ハイスクールD×D
~堕ちた聖女の剣~
第五十話
「集うVIP達」
「若手悪魔の会合だと?」
「おう、その席でアーシアとお前には俺達VIPと同じ席に座って欲しいんだ」
グレモリー家滞在2日目、部屋でアーシアが朝食後のティータイムを楽しんでいた所にアザゼルが訪ねてきて、アーチャーに差し出された紅茶を飲みながら頼み事をしてきた。
それは、本日行われる事になるという若手悪魔の会合の席で、アーシアとアーチャーの二人に悪魔政府のお偉方や魔王達、ミカエル、ガブリエル、アザゼルと同じVIPの席に中立代表として座って欲しいというものだ。
「今日の若手悪魔の会合は三大勢力の和平が成立したって事で将来性のある若手悪魔達を早い内からVIPと顔合わせさせて、互いに競い合って貰うって目的がある」
「今はまだ
「そういうこった。三大勢力で若手が存在するのなんざ悪魔くらいだからな。ここらで戦力を少しでも上げて奴らに対抗したいのさ」
その為、若手悪魔同士でのレーティングゲームも計画しているらしい。
アザゼルから手渡された資料にアーシアと二人で目を通すと、そこに書かれている名前と家名は、大層有名所の次期当主ばかりだ。
「わぁ、部長さんのグレモリー家に会長さんのシトリー家があります!」
「それに大いなる王のバアル大王家、大公のアガレス公爵家、グラシャラボラス伯爵家、アスタロト公爵家……ソロモン72柱の有名所ばかりか」
更に付け加えるのなら、グレモリー、シトリー、アスタロト、グラシャラボラスの四家は現四大魔王を輩出した名門でもある。
それに、眷属達にも有名所がある。同じソロモン72柱のサブノック、ブネ、アンドレアルフス、バラム、クロセル、
本当に凄まじい面々が一同に会する事になるのが今回の若手悪魔会合ということだ。
「一先ず話は了承した。だが、私に席は必要無い」
「ってぇことは、お前はアーシアの後ろに控えるって事か?」
「当然だ。私とアーシアは対等な関係ではなく、マスターとサーヴァントだ。サーヴァントである私がマスターと席を並べるなどありえん」
和平会談の席でこそ同じ席に座ったが、今後はこういった公の場においてアーチャーはアーシアの後ろに控える事を徹底するつもりだ。
何故なら、アーシアが人間であるという事で、悪魔の大半から見下される可能性がある以上、霊格の低い守護者とはいえど、ある意味では人類の超越者とも言える英霊を、それもあのコカビエルに勝利した程の存在を従える者だという事をアピールして、少しでもアーシアの立場を確立する必要があるのだから。
「まぁ、確かにアーシアの立場を考えるんならその方が良いか……よし分かった。俺の方からサーゼクスには伝えておくから、お前らもそろそろ出掛ける準備しとけよ? 特に、アーシアはドレス着用で頼む」
「任せろ、マスターのドレスは既に人間界で見繕って用意してある」
「い、いつの間に用意したんですか?」
アーシアの疑問には答えず、アーチャーはアザゼルが部屋から出て行くのを確認すると、荷物の中から純白のパーティドレスを出してきてアーシアの前で広げて見せる。
肩を出すタイプのワンピースドレスで、胸元に金色の薔薇らしき花の装飾が施されている他、腕には肘部分まで覆う手袋が、スカート部分にはフリルが派手にならない程度にあしらわれ、ペチコートでフワッとした感じを出すタイプのドレスだ。
「それと、合わせるアクセサリーとして真珠のネックレスとイヤリング、金のバンクルだ」
早速アーチャーが部屋を出た所でアーシアはドレスに着替える。生地が良い物で出来ているのだろう、肌触りが気持ち良く、動きやすいのも魅力的だ。
何より、やはりと言うべきか魔術的加工も施されているようで、魔力の伝達力が良くなっている他、内側に仕込んだ魔法陣が外界からの干渉をある程度遮断する魔術礼装としての側面も持っている。
これに太股に仕込んでいる黒鍵や一緒に渡されたバッグの中に入れているマグダラの聖骸布と合わせれば即席の礼装装備が完成するのだ。
「マスター、準備は出来たか?」
「はい! アーチャーさんは……」
「む?」
アーチャーの姿を見たアーシアの表情が固まった。
いつの間にか着替えていたアーチャーの姿は、アーシアにも見覚えのあるものだったのだ。黒いスーツに黒いワイシャツと黒いネクタイ、そして黒のロングコート、それは彼の父が好んで着ていた服であり、アーシアが夢の中で一度だけ見た事がある彼と父の最初の出会いの時の服装だったのだから。
「アーチャーさん、その服……」
「何、生前もこの服装で仕事をしていた事もあるから外套姿以外では一番慣れている服装だ。これでも父と同じ魔術師殺しの忌み名で呼ばれた事もあるからな」
