第四十五話 「オカルト研究部男子+1の休日」
ハイスクールD×D
~堕ちた聖女の剣~
第四十五話
「オカルト研究部男子+1の休日」
三大勢力の会談が終わり、駒王学園も間もなく夏休みに突入しようとしていた。
これは、夏休み前最後の休日に起こった小さな出来事、オカルト研究部男子が生徒会の匙も誘って海へ釣りに出かけたのが始まりだ。
事の発端は祐斗が剣の精神修行の一環として釣りを嗜んでいるという話を一誠やギャスパーにしていて、いっそ匙も誘って男だけで釣りに行こうという話になった。
夏休み前最後の休日なので、たまには男同士で出かけるのもアリだろうと盛り上がり、女子たちが一緒にショッピングに行くという話なので丁度良いと計画を立てたのだ。
「んで、朝早くから重たい荷物持って海か……木場~ホントに帰りは海水浴場に寄ってくれるんだろうな?」
「うん、昼間には終わらせるから、その後は海水浴も楽しいよね?」
「おっし! じゃあ匙! 海水浴場着いたら早速ナンパだ!!」
「ええ~、俺はいいよ」
「ばっかお前! 男ならビーチでナンパ! これ鉄則だ!!」
電車で移動しながら一誠は釣りではなく、その後のビーチでのナンパに胸を躍らせていて、隣に立つ匙も口では否定してつつも期待しているのを隠せていない。
祐斗はそんな二人に苦笑しながら読みかけの本に目を落とし、ギャスパーは一誠の服の裾を掴んだままオドオドと周囲をキョロキョロしている。
「イッセー先輩、僕……釣りって初めてなんです」
「そっか、俺は父さんと一緒に何回かやったことあるし、教えてやるよ」
「は、はい!」
そうこうしている内に電車は目的の駅に到着して、早速だが祐斗がいつも利用しているという釣り場へ移動すると、そこに居た先客に全員が驚いた。
「よう! 奇遇だなぁ、お前らも釣りか?」
「あ、アザゼル先生!? どうして此処にいるんだよ!?」
「あん? 釣りは俺の趣味なんだよ、それで時々こうして川とか海とかで釣竿振って遊んでるのさ」
咥えタバコに缶コーヒーを左手に、右手にはリールの付いてないタイプの釣竿を持って糸を海に垂らしているアザゼルは、学校でいつも着ているスーツ姿ではなく、何故かアロハシャツだった。
「フ……アザゼル先生、そんな竿で魚が釣れるとお思いですか?」
「んだよ祐……斗、ってテメェ! そいつぁ!!」
「ええ! これが僕の相棒、シ○ノのインフィニティです!!」
「い、一本4万円以上もする釣竿を……高校生のテメェが何で持ってやがる!?」
「悪魔家業って、便利ですよね」
「き、汚ねぇ!!」
悔しそうに地団駄を踏むアザゼルと、ドヤ顔で胸を張り釣竿を見せる祐斗に、一誠達は何が何やら。
とりあえず、三人は少し離れた所で釣りを行う事にして、態々アザゼルの隣でリール釣り特有の遠距離フィッシングを始めた祐斗とを見守る。
「っ! 来たっ!!」
「チッ」
早速祐斗にヒットが来たらしく、隣でアザゼルが舌打ちしていた。
なんというか、物凄く他人のフリをしたくなるほど、今の祐斗の笑顔は見たくないと思えてくる。
「おや、君たちも来ていたのか」
「あん? って、アーチャー!? テメェ何だその格好は!?」
突然、アーチャーが現れて、アザゼルと、それに祐斗や一誠達までもがその格好に驚いてしまった。
いつもの外套姿ではなく、その外套を脱いでライトアーマーを外した後、その上から赤い釣り用のジャケットを着用し、赤い帽子まで被っている。
そして、アーチャーはこれまた赤い椅子をセットし、白いクーラーボックスを置くと、最近ようやく魔術回路が安定したのを良いことに一本の釣竿を投影した。
「な、なぁっ!? そ、そいつは!!」
「まさか……っ!」
「フッ……一本10万円する高級ロッド、ア○ンダーⅡ。私の愛用だ」
勿論、投影したパチモンだ。
「さて、ではショボイロッドしか用意出来ん哀れな者達は放って置いて始めるとしよう……ああ、アザゼル、木場祐斗」
「ぐぬぬ……なんだよ!」
「ああ、別に……この漁場の魚、釣り尽くしてしまっても構わんのだろう?」
「「っ!!!」」
二人が絶句する中、開始早々にアーチャーの竿に反応が来た。
「む? まさか入れ食いか、すまんな二人とも……一匹目フィーッシュ!!」
それからはアーチャーによる怒涛のフィッシュが始まった。
ほとんど入れ食いに近い状態で次々と魚をフィッシュするアーチャーのクーラーボックスは、既に一個だけでは足りなくなったのか、新たにもう一個投影して、そこに釣れた魚を入れては釣果ゼロのアザゼルと、最初の一匹以降一切ヒットしない祐斗に口元が笑った哀れみの視線を向ける。
