ハイスクールD×D~堕ちた聖女の剣~   作:剣の舞姫

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お待たせしました。今回はアーシアが本格的な治癒魔術を見せます。


第二十二話 「聖女、戦いへの決意」

ハイスクールD×D

~堕ちた聖女の剣~

 

第二十二話

「聖女、戦いへの決意」

 

 教会からゼノヴィアとイリナが来た翌日から、祐斗は部活どころか学校にも登校して来なくなった。

 それと同時に、何やら一誠と小猫、それから生徒会の匙の三名が何やらコソコソと動いているらしいのだが、現在はそれぞれの主であるリアスとソーナは静観を決め込んである程度泳がしている。

 アーシアとアーチャーも特に何かするわけでもなく普通に学校へ行き、部活に顔を出してから下校して、自宅となっている教会で夕食を食べて寝るという、ごく普通の生活をしていた。

 だが、そんな日々はすぐに終わりを迎える事となった。何故なら一誠達が駒王町に潜り込んだ聖剣使いと遭遇して戦闘になり、今回の事件の首謀者であるコカビエルの配下に嘗て教会に所属して聖剣計画を実行していたバルパー・ガリレイという男と接触したのだから。

 

「なるほど、ではコカビエルも近々動く可能性があると」

『ええ、だからそっちも十分に注意しておいて頂戴。アーシアの件があるし、危険が無いとは言い切れないのよ』

「了解した、連絡感謝する」

 

 アーシアの希望で何故かアーチャーも持つ事になった赤いスマートフォンにリアスから通話が来て、先ほどまで報告を受けていた。

 通話を終えた後、アーチャーは使い魔を街中に放ってコカビエルの行方を追い、ついでにゼノヴィア達教会の者達の事も把握するため、暫くは教会地下の工房へ篭る。

 

「アーチャーさん!」

「む?」

 

 作業に集中していてどうやら時間が随分と過ぎたらしい。

 時計を見れば既に夕方という時間になり、アーシアが慌てた様子で地下に降りてくる。

 

「い、今! ゼノヴィアさんと部長さんが来て……イリナさんが大怪我をしてるんです!」

「……案内してくれ」

 

 アーシアに案内されて向かったのは教会内の自宅部分に改造した居住区にあるリビングだった。

 リビングのソファには大怪我をして意識を失ったイリナが寝かされており、その前にはリアスとゼノヴィアが立って入ってきたアーチャーの方を向く。

 

「リアス・グレモリー、何事だ?」

「突然ごめんなさい、先ほどコカビエルと接触したのだけど、どうやら彼女たちが襲われたらしくてね……イリナさんの擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)が奪われてしまったのよ」

「……これは、不味いな」

 

 イリナの全身を解析して怪我の状態を確認すると、傷口が随分と深い上に、それが全身にあるのと、傷口から強力過ぎる光の力が入り込み、どんどん傷口を広げようとしているのが判った。

 このまま放置していれば命に関わるが、残念ながら光の力が傷口を浸食している以上、リアスでは治療が出来ないし、ゼノヴィアは治療する術を持っていないらしい。

 

「……先に光の力を何とかしなければ傷を治しても直ぐに広がってしまって無意味だな」

「何だと!? そ、それではイリナは……」

「……アーシア、出来るか?」

「や、やってみます!」

 

 ある程度光に耐性のあるエクソシストでも、強すぎる光の力は毒に等しい。

 ならば、その毒となっている光の力を吸い出して、傷口を浸食する光の力を無くしてしまえば、後はアーシアの聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)で治療可能だ。

 早速だがアーシアはイリナの前に座り、彼女の上に手を翳すと魔術回路を開いて魔力を通す。

 

Sostanza straniera Corpo intero Disegna in Esclusione(異物 全身へ 吸引 排除せよ)

 

 アーシアが使った魔術は解毒魔術の一種で、体内に入り込んで、その身体を蝕んでいる異物を取り除く事が出来るのだ。

 しかも、今回使った魔術は四小節という大魔術に近い魔術の行使という事で、その効果は相当に高い。

 アーシアの解毒魔術によって、イリナの全身の傷口から少しずつではあるが光が溢れ出して空中へ弾き出され霧散していく。

 大よそ全ての光の力を取り除いた後は、聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)で全身の傷口を閉じて、ようやくイリナの治療が終わった。

 

