ハイスクールD×D~堕ちた聖女の剣~   作:剣の舞姫

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ネタがね、浮かばんのですよ……、どうするよ。


第二話 「悪魔と家政婦」

ハイスクールD×D

~堕ちた聖女の剣~

 

第二話

「悪魔と家政婦」

 

 ソロモン72柱が一角、グレモリーの名を持つ悪魔、リアス・グレモリーの提案は正に悪魔の囁きだった。

 信心深いシスターであるアーシアをアーチャーの秘密を知る為に悪魔へと転生させようというのだから、その所業は正しく悪魔の傲慢さだ。

 

「悪魔に……ですか?」

「ええ、そうよ。悪魔になれば寿命は延びるし、貴女のお友達であるイッセーとも長く一緒に居られるわ」

「イッセーさんとも……」

 

 アーシアはイッセーの方を見て、少し考え込んだ後、今度はアーチャーの方を見上げてきた。その表情は何処か不安げで、どうすれば良いのか困っているようにも見える。

 

「アーチャーさんは、どう思いますか?」

「ふむ、私はマスターの意志を尊重するつもりだが……まぁ、オススメはしない。マスターはシスターだ、それはつまり悪魔になるという事はシスターとして今までの人生で行ってきた日常を捨てるという事に他ならない」

 

 当然だが、礼拝も典礼も聖書を読む事も十字架を身に着ける事も出来なくなる。主へ祈りを捧げる事や聖歌を歌うなど持っての外だ。

 

「あら、そんなもの悪魔になって寿命が延びる事に比べれば小さなデメリットだと思うけど?」

「ならば聞かせてもらおうか? アーシアが悪魔になるメリットは何だ? 勿論、君のメリットではなく、アーシアのメリットだ」

「寿命が延びるってだけでも凄いメリットだと思うんだけど、人間にとっては」

「ふん、なるほど、君はまだ人間以上の時間を生きた事が無いと見える……永遠に近い寿命を持つという事がどういうことなのか、知らない様だな」

 

 生前、アーチャーは様々な人外と出会ってきた。そしてその人外達の全てが人間を超越した時間を生きてきた存在ばかりであり、永い時間を生きるという事がどういうことなのかを、身を持って教えられた。

 黒のお姫様や王冠のクソガキ、自称芸術家のお姫様など、アーチャーから見れば暇を持て余して何度ちょっかい掛けられたか思い出したくも無い傍迷惑な存在だ。

 

「まだあるわ。アーシアさんが悪魔になれば私達の身内という事になる。この町は私の管理地なのだから、シスターが勝手に住み着くというのも困るのよ」

「ほう、この町が君の管理地か……なるほど、ならば始めからこの町の教会を潰しておくべきだったな。残しておくからアーシアのように配属されるシスターが現れるのだ」

 

 最も、騙された形で配属されたので、実際にはこの教会は廃教会だ。所属する神父もシスターも存在しない。

 

「それに、マスターが悪魔にならない事を選んだ場合、どうするつもりだ? 危害を加えるというのなら、相応の覚悟をしてもらうぞ」

「あら、魔王の妹である私に手を出すつもりかしら? そっちこそ相応の覚悟をしてもらうわよ」

「ふん、身内の威を借りるだけの小娘が、粋がるなよ」

 

 次の瞬間、リアスの手がアーチャーに向けられ、魔力が集められたのだが、直ぐに霧散してしまった。

 見ればアーチャーの手には一本の真紅の槍が握られており、その穂先がリアスの掌から数㎜手前で静止している。

 

「部長!」

「動くな……周囲を見たまえ小僧、小娘ども」

 

 既にアーシアとアーチャー以外の全ての者の周囲に大量の剣が切っ先を向けて静止している。一歩でも動けば、その瞬間に串刺しにするであろう刃の大群に、リアスたちは息を呑んだ。

 

魔剣創造(ソード・バース)!? いえ、これは魔剣じゃないわね……でも聖剣でもないから聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)でもない……」

「見ての通り、これらは全て唯の剣だ。ご所望とあらば魔剣でも聖剣でも用意して見せようか? それが突き刺さる覚悟があるのならば、の話だがね」

 