当然だが、アザゼルと祐斗はイラァッ★としながらも沈黙を貫いて竿を握り、その向こうでは絶対に見てはいけないとばかりに一誠と匙が明後日の方を向き、ギャスパーは何処から取り出したのかダンボールにIN。
「フハハハハハハ!!! 二十匹目フィイイイイイッシュ!!!」
「……アーチャーさんって、あんな人だっけ?」
「アーシアには見せられないな……」
「ひぅ……アーチャーさん怖いですぅ」
結局、昼までの釣果はアーチャーが50匹、祐斗が10匹、一誠と匙がそれぞれ3匹でギャスパーが意外にも7匹、そしてアザゼルが0匹だった。
釣りを終えてビーチに来る頃には祐斗もようやく落ち着いてくれたのか、いつもの王子様スマイルに戻ってくれた。
水着に着替えた一行は早速一誠と匙のナンパに付き合う事になったのだが……。
「だぁ!! 何でお前は女物の水着着てるんだよ!?」
「えぅ、だってこっちの方が可愛いんだもん……」
「うわ、ホントに似合ってるからこえぇ……」
「あはは、僕も一瞬女の子に見えちゃったからね」
ギャスパーの水着はなんと女物のワンピースだった。股間はスカート状になっているので隠せているためか、肌のキメ細やかさや容姿など、一見すると本当に女の子に見えてしまう。
「はぁ……木場、悪いけどギャスパーの相手頼む、コイツ居たんじゃナンパできねぇわ」
「うん、任されるけど……大丈夫かい?」
「おう! 行くぜ匙!!」
「おっしゃあああ!!!」
「……結局匙君も行くんだね」
あれだけソーナ一筋だと言っていたのに、おそらくは一誠の口車に乗せられたのだろうが。
「ギャスパー君、どうしようか?」
「えっと……お水には入りたくないですぅ」
「そっか、それじゃあ海の家にでも行く?」
「はい!」
海の家で食事でもしながら一誠達のナンパを見学する事にした祐斗とギャスパーは早速席を確保して注文すると、運ばれてきたラーメンや焼きそばを食べながらナンパしては無視され、殴られている一誠達に苦笑した。
「イッセー君もよくやるよね」
「あの、祐斗先輩」
「何?」
「祐斗先輩は女性とお付き合いしたりしないんですか?」
「……ちょっと前までは特に興味も無かったかなぁ。僕の人生全てを部長に捧げるつもりだったし、それに同士達の事もあって、僕だけ幸せになることには抵抗があったからね」
「じゃあ、今は……」
「それは勿論、僕だって男だから女の子に興味はあるよ? ただ、積極的に付き合いたいって思う子が居ないのもあるし、イッセー君を見てるとね……」
祐斗が一誠に向ける視線に含まれているのは、一種の愛情と言えた。勿論、彼は同性愛者というわけではないが、愛に性別は関係無いという考えもある。ただ、言うなら一誠に向ける感情は親愛、というものなのだろう。
それに、祐斗本人が言うように、彼とて思春期の男子だ。当然だが女性や、女性の裸体にだって歳相応の興味はある。
だが、一誠のようにそこまで執着心が無いのも事実。
「もし今後、僕が女性とお付き合いするとしたら、それは僕が本当に心の底から守りたい、好きだって思った子だと思うよ。そう、僕が思える人が現れれば、お付き合いするかもね?」
「はぁ~……凄いですねぇ」
「そういうギャスパー君は?」
「ぼ、僕ですか!? 僕は……」
ギャスパーはそれ以上は何も言わず、ただ俯くだけだった。
ギャスパーの脳裏に浮かぶのは一人の少女の姿、感謝と、それと同じくらいの罪悪感を持っている大切な少女だ。
「あれ? ギャスパー君、あれは何だろう?」
「はい? ……え゛」
祐斗が何かを見つけたらしく、ギャスパーもそちらに目を向けると、沖の方で波に乗るサーファーが二人。
方や黒いビキニタイプの海パンを履いたアザゼルと、同じく赤い海パンを履いたアーチャーがサーフィン勝負をしていた。
「釣りじゃ負けたが、これなら負けねぇぞアーチャー!!」
「望むところだ、私の波乗りテクに、付いて来れるか?」
「ぬかせ! てめぇの方こそ付いて来やがれ!!」
ビーチの注目を集めながら、二人は波に乗って、ありえない速度で動いている。その様子を眺めていた祐斗とギャスパーは、どこか遠い目をしながら、呆然と呟く。
「ギャスパー君……」
「……はい」
「他人のフリしよっか」
「はい」
因みにこの日の夜、祐斗とギャスパーからの告げ口によりアーチャーがアーシアに怒られたのは、言うまでもない。
次回は序盤でアーシアが再び夢を。そして登場する天使勢力と堕天使勢力の特使、そして悪魔勢力の特使であるイリナのお引越しです。
魔王少女「私も出せー☆」
ちょ、うわ何をするやめr……。