ハイスクールD×D
~堕ちた聖女の剣~
第五十四話
「新たなマスター」
人間界のアーシアとアーチャーの自宅、通称アルジェント邸(見た目、内装は衛宮邸)に着いたアーシアとアーチャーの弓兵ペアと、藍華とアサシンの暗殺者ペアはリビングで向かい合っていた。
戦闘をする訳ではないという事で、既にアーチャーは黒のジーンズと黒のシャツという私服姿となっており、アサシンも意外というか……紺のパンツと白のVネックセーターという洋服姿になっている。
「まず桐生さんにはサーヴァントさんの事についてと、それから魔術師……この世界における裏のお話をしなければいけません」
「サーヴァントってのは、つまりコイツや、その……藤村さん? それともアーチャーさんって呼べば良いのかな? 彼みたいな人の事よね?」
「はい。まずサーヴァントさんについてですが、彼らは純粋な人間ではなく、古の神話や伝説、伝承において語り継がれる英雄の魂が魔力で構成されたサーヴァントという器に収められた存在……所謂、英霊と呼ばれる存在です」
「えっと……それってつまり、この男は佐々木小次郎を名乗るレイヤーじゃなくて、本当に佐々木小次郎本人って事!? あの宮本武蔵と巌流島で戦ったっていう」
確かに、然程詳しく調べていなければ普通はそういう解釈になってしまうか。だが、解釈の仕方は間違っていないにしても、聊か間違いがある。
「マスターよ、それは若干違う。確かに認識としては間違っていないが、私は佐々木小次郎であって佐々木小次郎ではない」
「は? どういうこと?」
「ふむ、アサシンのマスターは歴史についてそれほど詳しい訳ではなさそうだな。五輪の書を知っているかね?」
「確か、宮本武蔵の著書よね?」
「そうだ。その五輪の書には宮本武蔵が佐々木小次郎なる剣客と戦ったという事実はおろか、佐々木小次郎という人物すら出てこない。佐々木小次郎という人物は言わば架空の存在だ」
そう、佐々木小次郎という人物は確かに伝承としても相当に有名だが、その存在の確固たる証明が現代においても成されていない。
確かに宮本武蔵が巌流島で岩流なる人物と決闘をしたという記録はあるが、その岩流なる人物と佐々木小次郎が同一人物であるかは今もって不明、故に佐々木小次郎という存在は架空の英霊なのだ。
「じゃ、じゃあアンタは何なの?」
「ふむ、そうさな……簡潔に言うなれば、佐々木小次郎という器に、伝承に共通する亡霊の魂を押し込めた存在、佐々木小次郎という名を無名の亡霊に与えただけの存在よ」
確かに、佐々木小次郎という名前の男は存在したのかもしれない。五尺余りの物干し竿と呼ばれる刀を扱った剣客が居たのかもしれない、燕返しと呼ばれる技を使用した剣士が居たかもしれない。
そういった佐々木小次郎の伝承と共通する何かを持つ者の中で、この男が最も佐々木小次郎の伝承に近しい存在だったが故に、アサシン・佐々木小次郎というサーヴァントの器に、亡霊だった彼の魂が収められたのだ。
「へぇ……でもコイツはともかく、アーチャーさん? は、本当に英霊なのよね?」
「まぁ、確かに私は分類としては英霊で間違いはない……まぁ、反英雄にカテゴリされるが」
「反英雄?」
「えっとですね、正規の英霊というのは簡単に言えば正義の存在、善を持って人々を救った英雄と言えば分かりやすいですか?」
「うん」
「逆に反英雄というのは、悪を成して人々から呪われる存在ながら、その行いが結果として大勢の人を救った存在を言います」
大勢を救う為に、多くの人を殺戮したアーチャーは、確かに反英雄と呼ばれる存在だ。最も、今の話において反英雄についてはさして注視すべき点ではない。
「話を戻しますが、そんなサーヴァントを従える私や桐生さんをマスターと呼びます」
「マスター、ねぇ」
