ハイスクールD×D~堕ちた聖女の剣~   作:剣の舞姫

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耳朶を虫に刺された……痒い!!


第五十六話 「神の子」

ハイスクールD×D

~堕ちた聖女の剣~

 

第五十六話

「神の子」

 

 アーチャーとアサシンはライダーを相手に劣勢を強いられていた。

 幾度も剣や刀がライダーの槍と交わって火花を散らし、その神速の突刺を時に掠りつつも回避し、逆に刃をライダーの肉体に届かせたというのに、一切の傷が付けられない。

 アーチャーは先ほどから何度か使用する剣を変えて攻撃しているが、それでもライダーの肉体を傷つける事が出来ずにいる。

 

「二人とも良い戦士だ。だが残念ながら俺の肉体を傷つけられる相手ではなかったようだな」

 

 無傷のライダーに対して、アサシンもアーチャーも、身体の所々に槍を掠って出来た傷があり、血を流している。

 数の上では有利で、それぞれの技量だって総合すればライダーに劣らないというのに、それでも圧倒的に劣勢だった。

 

「アーチャーよ、このままでは埒が明かん。貴殿の持つ剣で彼奴に傷を負わせられる物の見当は如何に?」

「さて、ある程度の予測は出来ているが、外れていれば最悪だな……時間稼ぎ、任せた」

「承知!」

 

 アーチャーが後方に下がり、アサシンが単身飛び出した。

 物干し竿という長大な刀から繰り出される閃光の如き斬撃は相変わらずライダーに傷を負わせる事が出来ないが、それでもライダーの攻撃を捌いて時間稼ぎに徹する事は出来る。

 その間に、アーチャーは己の剣の丘からライダーの身体に傷を付けられるであろうと予測した武具の候補を選定し、候補として選び抜いた一本の剣を投影した。

 

「アサシン!」

「ぬ?」

 

 アーチャーの声に反応して槍を弾いたアサシンがその場から飛び退く。

 怪訝そうにアサシンを目で追っていたライダーだが、ふと視界に映ったアーチャーと、その手に握られた鎌のような剣を見て面白そうな笑みを浮かべた。

 

「また新しい剣か? お前さんは随分と武器に事欠かないみたいだが、本当に何処の英霊なんだろうなぁ!」

「さてな、だが今度の剣は……油断すればその身に届くやもしれんぞ?」

 

 一気に懐へ潜り込んで来たアーチャーに槍を振り下ろすライダーだが、その槍を回避しながらライダーの横を通り抜けたアーチャーは反転してその背後から鎌状の剣……ハルペーの真名を開放しながら振り下ろした。

 

不死身殺しの鎌(ハルペー)!!」

 

 ハルペー、それはギリシャ神話において勇者ペルセウスが担いし剣の名だ。

 かの有名な元女神にして怪物、メドゥーサの首を斬り落としたという逸話を持つ不死殺しの特性と、炎と鍛冶の神ヘーパイストスが鍛造し、豊穣の神クロノスが所持していたという逸話から神性属性を持つ不死殺しの神剣、それがこのハルペーだった。

 そして、ハルペーによる一撃は、今まで傷一つ付けられなかったライダーの肉体に確かに届き、その背中に一筋の切り傷を付けて血を噴出させる。

 

「ぐ、おぉおお!? チィッ!!」

「グッ!?」

 

 咄嗟の一撃だったのだろう。振り向き様に槍を横一閃に払ったライダーの攻撃を何とかハルペーを盾にする事で受け止めたアーチャーだったが、その筋力を受け止めきれずに大きく弾き飛ばされてしまった。

 

「チッ、痛ぇ……痛ぇな。久しく忘れてたぜ、こんな痛み! まさか、俺に傷を負わせる事が出来る奴が、こんな所に居たとはな!! アーチャー!! 決めたぜ、お前は必ず俺が殺す!!!」

 

 もはや己に傷つけられないアサシンに興味を失ったのか、それとも己を傷つけたアーチャーを標的と定めたのか、或いはその両方か、ライダーはまるで空間転移したのではないかという速度でアーチャーとの距離を詰めて突刺を放った。

 

「グゥッ!」

「ラァッ!!」

 

 槍の穂先をハルペーで逸らしながらタックルを決めようとしたアーチャーだが、逸らした瞬間にライダーは槍の軌道を突刺から薙ぎ払いへと強引に切り替えてハルペーごとアーチャーを壁に叩き付けた。

 アーチャーを中心に壁には放射状の罅割れが奔り、その威力を物語っている。当然、それほどの威力で壁に叩き付けられたアーチャーは血を吐き散らす。

 

「ぬん!」

「っ!? ハァッ!!」

 

 背後からアサシンが斬り掛かって来たが、ライダーは自身にダメージを与えられないアサシンには既に興味が無い。故に邪魔だとばかりに槍を払うが、アサシンはそれを回避してライダーの懐に蹴りを入れると、その巨体を大きく蹴り飛ばす。

 その隙にアーチャーは更に距離を取って弓と、それから一本の槍を投影して番えライダーに照準を合わせた。

 

神殺しの聖なる槍(ロンギヌス)!!」

 

 以前、アーシアに召喚されたばかりの頃に堕天使レイナーレを殺した槍、神殺しの聖なる槍(ロンギヌス)はイエス・キリストを殺した神殺しの概念を秘めた槍だ。

 つまり、対神性の概念武装であり、キリストの血を浴びたこの槍自体が神性属性を持つ。

 

