ハイスクールD×D
~堕ちた聖女の剣~
第三十四話
「堕天使総督」
リアス・グレモリーの
しかし、いざ教育と言っても何をすれば良いのか判らなかったため、一先ず思いつく限りの事をしようという話になったのだが……。
「いやぁあああああ!!」
「ほら走れ! もたもたしてると、このデュランダルの餌食になるぞ!」
現在、アーチャー達の視線の先ではデュランダルを振り回しながらゼノヴィアが泣きながら逃げ惑うギャスパーを追いかけている。
ただでさえ、掠っただけでも悪魔には激痛以上の苦痛を与えるデュランダルを、悪魔であり、ハーフとは言えヴァンパイアであるギャスパー目掛けて振り回すというのは、随分と乱暴というか、何と言うか。
「吸血鬼狩りにしか見えねぇな……」
「流石は教会の『斬り姫』だよねぇ……ゼノヴィアったら生き生きとしてるもん」
教会所属時代、神の剣として多くの悪魔や吸血鬼、魔物といった魔の存在を容赦なく斬ってきたゼノヴィアは、確かに吸血鬼兼悪魔であるギャスパーを追いかける鬼ごっこの鬼役として適任なのかもしれないが、流石にやり過ぎである。
「ど、どうして、こんな事、するんですかぁ……?」
「日本には健全な心は健全な身体に宿るという言葉がある、故にまずは体力から鍛えるのが一番だ」
何という脳筋思考、流石のアーチャーも頭を抱え、隣に立つアーシアも引き攣った笑みを浮かべていた。
「もう無理ですぅ! 一歩も動けません~!!」
長いこと引き篭もり生活をしていた者に、いきなり走り回れというのは流石に酷だったようだ。
木を背もたれに座り込んだギャスパーが泣きながら無理だと懇願する中、今度は小猫がとてとてとギャスパーへ歩み寄り、しゃがみ込んで手に持っていた物を差し出す。
「ギャー君、これを食べれば直ぐに元気に」
「いやぁあああああ!? ニンニク嫌いぃいいいいいい!!!!」
小猫の手にあったのは、正しくニンニクだった。皮も剥いてない丸々一個のニンニク……吸血鬼にニンニクを食べろとは、鬼の所業だ。
「どいつもこいつも……」
「あ、あはは……どうしましょう?」
さてどうしたものかと悩んでいたら、来客が一人来た。
生徒会書記にして、ソーナ・シトリーの
「うわっ! 新しい眷族って金髪美少女かよ!?」
匙がギャスパーを見て、案の定だが女子と見間違えていた。しかし、現実はそんなに甘くはない。
「女装野郎だけどね」
次の瞬間、匙はorz状態になり、現実のあまりの残酷さを嘆いて、一誠もそれに同意しているが、ハッキリ言おう、
だが、そんなほのぼのも終わりを告げた。ずっと警戒を続けていたアーチャーとアーシアは使い魔が侵入者に捕まったのを察知して臨戦態勢に出たのだ。
アーチャーは両手に干将・莫耶を投影して構え、アーシアは手に持っていたカバンからマグダラの聖骸布を取り出してカバンを投げ捨てると、ストールのように聖骸布を纏って太腿のホルスターに装備していた黒鍵を両手に3本ずつ持ち、魔力を通して刀身を展開、更に
「へぇ、お遊戯に夢中になっていた悪魔さん達とは違い、そっちの二人は中々のモンだな」
林の方から出てきたのは一人の男性だった。
和服に身を包んだごく普通の出で立ちだが、その手にはアーチャーとアーシアが放った使い魔が握られており、隙だらけに見えても一切の隙を感じさせない。
明らかな強者であるのは一目瞭然、恐らくこの場でまともに戦えるのはアーチャーくらいなものだろう。
「やぁ悪魔君……いや、赤龍帝、元気そうで何より」
「っ! アザゼル……!」
それに、アーチャーにとっても堕天使レイナーレの一件からマスターであるアーシアの敵になるかもしれない者として警戒していた男でもある。