「本来、魔術師がマスターとして選ばれるのですが、私の時と同じで桐生さんは魔術回路を持っていたが故に、偶然にもアサシンさんを召喚出来たのだと思います」
「魔術師っていうと、ゲームとかで言うメイジ……魔法使いのことよね?」
「えっと、ちょっと違うのですけど……」
そこから説明しなければならないのかと、アーシアは思わず魔術の師であるアーチャーを見上げるも、当のアーチャーはこれも魔術の知識のおさらいになるだろうとアーシアが説明するよう促していた。
「はぁ……えっとですね、魔術師と魔法使いは全くの別物なんです」
「どう違うの? 魔術師も魔法使いも呼び方が違うだけにしか思えないんだけど」
「魔術師というのは、そうですねぇ……時間とお金を掛ければ現代技術で再現可能な事象を魔力と呼ばれる神秘を用いて行う術(すべ)の事を言いまして、魔法というのはいくら時間やお金を注ぎ込もうと現代技術では再現不可能な事象を同じく神秘を用いて行使する術(すべ)の事を言います」
「う~ん……?」
「えっと、例えば火を灯す事は魔術で行わなくてもライターで出来ますよね? そういった魔力を用いなくても結果が出せる事象を魔力で行う事を魔術と言って、死者蘇生や時間を巻き戻すといった科学技術等の魔力以外の技術では結果が出せない事象を魔力で行う事を魔法と言うんです」
「あ~! なるほどね」
やっと理解が及んだらしい。確かに一般人には口で説明すると理解するのに中々手間取ってしまうものだが、アーシアは上手く説明出来ていたと思う。
「つまり、アーシアは魔術師って奴なんでしょ? そして、あたしもその魔術師になれるって訳ね」
「そうなります。魔術を使うには魔術回路と呼ばれるものが必要不可欠なのですが、桐生さんはその回路を持っているみたいですから」
「その回路ってのは?」
「魔術師が体内に持つ霊的器官、魔術を行使する上で必要不可欠の擬似神経と言いましょうか。この魔術回路の有無で魔術の素養の有無を判別するんです。そして、基本的に回路は代を重ねるごとに本数が増えていきますが、個人の持つ回路の本数は先天的に決まりますので、初代である私と桐生さんは本数が相当に少ないですね」
とは言うが、アーシアの魔術回路の本数は初代であるのにも関わらず、初代の魔術師の平均より多い。流石にアーチャーのように初代でありながら破格の本数という程ではないが、16本というアーシアの回路の本数は中々のものだ。
「それから、次にこの世界の裏についてですが……魔術師の存在、英霊の存在まで目にしてますから、これも信じて頂けると思いますが、この世界には悪魔さんや天使様、堕天使様が存在しています」
「……マジ?」
「はい、駒王学園生徒会長のソーナ先輩やオカルト研究部のリアス部長などがその悪魔です」
それから、オカルト研究部員、生徒会役員は全員悪魔であり、オカルト研究部顧問のアザゼルは堕天使だという事も説明した。
「ちょ、ちょっと待って、それってゼノっちやイリナ、それから兵藤も悪魔って事?」
「はい、リアス部長やソーナ会長は生粋の悪魔さんですけど、他の皆さんは眷属という形で悪魔に転生した転生悪魔さんです」
「転生……人間から悪魔に転生したって事よね?」
「はい、私も実は一度悪魔に転生しないかって誘われましたけど、断りました」
故に、アーシアはオカルト研究部唯一の人間なのだ。
「それから、もう一つありまして、この世界には人間……もしくは人間と他種族のハーフの一部の方が持つ力があります」
「力?」
「はい。聖書の神……私が主と仰ぐ神様が作り出した奇跡、
そう言って、アーシアは
「この指輪とイヤリングはそれぞれ怪我を癒す
「へぇ~、アクセサリだったり防具? だったり、色々あるのね」
「他にも魔剣や聖剣を創造する
今アーシアが例に出したのは一部違う物も混じっているがグレモリー眷属の持つ
