ハイスクールD×D~堕ちた聖女の剣~   作:剣の舞姫

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今回は説明回です。


第二十八話 「事件解決へ」

ハイスクールD×D

~堕ちた聖女の剣~

 

第二十八話

「事件解決へ」

 

 コカビエルとの戦いから一週間が経った。

 あの後、アーチャーの身体から剣が生えるという現象が収まり、突き出ている刃全てが塵の様に消えてから直ぐにアーシアの聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)で傷口を塞ぎ、魔術で増血処置を施した後、何とか意識を取り戻したアーチャーの助言で教会の地面に穴を掘って中に彼を放り込んでから埋めるという荒業を行ったのだ。

 結果として傷は全て癒えて、消費した魔力も霊地としては駒王町でも屈指の土地の魔力を地面の中から直接吸い上げた事で回復出来た。

 アーシアも消費した魔力は数日で回復したし、学園の方も生徒会が一晩掛けて修理を終えたので、戦闘のダメージは最早皆無と言える。

 

「元気そうで安心したわ、アーチャー」

「心配を掛けてすまないな。だが見ての通り完治している、優秀なマスターのおかげだ」

「はぅ……優秀だなんて、そんな」

 

 ただ自分に出来る事をやっただけだと主張するアーシアを褒め倒して真っ赤になる彼女を楽しんでいるアーチャーは、ふと現在居るオカルト研究部の部室内の人員を見渡した。

 いつも通り、アーチャーとアーシア、リアス、朱乃、祐斗、小猫、一誠は勿論だが、何故かゼノヴィアとイリナまでもが揃っている。

 しかも、ゼノヴィアとイリナの格好はこの前までの黒いボディコン姿ではなく、駒王学園の制服を着ているではないか。

 

「彼女たちは、何故悪魔になったのかね?」

「あら、気づいたの?」

「今まで人間の気配だった彼女達が、悪魔の気配をしているのだから、気づいて当然だ」

「そう……じゃあ、まずは貴方が寝ている間の事を説明しましょうか」

 

 まず、白龍皇がバルパー・ガリレイを回収した後、ゼノヴィアとイリナは統合され、そして祐斗が折ったエクスカリバーの核を回収し、ゼノヴィアの持っていた破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)と共に教会本部へ持って帰ることになった。

 しかし、彼女達が日本を経つ前に報告をした際、コカビエルに告げられた神の不在についてを問うた所、電話口で唐突に二人に異端認定が下されたのだ。

 異端認定を下された二人は教会から戻ってくる事を禁じられ、ただエクスカリバーだけは返却しなければならないので、突然の異端認定に頭に来たイリナがエクスカリバーを空輸便で教会へ送ったらしい。

 

「何というか……大丈夫なのか? 空輸便で重要品を輸送するのは」

「大丈夫よ! どうせもう私たちには関係無いもの」

 

 そういう問題なのだろうか、と疑問に思うが、彼女の言う事も頷ける話なので良しとした。

 それからその後、どうするか途方に暮れていたのだが、リアスに事情を話すと眷族にならないかと誘いを受け、簡単に見限った教会へ愛想が尽きたというのもあってか、眷属入りした、という訳だ。

 しかも、熱心に信仰を捧げているイリナまでもが悪魔になるという選択をしたという事は、それだけ教会は彼女達に随分な言い分で異端認定を下したらしい。

 

「イリナには騎士(ナイト)の駒を、ゼノヴィアには戦車(ルーク)の駒を使ったわ。イリナのテクニカルな戦法にスピードが加われば十分な武器になるし、ゼノヴィアはデュランダルの火力に戦車(ルーク)のパワーと防御力を加えれば、それだけで脅威になるのだから」

 

 因みにイリナはアーチャーから渡された投影品の擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)をそのまま譲り受けたので、今後はそれを使っていくらしい。

 いっそフリードが使った5本統合状態のエクスカリバーを渡そうかとも考えたアーチャーだったが、イリナ自身が擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)で十分だと言ったため、彼女が望まない限りは5本統合のエクスカリバーを投影する事は無さそうだ。

 

「それで、次はアーチャーの番ね。あなたが使ったエクスカリバー、あれは何なの?」

 

 やはりその話になった。

 この件の話についてはゼノヴィアとイリナ、それから祐斗の三人が特に気になっている事らしく、自然と三人は身を乗り出している。

 

「あれは紫藤イリナに渡した擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)と同じ複製だ。もっとも、私に出来る限り近づけた真作に近い贋作だが」

「真作に限りなく近い贋作……ですか。確か、アーチャーさんはバルパー・ガリレイに本物のエクスカリバーを見た事があると仰っていましたわね?」

「それと、彼女達が持っていたエクスカリバーも実は模造品だとも、言っていたね」

 

 朱乃と祐斗の問いに頷く。

 この辺りの事と、それから投影の事については、もう彼女達にも話しても良いかもしれない。それだけの信頼は寄せているのだから。

 まぁ、それでも完全に信頼を寄せられない自分の性格が、相変わらず嫌になると内心苦笑しながら、アーチャーは説明を始めた。

 

