この身は、心優しき聖女の尊き祈りによって召喚されたサーヴァントだ。故に、この身は常に最強であらねばならない。
優しき少女の祈りを阻む者を、汚そうとする者を、悉く排除するために、アーチャーは抑止の守護者ではなく、聖女の守護者になると……そう誓ったのだから。
次回は、まぁ言うまでもなくゼノヴィア、フルぼっこ。
ただまぁ、見所はその後の祐斗VSイリナの結果を見たアーチャーの……お怒りですが。