ハイスクールD×D~堕ちた聖女の剣~   作:剣の舞姫

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お待たせしました。シェムハザ登場です。


第五十七話 「副総督と聖女」

ハイスクールD×D

~堕ちた聖女の剣~

 

第五十七話

「副総督と聖女」

 

 ライダーの襲撃の後、アーシア達はアザゼルの案内で総督の執務室に来ていた。一先ず、ライダーが残していった槍に関してはアザゼルが保管するという話になったので、それを執務室に置くついでに現在のグレモリー眷属の修行についての説明をする事と、藍華とアサシンの今後について話し合う為だ。

 

「んで、まず最初にアーシアとアーチャーが人間界に帰っている間……つっても二日程度か? その間にグレモリー眷属の行ってる修行についてだがな。リアスは過去のレーティングゲームのあらゆるデータに目を通させて王として成長させてるところだ」

 

 それから女王(クイーン)である朱乃は父親である堕天使バラキエルが直々に修行をしている。何でも自身に流れる堕天使の血と光の力を受け入れさせて雷の巫女から雷光の巫女へと成長させるのが目的との事だ。

 

「木場はサーゼクスの騎士(ナイト)が師匠って話だから剣術を改めて習い直しているぜ。ギャスパーは対人恐怖症の克服訓練、イッセーは魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)のタンニーンに頼んで修行させて、一ヶ月で禁手化(バランスブレイカー)に至ってもらうつもりだ」

 

 それからイリナとゼノヴィアに関しては剣術の基礎を叩き込んで貰う為にアーチャーが人間界に行く前に用意した手帳に書かれた修行を行っている。

 

「最後に小猫だがな……あいつも朱乃同様に己の力を受け入れさせる事になった」

「ふむ……猫又、いや猫魈だったか?」

「なんだ、気づいていたのか。そうだ、その末裔で生き残りがあいつだ……だからこそ、小猫には猫魈であるが故の強力な仙術の才能がある。それをあいつは忌避していてな……しかしそれを受け入れて身に着けない事には小猫も、それに朱乃もそうだが、あの二人にこれ以上の成長はありえん」

「確かにな」

 

 朱乃は現在で既に悪魔の力単体での成長限界が来ている。小猫も八極拳を覚えた事で成長をしているが、元来のウエイトの軽さが原因で思うように力が乗らないため、一誠と比べても弱い。

 

戦車(ルーク)としてはそれなりに馬鹿力だけどよ、でもその程度だ」

「技術を付けて、余計にウエイトの軽さが弱点として浮き彫りになったか……」

 

 しかし、己の力を受け入れたがらない者は、中々に意固地になっている節が多く見られる。あの二人も今回の修行で受け入れられるとはアーチャーには思えなかった。

 

「まぁ、アーチャーの懸念は俺も理解してるし、今回の修行で素直に二人が力と血を受け入れるとは思ってねぇよ。ただ、今後の成長材料にはなると思ってるぜ」

「なるほど、短期での成長は諦めて長期的な成長プランを選んだのか」

 

 そういう事だ。二人に関しては長期的なプランを選ぶ以外に成長する見込みが無いとアザゼルは判断した。そしてそれについてはサーゼクスやグレイフィアも同意している。

 

「んで、次の話だが……桐生がアサシンのマスターになったのはなぁ」

「あの、アザゼル先生、アタシは一応アーシアからこんな駒を貰ったんだけど」

「ああ、人間の力(ヒューマン・システム)の駒か。なるほど、それなら冥界でも問題無いな、聖女チームの一員として認められるから特に気にする事もねぇか」

 

 既にアーシアが手を打っている以上、冥界の政府が藍華を悪魔陣営に無理やり引き込むのは不可能、それをやってしまえば魔王と対等の立場となったアーシアへの明確な敵対行為と取られて魔王から直々に粛清される事になる。

 そして、それは天界や堕天使陣営にも同じ事が言えるのだ。

 

「さてと、じゃあ最後の話だが、これは俺じゃなくてお前から聞かせて貰うぜ? シェムハザ」

 

 そう言ってアザゼルが目を向けた先、そこには執務室の扉があって、ゆっくりと開かれた向こう側には一人の堕天使が立っていた。

 

「ああ、それについては私から話させて頂こう……まずは、お久しぶりだね、アーシア嬢」

「は、はい! お久しぶりです、シェムハザ様」

「ははは、様はよしてくれ。今の君はアザゼル総督と同等の立場、つまり私よりも上の立場の人間だ。そんな君に様付けで呼ばれてはむず痒くなる」

「いえ、ですが私にとって一番辛い時期に助けて頂いた恩人ですし……」

 

 随分と御人好しというか、好青年という印象を受ける男、これが堕天使のナンバー2、神の子を見張る者(グリゴリ)の副総督シェムハザらしい。

 

「さて、私がアーシア嬢に嘗て金銭的生活援助をしていた理由だったか……簡単な話だ。私には今、悪魔の妻が居るが、その前にも妻が居た事があるのは知っていますかな?」

「有名な話だな。旧約聖書の創世記に書かれた内容、アザゼルやシェムハザ、コカビエルといった堕天使がまだ天使だった頃に、人間の娘を妻に迎えた事で堕天したというのは」

「ああ、そういえば居たなぁ」

「アザゼル、確か君には当時妻に迎えた人間との間に子が居たと聞くが?」

「ネフィリムな、懐かしいぜ」

 

