ハイスクールD×D
~堕ちた聖女の剣~
第三十話
「魔王再び、和平への道」
日中をプールで過ごしたオカルト研究部一同は夕方になって部室に集まっていた。
そこでは何故か床に正座する一誠を女性陣が囲みながら立っており、リアスが一誠と、それからゼノヴィアに呆れたという表情を向けている。
「まったく、二人で何をやっているのかと思えば……どうしてイッセーってばこう、エッチなのかしら」
何でも、プールのボイラー室で一誠にゼノヴィアが迫っていたとの事で、一誠も胸を肌蹴させていたゼノヴィアに鼻の下を伸ばしていたらしく、淫らな行為を校内で行おうとしていたと思しき二人をリアスが叱っている所なのだ。
「いや違うんだ、イッセーは私と子作りをしようと……」
「いいから、お前は黙っとれ!!」
「そうよゼノヴィア! だ、だいたいまだ高校生の私達がこ、子作りだなんて! 貴女には恥じらいが無いの!?」
恥かしげも無く子作りなどと口にするゼノヴィアに一誠とイリナが口を塞いだ。
本当に何事かと思っていたアーチャーは、事の下らなさに呆れたのか、部室の片隅で額を押さえて頭痛を堪えるように唸っている。
「マスター、教会の教えとは……未成年でも子作りを許容するものなのかね?」
「いえ、それは流石に……」
というか、そんな宗教あってたまるか。
どうにも、ゼノヴィアは悪魔になった事で何というか……欲望に素直になったとでも言えば良いのか、教徒では絶対に出来なかった事を積極的にやろうとする節があるらしい。
勿論、それは良い事ではあるのだが、限度というものがある。その限度というものをゼノヴィアは考えていないらしく、イリナが苦労しているようだ。
「む?」
どうしたものか、と悩んでいた所で、アーチャーは部室内に奇妙な魔力の流れを感知した。
そして、同時に部室中央に魔方陣が展開され、光り輝きながら二人の人影が転移してきたのか浮かび上がってくる。
「随分と楽しそうだね……何かのイベントかい?」
現れたのはリアスの兄にして魔王、サーゼクス・ルシファーと、その眷属にして最強の女王と名高きグレイフィア・ルキフグスの二人だった。
「お、お兄様!?」
「ま、魔王様!?」
リアスと一誠が驚きの声を上げて、直ぐにゼノヴィアとイリナを除くリアス眷属が跪いて礼を示す。
ゼノヴィアとイリナはつい最近眷属になったばかりで、サーゼクスとは初対面である上、この前までは敵対する側の人間だった事もあり、少し複雑そうな表情だ。
アーシアとアーチャーは特に跪くという事は無いが、一応の礼として頭を下げて挨拶だけ交わしている。
「やぁ、久しぶりだねアーシア・アルジェント、それにアーチャー殿」
「は、はい、お久しぶりです」
「ああ……貴殿も元気そうで何よりだ」
「うん、魔王の仕事をしていると流石に疲れてばかりだけど、オフの日くらいはね、リラックスしたいじゃないか」
「……相変わらずオフは軽いのか、苦労するなグレイフィア・ルキフグス」
「いえ、もう慣れました」
魔王であるのにも関わらずフランクに接してくるサーゼクスに、グレイフィアが頭を抱えているのをアーチャーは見逃さなかった。
慣れたとは言っても、苦労しているのは明白、その苦労が偲ばれるというものだ。
「あなたが魔王か」
「部長のお兄さん……四大魔王の一角、ルシファーなのね」
ゼノヴィアとイリナが一歩前に出てサーゼクスに話しかけた。
流石にリアスの眷属となり、悪魔になったからと言って、最初から敬意を持って接するというのは元教会の戦士としては無理があったようで、口調が少し固い。
「はじめまして、リアス・グレモリーの
「同じく
「御機嫌ようゼノヴィア、イリナ。デュランダルとエクスカリバーの使い手となれる程の聖剣使いがリアスの眷属になったと聞いたとき、最初は耳を疑ったよ」
「私も悪魔になるなどと、我ながら大胆な事をしたと思ってるよ」
「私も、教会の言い分が余りに頭に来たからって随分ヤケクソな行動しちゃったけど、まぁこれはこれで面白い人生かなぁって思います。あ、人間じゃなくなったから人生じゃなくて、悪魔生? う~ん、語呂悪い」
随分と個性的な二人に、サーゼクスは気分を悪くする所か楽しそうに笑っている。彼自身、こういったフランクに話しかけてくれる者が居てくれるというのは嬉しいものらしい。
「それよりお兄様、どうして此処へ?」
そうだ、オフとは言え、魔王が自ら人間界に足を運ぶなど何か大事でもあったのかとリアスが心配するのも当然だ。
だが、アーチャーは何となくだがサーゼクス来訪の理由を察していた。何故ならアーチャーとサーゼクスは、共通の話題で意見を交し合った魂の友なのだから。
「公開授業が近いのだろう? 可愛い妹が勉学に励む姿を間近で見たいと思うのは兄として当然だろう? ……なぁ、アーチャー殿?」
「ああ、当然だな。私とて公開授業に備えて既にスーツと高級デジタルビデオカメラの用意も出来ている」