見ればゼノヴィアはデュランダルを、イリナは
因みに、ギャスパーはファイティングポーズで構えている小猫の後ろに隠れてプルプル震えながら涙目でアザゼルを見ている。
「フフ……いくらお前らが束になって掛かって来ても、俺には勝てないぞ? 下級悪魔とて、それくらいは判るだろ? まぁ、もっとも……お前さんにまで来られたら流石の俺でも本気にならざるを得ないがね」
そう言ってアザゼルはアーチャーに目を向けて、挑戦的な視線を投げかけた。
「ふん、堕天使の総督殿にそこまで言って貰えるとは光栄の極みと言えば良いのか悩む所だ……して、用件は何だ? まさか遊びに来た訳でもあるまい」
「散歩がてらちょっと見学だ、聖魔剣使いは居るか?」
「木場なら居ない! それに、アンタが木場を狙ってるなら……っ!!」
【Boost!】
「ったく、相変わらず威勢だけは良い男だ……そうかよ、聖魔剣使いは居ねぇのかよ」
祐斗が居ないと知り、随分と落胆した様子を見せるアザゼルだったが、その視線の矛先はギャスパーの瞳と匙の左手に移った。
「そこのヴァンパイア……
「力を、吸い取る……?」
どういう訳か、アザゼルはギャスパーの訓練におけるアドバイスをしてきた。それも、聞く限りでは随分と的確なアドバイスだというのが解かる。
「何だ知らなかったのか? そいつは五大龍王の一角、
「こいつに、そんな力が……」
「ああ、そうだ……もっと手っ取り早い方法があるぞ? ヴァンパイアなんだから、赤龍帝の血を飲めば良い」
「っ! それって、俺の血を飲ませるって事か?」
「ま、赤龍帝の血ってのは力の塊だからな、ヴァンパイアならそれを飲む事で自身のスペックを底上げする事が出来るだろうから、
それだけ言って、今度はイリナの持つ
「教会に返却された筈の
「さて、それを教える義理は無いと思うが?」
「フッ、確かにな」
そして最後に、アザゼルが目を向けたのはアーシアだった。
「アーシア・アルジェントか……お前さんには、いや……これは今ここで言うべき事じゃないか」
何かを言い掛けて、直ぐに言葉を濁した。
今ここで言うべきじゃない。それはつまり後の和平会談の席で言うべき事、そういう事なのだろう。
「ま、とりあえず俺の用事はこれで終わりだ。後は自分たちで頑張りな……んじゃな」
「待てよ!」
用件はこれだけとばかりに立ち去ろうとしたアザゼルだったが、一誠が引き止めた。
本来なら下級悪魔である一誠の言葉に耳を貸す必要など無い筈なのに、アザゼルは素直に足を止めて顔だけ一誠の方へ向ける。
「何で、正体を隠して俺に接触してきた!?」
「……それはな」
堕天使である事、そしてそのトップであるという事を隠して一誠の契約先として接触していたアザゼルの目的、それを問いかけた一誠に対するその答えは……。
「俺の趣味だ」
今度こそ、本当にアザゼルは立ち去った。
アザゼルの後姿を見つめながら、彼の掴めない性格を思い返し、アーチャーは厄介な男だと判断を下しつつ、構えを解いて隣で同じく構えを解いていたアーシアの頭に手を置く。
「マスター」
「は、はい……?」
「まだ他者を傷つける覚悟も無いのに、よく黒鍵を構えたな」
「はぅ……その、無我夢中でしたので」
「そうか。だが、無理はするな」
「はい……」
堕天使総督アザゼルとの邂逅というハプニングこそあったものの、ギャスパーの訓練はアドバイス通りに匙の協力の下で行われる事となる。
そしていよいよ、和平会談の前の大イベント、駒王学園公開授業当日を迎えるのだった。
次回は遂に公開授業! 羞恥で涙目になるアーシアが見所!
更に、初登場の魔王少女がアーチャーに……。