ハイスクールD×D~堕ちた聖女の剣~   作:剣の舞姫

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決着!


第四十二話 「宝具」

ハイスクールD×D

~堕ちた聖女の剣~

 

第四十二話

「宝具」

 

 倚天の剣、それは三国志演義で有名な魏の王、曹操孟徳が所持していたとされる二振りの宝剣の内の一つ。

 倚天の剣の対となるもう一振り、青釭の剣は鉄を泥の如く斬り裂いたという逸話を持つほどの業物だったとされ、当然だが同じ刀匠に、同時に作らせた対の剣たる倚天の剣に、同じ切れ味が無いという道理は無い。

 

「貴様を殺した男の剣で、もう一度死ね、呂布奉先!!」

 

 アーチャーの握る倚天の剣が背後からバーサーカーの背中を斬り裂いた。

 噴出す返り血を浴びながら、更に畳み掛けようとしたが、振り返りながら方天画戟を横薙ぎに振るってきたので、その刃の進行方向に障害物を設置する。

 

投影、開始(トレース・オン)!」

 

 投影され、地面に突き刺さって方天画戟の刃を受け止めたのは巨大な大理石で出来た斧剣だった。

 生前、アーチャーが聖杯戦争に参加した際に姉が使役していたバーサーカーの剣、それは別に宝具というわけではなく、ただ大理石を削りだしただけの代物だが、かの大英雄が使った物が、そう簡単に壊れるはずが無い。

 

「■■■■■■■■■■■ーーーーーーーっ!!!!」

「よく吠える、獣に身を落として尚、その戦意は驚嘆に値するが……理性を失ったのが貴様の敗因だ!」

 

 倚天の剣で袈裟斬りすると、更にバーサーカーは血を流した。

 確かにバーサーカーの耐久は相当高く、その肉体の強度は並の剣では歯が立たないだろうが、鉄すら容易に斬り裂く倚天の剣を前にすれば、その程度の防御力は無いに等しい。

 

「ぬっ!?」

 

 しかし、何を思ったのかバーサーカーは空いている手で倚天の剣の刃を握り締め、血が出るのもお構いなしに思いっきり引っ張ってきた。

 流石に筋力勝負ではアーチャーが負けてしまうので、素直に倚天の剣を手放すと方天画戟を振り下ろそうとするバーサーカーに対して隣に突き刺さったままの斧剣で迎え撃つ。

 

「グッ……流石に重いな」

 

 こんなに重たい剣を軽々扱っていた大英雄の姿を思い出し、改めて彼の偉大さを思い知るが、今はそんな時ではない。

 筋力値で言えばかの大英雄にも並ぶ化け物と力比べなどする気は無いので、斧剣を手放しながら後方へ飛び退き、その過程で新たな剣を投影する。

 アーチャーの手に現れたのは柄と刀身が漆黒に染まった一本の西洋剣だった。華美な装飾があるわけでもないのに、発せられる聖なるオーラは結界内で戦いを見守っていた教会出身三人娘と、ミカエル、ガブリエルが息を呑むほど。……いや、ガブリエルだけは、他の誰よりも驚いていた。

 

「はぁあああああっ!!!」

 

 滅多に無い、アーチャーの咆哮が響き、突撃してきたバーサーカーの方天画戟と打ち合う。

 並の剣であれば方天画戟と打ち合えば簡単に折れるか砕けてしまうはずなのに、新たに投影されたその剣は、折れるどころか刃毀れすら無い。

 

「これは貴様の馬鹿力でも破壊できまい、この……絶世の名剣(デュランダル)は!」

 

 アーチャーが投影したのは、所謂原初のデュランダルだ。つまり、ローランの歌にてローランが、狂えるオルランドのイーリアスにてトロイアの英雄ヘクトールが、それぞれ使用した最初のデュランダル。

 デュランダルには所有者だったローランの死後、シャルル王によって聖遺物を納めている柄を取り外し、刀身のみを猛毒の湖に投げ捨てたという伝承が残っている。

 恐らく現在ゼノヴィアが使っているデュランダルは、その残された柄から回収された聖遺物を別の器に移し替えた二代目のデュランダルという事になるだろう。

 そして、初代デュランダルにある逸話には決して刃毀れしない絶世の名剣だという話があり、バーサーカーのような馬鹿力と打ち合うのにこれほど適した剣は中々無い。

 