「やるねアーチャー殿、そうかビデオカメラか……これは急いで用意させないといけないな、グレイフィア、早速だが総司辺りに急ぎ用意させてくれ」
「ちょ、お兄様!?」
「アーチャーさん!?」
再び始まった
そもそも、今度行われる駒王学園公開授業にサーゼクスが見学に来るにしても、魔王という立場上多忙な彼が来るなど、流石に不味いのではないかと、リアスが正論を突きつけるのだが。
「それなら心配いらないよ。これも仕事の内なのでね」
「え?」
「三大勢力のトップ会談を、この学園で執り行おうと思ってね」
三大勢力のトップ会談、それはつまり悪魔、天使、堕天使のトップが駒王学園に集い、話し合いをするということだ。
そのような大掛かりな会談で、一体何を話し合うというのか。
「まずは先日のコカビエルの一件、その後は三大勢力の和平について話し合う予定だよ。もはや戦争をする意味も、その力も無い各勢力が、いつまでも睨み合いでは何も解決しないからね。ならばいっそ和平を結び、今後の技術協力などで交流を深める事で各勢力と共に手を取り合いながら発展していく方が建設的だろう?」
先代魔王全員と、多くの最上級、上級悪魔を失った悪魔側。聖書の神と、多くの上級天使を失った天界側。トップこそ失わなかったものの、多くの戦力を失った堕天使側。
いつまでも無意味な睨み合いをしていないで、未来を見据えた協力関係を結ぶというのは、なるほど確かに良いことだ。
「その会談の際、アーシア・アルジェントとアーチャー殿には我々三大勢力のトップと同じテーブルに座って貰いたい」
「はぅ!? わ、私がですか!?」
「そうだ。今の君たちはリアスの監視下にあるとは言え、あくまで中立の立場だ。しかも、君の従えているサーヴァントはコカビエルという最上級堕天使をも打倒してしまうほどの実力を持った存在。正直なところ君達には会談の席で正式に何処かの勢力に付くか、それとも完全な中立の立場として三大勢力と共に和平の席に組み込まれるかを選んで貰いたい」
その上で、アーシアとアーチャーは正式にリアスの監視下から外れるという事になるらしい。
「会談に参加するのは悪魔側からは私と、それからセラフォルー。天使側からはミカエルとガブリエルが、堕天使側からはアザゼルがそれぞれ参加する事になっている」
魔王ルシファーに同じく魔王レヴィアタン、大天使長ミカエルと同じく大天使ガブリエル、堕天使総督アザゼル、とんでもないVIPの集まる会談が行われる事になった。
「そういえば兵藤一誠、君はアザゼルに先日会ったと言っていたな」
「うぇ!? あ、はい……その、契約取りに行った先が何故かアザゼルで、その……一緒にゲームしてましたっす」
「……サーゼクス、アザゼルという男はどういう男なんだ?」
「聞いての通りの男だよ。アザゼルは昔から自分が面白いと思った事には見境無く、それでいて真っ直ぐな男だ。恐らくゲームも彼の趣味の一つになったのだろうね、彼……人間界の娯楽が大好きだって前に話していたよ」
実は私も好きなんだよね、ゲームとか娯楽関係。等と口にする魔王はさて置き、アザゼルの狙いは間違いなく一誠だろう。
赤龍帝として、未熟であろうとその身は三大勢力にとって重要な存在と言えるのは間違い無いのだろうから、引き込みか、或いは見極めか、もしくは隙を見て殺すつもりか。
いや、殺すというのは無いだろう。正直言って未熟な一誠には殺せる隙が多々あるから、堕天使総督ほどの実力者がその隙を狙って殺せない筈が無い。
つまり、一誠が今もこうして生きているという事はアザゼルの狙いは一誠を殺す事ではないという事だ。
「ともあれ、今度の公開授業を楽しみにしているよ。グレイフィア、今日は何処のホテルに泊まる事になるのかな?」
「近場ですとそうですね……」
「あ、魔王様! よろしければ俺の家に泊まっていきませんか? 部長も一緒に住んでますし」
「おや? リアスが住んでるのかい?」
「ええ、まだ未熟なイッセーがもし狙われたら困るから、護衛も兼ねて一緒に住んでいるんです」
それは初耳だった。
リアスは確か元々は駒王学園の学生寮に住んでいるという話だったが、なるほど一誠の身の安全を考えて一緒に住む事にして、引越しをしたらしい。
「それじゃあ兵藤一誠君、今日はお邪魔しても良いかな?」
「も、勿論っす! 是非!」
こうして、サーゼクスとグレイフィアは兵藤家へのお泊りが決まった。
それと、何故かそれに触発されたのかイリナとゼノヴィアもアーシアとアーチャーが住む教会に今日は泊まりたいと言ってきたが、今の教会は魔術師の工房も兼ねた物として随分と弄っているので、神聖さは欠片も無い状態なため、悪魔二人を泊める事には問題が無いとしてアーチャーが許可を出す。
アーシアも初めて友人と一夜を過ごす事になると喜んでいるので、アーチャーとしても許可を出して正解だったと胸を撫で下ろすのだった。
次回は前半イリナとゼノヴィアのお泊り、後半はいよいよ登場の女装吸血鬼です。