ハイスクールD×D~堕ちた聖女の剣~   作:剣の舞姫

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あ、あれ? 小猫はアーチャーに懐かせようと思ってたのに……気づけば百合百合しい雰囲気にw


第五十八話 「白猫の過去」

ハイスクールD×D

~堕ちた聖女の剣~

 

第五十八話

「白猫の過去」

 

 アーシア達が冥界に戻ってきて数日、藍華も冥界での生活に慣れ始めた頃、それは唐突に告げられた。

 

「小猫が倒れた」

 

 アザゼルの口から語られたのは、修行中の小猫が極度の過労によって倒れたという事だ。診断の結果、過剰過ぎる程の密度で修行を行っていて、碌に休息も取らずにいたらしい事も判明している。

 

「アーシア、悪いが魔術で疲労回復って可能か?」

「はい、それくらいでしたら簡単な魔術ですので」

「なら頼めるか?」

「はい!」

 

 早速アーシアはアーチャーと共にアザゼルに案内されて小猫の部屋へ向かった。

 小猫の部屋に着くとアザゼルは特にノックする訳でもなく扉を開けて中に入り、それにアーシア達も続くと、部屋にはベッドの上で眠る小猫と、それを見守っていたリアスが居る。

 

「あら、アーシア……そう、小猫の治療してくれるのね」

「はい、部長さん。小猫ちゃんの容態から診させて頂いて良いですか?」

「お願いするわ」

 

 早速アーシアはベッドサイドに歩み寄って小猫の容態を診ようとしたのだが、まず最初に目に飛び込んできた光景に驚いた。

 何故なら小猫の頭には今まで無かった白い猫耳があったのだから。

 

「ああ、そういえば猫魈でしたね……では、Analisi(解析)

 

 小猫の全身に解析魔術を掛けたアーシアはゆっくりと小猫を診察する。

 今では人体解析においてはアーチャーをも上回ったと自負する解析魔術は確実に小猫の不調部分を解析し、それをアーシアに伝えた。

 

「ふぅ……やはり過労ですね。それと、軽い栄養失調の症状も見られます……恐らく修行が始まってからまともに食事をされていなかったのでしょう」

「そうなの……治療は可能?」

「はい、過労については魔術で疲労回復速度を一時的に上げるだけですし、栄養失調についてはそもそも魔術を使うまでも無いですね」

 

 そう言ってアーシアは最近自作したポーチの中から丸薬を一粒取り出して小猫の口に含ませると水を飲ませる。

 

「今のは?」

「私手作りの栄養補給剤です。魔術の実験の一環で開発した物でして、一粒で一日分の栄養を補給出来るんですよ」

「へぇ、凄いじゃない!」

 

 最近のアーシアは時間が空いている時は魔術の研究に勤しんでいる事が多くなった。治癒魔術の効率的な使い方の研究や人体解析の発展である人体透視魔術の習得、その他にも魔術による薬の練成等々。

 アーシアのポーチには今、小猫に飲ませた丸薬だけでなく試験管に入った薬やタブレット状の錠剤などアーシアが練成した薬が多く入っているらしい。

 アーシア曰く、冥界は薬の材料が豊富にあって研究が捗る良い環境、との事だ。

 

「しかし、予想はしていたがやはり搭城小猫は倒れるまで修行をしていたか」

「ええ、そうみたい……自分が力不足を悩んでいたのは、私も気づいていたし、別に私は小猫を力不足だから役立たずなんて思った事は無いってそれとなく伝えていたのだけどね」

「しゃあねぇだろうな。木場の禁手化(バランスブレイカー)にイッセーの白龍皇と互角に戦えるまでになった急成長、デュランダルという圧倒的なパワーを持つゼノヴィアと擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)っつーテクニカルな武装で多彩な攻撃方法を持つイリナの加入で戦車(ルーク)の力だけで戦ってきた小猫が焦らない筈も無い」

 

 そして、その戦車(ルーク)の力だけの小猫は既にパワーでゼノヴィアと一誠に負けている。それもつい最近まで一般人だった一誠にだ。

 