「っ!」

 

 真名開放をして槍を放つ。放たれた槍は真っ直ぐアサシンの脇を直進してその向こうで槍を構え直していたライダーの脇腹を、穿った。

 

「ガッ!?」

 

 己に突き刺さる槍……神殺しの聖なる槍(ロンギヌス)を見下ろしたライダーは忌々しげに槍を見つめて、それからアーチャーへと視線を移す。

 

「やるじゃねぇか、一度ならず二度までも」

「君の肉体に傷が付けられなかった理由がこれでハッキリしたな。どうやら君は通常の剣や槍では一切の傷を負わないようだが、不死殺しや対神性属性の概念を持った武具であれば傷つけられるらしい。そして、それは君の肉体という名の宝具の弱点……神性属性をそのまま宝具にした不死の肉体と、三頭馬の戦車(チャリオット)、それから異常なまでの敏捷性、これだけでも君の正体は自ずと晴れてくる」

「ほう? 言ったなアーチャー……なら、俺の一撃、受けてみるか?」

「君の正体を知った上で、君の一撃となれば自ずと何が来るか検討が付く……やってみると良い」

「ならば受け取れ!! これが俺の、俊足のアキレウスが最強宝具だ!!!」

 

 アキレウス、それは英雄叙事詩「イリアス」に登場した英雄の名であり、ギシリャ神話においてはかの大英雄ヘラクレスに並ぶ知名度を誇る大英雄だ。

 己の正体を見破ったアーチャーに、ライダーは一撃必殺の意思を込め、手に握った槍を構えると、その場から飛び上がった。

 

「受けてみろ、我が槍の一撃を!!」

「……I am the bone of my sword」

宙駆ける星の穂先(ディアトレコーン・アステール・ロンケーイ)!!!!」

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!」

 

 渾身の力で投擲された槍を、アーチャーは花開く七つの花弁で受け止めた。だが、その威力の高さは相当の物で、一枚、二枚と次々に破られ、最後の一枚まで達した段階で漸く槍は威力を失くして床に落ちる。

 何とかライダーの宝具を防御したアーチャーは溜息を零しつつ安堵するのだが、対するライダーというと……憤怒の表情でアーチャーを睨み付けていた。

 

「ロー・アイアスだと……? テメェ、何でテメェがアイアスの楯を持っていやがる!!?」

「ああ、そういえばライダー……アキレウスの父、ペーレウスとアイアスの父テラモーンは兄弟だったな」

 

 つまり、ライダー……アキレウスとアイアスは従兄弟という事になる。同時に、トロイア戦争を共に戦った友でもあるのだ。

 その友の楯を、よりにもよってライダーの目の前でアーチャーが使ったというのは、ライダーにとって友を穢されたも同然。

 

「殺す、絶対にお前は殺すって決めたぜアーチャー、俺に傷を付けられる事も、俺の目の前で友の楯を使った事も含めて、俺はお前を必ず殺す!」

「やってみると良い……だが、真名が割れた以上、アサシンもまた君の脅威となるぞ?」

「然様、貴殿がかの大英雄となれば踵を狙うは必然、弱点が割れた以上、我が秘剣が届かぬ道理は無い」

「チッ」

 

 流石にアサシンの素早い剣筋で踵を狙われれば二対一の現状で回避し続けるのも至難の業、更に今の状況は槍を手放しているので不味い。

 

「あん? なんだよマスター……? 撤退? ……チッ」

 

 どうやらライダーにマスターからの撤退指示が出たらしい。腰の剣を抜こうと構えていたライダーは構えを解いて背を向けた。

 

「今日のところはこれで終わりだ。残念だがアーチャー、お前を殺すのは次の機会に持ち越しだな」

「そうか……この槍はどうするのかね?」

「テメェに預けとくぜ。次に会った時は、必ず取り返すがな」

 

 そう言い残してライダーは霊体化して消えた。

 アーチャーは床に残されたライダーの槍を拾い上げるとアザゼルに向けて放り投げる。投げられた方のアザゼルは慌てて槍をキャッチすると、繁々と槍を眺めた。

 

「へぇ、こいつがかの大英雄アキレウスの槍かよ……見た目は唯の青銅とトネリコの槍なんだがなぁ」

「だが、それはライダーの宝具だ。見た目こそ簡素だが、秘めた力は図り知れん」

「うむ、先ほどの投擲は見事なものよ。斯様な一撃、私では防ぐ事も適わず消滅していたであろうな」

 

 さて、今回まともなサーヴァント戦というものを経験した藍華はどうしているのだろうかと、アーチャーとアサシンが目を向けてみれば、平然と武装を仕舞っているアーシアの横で、腰を抜かしたように座り込んでいる姿があった。

 

「おやマスター、年頃の娘が足を広げて座るというのは関心せんな」

「あ、あ、あのねぇ!? あたし、あんな戦い見るの初めてなんだから仕方ないでしょ!?」

「ふむ、アーチャーのマスター殿は平然としているな」

「あ、いえ……私は初めてじゃないですし、実戦経験もありますから」

 

 改めて、自分はとんでもない世界に巻き込まれたのだと、藍華は思った。

 同時に、同い年であるアーシアが平然としている様を見て、同じマスターという立場なのにこうも違うのかと、アサシンのマスターとしての自覚は今だ曖昧ではあっても、若干の悔しさを滲ませるのだった。




次回はシェムハザさん登場、アーシアとの関係や如何に。

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