ハイスクールD×D~堕ちた聖女の剣~   作:剣の舞姫

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今回、アーシアは再び夢を見ます。


第二十一話 「聖女の心に芽生えた小さな芽」

ハイスクールD×D

~堕ちた聖女の剣~

 

第二十一話

「聖女の心に芽生えた小さな芽」

 

 あの後、リアスから祐斗の過去の話を聞かされた。

 聖剣計画、そう呼ばれる計画は嘗て教会が企画したものであり、内容はあまりにも非人道的極まりないものだった。

 最強の聖剣エクスカリバーを使える者を人工的に生み出そうという趣旨で始められたこの計画で、小さいながらも聖剣を扱う因子を持った大勢の子供が一つの実験施設に集められ、様々な実験を繰り返したそうだ。

 祐斗もその集められた子供の一人だったが、彼を含めた全員が因子があまりに不足していたからという理由で毒ガスにより処分される事になり、次々と仲間が死んでいく中、祐斗だけが他の仲間の手引きで何とか逃げ出し、それでも若干だが吸い込んでいた毒ガスの影響で死に掛けていた所をリアスが拾って悪魔として転生させたらしい。

 

「でも、まさか教会がそんな酷い事をしていたなんて……」

「……たとえ教徒であろうと、所詮は人間だ。当然だが人の持つ醜い部分を持っているのは妥当、確かに胸糞悪くなる話ではあったな」

 

 現在は夜なので既に自宅となっている教会に帰ってきたアーシアは夕食を食べながらアーチャーとリアスから聞かされた祐斗の過去の話、とりわけ教会が行っていた事について話をしていた。

 アーシアは元々が教会に所属するシスターだったという事もあり、まさか主を信仰する者が神を冒涜するかのように人の命を無下にしていたなどと、とてもでは信じられないが、現に祐斗という被害者が存在している以上、信じる他無いため、とても胸を痛めている。

 

「祐斗さん、大丈夫でしょうか……? あの後、結局戻ってきませんでしたし」

「ふむ……まぁ復讐心で動く人間というのは得てして無鉄砲かつ単調になりやすい。慌てずとも聖剣使いの二人が大きく動けば自ずと奴の居場所もハッキリするだろう」

 

 エクスカリバーへの憎しみで動く以上、エクスカリバーの現れる所に必ず祐斗は現れる。

 後はどうするかを考えるのは彼の主であるリアスの仕事であってアーチャーやアーシアが気にしても仕方のない事だ。

 

「今一番気にしなければならない問題はアーシア、君だ」

「私、ですか?」

「ああ、君は悪魔であるリアス・グレモリーの監視下にあるとはいえ、人間であり、この街に来た当初は堕天使側の人間として来ている」

「はい」

「今回の件の首謀者が堕天使コカビエルという事であれば、コカビエルの目的が定かではないが、その目的次第では利用される可能性も考慮するべきだ」

「あ……」

 

 そう、現在は中立という名目でリアスの監視下にあるとはいえども、そもそもアーシアがこの駒王町に来た時は堕天使陣営所属のはぐれシスターという扱いだった。

 神の子を見張る者(グリゴリ)に所属していた堕天使レイナーレがアーシアを堕天使陣営として迎えている以上、その身は元々は堕天使陣営の物。

 つまり、コカビエルの目的次第では、アーシアに利用価値があるとして、何かしらのリアクションがあるかもしれない。

 

「もし、そうなったとき……アーチャーさんはコカビエル様に勝てますか?」

「さて、聖書にも記されるほど長き時を生きる伝説の堕天使を相手に何処まで戦えるかは疑問だが……まぁ、アーシアの疑問は無用というものだ」

「無用……? えっと、何ででしょうか?」

「私は心優しき君の純なる祈りによって召喚されたサーヴァントだ、それが最強でない筈がない。故に、君は何一つ心配する必要はない」

 

 アーチャーが居る限り、アーシアには指一本とて触れさせはしない。暗にそう言い切ったアーチャーに、アーシアは頬を赤く染め、慌てて残りの夕食を食べ終えると、ごちそうさまと言ってリビングルームを駆け足で出て行ってしまう。

 それを見送ったアーチャーはフッと薄く笑みを浮かべ、空いた食器をキッチンへと運ぶ。風呂は既に済ませてあるので、アーシアは後は寝るだけなのだし、ゆっくり食器洗いでもしようと、生前からの楽しみである家事に没頭すのだった。

 

 

 自室に戻ったアーシアはパジャマに着替えると、ベッドに横になりながら左腕に今も輝く令呪を眺めていた。

 召喚して以来、今では家族だと胸を張って言えるアーチャーの事を考えると、最近は胸が苦しくなる事が多くなっている自分に気がついている。

 兄のような、父のような存在として慕っているのは自覚しているし、アーチャーもそのつもりで接してくれているのも察していた。

 勿論、有事の際はサーヴァントとして、マスターであるアーシアの守護者として接するが、日常では本当に家族同然だ。

 だけど、そんなアーチャーをいつしか一人の男性として意識する部分が心の何処かにあるのが、つい最近わかった。

 

「あの夢を見てから……ですよね」

 

 あの、無限に広がる赤い大地、錆びた鉄のような赤い空と、そこに浮かぶ無数の巨大な歯車、そして何より……荒野に並び立つ無限の剣。

 それは、アーチャーの過去の記憶を夢に見た時、必ず行き着くのがその景色だった。

 

「なんだか、とても身近に感じられて……でも、同時にとても悲しい風景でした」

 

