ハイスクールD×D~堕ちた聖女の剣~   作:剣の舞姫

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第四十一話 「弓と狂、赤と白」

ハイスクールD×D

~堕ちた聖女の剣~

 

第四十一話

「弓と狂、赤と白」

 

 ヴァーリ・ルシファー、今確かにヴァーリはそう名乗った。

 ルシファーの名を持つ者、それは魔王、もしくはその血族を意味していて、サーゼクスが魔王としてその名を名乗っているが、ヴァーリも同じルシファーを名乗る理由はたった一つ。

 それは彼が、旧ルシファーの……子孫であるという事だ。

 

「俺は先代ルシファーの血族でね、先代ルシファーの孫である父と、人間の母の間に生まれたハーフなんだ」

 

 魔王の子孫でありながら、人間を母に持つが故に白龍皇に選ばれた奇跡の子、それがヴァーリという歴代最強の白龍皇だ。

 今、真の名を名乗ったヴァーリの背中には白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)の他に4対8枚の悪魔の翼が広げられており、それが彼の魔王の子孫である証となっている。

 

「これは不味いな、彼の実力は翼の枚数から見ても、白龍皇だという事を踏まえても、確実に最上級悪魔クラスだ」

「これは、私も本気を出さないと勝てない相手だよ」

 

 サーゼクスとセラフォルーは結界を維持しながら冷静にヴァーリの実力を見定めていた。

 そして、出した結論はヴァーリが最上級悪魔クラスであるという事、自分達でも本気で戦わねばならない相手だという事だ。

 当然、そんな相手に、下級悪魔になったばかりの一誠がまともに戦って勝てるわけがない。

 

「旧ルシファーの血の力と、白龍皇の力を合わせ持ったヴァーリは、過去現在未来、全てにおいて最強の白龍皇になるぜ……つまり」

「そう、未だ禁手化(バランスブレイカー)に至れない兵藤一誠では相手にすらならない。まったく、運命とは何とも残酷だな」

 

 方や魔王の血族でありながらドラゴンの力を得た最強の存在、方や偶然ドラゴンの力を持ったに過ぎない元一般人。

 

「つまらないな、本当につまらない。赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)以外に何も無い君というライバルは、あまりにもつまらな過ぎて笑いが込み上げてきたよ……ライバル関係にある神器(セイクリッド・ギア)を持つ者同士でありながら、俺と君とでは天と地以上の実力の差がある」

「……くっ! だから、どうしたっ!!」

「そうだな、弓兵の相手を狂戦士に譲ってしまった以上、満足出来る戦いが出来るように少し君に設定を加えてみるのも一興かもしれない。兵藤一誠、君は復讐者になるんだ」

「何っ!?」

「俺が君の両親を殺す」

「なっ!?」

 

 一誠の両親、それは一誠が悪魔に転生した事はおろか、裏世界の事や戦いなんて事も、何一つ知らない、ごく普通の生活を、幸せを営む一般人だ。

 

「君の親も俺のような貴重な存在に殺されれば、多少は重厚な人生だったと言えるだろう? 君の両親もこの先老いて普通に死んでいくつまらない人生に華を添えられるなら、少しは無価値な存在にも意義が出てくる」

「……殺すぞこの野郎っ!」

 

 静かに、一誠の言葉と共に彼の全身から赤いドラゴンのオーラが滲み出てきた。

 俯いて表情の見えない一誠だが、その声には確かな殺意と、ヴァーリに対する憎しみの感情が込められていて、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)もその宝玉から一誠の感情に感化されるように眩い光を放つ。

 

「何で……っ! 何で俺の父さんと母さんが、テメェの都合に合わせて殺されなきゃなんねぇんだよぉ!!!!」

【Welsh Dragon over booster!!!】

 

 籠手より響くドライグの声と共に、一誠がアザゼルから渡された腕輪が輝き、砕け散る。

 そして、一誠は不完全ではあるが、遂に至った……神器(セイクリッド・ギア)の一つの到達点、進化の頂に。

 

赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)!!」

 

 全身を赤いドラゴンを模した鎧で覆い、両手には赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が装備された禁手化(バランスブレイカー)は、先ほどまでの一誠からは考えられないほどのオーラと魔力を感じさせる。

 静かに、唸りながらこちらを伺っていたバーサーカーすら、その威容に反応して戦意を高めたのか、もはやマスターからの指示であろう静止を振り切ろうとしていた。

 

「どうやらこちらも始めなければならんようだ……」

 

 アーチャーは折れた右腕を押さえながら立ち上がり、バーサーカーに向かって歩みを進めようとしたのだが、ふと何かに引っ張られる感覚に気づいて足を止めた。

 見ればいつの間にか結界から抜け出たアーシアがアーチャーの外套の裾を掴み、涙を浮かべながらアーチャーを見上げ、首を横に振っている。

 

「待ってください……! そんな怪我をしているんですから、一人で戦うなんて!!」

「だが、私以外に戦える者は居ない」

 

 事実、サーゼクスとセラフォルー、ミカエル、ガブリエルはリアス達を結界の内側へ収容して、一誠とヴァーリの戦いによる影響を考え、結界強化に努めており、アザゼルは左腕を失っているため、バーサーカーとの戦いに出ても正直、戦えるかどうか。

