ハイスクールD×D~堕ちた聖女の剣~   作:剣の舞姫

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第六十二話 「円卓の騎士」

ハイスクールD×D

~堕ちた聖女の剣~

 

第六十二話

「円卓の騎士」

 

 一誠が禁手(バランスブレイカー)に至った事で黒歌との戦闘は既に結果が見えた。

 だが、もう一方のアーチャーとセイバーの戦いは未だ決着が見えない……いや、状況だけで言うなら明らかにセイバーが有利だ。

 

「くっ……っ!」

「アーチャー、貴公の剣は確かに見事だった。ともすれば私が知る剣士達にも引けを取らなかったであろうが……残念ながら私に届くまでには至らなかったようだ」

「ふっ……だろうな。確かに私の剣の腕では貴様に届かないのは明白だ……だが、」

 

 圧倒的な実力差があろうと、それがイコール敗北確定という事にはならない。アーチャーは繁慶を構えるセイバーに対し、新たに剣を投影して対峙する。

 

「私は堕天使の末裔にして歴代最高の聖女たるアーシア・アルジェントのサーヴァントだ。それが最強でない筈が無い……故に、この身に敗走など、ありはしない!」

 

 アーチャーが新たに投影したのは一本の黄金の剣、本来であれば夢に裏切られ、己を否定した今の自分には投影する資格は無いと、生前から投影する事自体を禁忌としてきた剣、先の約束された勝利の剣(エクスカリバー)を投影して以来、もう一度投影しても良いのかもしれないと、許されるのかもしれないと思い始めた……特別な剣だ。

 

「それ、は……」

勝利すべき黄金の剣(カリバーン)!!」

 

 真名開放された黄金の剣による一閃が、漆黒に染まった繁慶を砕き、セイバーの全身から出ていた黒い霧を払った。

 

「アーチャー……貴様、私の前でそれを使うか……その、黄金の剣を、王の剣を!!」

「ほう? これを王の剣と呼ぶとは、貴様はどうやら円卓の騎士の一人らしいな」

「くっ!」

 

 すると、セイバーはその黒い兜に手を掛け、ゆっくりと脱いでいく。兜の下から現れたのは、黒い長髪の青年の顔だった。

 幸薄そうな表情、だが勝利すべき黄金の剣(カリバーン)に向ける視線には暗い憎悪の感情が見え隠れしており、それを握るアーチャーへの複雑な想いを見せている。

 

「来い、無毀なる湖光(アロンダイト)

 

 セイバーが呼び出し、真名開放された剣はそのままセイバーの右手に現れ、黒い聖なるオーラを纏った。

 同時に、セイバーを覆っていた霧は晴れ、今までアーシアが見ようとしても見れなくなっていたステータスも、見れるようになる。

 

「うそ……ですよね? アロンダイトって……ランスロット卿の」

 

 欧州人だからこそ、アーシアはアロンダイトという名前を聞いて、それを扱う騎士の名前に心当たりがあり過ぎて、表情が青褪めた。

 何故なら彼は、アーサー王伝説においてアーサー王を含め円卓の騎士最強と謡われた最高の騎士。湖の騎士と呼ばれ、アーサー王の約束された勝利の剣(エクスカリバー)と同じ星の聖剣を持つセイバーのサーヴァントとしては最強クラスと言えるサーヴァントなのだから。

 

「なるほど、神造兵装か……道理で見た瞬間から解析出来ても投影不可能という結果が出るわけだ」

「アーチャー、何故貴公が王の剣を持つのかは聞かん……しかし、私の前でそれを持ったからには、覚悟は出来ているのだな?」

「ふ……なるほど、主君を裏切っておきながら、それでもなお彼女に対する忠誠心は健在とは、噂に聞く円卓の騎士最強にして最高の騎士の名は、伊達ではないと言うことか」

 

 不味い、アーシアはセイバーのステータスを見て、正体を知ってそう思ってしまった。アーチャーがステータスに見合わぬ程強いというのはアーシアも良く知っているし、簡単にアーチャーが負けるなどと思わないが、それでもセイバー……サー・ランスロット相手では……。

 

「余所見してるんじゃないにゃ!」

「くぅっ!?」

「アーシアはやらせねぇ! テメェの相手は俺だ!! アーシア!! アーシアはアーチャーさんの援護に回ってくれ!!」

「は、はい!」

 

 アーシアに襲い掛かった黒歌を一誠が抑えてくれたお陰でアーシアはマスターとしての仕事に専念出来る。

 地上に降りてアーチャーの後ろに立つと、魔術回路を起動してアーチャーの全身至る所にある傷を瞬時に治していった。

 

「助かる、マスター」

「いえ、私にはこれ位しか出来る事がありませんから……」

 

 セイバーとアーチャー、互いに握る剣は奇しくも同郷の剣だった。片やサー・ランスロット本人が担う無毀なる湖光(アロンダイト)、片やアーサー王の嘗てのマスターであった男が投影した勝利すべき黄金の剣(カリバーン)

 宝具としてのランクで言えば無毀なる湖光(アロンダイト)の方が上、更に剣士としての腕もセイバーの方が上、明らかにアーチャーの方が不利だ。

 