「そもそも、私が本物のエクスカリバーを見たのは、その持ち主に会った事があるからだ。ブリテンの騎士王、アーサー王とな」

「ええ! 伝説上の人物に会った事があるんすか!?」

「ほう? それは興味深い話だな、伝説の聖剣エクスカリバーの担い手にして、全ての騎士達の憧れたる騎士王にお会いした事があるなど」

「まぁ、会ったのは生前の話ではあるが、彼女とは戦場を共にした事があるという程度だ」

 

 生前、その言葉にリアス達はアーチャーが英霊、即ち既に死者だったという事を思い出したのだが、イリナとゼノヴィアは初耳なため、首を傾げていた。

 

「アーチャーさんは、アーシア先輩のサーヴァントなんです……その正体は英霊、伝説や神話などに語られる英雄や勇者といった存在と同じなのだとか」

「英霊だと!?」

「伝説や神話の英雄!?」

「塔城小猫、説明不足だ。前にも説明したが、私はそこまで上等な存在ではない。ただ、人の身に過ぎたる奇跡を望む代わりに、死後その魂を世界に売り渡した愚か者に過ぎん」

 

 まるで自分が英霊であるという事を誇っていないかのような、寧ろそんな自分を愚か者と卑下する言葉を口にしたアーチャーに、アーシアが誰にも気づかれる事無く顔を俯かせた。

 知っているからだ。アーチャーの過去を、彼の始まりと結末を、知っているからこそ悲しいのだ。

 彼が自分という、エミヤシロウという存在を憎み、憎悪している事が。

 

「しかし、貴方はつまり既に死した身であるという事だな?」

「そうだ」

「え~と……どうなのかしら? 教義的に死んだ人を使い魔にするなんて」

「まぁ教義云々以前に倫理的には不味いだろうな。だが、アーシアは既に魔術師だ、魔術師とは時に倫理すら無視する存在、今更魔術師のアーシアに倫理を問うのは無意味だろう」

 

 今やアーシアは教会の聖女アーシアでも神の子を見張る者(グリゴリ)の魔女アーシアでもない。フリーランスの魔術師アーシア・アルジェントなのだ。

 サーヴァントの事まで教会の教えに従う道理は無い。

 

「それより、話を戻すぞ。生前、私は騎士王に会っていて、彼女の持つエクスカリバーを見ているからこそ、彼女の持っていた本物のエクスカリバーに限りなく近い複製を作れる」

「本物か……あの輝きが、本物のエクスカリバーに最も近い輝きなのか」

「綺麗だったよね~、あれぞ聖剣! っていう感じで!」

「あまり褒めてくれるな、あれは限りなく真作に近いとは言ったが、それでも本物に比べれば圧倒的に劣る。星の聖剣の本当の輝きは、あんなものではない」

 

 コカビエルすらも消し飛ばしたあの輝きをも本物は上回るという言葉に、いっそうゼノヴィアとイリナは目を輝かせていた。

 やはり、複製の分割品とは言え、エクスカリバー使いだった者としては、本物のエクスカリバーに憧れを持つものなのだろう。

 

「ところでアーチャー、ずっと気になっていたのだけど……本当にアーサー王は女性だったの?」

「む? ああ、その話か……そうだな、兵藤一誠、すまんがドライグを出して貰えるか?」

「はいっす! ドライグ、大丈夫か?」

 

 すると、一誠が出した赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)の宝玉が光りだす。

 

『やっと出したか、アイツの話をするってのに、俺を出さないでどうするってんだ』

「すまんなドライグ、君にとっても彼女は特別であろう?」

『ああ、奴はまだ俺が神器(セイクリッド・ギア)に封印される前からの付き合いでな……俺の因子を持っていたからこそ、ある意味では相棒とも言えた存在だ。何度かアイツには力を貸しているしな』

「やはり、彼女の持つ竜の因子は君のだったか」

『ああ、相棒にして、俺の子孫みたいなものでもあった。俺はアイツの一生を見守ってきたからな……嬉しいぜ、こうしてアルトリアの話が出来る者と出会えた事がな』

 

 アーサー・ペンドラゴン、本名アルトリア・ペンドラゴンは魔術師マーリンにより、誕生する際に竜の因子を植えつけられた。そのため、魔術回路を持たぬ身でありながら呼吸をするだけで魔力を生成出来る、ブリテンの赤き竜の因子を持つ者となった。

 その赤き竜というのが赤龍帝ドライグであり、彼女とドライグはある意味では密接な関係にあると言えるだろう。

 

「でも何故アーサーは女性だったのに王になったんだい? 確か選定の剣を抜いて王になったって伝承だけど、それでも当時は女性が王になるなんてとてもではないけど無理だったんじゃないかな?」

「ああ、だから彼女は選定の剣を抜いた瞬間から人間である事をやめ、女性である事を捨てて性別を偽り、女性としてのアルトリアではなく、王としてのアーサーという、いわば国を動かすための装置になる事を選んだ」

『流石に王妃や父、姉は知っていたがな……糞忌々しい娘を姉に妊娠させた時はマーリンとかいう魔術師の魔術で何とかしていた』

 

