ハイスクールD×D
~堕ちた聖女の剣~
第五十五話
「騎乗兵、現る」
アーシアの陣営にアサシンと桐生藍華が加わり、報告の為に一度二人を連れて冥界に戻る事となった。
アザゼルには一応、アーシアから電話で簡単に報告をしているので、二人の冥界入りは問題なく出来るという事だが、
「という訳で、ここが冥界です」
「へぇ、紫の空とか如何にもって感じね」
既に四人は冥界に入っており、アザゼルと合流して藍華は人工神器を受け取っていた。
「ったく、次から次へと問題が発生するな、おい」
「苦労を掛けるなアザゼル」
「アーチャー、テメェ……人事だと思うなよ? まぁ、まさかアサシンが佐々木小次郎とは、本人ではないにしろ、佐々木小次郎に最も近い存在なら、もうそいつぁ佐々木小次郎本人って言って良い存在だな」
「ほう、そう言ってくれるか堕ちた天の使い」
「アザゼルって呼んでくれ。実は俺、佐々木小次郎のファンなんだぜ? おめぇさんに会えてこれでも内心興奮してんだ」
大人は大人で随分と会話が盛り上がっているようで、アーシアと藍華も安心して
四人は堕天使ルートから冥界に入ったので、当然だが
「お、そういえばアーシア」
「はい?」
「実はな、シェムハザがお前に会いたがってるんだよ」
「シェムハザ様がですか?」
「ああ、確かあいつ、少しの間だけお前の生活支援をしていたことがあったんだよな?」
「はい、直接お会いして、その……しばらく金銭面等で色々と助けて頂きました」
まだ教会を追放されて間もない頃の話だ。何故、当時はまだレイナーレに拾われる前のアーシアを、
一先ず、その疑問はシェムハザ当人に聞けば良いだろうという事で、早速だがシェムハザのいる執務室に行こうという事になったのだが、突如
「な、何だ!?」
「総督!」
「何があった!」
「て、敵襲です!!」
下級堕天使の青年が血相変えて敵襲の知らせをした。即座にアーチャーとアサシンは今までの私服から戦闘服に変わり、干将・莫耶と備中青江を手に握る。
アーシアも鞄の中から
「お、おいアーチャー、アーシアが右手に持ってるあれ……ありゃあ何だ? 何で俺らと同じ気配がする!?」
アーシアが刀ケースから取り出した布に包まれている棒状の物体、それを見たアザゼルがアーチャーを睨み付けながら、その正体を尋ねてきた。
問われたアーチャーはアザゼルの問いに答えることなく、アーシアに視線で布を外すよう伝えると、アーシアも頷いて布を取り払う。
「っ!? ……おい、マジでお前、何てモン作りやがった?」
ますますアザゼルの視線に険しさが増した。
アーシアが右手に握るのは一振りの剣だ。それもアーシアの細腕でも持てる細剣というカテゴリに属する剣で、その刀身はまるで烏の濡れ羽の如き漆黒なのだが、光の加減で時折鮮血の如き深紅に見える事があり、布を取り払って以降は剣全体を堕天使の光が包み込んでいる。
「あの剣はアーシアの魔術礼装として作った剣だ。材料は鋼を使っているが、その他にアーシアの魔力伝達率を上げる為にアーシアの髪の毛と血液、それから以前殺した堕天使レイナーレの血液と粉末状に砕いた骨の一部を練り込んだ」
「テメェ! ……いや、まぁレイナーレの事についてはとやかく言うつもりは今更無ぇけどよ。でもよ……死者の亡骸を材料にするなんざ、いくら何でもやり過ぎだろ!」
「覚えておけアザゼル、魔術師というのは、そういうモノだ。君達が外道と呼ぶ方法を平然と使うのが魔術師という人種……マスターは外道にこそ落ちていないが、私はそういった外道を使う事も厭わん」
もっとも、アーシアもアーチャーの生前を夢に見るようになってから随分と精神が歪み始めているらしく、最初こそ剣の正体を聞いた時は嫌悪感を示していたが、この先アーシアに必要な物だと言われてからは、黙って剣を受け取っていた。
「アザゼル殿、アーチャー、談話も構わんが警戒した方が良いぞ? 流石にアーチャーは気づいているであろうが……」
「ああ、来ているな……サーヴァントの気配だ」
「何……っ!?」
先ほどから施設の一部から大きな爆発音が聞こえ、衝撃で揺れている。同時に、感じられるサーヴァントの気配が近づいてきているではないか。