「はふぅ~、疲れましたぁ」

「ご苦労だったなマスター、見事な魔術だった」

「ええ、凄かったわよアーシア」

「い、いえ……まだ未熟で、術の行使に時間が掛かっちゃいますから」

「だが、確実に異物を取り除けたのだから問題あるまい、確実に成長している証拠だ」

「そ、そんな……あ、ちょっと待ってくださいね。解析、開始(トレース・オン)

 

 息を整えたアーシアは早速だがイリナの全身に解析魔術を行使した。

 アーシアの魔術適性は治癒、故にそれに類する魔術の行使は得意で、無機物などの解析こそ苦手だが、有機物……特に生物の解析という点であればアーシアは随分と上手だ。

 将来的には生物の解析という点であればアーチャーをも上回るであろうというほどの才能を持っており、その解析でアーシアはイリナに特に異常が無いのを確認して解析を終える。

 

「もう大丈夫みたいです、暫く寝ていれば直ぐに回復しますよ」

「……そう、か。いや、すまない、感謝するアーシア・アルジェント」

「いえ」

 

 ゼノヴィアからの礼を受けて照れるアーシアの頭に、ポンッと手が置かれた。見上げてみればアーチャーが苦笑しながらアーシアを見下ろしている。

 

「アーシア、解析や強化の際の呪文を私と同じままにするなと言っておいただろうに」

「それは、その……えへへ」

 

 笑って誤魔化した。

 元々、強化と解析から魔術を覚えたアーシアは、最初は魔術行使の際の呪文をアーチャーと同じにしていたのだが、自分用に何かちゃんと考えておくようにと言われたのにも関わらず、解析と強化だけは、何故か未だにアーチャーのものと同じにしたまま変えようとしない。

 

「それより、コカビエルが動いたとなると、今夜辺りが?」

「そうね、コカビエルは駒王学園に来いって言ってたわ。私やソーナ、魔王ルシファーや魔王レヴィアタンの妹を殺す事で戦争への切欠にするとも」

「戦争か……確か、大昔の大戦以降は3陣営共、休戦状態で、更にトップ同士が戦争反対を唱えているのだったな?」

「ああ、大天使ミカエル様もいずれは和平交渉をしたいと仰られていると聞く。それは堕天使総督アザゼルや魔王達も同じらしいな」

 

 となると、コカビエルの一件は彼の独断という事になる。

 もし戦争を起こすのに成功すれば、堕天使側はコカビエルの処断などしている暇は無くなり、コカビエルはそのまま戦争へと投入される事になるだろうから、たとえ独断であろうと、戦争さえ始まってしまえば、という考えなのだろう。

 

「厄介な手合いだな。となれば早めにコカビエルをどうにかしなければ危険か……」

「ええ、今夜は私も眷属みんなでコカビエルを討つつもりよ」

「私も参戦するつもりだ。元々聖剣を取り戻すのが任務だからな、コカビエルを倒せばイコール聖剣奪還という任務を果たせる」

「ふむ……」

 

 つまり、リアスが今回ここに来た理由はひとつだろう。

 

「アーチャー、以前の借り、ここで使わせてもらうわ。今回の戦いに、協力を願う」

「成る程……良いだろう、借りの件を持ち出されれば断る訳にもいかん。だが、アーシア、君はどうする? 戦う術の無い君ではコカビエルとの戦いに参加するのは危険だが」

「……いえ、私も行きます。戦えませんけど、それでも皆さんを癒す事は出来ますから」

 

 アーチャーの問いに、少し迷ったものの、アーシアは力強い瞳でアーチャーを見返して参戦を決意してみせた。

 更に、まだ何かあるのか「それに……」と続ける。

 

「私は、アーチャーさんのマスターですから! サーヴァントであるアーチャーさんが行くのなら、マスターの私が逃げるわけにはいきません!」

「……ほう」

 

 随分とマスターらしい事を言ってくれた。

 どうやら色々と経験をする内にアーシアにもマスターとしての自覚が芽生えたようで、己がマスターの成長を、サーヴァントとしてアーチャーは素直に喜んでいる。

 

「ならば共に戦おうかマスター。君に仇なす者の悉くを我が剣、我が弓が打ち砕こう……命令を、マスター、アーシア・アルジェントよ」

「……我がサーヴァント、アーチャー。伝説に語られし堕天使と、共に戦ってください」

「イエス、マスター……ご命令のままに」

 

