ハイスクールD×D~堕ちた聖女の剣~   作:剣の舞姫

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お待たせしました! ついに、プロローグから今までで、アーチャーが一番無茶します。


第二十六話 「其は、平和を願う人々の祈りの結晶」

ハイスクールD×D

~堕ちた聖女の剣~

 

第二十六話

「其は、平和を願う人々の祈りの結晶」

 

 アーチャーとコカビエルの第二ラウンドが始まった。

 今度は互いに地上に足を付けて、アーチャーは干将・莫耶を両手に、コカビエルは光の剣を両手に二人とも二刀流、互角の戦いをしている。

 いや、少なくとも近接戦闘という分野ではアーチャーの方に分があるらしく、コカビエルには剣技と呼べる太刀筋が無い。

 その分、アーチャーはコカビエルの剣を悉く受け流して攻め込んでいるのだが、流石は戦争を生き抜いた古の堕天使というだけあって直感が凄まじく、アーチャーの剣は掠りもしなかった。

 

「くっ! 弓兵風情が、随分と剣の扱いに慣れているではないか!! 貴様、本当に弓兵か?」

「さて、弓兵が弓だけしか扱えないなどと思っているのなら、それはとんだ勘違いだ。弓兵とて剣を取れば槍も振ろう、はたまた……魔術すら扱うやもしれんぞ?」

「ぬかせ!! 貴様はどうやら弓兵というより、詐欺師と名乗るべきだな!!」

 

 会話をしながらも、激しい剣戟の嵐、そのあまりの激しさに校庭の砂が巻き上げられて土煙まで起こっている。

 それでも二人は互いを見失わずに、剣を交えて一瞬の隙を狙っていた。少しでも隙を見せたが最後、その心の臓を抉るために。

 

「しかし解せんな! 貴様ほどの手練れが何故なんの力も無い、ただ崇められていただけの元聖女の下に居る? 貴様ほどの腕があれば、もっと相応しい主の下で戦えた……いや、むしろ覇を求めることすら可能であろうに!」

「貴様に語る必要はあるまい……まぁ、覇道に興味など無いとだけ言っておこうか」

「惜しいな……実に惜しい、貴様ほどの者が覇道を目指さぬのは才能の無駄だと何故気づかない!!」

「才能……か」

 

 むしろ、その才能こそ欲しかった。才能が無かったからこそ、アーチャーは……否、エミヤシロウは引き出しを増やし、二流にしかなれぬ才を鍛えぬいてきたのだから。

 

「勘違いするな、私とて貴様に戦う者としての才能が無い事など当に気づいているわ!」

「ほう?」

「確かに貴様には戦う者としての才能が無い。だが、戦いというものの才能はあると見ている」

「……」

 

 なるほど、良く見ている。

 元来、エミヤシロウには戦う者としての才能が無いからこそ、剣だろうが槍だろうが魔術だろうが、その全てが二流止まり。

 精々が弓矢と投影魔術の腕前だけが一流レベルに通用するといった所だが、エミヤシロウには戦う者としての才能が無い代わりに戦いの才能があった。

 戦う者としての才能とは、それ即ち戦う技術の才能のこと。武技の才能の事を言うが、戦いの才能とは戦うという事そのものに対する才能の事だ。

 

「流石は古の堕天使といったところか……確かに、私には戦う者としての才能など皆無と言って良いだろう。寧ろ、何をやっても二流にしかなれぬ私には本来であれば戦場に出るなど自殺行為に過ぎん筈だったのだが……戦いの才能のお陰か、私は実戦を重ねる毎に戦上手になっていってね。戦いの術を増やす事でどんどん戦いに勝ちやすくなった」

「だろうな、貴様ほどの戦上手は中々居ない。私が生きてきた中でも上位に入るほどだろうよ」

「それは光栄、とでも言うべきかね?」

 

 さて、ここまでで干将・莫耶は2回ほど投影し直しているが、そろそろ決着を着けなければアーシアの魔力が限界を迎えてしまう。

 勿論、アーチャー自身の魔力から少しは捻出してアーシアの負担を減らしてはいるが、それとて限界があるのだ。

 

「仕方あるまい……」

「む?」

 

 剣戟を止めて距離を取ったアーチャーに詰め寄ろうとしたコカビエルだったが、咄嗟に危険を察知して飛びのいた。

 コカビエルが居た所をいつの間に投げたのか干将・莫耶が回転しながら飛び去り、尚も互いに引き合うという性質から回転しながら飛び回ってコカビエルへと迫る。

 