 一番最初にあの景色を夢に見た時、涙を流したのを覚えている。

 初めて見た景色なのに、何故かとても身近に感じられて、なのにとても悲しい気持ちで一杯になる赤い世界。

 あれが何なのかは解からないが、アーチャーの過去の記憶を夢に見た時に必ず行き着くという事は、アーチャーに関する何かだというのだけは解かった。

 

「今日も……見るのでしょうか」

 

 段々と瞼が重くなっていく。

 意識が睡魔によって朦朧としていき、とうとう目を閉じて寝息を立て始めたアーシアは、そのまま一日の活動を終えた。

 

 

 ここは、どこだろうか……。まず始めに思ったのはそれだった。

 もう何度目かは解からないが、恐らくアーチャーの過去の記憶を夢として見ているのだとアーシアは直感しているが、今までの戦場ばかりの記憶とは違い、今回見ている風景は静かな満月の夜、日本家屋と思しき家の庭に、アーシアは立っている。

 

「誰か、います……」

 

 縁側、と言ったか。古き日本家屋には当たり前に備えてある窓辺の席から、二人の人物が浴衣を着て満月を見上げていた。

 一人は壮年と思しき黒髪の男性、一人はまだ少年と言っても良い幼い赤い髪の男の子。

 

「誰、でしょうか……?」

 

 今までの夢には必ずアーチャーが登場していたのに、今回の夢はこの二人だけで、アーチャーの姿は何処にも見当たらない。

 

『子供の頃、僕は正義の味方に憧れてた』

 

 ふと、突然男性の方がそんな言葉を口にした。

 正義の味方。それは日本人であれば誰もが子供の頃に憧れ夢見る存在で、平和を愛し、人々を守る為に悪を挫く。

 言葉だけで聞けば立派な存在だが、大人になるにつれて、それが都合の良い理想論だと、この世の何処にも存在しないものだと、理解する存在でもある。

 

『なんだよそれ、憧れてたって、諦めたのかよ?』

『うん、残念だけどね。正義の味方は期間限定で、大人になると名乗るのが難しくなるんだ』

 

 何故だろう、この少年を見ていると、アーチャーの顔が思い浮かんだ。

 確かに、面影はあるが、肌や瞳、髪の色が全く違うから、この少年がアーチャーであるとはとても思えない。

 でも、アーシアには何となく解かるのだ。この少年は、幼き日のアーチャーなのだと。

 

『そっか、それじゃしょうがないな……』

『うん、ホント……しょうがない』

 

 何処か不満気な少年の表情に微笑ましくなるアーシアだったが、その次の言葉によって全てのピースが繋がり、凍りつく事になった。

 

『うん、しょうがないから、俺が代わりになってやるよ』

「っ!? ま、まさか……」

『じいさんは大人だから無理だけど、子供の俺なら大丈夫だろ。任せろって、じいさんの夢は、俺がきっと形にしてみせるから』

『ああ……安心した』

 

 男性の方は、静かに息を引き取った。だけど、今のアーシアにはそれを気にする余裕など無い。

 何故なら、今までに見てきたアーチャーの過去の記憶、その中でアーチャーが行ってきた行動の原点が、今ようやく解かったのだから。

 

「まさか、アーチャーさん……この約束を、亡くなるまで守ろうと」

 

 恐らく、男性の方はアーチャーの父親か何かなのだろう。

 つまり、アーチャーは父との約束を守り、正義の味方になるという夢を実現するために戦い続け、そしてその結果……救った筈の人に裏切られ、死を迎えたという事だ。

 

「そんな……そんな事って!」

 

 目の前の景色が段々と遠くなる。これはいつもと変わらない、夢から覚める兆候。つまりこの後に待ちうけるのは、あの赤い大地の風景。

 

「っ!」

 

 思った通り、目の前の景色が満月の夜から真っ赤な大地に突き刺さる無限の剣になった。

 だけど、今までと違うのは、アーシアの立つ場所から少し離れた所に、見慣れた赤い背中があるということ。

 

「アーチャー、さん……」

『エミヤシロウという男の人生に価値など無い……』

 

 声を掛けた所で、目の前の赤い背中から声が聞こえた。

 それは、いつも聞いているアーチャーの声に間違い無いのだが、身体の芯まで凍えてしまいそうなほど底冷えする憎悪を孕んだ声色だ。

 

『オレはただ、衛宮切嗣に憧れただけ。自身から零れ落ちた感情など無く、その憧れだけしか持たないオレが、正義の味方だと? 笑わせるな……っ!』

 

 ただひたすら、自身への憎悪を吐き出す背中に、アーシアは前にも感じた事のある感情を、ここで初めて自覚した。

 苛立ち、今まで17年間生きてきて感じた事が無かったからこそ、アーシアはそれが何なのか理解出来なかったが、目の前に立つ赤い背中と、そこから吐き出される憎悪の言葉を聞いて、やっと悟る。

 アーシア・アルジェントは、生まれて初めて苛立ちという感情を胸に抱いている。それも、自身のサーヴァントであり、家族でもある男に対して。

 同時に、苛立ちという感情の裏にもう一つ、一人の女として、アーチャー……エミヤシロウという一人の男への恋慕の感情もあった。

 自身が傷ついても尚、人を救い続けた男への恋心と苛立ち、その相反する二つの感情は……アーシアの心に、確かに何かを芽吹かせる事になったのだが、それが開花するのは、まだ先の話。




段々とアーシア・アルジェントという少女の心が、ある意味蝕まれて、ある意味成長して、ある意味変化しようとしています。
今後、アーシアは原作から乖離する部分も多くなるかも?

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