因みに公開授業の際のスーツは生前に一時期だけ潜入目的でホストの真似事をしていたことがあり、その時に着ていたスーツを模した物だったりする。
「さて、無駄話をしていても仕方あるまい。そろそろ出るとしようか」
「はい!」
アーチャーにエスコートされて部屋を出たアーシアは待っていたアザゼルと合流してグレモリー公爵邸を出ると、既に玄関前に並べていた馬車に乗り込んだ。
リアス達は後から来るという話で、VIPとして会合に参加する事になっている3人は先に会場へ向かう手筈になっている。
「あ~そういえば、向こうでアーシアが座る席なんだがな、俺とセラフォルーの間の席に座ってくれ」
馬車が出発して直ぐ、アザゼルは壇上に座るVIP達の席順が書かれた紙を見せてきた。
中央のマイクスタンドを挟んで反対側は悪魔政府の要人達、その反対側には四大魔王及びガブリエルとアザゼル、アーシアが座る事になっている。
その中で、アーシアは魔王達の次の席であり、アザゼルの隣の席に座ることになっているらしい。
「こいつは一応、俺がアーシアの教師っていう立場でもある事と、人間でありながら魔王とも対等の存在だと見せ付ける為の席順だ。魔王の隣に人間が座る……これは悪魔にとっちゃあ相当大きな意味を持っているからな」
堕天使総督や大天使ではなく、本来であれば悪魔側の認識では何の力も無い、ただ悪魔の生きる糧であり、悪魔の庇護が無ければ生きる事も出来ない脆弱な下等種族である人間が魔王の隣に座るというのは、それだけで一大事なのだ。
だが、それをあえて行う事で、人間は決して悪魔に何もかもが劣る下等種族ではなく、魔王とも対等になれる程の種族であるという証にするというのがサーゼクスやアザゼル達の狙いだった。
「だからお前がセラフォルーの隣に座る時に悪魔政府の馬鹿が何か文句言ってきても無視しろよ。胸張って、アーシア・アルジェントは魔王達と同等の立場として来ているという顔してろ……まぁ、張れる程の胸は無ぇみたいだけどな!」
「はぅっ!?」
「なっはっはっは! ……わ、悪かった」
首元に突き付けられた干将の刃に若干ビビりながら、アザゼルは両手を上げて降参の意を示した。
馬車が首都ルシファードにある会合場所となる会場に到着し、三人が馬車から降りて案内人にVIP用控え室に案内されると、早速だがアーシアとアーチャーの下に先に到着していたガブリエルが訪れた。
「一日ぶりですね。アーシアさん、アーチャーさん」
「はい、ガブリエル様も今回は参加されるとお聞きしましたけど……」
「ええ、私はミカエル様の代理として天界代表の席に」
ガブリエルも今回の席に相応しくミカエルが纏っていたのと同タイプの白いローブを着ている。
ただし、ガブリエルの物とは違い、肩の金具は金ではなく銀で、ローブの白さもガブリエルの物の方がより純白に近い。
「それでアーシアさん、今日の予定ですが……若手悪魔との会合が終わった後は四大魔王達とアザゼルを交えての今後の
「は、はい!」
「んな緊張するなアーシア、話し合いっつっても大袈裟なもんじゃなくて、対策とかその辺りを話すだけだ。お前はアーチャーと一緒にサーヴァント対策について説明してくれれば問題無いぜ」
「サーヴァント対策を、ですか」
「そうだ。恐らくサーゼクス達は向こうに付いた旧魔王家の事に触れるだろうし、俺は悪魔側と天界側で保有してる
「はい、ミカエル様とも協議してこちらから出す戦力について凡そですが纏まりました」
詳しい話は若手悪魔の会合の後に行われるという事なので、この場での話はこの辺りで切り上げる事にした。
案内人の悪魔が丁度良く時間を知らせに来たので、4人は直ぐに控え室を出て案内されるままに歩き出す。
「ああ、それとなアーチャー」
「む?」
「お前さんとアーシアには、ちょいと面倒な事を頼むんだが……かまわねぇか?」
「内容によるな」
「まぁ……それも後で話すぜ」
気にはなったが、アザゼルの表情がそこまで深刻なものではなく、寧ろ何かを楽しみにしているような、ウキウキしているとでも言えば良いのか、そんな顔をしていたので、アーチャーもそこまで深刻に受け取らなかった。
後に本当に面倒を引き受けてしまったと後悔する事になるのだが、それは近い未来の話として、いよいよ若手悪魔の会合が始まろうとしている。
会場に入ったアーシア、アーチャー、ガブリエル、アザゼルは既に着席している魔王達の席まで歩み、訝しげな眼差しでアーシアとアーチャーを見つめる若手悪魔達やその眷属達、それに冥界の重鎮達の視線を受けながらも用意された席に座るのだった。
「では、これより若手悪魔諸君の顔合わせも兼ねた会合を開催する」
サーゼクスの音頭と共に、ついに若手悪魔の会合がスタートした。
やっと次回からサイラオーグ出せますねぇ。