 アーシアの前で膝を突いて騎士の礼と共に頭を下げるアーチャー、二人の姿はまるで戦いに赴く王と、それに付き従う騎士の如く。

 

 

 早速、アーシアは以前のライザー・フェニックスとの戦いの折にアーチャーが用意してくれた完全武装と専用のシスター服へと着替えて、最後にストール状にしているマグダラの聖骸布を纏ってリアス、ゼノヴィア、アーチャーと共に教会を出た。

 教会の外には既に朱乃、一誠、小猫も揃っており、既に戦う用意は完了しているという風に笑みを浮かべている。

 

「待っ、て……」

 

 突然、後ろから声を掛けられ、驚いたアーシア達は振り返る。

 そこには教会の入り口から、まだ体力が回復し切っていないのか荒い息を吐くイリナが扉に寄り掛かりながらこちらを見ていた。

 

「私も、一緒に行くわ」

「イリナ、無茶を言うな! 怪我こそ治ったが、今のお前はダメージで消費した体力が回復していない。その状態で戦場に出ても足手まといになるだけだ!」

「それでもよ、ゼノヴィア。私だって、教会の戦士なんだから……奪われた聖剣をそのまま放置して寝てるわけにはいかないのよ」

「無理だってイリナ! 後は俺達に任せてゆっくり休めって!」

「駄目なのよイッセー君、私には戦士としてのプライドがあるの、このままコカビエルを放置することは出来ない」

 

 どうしたものかとリアスが悩んでいると、不意にアーチャーがイリナに歩み寄り、弱々しくアーチャーを見上げるイリナの瞳を見つめた。

 彼女の瞳の奥にある闘志は、まだ死んではいない。任務を果たすまで、たとえ死ぬ事になろうと戦うという決意が見て取れる。

 

「前衛で戦うには些か消耗が激しいが……それでも、戦うつもりか?」

「ええ、皆の足手まといにはならないって約束する。そうなったら容赦なく切り捨ててくれて良いから、連れて行って」

「しかしイリナ……今のお前には武器が無い。擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)を奪われた以上、今のお前には戦う術が無いではないか」

「それは……」

 

 そう、イリナには武器が無く、コカビエル相手に素手で戦うのは無謀だ。

 

投影、開始(トレース・オン)

 

 だから、イリナの決意を無駄にする事無く、彼女が戦場に出られるようにすれば良い。

 アーチャーは投影するつもりは無かったが、彼女が使う分には問題無いと判断して、その手にとある刀を投影した。

 

「そ、それは……!?」

「馬鹿な! コカビエルに奪われたはずの擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)が、何故!!」

 

 アーチャーが投影したのはイリナが奪われてしまった擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)だった。

 刀の形状になっているそれを、アーチャーはイリナに手渡し、ついでにブローチ状の護符(タリスマン)を一つ持たせる。

 

「その護符(タリスマン)を今から着けておけ、駒王学園に到着する頃にはある程度体力を回復してくれるはずだ」

「えっと……」

「それから、今渡した擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)はあくまで複製品だ。あまりに激しい損傷をしてしまえば霧散して消えるから注意しろ」

「複製!? え、うそ!? だってこれ……」

 

 投影された擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)が複製品だと聞き驚いた。

 見た目、感じられる聖なるオーラ、その全てが本物そのままで、とても複製には見えないこの剣が、本当に複製だというのか。

 いや、奪われている以上、この擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)が複製なのは間違いないのだが。

 

「リアス・グレモリー、そろそろ向かわねば不味かろう。無駄話はこの辺で終わりだ……行くぞ」

「ええ、そうね……みんな! 必ずコカビエルを倒して、奴の企みを阻止するわよ!!」

「はい!」

「必ずや」

「……ぶっ潰します」

 

 リアスと、その眷属達のやる気は十分、イリナとゼノヴィアも頷いている。

 

「マスター」

「……はい」

「この戦い、君に勝利を捧げよう……君のサーヴァントを、信じたまえ」

「はい!」

 

 赤い外套を風に靡かせ、アーチャーは先陣を切る。

 駒王学園目指して歩き出した一行は、暗雲立ち込める駒王学園の方角を見て、全員その表情を引き締めるのだった。




次回はついにVSコカビエル、の前に祐斗の問題か……。
とりあえずケルベロスはアーチャーの剣から放たれる九つの光に……。

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