「ふん!!」

 

 迫ってきた二刀を光の剣で砕いたコカビエルは再度アーチャーに詰め寄ろうとしたのだが、アーチャーの右手に握られている物を見て動きが止まった。

 

「貴様……何だ、ソレは……っ!?」

 

 アーチャーの手に握られているのは一本の槍だった。

 真紅に彩られたその槍は、禍々しいほどの魔力を発していて、いっそ暴食という表現が相応しいほど周辺魔力を吸収するその様は先の赤原猟犬(フルンティング)の比ではない。

 

「ここらで決着としよう……古の堕天使よ。その心臓、貰い受ける!!」

 

 穂先を下段に構えたアーチャーが腰を落とすと、全身のバネを利用して一気にコカビエルへと突進し、一気に槍の間合いにコカビエルを捕らえると、その手の槍の、その真の力を解放する。

 

刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!!」

「ぬ、おおおおおおおおおおっ!!」

 

 放たれた槍は、紅の軌跡を描きながらジグザグに進み、コカビエルが張った障壁を自ら避けて一気に心臓を穿とうとする。

 

「ガッ!?」

 

 刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)、それはアイルランドの光の御子、クー・フーリンの持ちし因果逆転、必殺の魔槍。

 槍を放ったから刺さるのではなく、槍が刺さったから放つという、先に結果を作ってから放たれるという呪いを持った回避不能、絶対命中の魔槍は、確かにコカビエルの……右胸を穿った。

 

「なっ!?」

「ぐ、がぁ!!」

「グゥッ!?」

 

 槍が突き刺さったまま、コカビエルは光の槍でアーチャーの左脇腹を貫き、その身体を吹き飛ばした。

 宙を舞ったアーチャーはまともに受身も取れずに数m飛んでから地面に落ちて、ゆっくりと立ち上がりながら、血を吐き散らす。

 

「グッ……まさ、か……因果逆転の呪いを、覆すとは、な」

「ゲイ・ボルク……だと、ガハッ! まさか、アイルランドの、光の御子の槍を、持っているとはな」

 

 お互いに右胸と左脇腹を抉られ、血を吐きながら睨み合っている。

 二人とも明らかに致命傷とも言える傷で、今もこうしている間に出血が止まらない。

 

「まさか、私がここまでやられるとは……この傷では、長くはない。だが! ただでは死なんぞ!! この傷の礼、貴様ら全員の道連れで返してくれる!! 楽に死ねるよう、死んだ神にでも祈るが良い!!!」

 

 そう言って、コカビエルは片翼でありながらも魔力を用いて宙へ浮かび、結界ギリギリの高度まで飛び上がると、頭上に巨大な光の槍を作り出した。

 いや、それよりもだ。今、コカビエルは何かとても重大な事を口走っていなかっただろうか。

 

「待て! 死んだ神とは、いったいどういう事だ!!?」

 

 ゼノヴィアが、まるで何かに縋るようにコカビエルへ問うと、青白い顔色をしたコカビエルがまるでゼノヴィアを、イリナを、アーシアを嘲笑うかのような笑みを浮かべる。

 

「ぐっ……ふん、そうか、どうやらまだ知らないようだな。ならば冥土の土産に教えてやろう、先の大戦で死んだのは魔王だけではない、聖書の神……奴も先代の四大魔王同様死んだのさ!!」

「「「っ!?」」」

 

 衝撃の事実に、ゼノヴィアだけではなくイリナとアーシアまでもが膝を着いた。

 今まで信仰して、毎日欠かさず祈りを捧げて来た神が、既に死んでいるという事実に、まるで現実を認められないとでも言わんばかりに錯乱しそうになっている。

 いや、動揺しているのは何も彼女達だけではない。リアスや朱乃、小猫、祐斗も、その事実には愕然としていたのだから。

 

「うそ、うそよ! そんな、主がお亡くなりになっているなんて!! そんな、デタラメよ!!」

「ここで嘘を吐く理由などあるまい! まぁ、ミカエルは良くやっているようだ、神が使っていたシステムさえあれば奴が死んだ今でもミカエルが代行して奇跡も愛も悪魔祓いもある程度は作用するだろうしな」

「そんな……じゃあ、私達が今までしてきた事って」

「そう、そうやって信徒が絶望しないように隠して来たのさ。あの戦争で悪魔も堕天使も天使も、幹部の大半を失ったからこそ、人間に頼らざるを得なかった。少なくとも神の死は隠さねば信徒共を纏め上げるのはミカエルとて難しかっただろうからな。天使にとって人間の信仰は必要不可欠、その信仰を得るには、神の死は隠さねばならない事だったのさ」