「チィッ! 今ほど自分の剣の才能の無さを恨んだ事は無いな」

 

 幸い、バーサーカーの理性が無いからこそ、何とか拮抗しているが、もしバーサーカーが……呂布がランサーやライダー辺りのクラスで召喚されていたら、今頃アーチャーは死んでいただろう。

 それでも何とか拮抗出来ているという状態の理由は、理性無くとも呂布は武人だったという事で、本能で振るわれる方天画戟が時折嫌に技術めいている事があるからだ。

 恐らく本能で振るえるほど、呂布はその身に技術を染み込ませていたのだろう。だからこその一騎当千、三国志最強ということか。

 一つでもミスをすれば確実に拮抗は崩れる。そうなれば、アーチャーに待っているのは死、それだけだ。

 

「クッ……ジリ貧なのは、否めないな……っ!」

 

 ただの打ち合いだとしても、風圧だけで相手を斬る事が出来る化け物が相手だ。当然だがアーチャーの身体には次々と傷が増えて血を流している。

 その度にアーシアが遠隔治癒を施してくれるが、流石に魔力を無駄遣いさせると不味いので、最低限に留めているのだが。

 先ほどから血を流しすぎた所為か、時折アーチャーの視界が歪みそうになる事もあるので、早めの決着が望ましい。

 

「グッ……投影、開始(トレース・オン)!」

 

 

 一方、ヴァーリとの戦いを続ける一誠の方はというと、相変わらずヴァーリが押していた。

 元々の才能、現状の身体能力、経験、様々な面でヴァーリに劣る一誠が、押されていても何とか持ち応えていられるのは奇跡と言える。

 

「まだつまらないな……家族を殺すだけでは足りないか、なら仲間を先に殺して見せた方がもっと効果があるのかな?」

「何だと!?」

 

 ヴァーリは両手に白い魔力を収束させると、結界に守られているリアス達へ向けて放った。

 いくら魔王二人に大天使二人による結界が張られていても、最上級悪魔クラスの魔力と、二天龍のドラゴンの力を合わせ持つヴァーリの魔力弾は、何度も受ければ結界を破壊してしまう恐れがある。

 だから、一誠は直ぐに結界の前へ移動し、ヴァーリの放った魔力弾を両腕でガードしながら受け止めた。

 

「ぐっ、ああああああああ!?」

「ほうら、もっと行くぞ!」

 

 今度はヴァーリ自身がリアス目掛けて突進してきた。

 だが、ギリギリで一誠がヴァーリの懐へタックルし、そのまま上空へ押し上げる事で何とか難を逃れる。

 

「いい加減にしろよテメェ!!」

「いいぞ、オーラがどんどん膨れ上がってる! もっとだ、もっと俺が楽しめるレベルまで上がって来い!!」

「ぐがぁああああああ!?」

 

 至近距離から魔力弾を受けた一誠が血を吐きながら弾き飛ばされたが、先ほど以上に力が上がっているからか、ダメージが少なくなっている。

 おかげで体勢を直ぐに立て直した一誠は左腕にドラゴンのオーラを集約させた。

 

「ドライグ! アスカロンに力の譲渡だ!!」

【Transfer!!】

 

 すると、ドラゴンのオーラと、倍加の力が籠手の中に収納されていたアスカロンの刀身に宿り、その聖剣としての聖なるオーラを極限まで高める。

 しかし、刀身は未だ籠手の中に収納されているので、その聖なるオーラは籠手に覆われた左手全体を覆い尽くす。

 

「ヴァーリィイイイイイイ!!!」

「なっ!? がはっ!!?」

 

 真っ直ぐ振り抜かれた左ストレートの拳はヴァーリの顔面に突き刺さる。だが、ヴァーリにとっての誤算は譲渡の力による聖なるオーラとドランスレイヤーの力の強化と、倍加による一誠の力の上昇ではない。

 一誠の拳が入った瞬間、ヴァーリは鎧を徹してきた衝撃に脳を思いっきり揺らされたのだ。それは、一誠が小猫と共にアーチャーから学んでいる八極拳の業の一つ、殴った時の衝撃を外ではなく内側に徹すという日本で言う鎧徹しの技術だ。

 

