ハイスクールD×D~堕ちた聖女の剣~   作:剣の舞姫

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何か、リハビリ作だってのに反応が凄く良い……なぜ?


第三話 「聖女の家族」

ハイスクールD×D

~堕ちた聖女の剣~

 

第三話

「聖女の家族」

 

「アーシア、今帰った」

「おかえりなさい、アーチャーさん」

 

 戸籍の偽造やアーシアの転入手続きなど、諸々の手続きを終えたアーチャーは夕方には教会に帰って来た。

 出迎えてくれたアーシアと共に食堂に移動すると、早速だが手提げ袋の中に入れていた物を取り出し、アーシアに差し出す。

 取り出したのは昨晩、リアス・グレモリーや塔城小猫が着ていた制服と同じものだ。

 

「明日から駒王学園という学校に通えるようになった。これは学園の制服だ」

「わぁ! 可愛い制服ですねぇ」

「それと、リアス・グレモリーが使い魔を使って連絡してきた。既にこの教会にライフラインを通したとの事だから、日常生活に支障が出る事は無い」

 

 実際、キッチンに行って水道の蛇口を捻ると水が出て、ガス台にも火が点いた。電気を付けてみればシャンデリアが見事に光を放ち、薄暗くなってきた食堂を明るく照らしている。

 

「ああ、それから明日からマスターは学校に通う事になる訳だが、私も君に付いて行く事になる」

「え? アーチャーさんがですか?」

「……そうか、説明していなかったか」

 

 見ていろ、と言ってアーチャーはアーシアの目の前で霊体化して見せ、その後すぐに実体化する。

 

「私達サーヴァントは基本霊体であるというのは昨日説明したな? 元々は実体無き身である故、今はマスターからの魔力供給で実体を得ているに過ぎない。マスターからの魔力供給を遮れば見ての通り、元の霊体になる事が出来るのだ」

「幽霊さんみたいなものですか?」

「霊体という点では確かにそうだが……流石に英霊と幽霊を同一視しないでくれ、英霊にもプライドというものがある。まぁ、兎に角だ。明日からは基本的に外では霊体化して君の傍に居るので、身の安全は保障しよう」

 

 駒王学園にはリアス・グレモリーとその眷属も通っているので、アーチャーがアーシアの傍に居なければ何をしてくるか分からない。

 アーチャー自身、まだ彼女達を信用した訳ではないのだ。

 

「あの、アーチャーさん」

「何かね?」

「教会では基本的に実体化していてくださるんですよね?」

「そのつもりだが……、何か不都合でもあるか?」

「い、いえ! そうではなくて……その」

 

 少し言い難そうにモジモジしながらアーシアはアーチャーをチラチラと見つめてきた。その頬は若干だが高揚している。

 

「わ、私の家族になってください!」

「……家族?」

「その、私って孤児だったから……家族っていうのに憧れていたんです。それで、アーチャーさんとお話していたら、何だかお兄さんかお父さんが居たらこんな感じなのかなって」

「……そうか」

 

 サーヴァントを家族として扱いたいなど、まるで昔の自分の様だ。磨耗して殆ど覚えていないが、嘗ての自分もまた、あの気高き剣のサーヴァントと家族の様に接していた気がする。

 

「構わんよ。ただ、せめてお兄さんにしてくれ。これでも享年は20代だ」

 

 流石にアーシアほどの年齢の娘を持つほど、生前は長く生きていない。

 

 

 夜、夕飯を済ませて入浴を終えたアーシアは自室として用意された部屋の無駄な豪勢さに驚きつつ、本当に何処から用意してきたのかと問いたくなる天蓋付きベッドに腰掛けながら聖書を読んでいた。

 

「アーチャーさん……私の、初めての家族」

 

 まだ出会って、というか召喚して2日目なのだが、アーチャーはアーシアに家族に似た温かさを与えてくれた。

 朝食と、用意してくれていた昼食、そして夕食の温かさ。一緒に楽しくお喋りしながら食事というのは行儀が悪い気もしたが、それでも本当に心が温かくなったのを覚えている。

 

「アーチャーさんは、主が私に与えてくれたご褒美、なのでしょうか?」

 

 死を目前にして突如現れ、救い出してくれた騎士。まるで自分がどこぞのお姫様にでもなったかの様で、少し恥ずかしくなる。

 聖書で赤くなった頬を隠しながらベッドの上でゴロゴロ転がっていたアーシアだったが、扉をノックする音に気付いた。

 この教会に住んでいるのは自分とアーチャーだけなのだから、ノックの主が誰なのかなど問うまでも無い。

 

「どうぞ」

「失礼する……む? 髪が乱れているな、何かあったのか?」

「いえ! それより、何かありましたか?」

「む、ああ……もう一つ、説明するのを忘れていた事があったのでね。こんな時間に失礼だとは思ったが、大事な事だ」

 