 

 なるほど、確かに重大な事実だ。神の死、それは教会の信徒を絶望させるには十分過ぎるほどの事実であり、ゼノヴィアもイリナもアーシアも、当然だが絶望の表情を浮かべているのだから。

 

「ふ、ふはははははは!! やはり! やはり神は死んでいたか!! そうだろう! 本来交わる事の無い聖と魔の融合、そんなイレギュラーが起こった事自体、神の死を証明する確固たる証拠なのだからな!!」

 

 拘束されたバルパーが実に愉快とでも言うかのように笑い声を上げている。

 聖と魔の融合、それ自体は本来であれば、神が生きていたのなら起こりえない事だった。しかし、神が死んで大天使ミカエルがシステムの代行をしている以上、そのシステムに誤作動が起こってしまったとしても不思議ではない。

 その誤作動の結果が、祐斗の聖魔剣、という事なのだろう。

 

「ゼノヴィア! イリナ! アーシア!!」

 

 すると、突然一誠が神の死に絶望する三人に対して大声を掛ける。

 何事かと三人が一誠の方を向くと、今もアーチャーに言われた通り倍加を貯めて続けている彼は、まっすぐ三人を見つめていた。

 

「神が死んだ、ああ確かにお前たちが悲しむのも当然だろうよ!! でもな! 神が死んだから全て終わりなのか!? お前たちの人生は、神が居なければ何も無いのか!? 今までの人生、神が居なくても楽しい事や嬉しい事、沢山あっただろ!! 神が死んだ? なら、神が死んだ事なんて忘れるくらい、これから目一杯楽しい事すりゃあ良いじゃねぇか!!」

 

 何だろう、とても馬鹿みたいに聞こえるのに、不思議と力があった。

 少なくともゼノヴィアとイリナは、その言葉だけで少しは持ち直したのか、ゆっくりとだが立ち上がっている。

 だが、アーシアには、それだけではまだ足りない。

 

「……マスター」

「アーチャーさん……」

「私はあの小僧ほど馬鹿な言葉を君に掛けられはしないが……これだけは言っておこう」

「……?」

「私と君の出会いは、神が与えたものではなく、君自身の祈りが私に届いた結果だ……神に祈るのではない、私に祈ったからこそ、私と君は出会えたのだと」

「アーチャーさん……はい、そうですね」

 

 そうだ、アーチャーを召喚したとき、アーシアが祈ったのは神ではない。あの時、死を目前に神ではない、誰かに、救いを願った。

 その誰かが、今目の前に立つ、少し皮肉屋で、でも優しい……最高にして、最強の、自慢のサーヴァントなのだ。

 

「ふっ……兵藤一誠」

「あ、はい!」

「倍化はどれほど溜まった?」

「あ、それは……」

 

 まだ一誠の未熟が原因なのか、4~5回ほど倍加してからはもう倍加出来ず、リセットしてしまうらしい。

 

「ふむ……」

 

 今にも放たれそうになっているコカビエルの巨大な槍に目を向けて、それから再び一誠の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)に目を向けると、一言。

 

「限界を超えてくれれば、後でリアス・グレモリーの乳を好きにして良いぞ?」

「ちょっ!? アーチャー!!!?」

 

 突然何を言い出すのかとリアスが詰め寄ろうとした瞬間だった。

 突如一誠から膨大な、突風すら巻き起こすほどのドラゴンのオーラが放たれ、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の形状が変化する。

 

【Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost!】

 

 物凄いスピードで、先ほどまでの限界を大きく超えて倍加が始まった。

 満足そうに頷いたアーチャーだったが、ジト目で睨んで来るリアスに気づくと、素知らぬ顔で口元を皮肉気に歪める。

 

「別に、それくらいの褒美があっても良いだろう。小僧には、これから役に立ってもらうのだからな」

「だからって、何で勝手に……」

「君が不服なら別に姫島朱乃でも構わんが? バストサイズなら君も彼女も然程違いはあるまい」

「あら? 私の方が部長より大きいですわよ?」

「ちょっと朱乃! 余計なこと言わないの!! てか、ぶっ飛ばされたいの!?」

「あらあら、うふふふ……」

 

 因みに余談だが、リアスのバストサイズは99、朱乃のバストサイズは102、なるほど確かに朱乃の方が大きかった。

 

「さて……これで準備は整ったな、兵藤一誠、倍加の力を譲渡してもらえるか? 私と、アーシアに」

「了解っす!」

【Transfer!!!】

 