その他にもシトリー眷属が持つ物で
「ちょっと待って、つまりあたしって……コイツを召喚した事で」
「巻き込まれますね、確実に」
「冥界も天界もサーヴァントとそのマスターの探索を行う方針で決定している。今ここで隠したところで遠からず判明してしまうだろうな」
藍華の顔色が一気に真っ青になった。そんなファンタジーも真っ青な危険極まりない世界に自分はいつの間にか巻き込まれてしまう事が決定してしまっていたなど、一般人の……それもまだ高校生の少女には悪夢としか言い様がない。
「ふむ……して、その悪魔や天使というのは剣で斬れる者なのか?」
「当然だ。少なくともエーテル体ではなく生身の肉体を持っている時点で剣で斬れぬ相手ではない」
「ほう、果てさて生前は終ぞ武勇に恵まれぬ身であったというのに、まさか死して亡霊となってから、斯様な異形と合間見える機会に恵まれるとは、マスターにとっては不幸やもしれぬが、私にとっては行幸よ」
「あ、あんたは良いかもしれないけど、あたしは無理だからね!? 戦うなんてそんな……」
確かに魔術の素養はあれど今まで魔術のまの字も知らなかった藍華に、戦場に立てなどというのは酷というものだ。
ましてや、サーヴァントを従えるマスターという事は冥界や天界から身柄を拘束される可能性もある上、下手すれば
「桐生さん、アサシンさん、よろしければコレを受け取ってください」
藍華とアサシンに差し出したアーシアの右手の掌の上には、歩兵の駒が二つ。それは冥界で受け取ったばかりの
「これを持つ限り、お二人は私が代表を務める中立勢力に所属しているという扱いになります。つまり、アサシンさんには必要無いかもしれませんが、桐生さんを私の名前の下に保護する事が出来ます」
「ほう、つまりそなたの軍門に下るという事か?」
「えっと、扱いとしてはそうですけど、これは戦う力の無い桐生さんを守る為の措置でもあるんです。敵はサーヴァントさんだけではありませんから」
「ふむ……マスター、どうする? 私はマスターの決定に従おう」
「その、戦うとか、そういう事は無いの?」
「正直、約束は出来ません。ですが、桐生さんが戦わなくて済むようには出来ます」
「そ、それなら……」
藍華がアーシアの掌から歩兵の駒を一つ取ったのを見て、アサシンも同じく残された駒を摘み繁々と天井に翳して眺める。
「駒はなるべく無くさないよう肌身離さず持ち歩いてください」
「あい分かった。では私が剣を捧げるのはマスターだが、そのマスターの身の安全を保障するというのであればそなたの軍門に下ろう。斯様に麗しき異国の花を近くで眺めるのもまた、雅があって良い」
「よろしくね、アーシア」
こうして、後の世にアーシア率いる聖女チームとして語られるメンバーに、桐生藍華とアサシンが加わった。
マスター二人とサーヴァント二騎、今はまだ戦力としては最強を語る事の出来ないメンバーに見えるが、その面子の単体戦力は……正に異常と言えよう。
一人は何の力も持たない一般人の藍華だが、代表は圧倒的なまでの癒しの力を持つ武装聖女、使い魔に幼龍を従える要塞とも言うべきアーシアが居る。
サーヴァントには無限の剣を持つ剣製の弓兵、これまでも堕天使コカビエルを倒し、バーサーカーとも戦って生き残った実績を持つアーチャー。剣技だけで言えば最優のサーヴァントとして名高いセイバークラスでも最強であろうアーサー王をも圧倒する実力を有し、一切の神秘を用いず第2魔法の領域へ到達したアサシン。
既にこれだけでレーティングゲームに参加しても申し分無い戦力が完成してしまっていた。
次回は冥界に戻ります。一応、藍華も連れて行かなければならないのですが、問題は彼女が神器を持っていないから冥界の空気が毒となってしまう事ですか。
まぁ、魔術回路開いてれば大丈夫という事にしましょうw