「おおおおおおおおっ!!!」

「ガッ!? グゴッ!?」

 

 更に一誠は畳み掛けた。至近距離に居るのを利用して鳩尾に肘打ち……頂肘による強烈な一撃を叩き込み、そこから投げ技へ発展させて地面へ真っ逆さまに投げると、追い討ちの如く鉄山靠による体当たりで防御無視の一撃を与え、地面へ叩き落した。

 

「ドラゴンスレイヤーの力! これで思い知りやがれぇ!!!」

 

 背中から地面に叩き付けられたヴァーリの胸の中心、鎧に付いた宝玉に、一誠の左拳が……ドラゴンスレイヤーの力が込められた左ストレートが突き刺さる。

 結果、胸の宝玉が罅割れ、ヴァーリの上半身の鎧が砕け散ってしまった。

 

「ぐっ……ゴハァ!? く、ふふ……凄いな、まさか俺の神器(セイクリッド・ギア)が破られるとは」

 

 バク転して一誠から距離をとったヴァーリだが、相当なダメージを負っているのは口元の血の跡を見れば明らかだ。

 

「さっきの技、人間の使う拳法というやつか……なるほど、所詮は人間の技術だと侮っていたが、俺にここまでダメージを与えるのだとなると、俄然興味が湧いてきた」

「俺だって、元一般人だってことは理解してる! だからこそ、アーチャーさんに教わった八極拳をずっと練習してきたんだ! 俺に宿るドライグの為にも、父さんや母さん、仲間達の為にも、八極拳を教えてくれたアーチャーさんの為にも、俺は負けねぇ!!」

「いいぞ、本当に面白くなってきた……それでこそ俺のライバル!」

 

 口元の血を拭って立ち上がったヴァーリは、直ぐに砕けた鎧を修復して、再び全身を白い鎧で覆い尽くした。

 所有者であるヴァーリを完全に倒さない限り、どうやら鎧はいくら砕こうとも直ぐに修復されてしまうらしい。

 

「くそっ! こっちはもうそろそろ時間が無ぇってのに!!」

『これが今の相棒と奴の差だ、制限付きでは話にならん。逃げなければ死ぬぞ』

「アーチャーさんが今も戦ってるのに、俺だけ逃げられるか!! っ!?」

 

 すると、一誠は足元に転がる罅割れた宝玉を見つけた。それは先ほどヴァーリの鎧を砕いた時に飛び出た白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)の破片とも言える。

 それを拾い上げた一誠は何を思いついたのか鎧で顔こそ見えないが、中では一か八かの決意に瞳が輝いていた。

 

「なぁドライグ、神器(セイクリッド・ギア)ってのは持ち主の想いに応えて進化するんだよな!」

『面白い! だが、死ぬ覚悟はあるのか相棒?』

「死ぬ気は無ぇさ! 俺はまだハーレムを築いてない……まだ女の子とエッチした事も無い、童貞のまま死ぬなんざ御免だ! でもな、痛ぇのならいくらでも我慢してやる!!」

『ハッハッハッハッ! 良い覚悟だ! ならば俺も相棒同様に覚悟を決めよう!! 我は力の塊と称された赤き龍の帝王! お互い生きて超えて見せるぞ相棒!! 否、兵藤一誠!!!』

「おう!!」

 

 一誠の手の中で宝玉が割れた。その瞬間、眩いほどの白い光と赤い光が一誠の全身から溢れ出し、反発するように一誠の身に襲い掛かる。

 

「グッ!? グガァアアアアアアアアアアアッ!?!?!?」

「馬鹿な、アルビオン……兵藤一誠は何をしている?」

『愚かだな、元々は相反する我らの力を取り込むなど、自殺行為だ……聖魔剣とは訳が違う』

『アルビオンよ、確かに相棒の行為は無謀で愚かだがな、俺はこの宿主と出会った事で一つ、学んだ事がある……馬鹿も貫き通せば不可能を可能にするってな!!』

「馬鹿で結構! 今までだって馬鹿貫き通して乗り越えてきたんだ! なら今度だって、最後まで貫き通してやるさ!!! 俺の想いに応えやがれ!! 赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)ァアアア!!!」

【Vanishing Dragon Power is taken!!】

 