 

「でもっ!」

「マスター、何も私とて死にに行くわけではない。何とか奴らが撤退してくれるまでの時間稼ぎをするだけだ……まぁ、左腕一本でどこまで出来るかは、確かに疑問ではあるがな」

「……っ」

 

 ならばと、アーシアは聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)でアーチャーの右腕を癒し、折れた骨を繋ごうとする。

 

「治せそうか?」

「ちょっと待ってください……あ、折れた骨の破片が上手く繋がらないなんて……な、なら!」

 

 聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)で癒しを続けながら、アーシアは魔術回路を開き、最近になって覚えたばかりの、まだ臨床試験すらしていない魔術を行使する。

 

「Osso Legare Pezzo Ricupero completo」

 

 砕けた骨の破片が腕の中で綺麗に繋がり、折れた骨は魔術と聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)の二重治療によって完治した。

 アーチャーは痛みが消えて動くようになった右腕の感覚を確かめると、その手でアーシアの頭を撫で、今にも襲い掛かって来そうなバーサーカーと向き合う。

 

「下がっていろマスター、以後は魔術による遠距離治癒に勤めてくれ」

「……はい! アーチャーさん、これは令呪ではないですが、マスターとしての、命令です」

「聞こう」

「絶対、死なないでくださいね、どんなに大怪我しても、必ず治しますから」

「……心得た。では、期待に応えるとしよう」

 

 そう言って両手に干将・莫耶を投影し、ついにマスターからの静止を振り切ったであろうバーサーカーが動くのと同時に駆け出し、振り下ろされる方天画戟を避けながら、その腕目掛けて刃を振るう。

 同時に、上空でも赤と白の激突が始まっていた。アスカロンという竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の聖剣の刃を籠手から出してヴァーリに迫る一誠の速度は、ヴァーリに負けていない。

 だが……。

 

「弱い、弱すぎる!!」

「ぐあっ!?」

 

 いくら禁手化(バランスブレイカー)に至ろうとも、一誠はまだまだ戦いにおいて素人に毛が生えた程度の実力しか無い。

 対するヴァーリは恐らく何度も激戦を潜り抜けてきたのだろう、その戦闘能力は素の状態でも一誠を遥かに上回っているのだ。

 同じ禁手化(バランスブレイカー)であろうと、素の戦闘能力の差が、最初の一撃をヴァーリが先制するという結果に現れた。

 

【Divide】

 

 ヴァーリの蹴りをまともに受けて血を吐く一誠は、更に白龍皇の能力である半減の力を受けたため、一気にドラゴンのオーラや倍加した力を半減され、地面へ真っ逆さまに落下していく。

 そして、アーチャーとバーサーカーの戦いもまた、バーサーカーの猛攻をひたすら避け続けるアーチャーが風圧だけで傷を負っていくという防戦一方の状態になっていた。

 

「チィッ! 奴の耐久を超えるには干将と莫耶では無理か……マスターの魔力の残りを考えるのなら、一撃で殺し切る宝具を使うのが最良なのだろうが」

 

 その隙が、一向に訪れない。

 ならば隙を作れば良いのだが、下手に行動すれば確実に方天画戟の刃はアーチャーの命を刈り取っていくだろう。

 

「■■■■■■■■■■■ーーーーーーっ!!!!!」

「っ! ぐぅっ!?」

 

 避けたはずだったのだが、狂っても相手は一騎当千の猛将、返す刀の如く刃が素早く避けた先に振り下ろされた。

 何とか干将・莫耶をクロスさせる事で受け止めたが、無理だ。バーサーカーの筋力パラメーターはアーチャーの筋力パラメーターで受け止められるようなレベルではない。

 ならばと、押し潰される前に干将・莫耶を手放して後ろへ跳び、回避したのだが、僅かに間に合わなかったのか、穂先がアーチャーの右胸から左脇腹までを一文字に斬り裂き、大量の血が吹き出てきた。

 

「ぐっ……がっ……不味い、な」

 

 傷口はアーシアの遠隔治癒魔術によって瞬時に塞がったが、少し血を流し過ぎたようだ。

 

「っ!」

 

 襲い掛かってきたバーサーカーに対して休む間も無いと愚痴りたくなるのを堪え、地を蹴ってバーサーカーの後ろを取る。

 その際、風圧で背中を斬られたが、今はそんな事を気にしている暇など無いと、脳裏に剣の設計図を構築、心象世界にある剣軍の中から最適な一振りを検索し、投影した。

 

「今度は、少しばかりきついぞ……バーサーカー!」

 

 アーチャーが投影したのは、一本の剣だった。ただし、それは唯の剣に非ず、中国の剣を思わせる意匠は王者の如き風貌を漂わせる。

 

「倚天の剣、貴様を殺した三国志の英雄、曹操の愛剣だ……貴様を殺した男の武器で、もう一度死ね、呂布奉先!!」

 

 赤と白、弓と狂、この二つの戦いは、いよいよ佳境へと突入しようとしていた。

 仲間が、主が、守りたい人達が見守る中、一誠とアーチャー、二人の赤は、眼前の敵へと刃を煌かせる。




これから晩飯なのであとがきは簡素に!
次回決着! 以上!!

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