ハイスクールD×D~堕ちた聖女の剣~   作:剣の舞姫

64 / 93
やべぇ、小猫のフラグをイッセーじゃなくアーシアに立てさせるように調整するのに手間取った。


第六十話 「襲撃、猫と猿と剣の英霊・後編」

ハイスクールD×D

~堕ちた聖女の剣~

 

第六十話

「襲撃、猫と猿と剣の英霊・後編」

 

 アーチャーとセイバーのぶつかり合いは、最初の一合で干将・莫耶が粉々に砕け散る所から始まった。

 干将・莫耶は投影品とはいえ、ランクCに数えられる宝具だ。それを何の概念も含まれていないただのロングソードで破壊したというのは、どうにも考えにくい。

 恐らくはロングソードが黒く染まっている秘密と、そしてセイバー自身の剣の腕の高さ、この二つが合わさった事によるものだろうとアーチャーは結論し、再び両手に干将と莫耶を投影して斬り掛かってきたセイバーの斬撃を受け流す。

 

「ぐぅっ!」

「はぁっ!!」

 

 だが、受け流しきれなかった。筋力の差もあるが、セイバーの斬撃は余りにも洗練され過ぎていて、アーチャーが受け流すには技量が足りなさ過ぎた。

 それは、アーチャーとセイバーの間にある剣腕の圧倒的な差、実力差を意味しており、つまりセイバーは剣の腕においてアーチャーの遥か上を行く武人だという事だ。

 

「(だが、元より格上を相手に戦うなど生前から慣れた身……剣だけで勝てぬなら、剣以外を持ち出すまでだ)っ! 投影、開始(トレース・オン)!!」

 

 受け流しきれなかった斬撃は干将・莫耶から手を離して自身は横へ逃げる事で何とか回避し、回避しながら新たに投影したのは黒塗りの弓と螺旋状の剣だ。

 地面を転がりながら投影したアーチャーは立ち上がるのと同時にその場から飛び上がりセイバーの剣が地面を抉る光景に舌を巻きつつ近くの木の枝へ着地する。

 

「I am the bone of my sword〈我が骨子は、捩れ狂う〉」

 

 剣を弓に番え、一気に引き絞ると照準をこちらへ駆け出そうとするセイバーに向けた。そして、セイバーが走り出すよりも早く、アーチャーの指は矢となった剣から離される。

 

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)!!」

 

 真名を開放されて放たれた矢は一直線にセイバーへと飛来し、その鎧を貫き心臓を穿つ……筈だった。

 しかし、セイバーは神速で飛来する矢を紙一重で回避しながら、己の横を通過する矢の……剣の柄を握り締めてキャッチする。

 その神業の如き所業に驚いたアーチャーだが、その驚愕は更なる驚愕によって染められる事となった。

 何故ならセイバーに握られた偽・螺旋剣は握られた箇所からロングソードと同じ様に漆黒に染まり、血管の如き赤い筋が螺旋状の刀身全体に浮かび上がったのだから。

 

「貴様、それは……」

「何分、手癖の悪さは英霊一を自負している。だがこれほどの名剣、奪ったままというのも心苦しいな……貴殿にお返ししよう」

 

 そう言ってセイバーは偽・螺旋剣を渾身の力で投擲する。枝から飛び上がったアーチャーが回避した後、その木に着弾した偽・螺旋剣は止まる事を知らず木々を薙ぎ倒しながら結界の端まで直進し、直撃した結界の一部を貫通して尚、勢いを失わず冥界の空へと消えた。

 

「ちょっとセイバー!! 折角張った結界壊さないでよ! 結界修復するの私だって忘れたにゃん!?」

「失礼した黒歌殿、あまりにも素晴らしい名剣を手にしたものだからつい加減を間違えてしまったようだ」

 

 真名開放をした後のAランク宝具を、そのまま己の力としたセイバーに、アーチャーの警戒心はますます上昇した。

 このサーヴァント、アーチャーの考えが正しければ今……。

 

「ふむ、貴殿の考えは正しい。先ほども言ったが私は些か手癖が悪いのだ……このように」

 

 不意にセイバーは足元に転がっていた干将・莫耶の内、白銀の陰剣・莫耶を拾い上げる。すると莫耶は先ほどの偽・螺旋剣と同じように漆黒に染まり、その刀身に血管のような赤い筋が浮かび上がった。

 