 倍加された力をアーチャーとアーシアに譲渡すると、二人の魔力や器など、様々な面が先ほどまでよりも大幅に上がった。

 アーシアが確認しただけでもアーチャーのステータスは最低でも2~3ランクはアップしている。

 

「後は……マスター、すまないが令呪を使ってもらえるだろうか?」

「令呪をですか?」

「ああ……そうだな、私に……約束された勝利を掴めと、そう祈ってくれれば良い」

「約束された勝利を……はい!!」

「では、頼む」

 

 ゆっくりと、アーチャーは皆から離れて上空のコカビエルを見上げた。

 もう既に準備は整っているのか、コカビエルは不敵な笑みを浮かべ、痛む右胸を無視しながら口元を流れる血をそのままにアーチャーを見下ろしている。

 

「最後の会話は楽しんだかな? 弓兵よ」

「最後か……さて、最後にするつもりは無いが、貴様との会話はこれが最後になるだろうな」

「ふん、ならば死ぬが良い!!」

 

 投擲された巨大な光の槍は、その巨体故かゆっくりとだが、だが確実に周辺の物を破壊しながら落下してくる。

 グラウンドの柵が押しつぶされ、校舎も屋上から崩壊していき、このままではこの場の全員があの光の槍によって跡形も無く消滅させられるだろうが、アーチャーの闘志は、まだ死んでいない。

 

「マスター!」

「はい! 聖杯の寄る辺に従い、我が従者に令呪を持って告げる!! アーチャーさん、その手に約束された勝利を! 人々の平和を願う祈りを掴んでください!!!」

 

 アーシアの手に刻まれた令呪の1画が、その光を失い、同時に膨大な魔力がアーチャーの内から湧き出てくる。

 令呪によるブースト、マスターからの絶対命令と、まだ未熟な赤龍帝から譲渡された力、この二つが交わった時、この場に居る誰もが目にする事となった。

 

投影、開始(トレース・オン)

 

――――創造の理念を鑑定し――――

エラー、かの聖剣は身に余りすぎる

 

 それは、黄金の輝きを放つ剣だった。

 

――――基本となる骨子を想定し――――

エラー、魔術回路への負荷増大

 

 かの騎士王が湖の乙女より賜った騎士達の憧れにして誉れ。

 

――――構成された材質を複製し――――

エラー、魔術回路暴走の危険あり

 

 平和の願う人々が祈りを捧げ、その願いが星の内部で結晶化し精製された奇跡。

 

――――制作に及ぶ技術を模倣し――――

エラー、負荷増大、暴走危険水域まで到達

 

 尊き夢の結晶、誰もが憧れ、目指した輝き。

 

――――成長に至る経験に共感し――――

エラー、固有結界暴走の可能性増大、危険域へ

 

 最強、その名を現代まで語り継ぐは。

 

――――蓄積された年月を再現し――――

エラー、固有結界暴走危険水域到達

 

 誉れ高き最強の幻想(ラストファンタズム)

 

――――あらゆる工程を凌駕し尽くし――――

エラー、エラー、エラー、エラー、エラー

 

 其は……。

 

――――ここに、幻想を結び剣と成す!!――――

 

「綺麗……」

 

 誰かの呟きが聞こえる。

 だが、その言葉に耳を貸すこと無く、アーチャーはその手に持つ黄金の剣を上段に構え、落下する巨大な槍と、その先に居るコカビエルを見据えた。

 

約束された(エクス)……」

 

 学園全体から光の粒子が集まり、アーチャーの持つ黄金の剣に集う。

 黄金の光の粒子が舞う中、その真名を開放し、今ここに……伝説は甦った。

 

勝利の剣(カリバー)!!!」

 

 振り下ろされた刹那、膨大な光が収束、加速され、まるで斬撃が光の帯になったかのように真っ直ぐ光の槍へと向かい、一切の拮抗を許さず切断し、その先に居るコカビエルを飲み込んだ。

 

「……ハッ! これが俺の最期か……戦争がしたかったが、まぁ良い……感謝するぞ弓兵、たった二人だけの戦争だったが、実に楽しかった……」




ドライグ……君は泣いて良い(涙)

え~、今回、約束された勝利の剣を投影したアーチャーですが、本来、素の状態ならまず自滅するので投影なんて実質不可能でした。
しかし、一誠の譲渡と令呪による二重のブーストが今回の奇跡を可能としました。
まぁ、でもだからって無条件で投影出来たって訳じゃないですがね……。

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