ハイスクールD×D
~堕ちた聖女の剣~
第三十二話
「僧侶」
ゼノヴィアとイリナが教会に泊まった翌日、アーシア達は三人揃って(後ろには霊体化したアーチャー)登校している。
途中で一誠と合流したのだが、一緒に住んでいる筈のリアスは何でも生徒会室に用事があるとかで先に学園に向かったらしく一緒ではなかった。
昨夜は兵藤家にサーゼクスとグレイフィアも泊まったらしいが、一誠はサーゼクスと随分話をしていたらしい。
「それでサーゼクス様の言葉に感銘を受けたんだよ、リアス部長のおっぱいに倍化を譲渡したらどうなるのか……これは是が非でも究明せねば赤龍帝の名が泣くってものだぜ!」
「ほう、ではそのときは是非とも私の美乳にも譲渡を掛けてくれるか?」
「おう! ゼノヴィアも朱乃さんもイリナも、みんな譲渡でおっぱい強化だ!」
何故そこにアーシアと小猫の名前が含まれていなかったのかは聞かない事にした。
丁度後ろから走ってきた小猫の飛び膝蹴りが一誠の後頭部に直撃したのもあったので、天罰という事にしたのだ。
「そういえばアーチャーさん」
「……紫藤イリナ、なるべくこういった通学路で霊体化している私に話しかけてくれるな」
マスターであるアーシアなら念話出来るのだが、その他の者が霊体化しているアーチャーと会話するにはアーチャーが実体化するしかないのだから。
とりあえず実体化したアーチャーは、昨日と同じく黒いジーンズに黒のワイシャツ姿で、アーシアの後ろを歩き始める。
「ごめんなさい、それでも昨日忘れてた事をどうしても話したくて」
「話……?」
何の話なのだろうかと思ったが、とりあえず真剣な表情なので先を促す。
「私とゼノヴィアに、剣を教えて貰えませんか?」
「……何?」
「実は……」
何でもイリナとゼノヴィアは今まで聖剣使いとして多くの実戦を経験してきたのだが、ちゃんとした剣術というものを教わった事が無いのだとか。
一応、教会でも戦士育成の為に剣を教えるのだが、それはあくまで剣の扱い方を教えるのであって剣術を教える訳ではない。
イリナは日本人なので日本の剣道、剣術というものがどれだけ大事なのかは理解している。しかし、海外に引っ越してから聖剣使いになったというのもあり、日本の剣術を学ぶ機会が無かったのだ。
結果としてイリナもゼノヴィアも、剣術を学ぶこと無く聖剣という強力な武器の性能に頼った戦い方ばかりをしていた。
「ふむ……」
なるほど、それなら剣術を教わりたいというのも納得出来る。
今はリアスの眷属として悪魔になった二人も、今後はレーティングゲームに参戦する事になるだろう。その時に今まで通り武器の性能のみに頼った戦い方ではいずれ壁にぶち当たるだろうから、そうなる前に剣術を学びたいということか。
「だが生憎と私に剣術の才能は皆無だ。恐らく君やゼノヴィアにすら負けるだろう」
そう、アーチャーの剣術は才能によって磨かれたものではなく、数多の戦場を駆け巡る中で弛まぬ努力の末に磨き上げられたエミヤシロウ専用の、エミヤシロウに最も適した剣術だ。
それを他者に教えたところで上達するはずが無く、そもそも才能ある者に才能無き者の剣を教えるのは逆に悪影響しか無い。
「剣の基礎だけでも良いんです! だから、どうか!」
「……まぁ、基礎だけで良いのなら私は構わんが、マスターの了承が無ければ」
「良いと思いますよ? アーチャーさん、イリナさんとゼノヴィアさんに剣を教えてあげてください」
「……マスターの許しも出たので、早速だが今日の放課後から教える事にしよう」
「やったぁ!」
そうこうしている内に学園が見えてきたのだが、ふとアーチャーが足を止めて目の前のアーシアの手を取って歩みを止めさせた。
何事かとアーシアが振り返ると、アーチャーの表情が険しくなっており、周りを見ればゼノヴィアとイリナ、一誠、小猫も険しい表情を浮かべて校門前にある橋の手摺に腰掛ける一人の青年を睨み付けている。
「へぇ、それなりに警戒心はあるみたいだね、宿敵君」
「お、お前は……」
「この前はまともに挨拶も出来なくて悪かったね。俺はヴァーリ、白龍皇ヴァーリだ」
白龍皇、それは先のコカビエルとの一戦の最後に現れ、バルパー・ガリレイを回収した人物。伝説の白き龍、アルビオンをその身に宿す者にして、今代の赤龍帝である一誠の将来の宿敵。
「今日は挨拶に来ただけだから、そう警戒しなくて良い……まぁ、戦いたいというのなら、こちらとしても吝かではないが、やめておいた方が身の為だ」
「くっ……」
「……っ!」
いつの間にか左右をゼノヴィアのデュランダルと、いつ来たのか祐斗の聖魔剣を突き付けられているのにも関わらず、ヴァーリは余裕の表情を浮かべている。
そう、明らかに二人より格上の存在であるが故に、二人とも脂汗を浮かべ、剣を持つ手を震えさせながら、それでも何とか剣を握っている状態だ。
「でも、流石に君にまで出て来られたら俺も本気にならざるを得ないけどね、弓兵」
「ほう……」
アーシアの隣に立って
それに対してアーチャーも特に構えてはいないが、若干の殺気を込めた瞳を向けつつ、皮肉気な笑みを浮かべている。
「それにしてもつまらないな、俺の宿敵君は……確かに人間と比べれば強いのだろうが、それでも所詮は悪魔になったばかりの、元一般人だ。構えからして素人に毛が生えた程度だっていうのが見るだけで判る」