「私が手にした物は武器であろうが、それこそ木の枝だろうが問答無用で宝具にしてしまう」

「クッ……手癖が悪いにも程があるな」

「自覚している。だがこれは私にはどうする事も出来ない為、容赦願いたい」

 

 そう言ってロングソードと莫耶を構えたセイバーに対し、アーチャーは一瞬だけ思考を巡らせると、両手に二振りの剣を投影する。

 新たに投影されたのは先ほどまでの干将・莫耶と同じ双剣にカテゴリされる剣で、宝具としてのランクはそれを上回る一品だ。

 

大いなる激情(モラルタ)小なる激情(ベガルタ)

「ほう、かの有名な輝く貌の剣か……しかし貴公は輝く貌ではないな」

「如何にも、この身はどう足掻いてもかの大英雄には及ばぬ才無き身の上だ。だが、非才の身が天才に勝てぬ道理があるかね?」

「否だ。私も生前はそういった光景を幾度と無く目にしてきた」

 

 時に戦場では才能など何の役にも立たない事があるというのはセイバーもアーチャーも理解しているし、それを裏付ける瞬間を何度も見てきた。

 だからこそ、セイバーはアーチャーよりも己が実力もステータスも勝っているというのに油断などしていないし、慢心など以ての外だ。

 

「いくぞ剣の英霊、無限の剣戟……受け取る手数は十分か?」

「来い弓の英霊、無限の剣全てを受け取って見せよう!」

 

 

 セイバーとアーチャーが激しい剣戟を繰り広げている傍では一誠が黒歌と戦っていた。だが、こちらは戦いと呼ぶには明らかに一方的過ぎて、黒歌の妖術仙術を前に籠手だけの一誠は近づく事すら許されていない。

 

「クソッ! これじゃ近づけねぇ!」

「にゃははは! ほらほらどうしたの? もっと頑張らないと死んじゃうにゃん」

 

 これはまだ一誠の知らない事なのだが、黒歌は冥界においてSSランクはぐれ悪魔として指名手配される最上級悪魔クラスの実力者だ。

 確かに一誠も実践を経験し、ヴァーリとの戦いやタンニーンとの修行で以前に比べれば格段に強くなったし、今では下級悪魔の枠に収まらないだけの実力になった。

 しかし、それではまだ黒歌には届かない。それだけ、黒歌と今の一誠の間には大きすぎる差が存在している。

 

「クソ、おいこらドライグ! もう10秒以上経ってるのに何で倍加しないんだよ!?」

『タンニーンとの修行の成果だよ相棒』

「はぁ!?」

「やはりか」

「やはりって、どういうことだよタンニーンのおっさん!」

「簡単な話だ。今、お前は神器(セイクリッド・ギア)がパワーアップするか禁手(バランスブレイク)するかの分岐点に立ったのだ」

 

 美猴と戦いながら、タンニーンが赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)に起きた異変について説明してくれた。

 そう、タンニーンとの修行を経た一誠は更なる成長の分岐点に立ったのだ。もっとも、その成長が唯のパワーアップになるのか、それとも禁手(バランスブレイク)するかは、一誠次第なのだが。

 

『タンニーンの言う通りだが、このままではただのパワーアップで終わるぞ? 相棒。禁手化(バランスブレイカー)は劇的な変化が生まれなければ至れない……つまり、後はお前次第だ』

「劇的な、変化……」

 

 だが、急に劇的な変化と言われても何をどうすれば良いのかわからない。そして、それを考える暇を、黒歌が与えてくれる訳も無く。

 

「あらら? 赤龍帝ちゃんは神器(セイクリッド・ギア)もまともに動かせない駄目駄目君なのかにゃ? でぇも、私には関係無いにゃぁ」

「っ!? 部長! 小猫ちゃん! アーシア!」

 

 黒歌が放った妖術の一撃は未だ毒抜き中の二人とアーシアを狙っていた。それを素早く察知した一誠は即座に籠手を盾にして防御姿勢を取るが、直撃した一撃の大きさに身体が悲鳴を上げる。

 

「ぐ、あああああっ!?」

「イッセー!」

「イッセー先輩……!」

「イッセーさん! っ! Scudo(盾となれ) mondo esterno(外界よりの脅威)!!!」

 

 一誠の後姿の向こうで、黒歌が今の妖術を連射するのが視界に映ったアーシアは解毒を中断して素早くネックレスのチェーンを引き千切り、トップにあったロザリオを一誠の前に放り投げて魔術を発動した。