「リアス・グレモリー、搭城小猫が仙術を使いたがらない理由について、君は知っているようだな?」

「……ええ、知っているわ。そうね、本当なら小猫のプライベートにも関わる事だから話すのは躊躇われるのだけど、アーシアには今後小猫の主治医もしてもらいたいから、患者の情報は知っておいた方が良いかしら? ついでに、アーチャーも人生経験豊富でしょうし、色々と知恵が欲しいの」

 

 そしてリアスの口から語られるのは小猫の過去……まだリアスの眷属となる前の話だ。

 

「小猫には、姉が居たの」

「お姉さんですか」

「ええ、名前は黒歌って言ってね……とある上級悪魔の眷属だったのだけど」

 

 ある日、その黒歌という姉が主である上級悪魔を殺した。しかも、その時に仙術による影響で暴走していたらしい。

 それを幼い小猫が目撃していた為、小猫は仙術というものに恐怖心を持っているのだろうという話だ。

 

「実際、グレモリー家に引き取られたばかりの頃の小猫は酷いものだったわ……軽い失語症に近い状態で、誰に対しても心を閉ざしていた」

 

 黒歌は主殺しを行った事ではぐれ悪魔として指名手配され、小猫も主殺しを行った悪魔の妹という事でグレモリー家に引き取られるまでは随分と迫害を受けていたようだ。

 

「だから、小猫にとって仙術は姉を狂わせて自分や周りを不幸にする忌避すべき力って思い込んでいるのよ」

 

 だから、たとえ仙術を使わなければ自分はこれ以上成長しないと言われても認められなかった。自分は仙術を使わなくても強くなれると、意地を張って無茶な修行をしてしまったという事だ。

 

「ねぇ、アーシア……確か、あなたの使う魔術は適性が無ければ使えないのよね?」

「はい、魔術回路が必要です。回路は先天的な物なので、これはどうする事も出来ないですし、仮に小猫ちゃんに回路があったとしても、悪魔に転生した時点で死滅している筈ですね」

 

 それに、アーチャーが前に調べた限りでは小猫には回路があった痕跡は見られなかった事も判明している。

 

「そうよねぇ……」

「そもそも、例え魔術が使えようとも戦闘用の魔術を習得するまでには時間が掛かる。アーシアとて未だ戦闘用魔術を覚えるまで上達していないのを考えれば自ずとわかるだろう」

「なるほど、それは盲点だったわね……となるとやっぱり仙術しか無いのかしら?」

 

 元が猫魈である小猫は仙術の才能もあったらしい。習得出来れば比較的短期間で戦力増強も可能だ。

 

「でも駄目ね。私は例え小猫が強くなるためとはいえ、この子が望んでいない内は仙術を覚えろなんて言うつもりは無いわ」

「ま、王としてのお前の姿勢がそれなら構わねぇよ。それを言うのは顧問である俺の仕事だからな」

 

 とは言えど、小猫をこのままにしておくのも問題だろう。例え今はアーシアのお陰で何とかなったが、また無茶な修行をして再び倒れる可能性が高い。

 

「マスター、少しカウンセリングを行う方が懸命かと思うが、どうだ?」

「そう、ですね……部長さん」

「構わないわ。今はアーシアが小猫の主治医なんだから、アーシアに任せる」

「だな、ここはアーシアに任せるぜ」

 

 後のことはアーシアとアーチャーに任せると、リアスとアザゼルは部屋から出て行ってしまった。

 残された二人は未だに眠る小猫に目を向けたが、直ぐにアーチャーはある事に気づいて溜息を零す。

 

「はぁ……起きているなら素直に目を開けろ、搭城小猫」

「え!?」

 

 アーシアは気づいていなかったようだが、アーチャーは直ぐに見破った。いつの間にやら小猫は目を覚ましていて、今はただ狸寝入りをしているだけだという事に。

 

「猫が狸寝入りというのも、奇妙な話だ」

「ほっといてください……」

 

 アーチャーの呟きにツッコミを入れながら小猫は目を開けてゆっくり上体を起こした。頭の猫耳はそのままに、そして見れば尻の所からは耳と同じ毛色の尻尾も生えている。

 