「この音は……車輪と、馬の蹄の音よな」
「ああ、という事は
車輪の回転音が段々と近づいてきた。アーチャーとアサシンがそれぞれ剣を構え、アザゼルがアーシアの前で翼を広げて光の槍を構えたところで再度爆発と共に煙が全員を覆う。
同時に、車輪の音が直ぐ近くで止まった事に気づいてアザゼルが大きく翼を羽ばたかせる事で煙を払った。
「ほう? アーチャーとセイバー……いや、この気配はアサシンか? まさか二騎のサーヴァントが手を組んでるとはな」
アーチャーとアサシンと対峙するように現れたのは、三頭の馬に繋がれた
若干緑掛かった黄色の髪をツンツンと立たせたその美丈夫は鎧同様に簡素な槍で肩を叩きながらアーチャーとアサシンを見下ろしている。
「何、こちらの都合で組んでいるに過ぎんよ。それで、君は見たところライダーで間違い無いようだな?」
「ああそうだ。それで? 俺一人相手にお前らは二人で相手するってか? まぁ、俺は構わねぇけどな」
「ふむ、二対一であるというのに、随分な余裕を見せる。しかし我らは乗り物に乗った所で余裕を見せて良い相手ではないぞ? そなたの槍、我らに届くと思わぬ事だ」
「はっ! 面白ぇ!! なら、やってみるか弓兵! 暗殺者!!」
同時に飛び出したアーチャーとアサシンに対して、ライダーは口元を狂喜の笑みで歪めながらその手の槍を回転させ、アサシンの刀による一閃を弾き、アーチャーの双剣を受け流す。
そして、逆にライダーによる槍を横薙ぎに払った一閃がアサシンを襲うが、アサシンはまるで風に揺れる柳の如く華麗に回避し、アーチャーに襲い掛かった神速の突刺はアーチャーがバク転しながら槍を蹴り上げる事で回避、突刺の軌道を大きく反らした。
「へぇ、この一合でテメェらの実力を測らせて貰ったが、中々やるじゃねぇか……アサシンは天賦の才に恵まれた天才の剣、アーチャーは一切の才能に恵まれなかった凡才の剣、どっちも極限まで磨き抜かれた見事な剣だぜ」
「そういう君の槍は反則クラスの速度だな。ライダーでありながらランサーのクラス並みか、それを凌駕するとは」
「ハッ! それを受け流しておいてよく言うぜ! だが、面白くなってきたな……こんな狭い所で
そう言ってライダーは
「ふん、瓦礫が障害物になってるか……まぁ、だが俺に障害物は意味を成さねぇってことを教えてやるぜ!!」
「「っ!?」」
あっという間の出来事だった。ライダーが一呼吸したのと同時にアーチャーとアサシンとの間に開いていた間合いを一気に詰めてその槍の穂先がアサシンの心臓を穿とうと放たれたのだ。
「ぬぅっ!」
しかし、アサシンも速度では並の英霊を超えるサーヴァント、ライダーの速度にギリギリ反応して回避したのだが、左肩を掠って血を流してしまう。
だが、アサシンとてタダでやられるような剣士ではない。斬られるのと同時に右手に握った物干し竿の刀身を翻し、振り上げる事で刃をライダーの身体に走らせた。
「ぬ?」
だが、アサシンが感じたのは肉を斬り骨を絶つ感触ではない。そもそも斬ったという手応えを感じなかった。
いや、確かに物干し竿の刃はライダーの肉体を直撃していたのは間違いない。サーヴァントであってもアサシンの刀で斬る事は可能な筈なのだが、ライダーの肉体には傷一つ無い。
「なんと、面妖な肉体であること、よもや我が剣にて斬っても斬れぬ者が存在していたとは驚嘆だ」
「ナマクラじゃねぇのは理解出来るがよ。残念だがテメェの剣じゃあ俺を傷つけるなんて出来ねぇぜアサシン!」
「ならば、私の剣ならどうかな?」
今度はライダーの背後からアーチャーが干将・莫耶の刃を振り下ろしたのだが、やはりその肉体には傷一つ付かなかった。
「チッ」
アサシンと同時にアーチャーもライダーが槍を横薙ぎに一閃したのを飛び退くことで回避し、距離を取る。
「さぁ、どこからでも掛かって来いよ……俺の身体に傷を付けられるならなぁ!!」
唐突に始まったライダーとの戦い。数の上ではアーチャーとアサシンの方が有利ではあるが、状況は確実にライダーが優勢であるのは、火を見るより明らかだった。
シェムハザの謎はまだ先になりそうですわ。
さて、ライダーの正体わかった人はいるかなぁ?