 赤かった右手の籠手が純白に、緑色の宝玉は藍に染まった。馬鹿を貫き通して不可能を可能にした瞬間だった。

 

「へっ! 白龍皇の籠手(ディバイディング・ギア)ってところかな!」

『今ので確実に寿命を縮めたぞ相棒、いくら悪魔が永遠に近い時を生きるとしても』

「そんなに生きるつもりは無ぇ! やりたい事はあるけどな」

 

 これで倍加と半減の力を得た一誠は、ヴァーリとの第二ラウンドへと突入する。ますます面白くなってきたとヴァーリも、鎧の中で笑みを深めるのだった。

 

「本当に、俺のライバルはどんどん面白くなっていくな……なら俺も、本気を出すとしよう!」

 

 そう言って、ヴァーリはその場で飛び上がり、光翼を大きく広げる。

 

【Half Dimension!!】

「フンッ!!」

 

 翼から強力な力場が発生し、ヴァーリが左手を校舎に向け開いていた手をゆっくり閉じる。

 すると、校舎と、その周辺の空間が歪み、徐々に内側へと収縮していく。まるで、空間を半減しているかのように。

 

「な、何してやがんだ!?」

「赤龍帝殿! あれは次元を歪めています!! このままでは我々も危険です!!」

「なっ!?」

「ま、まともじゃないわ……」

「まともじゃないのさ、ドラゴンの力を宿してる奴ってのはな」

 

 ミカエルの言葉に驚く一誠とリアスに、ヴァーリをよく知るアザゼルが軽口で返すが、アザゼルの表情に余裕が感じられる事から、何やら対策があるらしい。

 

「こっちもまともじゃ無ぇところ突いてみるか……おい赤龍帝、兵藤一誠!」

「何だよ!」

「お前にも判りやすく言うとだな、今使ってるヴァーリの力は、周囲の物を半分にしていく。つまり、お前のご主人様……リアス・グレモリーのバストも半分にしちまうんだ」

「っ!?!?!?」

 

 まるで大きな鈍器によって頭を殴られたかのような衝撃を受けた。そして……。

 

「ふっざけるなぁあああああああああ!!!!!」

【Boost!】

「部長のおっぱいを半分にするだとぉおおお!?」

【Boost!!】

「……何?」

「許さない……っ!!」

【Boost!!!】

「テメェだけは……っ!!!」

【Boost!!!!】

「許さないぞヴァーリィイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!」

【Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost!!!!!】

 

 爆発的に、一誠のオーラが最上級悪魔どころか、魔王級にまで跳ね上がった。思えば、今までも一誠はおっぱいで力を覚醒したり、素人ではあり得ない成果を出したりしてきたが、まさかここでこんなにもパワーアップするなど、誰が考えただろうか。

 

『相棒、俺はそろそろ泣きそうだぜ……』

 

 哀れドライグ、その言葉は籠手より響く倍加の声によって掻き消され、誰の耳にも届く事は無かった。

 

 

 時間は少し巻き戻り、アーチャーとバーサーカーの戦いは佳境に入ろうとしている。

 剣戟の中で剣軍を降らせ、バーサーカーに猛攻を許さないアーチャーだが、バーサーカーは剣軍を物ともせず方天画戟で弾き飛ばし、いくつか身体に突き刺さろうとも前進を止めず、アーチャーを追い詰めていた。

 

「くっ! しまっ!?」

 

 血を流しすぎた所為で、一瞬だが視界が歪んでしまった。その一瞬の隙に、バーサーカーの方天画戟がデュランダルをアーチャーの手から弾き飛ばし、その穂先がアーチャーの腹部に突き刺さった。

 

「かはっ!?」

 

 ただ、突き刺さった時の勢いがあまりにも凄まじく、慣性に従ってアーチャーの身体は後ろへ吹き飛ばされ、刃が腹部から抜け出ると、貫通した腹部からは大量の血が溢れ出す。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーっ!!!!」

「グッ!? あああああああああ!」

 

 バーサーカーは空いた左手でアーチャーの頭を鷲掴み、そのまま万力の如く締め付け、何度も地面に叩き付けながら振り回し、先ほどアーチャーが弓を使うのに足場として使ったポールへ向けて投げ飛ばした。

 背中からポールに激突したアーチャーは、ポールが衝撃で大きく曲がったのを気にする余裕すら無く、ポールに背中を預けるようにしてその場で崩れ落ちる。

 