「アーシア先輩、ご迷惑掛けてごめんなさい」

「いいえ、でも倒れるまで無茶しては駄目ですよ?」

「はい……」

 

 しゅんとして俯く小猫の頭を撫でるアーシアは正に聖母の如し。小猫も頭を撫でられる感覚が好きなのか自然と尻尾がゆらゆらと揺れていて、頭の猫耳もぴくぴく動いていた。

 

「にゃあ♪」

「ふふ、気持ち良いですか?」

「はい……アーシア先輩、撫でるの上手、です」

 

 何故だろう、アーチャーの目には二人の背景に百合の花が見えた気がした。

 

「こほん……それで、搭城小猫、君はこれからどうするつもりだ?」

「どう、とは?」

「君の過去、そして姉の話はリアス・グレモリーから聞いた。仙術を怖れ忌み嫌っているのも理解出来る……だが、君の格闘技術だけでは正直伸び代はあっても劇的な成長は見込めない」

 

 おそらく、これから先、格闘だけでは確実に小猫はグレモリー眷属でも最弱になってしまうだろう。戦闘技術を持たないギャスパーは除外するとしてもだ。

 

「私は、仙術が怖いです……姉様は、仙術の暴走で狂ってしまった。私も、仙術を使えば、姉様みたいに暴走して……リアス部長を、他のみんなを、殺してしまうかもしれない」

「小猫ちゃん……」

「大切な人達を傷つける力なら、私は欲しくありません……例え仙術を使えば今以上に強くなれるんだとしても、その代償にみんなを傷つけるなら」

 

 小猫がそこまで言った時、アーシアがそっと小猫を抱きしめた。突然の事に驚いた小猫は尻尾をピンッと立てて固まったが、直ぐにアーシアの温もりに落ち着いたのか撫でられる頭の感触に身を委ねる。

 

「小猫ちゃん、怖がる気持ちは理解出来ます。私も、魔術の修行をしているときはいつも怖いですから」

「え……?」

「魔術は、常に危険と隣り合わせなんです。回路のONとOFFを切り替えるだけでも苦痛がありますし、ほんの少しでも制御を間違えれば即座に自分や、周りの人の命を落とす事の方が多いです。ましてや、限界なんて簡単に超えられるのに、それで生きて乗り越えられるかは本人の意思と実力次第……だから、本当に怖い事ばかりです」

「じゃあ、何でアーシア先輩は……」

「私は、アーチャーさんのマスターとしては、全然力不足のお荷物ですから……だから、少しでもアーチャーさんのお役に立てるように、例え魔術が命賭けでもアーチャーさんの為にって、そんな気持ちで修行しています」

「アーチャーさんの、為に……」

 

 大切な人の為に、恐怖を乗り越えてアーシアは魔術の修練をしている。もし、自分にもそんな勇気があれば、仙術への恐怖を乗り越えられるのだろうか。

 

「ねぇ、小猫ちゃん……もしよければ仙術の練習、私と一緒にしませんか?」

「アーシア先輩と?」

「私は、仙術は使えないので魔術の練習になりますけど、でも小猫ちゃんがもし暴走しそうになったら、私とアーチャーさんが絶対に止めてみせます。傷ついたら、私がきっと治してみせますから」

「……っ」

 

 温かくて、優しい、アーシアの懐の中で、小猫はずっと我慢していたのだろう。涙を流しながらアーシアに撫でられ続けて、そしていつの間にか眠ってしまった。

 先ほどまでの疲労から来る寝苦しそうな寝顔ではなく、そこにあったのはとても安心しきった、穏やかな寝顔だったのは、アーシアとアーチャーしか知らない。




修行は終わった。各々は修行を経て更なるレベルアップを果たした。
そしてレーティングゲーム前のパーティーに参加するグレモリー眷属と聖女チームだったが、そこに禍の団(カオス・ブリゲード)の襲撃が!
再会する姉妹、遂に至った赤き龍の帝王、迫り来る強敵の剣にアーチャーは苦戦を強いられる。

次回、ハイスクールD×D~堕ちた聖女の剣~

第五十九話

「襲撃、猫と猿と剣の英霊・前編」

姉妹は、別々の道を歩む。

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