 何処から出したのかブラシを片手に、アーシアの後ろに回りこんだアーチャーは乱れたアーシアの髪を梳きながら、彼女の左手首にある小さな紋様に目を向ける。

 釣られてアーシアも自分の左手首に目を向けた。中央に十字架が描かれ、その左右に一対二枚になった天使の翼が添えられている文様は今も赤い光を小さく放っていた。

 

「その紋様は令呪と言ってな、私達サーヴァントを律する物だ」

「律する……ですか?」

「そうだ。サーヴァントは皆が皆、マスターに従順な存在ではない。中には召喚早々マスターを殺す様な輩も存在する。そんなサーヴァントからマスターが身を守る術でもある」

「でも、アーチャーさんはそんな事する人じゃありません!」

「……話を戻すぞ。その令呪は、マスターがサーヴァントに行える3回限りの絶対命令権だ。その令呪を使って行われた命令には基本的に逆らえない。抽象的な命令だと効果は無いに等しいが、例えば死ぬまで戦えと命じればその通り死ぬまで戦うし、離れた所に居るサーヴァントに目の前に直ぐ来いと命令すれば空間転移をしてでも現れることが出来る」

 

 他にも自害を命じればその通りサーヴァントを自殺させる事も出来るのだが、この話は心優しいアーシアに教えるのは酷だろうと思い、伝えなかった。

 

「後は、令呪でサーヴァントを強化する事も出来るのでね。言わばサーヴァントから身を守る術であり、サーヴァントを強化するドーピングみたいなものだ」

「な、なるほど……」

「先にも言ったが、3回限りだ。それ以降は使用出来ないから、使用する時はよく考えてから使いたまえ。無闇矢鱈と、無駄な命令に使う事など無いように」

 

 どこぞの赤い悪魔(うっかり)はマスターの命令に絶対服従などという無駄な使用をしていたが、アーシアならそんなお馬鹿な真似はしないだろう。

 

「よし、完了だ」

「あ、ありがとうございます」

 

 アーシアの髪を梳き終えたアーチャーは投影品だったらしいブラシを消して部屋を出るために扉へと向かう。

 

「それでは、おやすみアーシア。良き夢を」

「おやすみなさい、アーチャーさん」

 

 扉を閉めた後、アーチャーは教会の外に出て四方に1本ずつ剣を投影し、地面に刺していく。

 この剣はアーチャーが生前打った剣で、結界を張る術式が刀身に刻まれた物。通常の魔術では二流にもなれないアーチャーだが、剣に関する魔術であれば一流だと自負しているので、いっそ魔術を発動する剣を創れば良いのではないか、と思い至った結果がこれだ。

 教会の四方に刺さった剣に魔力を通し、術を発動させると、不可視の結界が教会を包み込む。侵入者を感知する結界と、簡単な認識阻害結界を複合させたものだ。

 

「これで良い。後は……」

 

 適当な鉄片を変化の魔術で鳥の形にすると、その鉄の鳥が命を持って羽ばたき空へと飛んで行く。

 これもまたアーチャーが生前に開発した使い魔の作成方法で、鉄を変化の魔術で動物の形にする事で使い魔にするというものだ。

 嘗ての戦友が宝石を鳥の形にして使い魔にしていたのをヒントに全身を刃にした鋼の鳥なら剣のカテゴリーに入るのではと思い作成した結果、上手くいったため、戦場でも重宝していた。

 

「これで良し。マスターにはあまり汚いところを見せられんからな、汚れ仕事はこんな夜中でなければ出来んか」

 

 自分が汚れるのは別に構わない。だが、アーシアに汚い世界を見せるのはあまり気が乗らないのだ。

 あの、穢れを知らない純朴の主を、アーチャーは召喚されてから2日ではあるものの、随分と気に入っているらしい。

 

「眩しくなる事も、あるのだがな……全く、オレの様な血に汚れた存在が、あんな真っ白なマスターに召喚されるなんて、どんな皮肉なのか」

 

 精々、彼女に余計な穢れが付かないよう、守る以外に無い。守る為に汚れるなど、今更慣れたものだ。生前も、守護者となった後も。

 

「……あ、アーシアにマスターは時々サーヴァントの過去を夢で見る事があるのを伝え忘れたな……まったく、遠坂のうっかりが移ったか?」

 

 満点の星空の下、アーチャーは嘗ての戦友を思い出し、教会の屋根の上へと飛び移った。

 

「悪魔に堕天使、恐らくは天使も存在するのだろうが……面白い世界に召喚されたものだ」

 

 街並みを見つめながら、皮肉気に口元を歪めたアーチャーは、夜が明けるまで教会の屋根の上で飽きる事無く街を眺めているのだった。




次回はアーシアが主役。
駒王学園に転入してイッセーたちと再会です。

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