 実力の差、それを明確な形で示された。

 リアスには上級悪魔として、そして万物を滅ぼす滅びの魔力を持つが故に自分の実力にはある程度の自信があったし、眷族たちに関しても下級悪魔の中では上位に位置するであろう実力者ばかりだと確信していたのだが、アーチャーは格が違う。

 滅びの魔力をたった一本の槍で霧散させ、正体不明の神器(セイクリッド・ギア)らしき力で全員を無力化して見せた実力は、明らかに自分達よりも上だ。

 

「あの、アーチャーさん……もうその辺で」

「……まぁ、良かろう。それでマスター、君はどうするのかね? 悪魔になるのか、ならないのか」

「それは……あの、リアスさん」

「何かしら……?」

「折角のお誘いですけど、私……悪魔にはなれません」

 

 今までの生活を捨てるなど、アーシアには出来なかったという事だ。

 後の問題はアーシアのこれからの生活についてだが、それについてはアーチャーも考えがある。

 

「さて、リアス・グレモリー? 提案がある」

「言ってみなさい」

「アーシアがこの教会に住む事の許可が欲しい。代わりにこちらは君達への敵対行動をしない事を誓おう」

「此処にって……この廃教会に? 流石にこんな所に人が住めるとは思えないけど」

「そこは心配する必要は無い。まぁ、せめて電気、水道、ガスくらいは通るようにしておいて貰えると助かる。それさえしてもらえれば、後は私が何とかしよう」

「そう……本当に敵対行動はしないのね?」

「ああ、それとついでだ、ライフラインを通してくれるなら、一度だけ何か協力して欲しい事があれば協力しよう」

 

 結果として、アーシアが悪魔になる事は無くなり、アーチャーが取り付けた条件でこの町に住む事を許された。

 渋るイッセーを引きずりながらリアス達が帰った後、アーチャーは教会内の居住スペースにある寝室を手早く掃除して、一晩だけなら寝られる環境を作り、アーシアにはそこで寝てもらう事にした。

 

「アーチャーさんはどこで寝るんですか?」

「む? ああ、その辺はまだ話してなかったな。私達サーヴァントは基本が霊体だ、故に食事や睡眠を必要とはしていない。出来ない事は無いが、食事を抜くことで餓死するわけでも無いし、寝不足で疲労が貯まるという事も無いから意味が無いんだ」

「それじゃあ……」

「今夜は、一晩掛けて教会の修理をする。せめて人が住める環境にしないといけない上に、地下の死体を始末して掃除しなければならん」

 

 そう言ってアーチャーは部屋を出ると右手にトンカチ、左手に鋸を投影しながら教会外から全体を見渡す。

 

「ふむ、相当にボロボロだが……まぁ良い。私を満足させたくばこの3倍は持ってくるがいい!」

 

 駆け出す。目標は朝が来る前に教会を綺麗にする事。その為にアーチャーは己が家事スキルを現界して初めてフル活用する事になった。

 

 

 朝、アーシアが目を覚まして寝室を出たとき、まだ眠気眼だった目がボロボロだったはずの廊下の光景を見たことで大きく見開かれた。

 昨晩まではボロボロで、所彼処に穴やひび割れがあった大理石の床や壁、天井がまるで新品の如き輝きを放ち、穴もひび割れも見当たらない。

 聖堂の方に行ってみれば穴の開いた天井や欠けたマリア像、十字架、割れたステンドグラスも全てが完璧に修理されていたのだ。

 

「すごいです……」

「ふむ、マスターに賞賛を頂けたようで何よりだ」

「っ!? あ、アーチャーさん!?」

「おはようマスター、よく眠れたかね?」

 

 突然背後から声を掛けられて驚き、振り向いた先に居たのは、黒いライトアーマーの上に赤い外套を纏った褐色肌に白髪の……家政婦だった。

 何処から見つけたのか外套の上から更に白いエプロンを掛け、同じ白いバンダナを頭に巻き、左手にハタキ、右手に箒を持ったその男は、間違い無く昨晩アーシアのサーヴァントとなったアーチャーだ。