先ほどまでアーチャーに向けていたのとは一変して、ヴァーリは本当につまらない物を見るような目で拳を構える小猫の隣で
「さて、俺はそろそろ帰るとするよ。今日は挨拶だけだと言ったからね……でも、君とはまた直ぐに会う事になるだろうな、宿敵君」
「お、俺の名前は兵藤一誠だ!」
「では兵藤一誠……また会おう」
ヴァーリは背中に
残された面々は構えを解き、武器を消すと緊張が解けたのかアーチャーとアーシアを除く面々が座り込んでいる。
「マスター、君は緊張していなかったようだな?」
「え? はい……あの、アーチャーさんが傍に居るので、特に怖がる必要が無いかと思って」
何ともまぁ肝が据わっているというか、天然だというべきなのか、少なくともこの場で最も大物なのは恐らくアーシアなのだろう。
ヴァーリに恐怖していた面々は揃ってアーシアの精神力に感服するのだった。
放課後、部室に集まったオカルト研究部は早速だがヴァーリが朝、学校に来ていた事をリアスに報告したのだが、それと同じくらい大事な用事があるという事で、ヴァーリの報告は後回しにして部室の直ぐ近くにあった部屋の前に来ていた。
厳重にテープで立ち入り禁止状態にしている扉、その部屋は通称:開かずの間と一誠やアーシアは呼んでいたが、実はこの部屋の中にリアスの眷属の一人……
「封印とは穏やかではないな……その眷属は封印しなければならん程に危険な存在なのかね?」
「本人自身は至って良い子よ。ただ、持っている
ただし、ずっと部屋の中に入れておく訳ではなく、夜になり校舎に誰も居なくなれば外に出る事は出来るようにしているらしいのだが、中に居る人物はどうやら外に出られる時間であっても外出しようとしないのだとか。
普段はネットを使って依頼を受けるという形で悪魔の仕事もしていたのだが、今回サーゼクスの命によりリアスの実力も上がったという事で封印解除……つまり部屋の外に日中でも出して良いという事になったのだ。
「ギャスパー! 居るんでしょ? 入るわよー!」
リアスが中の人物に呼びかけた。
ギャスパー、それがリアスの
『い、嫌ですぅううううう! お、お外には絶対に出たくありませんんんん!!!』
部屋の中から可愛らしい声が聞こえてきた。どうやら声からしてギャスパーとは女のようだ。
だがしかし、言っている内容は実に……ニートそのもの。いや、仕事はしているので引き篭もりとでも言えば良いのか。
「埒が明かないわ……取り合えず入るわよー!」
ベリッという音と共に「KEEP OUT」のテープを剥がしたリアスは扉を開いて中に入る。すると同時に……。
「いやああああああああ!!!」
ギャスパーと思しき少女の悲鳴が響き、部屋の外までダイレクトに聞こえてきた。
「ギャー君、対人恐怖症」
「なるほど、それでこの悲鳴か」
「あらあら、前より酷くなってますわね」
「え~、封印逆効果だよそれ」
引き篭もりは時間が経てば悪化するという典型だった。
取り合えず全員が部屋の中に入ってみれば、随分とファンシーな、いかにも少女趣味という部屋の中央で困った顔をして額に手を当てているリアスの姿だけがあり、ギャスパーらしき人影はどこにも無い。
ただ、その足元にはこれ見よがしに棺桶が置かれており、明らかに中にギャスパーが隠れているというのは明白だ。
「はぁ……取り合えず新しい子にも紹介するから開けるわよ」
全員が部屋に入ってきたのを確認したリアスは、無理やり棺桶を開く。すると、先ほどと同じ悲鳴が中から響き、同時にその声の主が姿を表した。
薄い金髪に赤い瞳の小柄な少女、駒王学園の制服を着た美少女と呼ぶべきこの娘がギャスパーなのだろう。
「……む?」
だが、アーチャーはギャスパーという少女を一目見て違和感を感じ取った。
念のためこっそりとだが解析をしてみると……思わず天を仰ぎ目を覆う結果が出てしまう。
「あの、アーチャーさん?」
「……マスター、ギャスパーとやらの全身を解析してみるといい」
「え、でも無闇に人体解析は……」
「私の言いたい事の答えがそこにある」
そう言われれば仕方がないと、内心でギャスパーに謝りながらアーシアはギャスパーに目を向けて魔術回路を起動、解析魔術を使用する。……正直に言おう、解析しなければ良かったと、本気で後悔してしまった。
「あ、あの……え?」
一誠が新しい美少女だと大喜びしている後ろでアーシアが思わず今も天を仰ぐアーチャーへ振り返り、困惑した表情を向けた。
「……はぁ、兵藤一誠」
「はい? なんすか?」
「喜んでいる所に水を差すようで悪いが……そいつは少女ではない、少年だ」
「……………………………………は?」
長い沈黙だったのは、無理も無い。突然何を言うのかとアーチャーに怪訝そうな顔を向ける一誠だったが、その表情は次のリアスの言葉で絶望に染まった。
「紹介するわイッセー、イリナ、ゼノヴィア、アーシア、アーチャー、この子は私の
「「「……え、えええええええええええええ!?」」」
一誠、イリナ、ゼノヴィアの絶叫が響き渡る中、アーシアは引き攣った笑みでアーチャーを見上げる。
「「……はぁ」」
主従揃って溜息を零してしまうのも、無理は無い。
ただ言えるのは、今も涙目でこちらを見て怯えるギャスパー・ヴラディは、男の娘だという事だけだった。
次回はギャー君の能力説明!
それと、いけたら未婚総督を出します。