 アザゼルが今は亡き妻と子に思いを馳せているのは置いておくとして、シェムハザもまた、アザゼルと同じように創世記の時代、人間の娘を妻に迎えているのだが、それが何か関係があるというのだろうか。

 

「当時の私の妻との間にも子が居りまして、まぁ簡単に言ってしまえばアーシア嬢は、私と嘗ての妻の間に生まれた子の、末裔なのですよ」

「……え?」

 

 突然の告白に、アーシアの頭が一瞬真っ白になったが、その言葉の意味を理解するのと同時に顔に驚愕を浮かべる。

 

「そ、それってつまり……私は」

「私の子孫という事になるね。君を初めて見た時に直ぐ気づいた……君はあの子に、今は亡き娘と瓜二つだったのだから」

 

 だから、シェムハザは調べたのだ。アーシアの生みの親の事と、その血筋を。そうして行き着いたルーツが、己であるという事まで調べたシェムハザは、子孫であるアーシアの援助をしようと決めた。

 

「本当なら、君を引き取ろうとも考えたが……残念なことに今の私には新しい妻と、これから生まれてくる新しい子という、今の生活がある。妻は悪魔で、私は堕天使、そして君は人間だ、あの頃はそんな歪な家庭を作るのが難しかった」

 

 だからこそ、影ながら金銭援助だけでもして、己が子孫の生活を助けたのだろう。

 

「アーシェ……私の娘の名だが、あの子の魂もまた、もしかしたら君に転生したのではないかと、時々思ってしまうよ。顔だけではなく、君はあらゆる面でアーシェとよく似ているからね」

「アーシェさん……それが、私のご先祖様ですか」

「ああ、君と同じで心優しい、それでいて何処か頑固というか、頑なな一面を持った強い娘だった」

 

 堕天使の血は、創世記から現代までで随分と薄れてしまっているので、アーシアには光の力も、羽も存在しない。

 魂もまた、何度も輪廻転生を繰り返しているだろうから、もはやアーシェという人間と堕天使のハーフの名残は欠片も残されていないだろう。

 しかし、それでもアーシアにはアーシェを思い起こさせる面が多々あるというのは、シェムハザにとって、どういう心境を持たせているのだろうか。

 

「すまないね、まるで君をアーシェの代わりみたいな真似をしてしまって」

「いえ、それでも私はシェムハザ様のおかげで今を生きていると言えます。だから……ありがとうございます『シェムハザ様/お父様』」

「っ!? ……アー、シェ?」

 

 今、一瞬だけアーシアの言葉に重なるように、アーシアと同じ声でシェムハザをお父様と呼ぶ声が聞こえたような気がした。同時に、アーシアの横に、薄らとアーシアによく似た少女の姿が見える。

 勿論、それが聞こえたのも、少女の姿が見えたのもシェムハザだけで、他の者には見えないし聞こえなかったが、それでも間違いなくシェムハザは確信した。

 娘は、娘の魂は今、アーシア・アルジェントという人間の少女の中で、生きているのだと。

 

「お礼を言うのは、こちらの方だよ、アーシア嬢……この世に生まれて来てくれて、本当に……ありがとう」

 

 

 シェムハザの話が終わった後、アザゼルとアーシア達は共にグレモリー公爵邸に戻る為に汽車に揺られていた。

 豪華な車両の中でそれぞれ寛ぐ中、椅子に座っているアーシアの前に腰掛けたアザゼルは先ほどからシェムハザに渡された荷物を抱えているアーシアに話しかける。

 

「何を受け取ったんだ?」

「あ、えっと……」

 

 実はまだ中を見ていない。受け取ったのは小さなスーツケースだが、グレモリー邸に着いてから開けようかと思っていたから、まだ未開封なのだ。

 

「今、開けますか?」

「おう、俺もちょっと気になってたからな」

「じゃ、じゃあ……」

 

 ゆっくり、アーシアがケースを開けると、中身を開帳する。果たしてケースの中に入っていたのは僅かばかりだが人間界の現金と、それから随分と年代物と思しきロザリオ、それと頭に被る純白のベールだった。

 

「あ、手紙が一緒に入ってますね……えっと、『拝啓、アーシア・アルジェント様』」

 

 手紙に書かれていたのは、生活援助として最後の金銭と、それからアーシェの形見であるロザリオ、それとシェムハザが最初の妻に送ったという形見のベールをアーシアに譲るという内容だった。

 

「そ、そんな……そんな大切な物、頂けないです!」

「貰ってやれアーシア、あいつがそんなに大事な物をお前に渡したって事は、きっとお前だからこそ持っていて欲しいって願ったんだろうからよ」

「でも……」

「良いじゃねぇか、ご先祖様……つまりお前にとっては大祖父とでも言うべきか? そんなシェムハザから孫へのプレゼントだ。有難く受け取っておけ」

「は、はい……」

 

 神の子を見張る者(グリゴリ)副総督シェムハザ、アーシア・アルジェントの先祖である彼は今、何を思っているのだろうか。

 もう遠くなって見えなくなった神の子を見張る者(グリゴリ)施設のある方を窓から眺めたアーシアは、静かに頭を下げる事で大切な形見を受け取った事を、その感謝を形にするのだった。




あ、それとシェムハザの話し方忘れたので、もし違和感あったら教えてください。
改めて調べて修正しますので。

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