「アーチャーさん!!!」

「くっ……まず、い、か……」

 

 もう、立ち上がるだけの力も残されていない。指一本動かすのも億劫になる。だが、立たなければ待っているのは死、それだけは、容認するわけにいかないのだ。

 

「グッ……成る程、流石、は……最強、だな……だが、今も、まだ、私を殺せて、いないなど、三国志最強も……大した事は、無いらしい」

 

 ポールに寄り掛かったままだが、何とか立ち上がったが、それだけだった。それ以上、その場から動くなど最早出来そうに無い。

 

「■■■■■■■■■■■■ーーーーーっ!!」

 

 すると、バーサーカーは先ほどまでの猛攻が嘘のようにその場から動かず、先ほどまで持っていた方天画戟を地面に突き刺し、身の丈以上もあろうかという弓を取り出すと、その弓に方天画戟を番え、穂先をアーチャーへと向けた。

 途端に起きる膨大な魔力の奔流、バーサーカーを中心に、暴虐なまでの魔力が渦巻いて方天画戟の穂先に集中していく。

 

「宝具か……くっ……I am the bone of my sword(体は剣で出来ている)

 

 その場からは動けずとも、それでも何とか防御しようと、右腕を上げ、投影を始める。残り魔力を考えれば、恐らくこれが最後の投影となるだろう。もうこれ以上、投影は出来ないが、これが防げなければ死ぬのは変わらない。

 

「■■■■■■■■■■■ーーーーーっ!!!! 軍神(ゴッド)……」

熾天覆う(ロー)……」

 

 極限まで高まった魔力を穂先に、弓から方天画戟が放たれるのと同時に、アーチャーの右手からは桃色の花弁が花開く。

 

五兵(フォース)!!!!!」

七つの円環(アイアス)!!!」

 

 発射された方天画戟は花開いた7枚の花弁によって受け止められるが、大きな火花と膨大な魔力が引き起こす突風と共に花弁を突き破ろうと押し進む。

 一枚、また一枚と花弁はガラスが割れるように砕け散る中、その向こうで襲い掛かる衝撃を堪えていたアーチャーは苦しそうに表情を歪めた。

 方天画戟が花弁を一枚割るごとに右腕は裂けて血が噴出し、魔術回路からは火花とともに悲鳴が発せられているのだ。

 

「グッ……ぉおおおおおおああああああああああっ!!!!!」

 

 花弁が最後の一枚になった時、アーチャーの体を支えていたポールが折れてアーチャーはバランスを崩した。

 そのまま後ろに吹き飛ばされるのと同時に最後の一枚が砕け散り、同時に方天画戟は勢いを失って地面に落ち転がる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……クッ、もう、指一本動かない、か」

 

 見れば右腕はズタボロだった。皮膚の至る所が裂けて血を流し、肩の付け根など皮一枚で何とか繋がっている程度。掌など指が折れ曲がり、小指も半ばから千切れそうになっている。

 もう、意識を保つのもままならなくなり、バーサーカーが歩み寄ってくる足音を聞きながら、ゆっくりと、アーチャーは意識を手放すのだった。

 同時に、ヴァーリを追い詰めた一誠の前に一人の男が結界を破って現れたのだが、意識を失ったアーチャーがそれに気付く事は無かった。




次回は猿登場。

あ、それと今回の話に出たデュランダルの話ですが、補足。
伝承ですと、ローランが使っていたデュランダルはローランの死後も暫くシャルル王が使っていたらしいですが、その後はシャルル王自身の手によって聖遺物を納めていた柄を取り外して刀身を毒の沼に投げ捨てたという話です。
なので、今作のデュランダルの設定……つまりゼノヴィアが使うデュランダルは初代デュランダルから取り外した聖遺物を新しい器に入れて作った二代目デュランダルということになります。
因みにガブリエルが一番驚いていたのはシャルル王にデュランダルを渡したのがガブリエルだからです。
つまり、ガブリエルさんは初代デュランダルを知っているということになります。

初代デュランダルは馬上では片手で、地上では両手で扱うロングソードという言い伝えがあり、事実その通り。
二代目デュランダルは完全に両手で扱うだけのエクソシスト用の武装という扱いになっています。

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