 

「あの、何でエプロンを……?」

「何、まだライフラインが通っていないが、通っていないなりに出来る事はあるのでね、朝食……コラツィオーネの支度をした後、掃除をしていた。マスター、食堂へ案内するから来たまえ」

 

 アーチャーに案内されて来た食堂もまた見事だった。

 広い食堂の中央に軽く10人以上は座れるであろう大きなテーブルと、並べられた椅子。その上の天井には見事なシャンデリアが飾られている。

 壁には絵画が幾つも並べられ、銀の燭台には新品のローソクがセットされている。その光景を見て、どうやって修理したのかが気になるアーシアだったが、何故か怖くて聞けなかった。

 

「あの……」

「適当に座っていてくれ、今持ってくる」

 

 そう言って恐らくキッチンに向かったアーチャーを見送り、アーシアは言われた通り適当な椅子に座ると、丁度アーチャーが銀のトレーに朝食を乗せて持ってきたところだった。

 

「イタリア人の君にはこれが丁度良いと思ったのでね、少し腕を奮わせてもらった」

 

 アーシアの前に差し出されたのは皿に乗せられたブリオシュとカフェラッテが淹れられたマグカップだった。

 

「わぁ……! 凄く美味しそうです!」

「ブリオシュは早朝に私が焼いた物だ。カフェラッテに関しては先ほど用意させてもらった」

「アーチャーさんが焼いたんですか!? お料理、お上手なんですねぇ」

 

 因みに、材料は何処から持ってきたのかという疑問がアーシアの脳裏を過ぎるが、これもどうやって修理したのかという疑問の時と同じく、怖かったので聞かないことにした。

 

「あの、アーチャーさんはやっぱり食べないんですか?」

「昨晩も言ったが、私に食事は必要無い。気にせず食べたまえ」

「あの、でも……」

 

 何処か寂しそうな目を向けられた。恐らくアーチャーと一緒に食べたいのだろうが、アーチャーとしてはまだ掃除をして無い所があるので、そちらに向かいたいところだった。

 しかし、マスターであるアーシアの希望を無碍にするのも気が引ける。

 

「……私の分を持ってくる。少しだけ待っていてくれるか?」

「はい!」

 

 渋々、アーチャーが自分の分の朝食を持ってきてアーシアの向かいの席に座ったところで、アーシアは食前の祈りを捧げ、漸くブリオシュに手を付け始めた。

 

「凄く美味しいです!」

「マスターの口に合ったようで何よりだ」

 

 アーシアが美味しそうに食べてくれるだけでアーチャーは満足だった。一つだけ用意したブリオシュを食べ終えた後、カフェラッテを静かに飲んでいたアーチャーはコロコロと表情を変えるアーシアを微笑ましげに眺めている。

 

「ああ、一つ言い忘れていた」

「? 何でしょうか?」

「地下に関してだが……無闇に入らないようにしてくれ」

「私が捕らえられていた所……ですよね?」

「ああ、あそこは私が工房として使う事にしたのでね……一応、マスターは入れるようにしてあるが、下手に触ると致死のトラップが発動するようにしておいた」

「と、トラップですか!?」

「一応な……まぁ、私自身も工房など使うような魔術師ではないが、色々と入用の時は使うだろう」

 

 因みに、工房とは言うが殆ど鍛冶場になってしまったのは御愛嬌だ。

 

「さて、今日は色々とやらねばならんな」

「色々ですか?」

「ああ、アーシアは今年で17だったな。ならば学校に通わねばならん……私が保護者として君の転入手続きをするが、戸籍がな」

 

 そう。アーチャーはサーヴァントなので当然だが戸籍が無い。なので後で偽造しに行かねばならないのだ。

 

「あの、偽造って思いっきり犯罪なのでは……」

「何、気にするな。マスターは年頃の少女らしい生活をしていたまえ」

 

 どうやって偽造するのか、という疑問もまた、怖くて聞けないアーシアであった。




この作品でリハビリしながら他の作品のネタを考える事にしました。

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