 やはりドライグにとって円卓の騎士モードレッドは許せない存在らしい。そして、恐らくは同じ理由で円卓の騎士サー・ランスロットの事も。

 

「む? ちょっと待てドライグ、娘だと? まさか円卓の騎士モードレッドも女性だったのか?」

『あん? なんだ、アルトリアの事は知っていた癖に、それは知らないのか?』

「私がアルトリアと会った状況は少々特殊でね。彼女とは会った事があっても、他の円卓の騎士とは会ったことが無い」

『そうかい、それじゃあしゃーないな。まぁ、取りあえずモードレッドはアルトリアの娘だ、まぁ血縁上父親であるアルトリア同様に性別偽って男として円卓の騎士の一員になっていたが』

 

 歴史的重大な事実が次々と明らかになってリアス達だけではない、元教会出身のゼノヴィアとイリナも頭が混乱しそうになっていた。

 無理も無いだろう、伝承では男として伝えられているアーサー王や、その息子であるモードレッドが実は女だったなどと、世の歴史家が知れば大騒ぎになるのは間違い無いのだから。

 

「所で、アーチャーさんって何処の英雄なの?」

「む?」

 

 唐突にイリナがアーチャーの正体について問いかけてきた。

 確かに生前アーサー王に会ったことがある程の英霊の正体、気にならない方がおかしい話ではある。

 

「そういえば、私達もまだ教えてもらってないのよね。アーシアは知っているんでしょ?」

「え、ええ、まぁ……その、マスターですので」

「生前にアーサー王とお会いした事があるという事は、やはりブリテンの騎士なのでしょうか?」

「他の円卓の騎士に会った事が無いなら、もしかしたら当時の敵国の人間の可能性もあるね」

「だが、彼の顔つきは東洋人のソレだな」

 

 色々と憶測が飛び交う。西洋の英雄じゃないのか、顔が東洋人だから東洋系の英雄じゃないのか、中華刀を使うから中国の英雄か、二刀使いの弓兵なんて英雄に居たか、様々な意見を言っている。

 他にもゲイ・ボルクを使った事から北欧系か、フルンティングを使ったからベオウルフに近しい英雄なのか、などという意見も出ていた。

 

「悪いが、私の真名はマスター以外に教えるつもりは無い。サーヴァントにとって真名とは、それ即ち弱点でもある、そう易々と教える事は出来ない」

「弱点……」

「そうだ、英霊とは必ず伝承に死んだ時の事も残っている。つまり、英霊というのは真名が知られれば生前の死に方、つまりは弱点が露見してしまうのだ」

「そっか! 英霊の弱点って自分の死因なんすね!!」

「死因、もしくは死ぬ原因を作ったモノ、それが基本的には弱点だ」

 

 だからこそ、サーヴァントは基本的に正体を隠す。

 もっとも、アーチャーが正体を隠す理由は弱点の露見ではない。彼は守護者、伝承など持ち合わせておらず、弱点らしい弱点というものが無い。

 否、伝承が無い事そのものがアーチャーの、エミヤシロウの弱点と言えるかもしれない。伝承を持っていない、故に彼自身が強力な英霊ではないという事が知られるのは不味いのだから。

 

「残念だけど、アーチャーの正体はいずれ知る機会があればという事にしましょう? とにかく、新しい仲間も入った事だし、今日もオカルト研究部、活動開始よ!!」

 

 元気に部活を始めたオカルト研究部のメンバーを部室の隅で見つめるアーチャーは窓の外に目を向けた。

 あの時、気を失った時に見えたあの姿……幻覚ではあったが、懐かしい彼女の姿を思い出す。

 

「アルトリア……また、君に助けられたのだな。やれやれ、私もまだまだ未熟だということか」

 

 自嘲しながら、それでも未熟な自分に、よくやったと手を差し出してくれたアルトリアを思い出し、もう彼女に頼るような自分ではないと、思い直した。

 

「アーチャーさん……」

「アーシアか……いや、大丈夫だ。ただ、彼女を……アルトリアを思い出していただけだ。まだまだ彼女には助けられてばかりだと」

「そう、ですか」

 

 アルトリア、アーサー王とアーチャーがどんな関係なのか、知りたいけど、でも答えを聞くのが怖いアーシアは聞き出せなかった。

 怖かった。好意を寄せる彼の口から、もしアルトリアがアーチャーの、昔の恋人という関係だと言われれば、今もその想いを寄せているなどと言われたら、今の自分の胸にある想いは、どうなるのかが。

 

「私は……」

 

 アーチャーのマスター、それが今の自分。でもそれは同時にマスターだというだけでしかない。

 それに、まだまだアーシアは自分がアーチャーのマスターとしての力が不足しているという事も分かっている。

 一画減った令呪を見つめて、この令呪は未熟の証だと戒めた。強くならくては、強くなって、いつかアーチャーのマスターとして恥ずかしくない、アーチャーが全力で戦えるマスターになろう、神ではない、己の心に誓った。




次回は、お待たせしました水着回!!

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