 ロザリオの中心にあった宝石に魔力が通ると、一瞬で宝石が砕けてロザリオを中心に防御シールドが展開される。黒歌の放った妖術はシールドに阻まれ、一誠へのこれ以上のダメージを防ぐ事に成功したのだ。

 

「へぇ、癒すだけしか能の無い聖女ちゃんかと思ったら、随分と小癪な真似をするにゃん」

「知りませんでしたか? 最近の癒しの聖女は、癒す事になる前に守るのがトレンドなんですよ」

「トレンドとか言うと俗世に塗れた感じがして聖女って気がしないにゃん」

 

 黒歌の関心が一誠からアーシアに移りかけていた。それもそうだろう、己に近づく事も出来ない一誠は黒歌にとっては最早敵と認識する価値を見出せなくなっていて、ヴァーリを退けたという話もデマだったのだと思い始めているのだから。

 

「くっ……(俺は、また守られるのかよ!? アーシアの時も、部長の時も、俺はアーチャーさんや、アーシアに守られてばかりで、今だってまた……俺はアーシアに守られた!)」

 

 ハーレムを守る、いや……女の子を守りたい、そう思っていても今までそれを成してきたのはアーチャーで、自分は力が無いばかりに守られてばかりだった。

 それどころか、自分が守る側にならなければならない筈のアーシアにまで、守られてしまった己の不甲斐なさが、一誠は許せない。

 

「俺は、伝説のドラゴンが宿ってるってのに何も出来ないのかよ……! いつもいつも守られてばかりで、小猫ちゃんを、部長を守る事も出来ないでアーシアにおんぶに抱っこなんて、情けないよな」

「そうにゃん、女の子に守られる男なんてダサいったら無いわねぇ~。白音ぇ、あんたもこんなダサ男はさっさと見限るのが身のためよ?」

「イッセーさんはダサくありません!」

「にゃ?」

「あ、アーシア……」

 

 やっと治療を終えたのか、アーシアがそう叫びながら立ち上がって右腕に堕天聖女の弓籠手(ダウンフォール・セイント・ドレッドノート)を装備し、一誠の横に並んだ。

 

「あなたは、小猫ちゃんのお姉さんなのに……どうして小猫ちゃんの意見を無視して自分の意思を押し付けるんですか? そんなに自分が小猫ちゃんを守りたいなら、どうしてテロリストとして小猫ちゃんの前に現れたりするんですか!?」

「チッ……何も知らない小娘が、随分な口を利くにゃん」

「知らない訳ねぇだろ! 俺もアーシアも、小猫ちゃんとお前の過去にあった出来事は知ってる!! お前が小猫ちゃんを守りたいって気持ちが本当にあるってんなら、主を殺したのだって理由があったのかもしれないって、そう思ってた!! だけど、テロリストとして現れたお前の、何を理解しろってんだ!!」

「本当に小猫ちゃんを守りたければ、指名手配されていようと……少なくともテロリストとして現れる以外の道があった筈なのに、その選択を放棄したのでしたら私は……」

 

 それは、アーシア・アルジェントに微かに流れる堕天使の血が成した奇跡なのかもしれない。

 

「な、なんだ!?」

 

 堕天聖女の弓籠手(ダウンフォール・セイント・ドレッドノート)が光に包まれ、その光はやがてアーシアの全身を覆った。

 

「私は、あなたを許しません! 今は亡き主に代わり、あなたに断罪を!! 小猫ちゃんを、守る為に、私は初めて戦う為に剣を取ります!! 禁手(バランスブレイク)!!!」

 

 眩い光が辺りを覆った。そして、その光が収まった後、そこに残ったのはいつものアーシアの姿ではない。

 弓籠手と同じ黄金のライトアーマーを全身に纏い右手は弓籠手の形をそのまま保ったアーシアの背中には……堕天使シェムハザや堕天使アザゼルと同じ6対12枚の漆黒に染まった堕天使の翼が生えていた。

 

堕天聖女(ダウンフォール・セイント・)の弓鎧(アナザー・アーマー)、イッセーさんが禁手化(バランスブレイカー)に至るまでの間、時間稼ぎをさせて頂きます」

 

 右腕の弓籠手に黒鍵をコアとした光の矢が装填され、左手にはレイナーレを材料に作られた細剣“フォーリン”を構えたアーシアは、今日、初めて自衛の為ではなく、戦いの為に剣を抜いた。




次回、イッセーが禁手に至ります。
つまり、スイッチ姫と胃痛ドラゴンの誕生w

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。