「マスターが合流したか」

「ああ、癒しにおいては最上級のマスターだ。これで私を殺すのであれば一撃にて命を狩り取る他に無いぞ?」

「ならばその通りにしよう!!」

 

 漆黒の聖剣と黄金の聖剣が火花と共に交差する。その交差だけでも聖なる波動が周囲へ拡散し、悪魔である黒歌やリアス、一誠、タンニーン、小猫には苦痛を与えているが、二人はそんな事を気にする事も無く何度も剣を交えた。

 

「強いな。王の剣を使うなど言語道断だと思ったが、貴公の剣には何故だろうか、王の剣筋を思わせる物がある」

「光栄、とだけ言っておこうか」

 

 生前、まだ未熟な衛宮士郎だった頃の、アルトリアに鍛えられた剣は夢に裏切られ、磨耗し、英霊という名の世界の奴隷に成り下がった今でも、振るう剣に残っているのだと、目の前の円卓の騎士に認められた。

 それはアーチャーにとって、否……エミヤシロウにとって何より光栄であり、何より嬉しい事だった。

 

「だが、この戦いに勝つのは私だ。貴公が王の剣を使う以上、私は負ける訳にいかないのだ!」

「こちらも同じだ。私がこの剣を手にした以上、負ける訳にいかん!」

 

 互いに勝利という名の栄光を掴む為、剣戟の速度が増した。それに平行するように、真名開放された高ランク宝具同士の激突による余波が結界へのダメージを一気に蓄積させる。

 

「ちょっと不味いなコレ、おい黒歌! そろそろ撤退すんぜ!」

「何でよ! こっちはまだこれからだってのに!」

「結界がやばい! セイバーにも撤退指示出せ!!」

「もう、仕方ないにゃん!!」

 

 正直、悪魔である黒歌が近づくにはきつ過ぎる聖なる波動が発せられているのだが、何とか結界を自身に張る事で近づき、セイバーへ指示を出した。

 

「セイバー!! 撤退するにゃん!!」

「む?」

 

 黒歌の言葉で剣戟が止んだ。最後に一度だけ、渾身の力でぶつかり合った二つの刃から発せられた聖なる波動は黒歌が己に張った結界を吹き飛ばし、黒歌は冷や汗を流したが、とりあえず止まってくれて安堵する。

 

「あんた達の戦いで折角の結界がぶっ壊れちゃったにゃん、援軍が来ると厄介だから帰るわよ」

「……仕方ないか」

 

 潮時だと判断したのか、セイバーは無毀なる湖光(アロンダイト)を消してアーチャーに背を向けた。

 アーチャーも勝利すべき黄金の剣(カリバーン)を消すと、アーシアの後ろへ飛び、腕を組んだ。

 

「この勝負は預けたぞアーチャー、いずれ貴公とは決着を付ける」

「望むところだ、セイバー」

 

 セイバーが霊体化して消えるのと同時に、黒歌は美猴に抱えられ金斗雲で飛び去り、転移魔法陣の中へと消えていった。

 

「……ふぅ」

「はふぅ」

 

 アーチャーとアーシアが同時に溜息を零すと、アーシアは堕天聖女の(ダウンフォール・セイント・)弓鎧(アナザー・アーマー)が解けて元のドレス姿に戻った。

 右手には壊れたかと思われた堕天聖女の弓籠手(ダウンフォール・セイント・ドレッドノート)が健在なのだが、一応後でアザゼルに見て貰う必要がある。

 

「アーシア先輩、アーチャーさん……」

「あ、小猫ちゃん」

「あの、ありがとうございました……」

 

 一人で出て、危うく連れ去られる所だった小猫はアーシアとアーチャーに向かって頭を下げる。心なしかいつの間にか出ていた猫耳が垂れ下がり、尻尾も力無く下がっていた。

 

「……小猫ちゃん」

 

 そっと、アーシアが小猫を抱きしめた。それを見て、アーチャーは苦言の一つでも言おうかと思っていたのを引っ込め、マスターのやりたい様にやらせる事にする為、不適な笑みを零して霊体化する。

 

「無事で、良かったです」

「……はい」

「もう、一人で無茶なことはしないでくださいね? 小猫ちゃんがいなくなったら、部長さんも、イッセーさんも、オカルト研究部の皆さん全員が悲しみます……私も、悲しいです」

「……ごめんなさい」

 

 優しく頭を撫でてくれるアーシアの手が心地良くて、小猫の尻尾が揺れ、猫耳がピクピクと動く。

 

「アーシア先輩……」

「どうしました?」

「胸のロザリオ……痛いです」

「きゃあ!? ご、ごめんなさいぃ~!?」

 

 悪魔にロザリオを押し付けるとは何たる所業かと、己のマスターの天然っぷりに霊体のままのアーチャーが吹き零し、周りでもリアスや一誠が大笑いしている。

 戦いが終わり、笑顔が咲いた。白と黒の猫姉妹の問題は先送りになってしまったが、今はこうして、笑い合える事の喜びを、噛み締める一同であった。




次回は一先ず猫姉妹の話は終わり、リアスとソーナのレーティングゲームに向けての話ですが……どうしてこうなった、白猫が百合にw

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