ハイスクールD×D~堕ちた聖女の剣~   作:剣の舞姫

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レーティングゲームは正直、原作通りなので、リアスとソーナのゲーム中の話は完全オリジナルで進みます。


第六十三話 「事件」

ハイスクールD×D

~堕ちた聖女の剣~

 

第六十三話

「事件」

 

 黒歌とセイバーの襲撃が終わり、パーティーも何とか無事に終了した。グレモリー邸に帰ってきたリアス達グレモリー眷属とアザゼル、ガブリエル、アーシア、アーチャー、藍華、アサシン、ルイーナはそれぞれの時間を過ごしている。

 そんな中、アーシアと藍華の部屋をアザゼルが訪れていた。

 

「悪いなアーシア、休んでる所を」

「いえ、それよりアザゼル先生は何か御用があったのではないですか?」

「ああ、ちょっとお前の耳に……アーチャーとアサシンの耳に入れた方が良い懸案があってな」

 

 それを聞いて、霊体化していたアーチャーとアサシンが実体化する。どうにも只事ではない様子なのは、彼の表情を見れば一目瞭然だ。

 

「最近な、冥界と人間界で子供の行方不明事件が多発してるんだ……それも、魔術の痕跡を残した事件がな」

 

 最近になって、アザゼルはアーシアやアーチャーの使う魔術の痕跡を見つける方法を確立したらしく、それを使って調べたところ、冥界と人間界、双方で起きている子供の行方不明事件には魔術師が関わっているのではないかと睨んだらしい。

 

「この世界に私達の知らない魔術師が居ると、そういう事か?」

「もしくは、前に聞いたサーヴァントのクラス……魔術師(キャスター)の可能性も睨んでるぜ」

 

 実はこの世界にも魔術回路の存在に気づいた魔術師が居るのかもしれない。もしくは、召喚されたキャスターが起こした事件の可能性もある。

 

「でもよ、もしキャスターの仕業だとして、子供を攫う理由がわからねぇ」

「魂喰いであろうな」

「……おいアサシン、何だよそれ、その胸糞悪い名称は」

「これについては私よりもアーチャー、そなたの方が詳しかろう?」

「……我々サーヴァントにとって、魂とは餌というだけの話だ」

 

 アーチャーが語るのは、第二要素である魂と、第三要素である精神はサーヴァントにとってマスターからの魔力供給以外に、自前の魔力を供給する為の『食事』であるという事だ。

 サーヴァントは魂や精神を喰らう事で己の魔力を増やしたり、若干だが強化が可能だ。稀に弱いサーヴァントを召喚したマスターは己のサーヴァントに魂喰いをさせて強化する者も居る。

 

「……ちょっと、あんた達ってそんな恐ろしい存在なの?」

「まぁ、本質的にはそういうモノだが、私は魂を喰らうより米を食う方が好み故、そのようなモノを食す気は早々無い」

「私は必要があればするが、マスターがその気が無いのにする訳が無い」

「許しませんからね?」

 

 笑顔で釘を刺されたアーチャーは苦笑しながらアザゼルと向き合う。

 

「恐らくはキャスターの仕業だろう。キャスター自身の趣味なのか、それともマスターの指示なのかは不明だが、人間や悪魔の子供を攫い、その魂をキャスターが喰らう……聖杯戦争であれば有効な手段だ」

 

 サーヴァントとしての戦術上では有効だろうが、それでも胸糞悪い話なのは当然で、アザゼルは遣る瀬無いという顔をしている。

 

「なぁアーシア……お前に依頼したいんだが」

「事件の調査ですよね?」

「ああ、もし本当にキャスター絡みなら、お前が担当だ……任せても構わねぇか? 勿論、協力は惜しまないぜ」

「わかりました……私も、こんな事、許せませんから」

「あ、あたしも! あたしも……手伝うよ、アーシア」

 

 藍華も、アーシアが出るのであれば自分も協力すると言ってきた。アサシンのマスターとして、もしキャスターと戦うことになれば力になれる筈だと、自分は魔術師としての知識は皆無であっても、何か協力出来る筈だと。

 勿論、アーシアの友人として、アーシアに任せっきりにするのは性に合わないというのもあるが。

 

「ありがとうございます、桐生さん……それじゃあアザゼル先生、ここから一番近い事件現場に案内して頂けますか?」

「ああ、任せろ」

 

 早速、動く事にした。リアス達には少し用事があるからと言って、ルイーナとガブリエルが付いて来たが、護衛という意味では最適だろうと判断したアザゼルが許可したので、一行は馬車に乗り込んだ。

 

 

 

 冥界の子供が行方不明になったであろう場所、そこに到着した一行は早速だがアザゼルが魔術の痕跡を確認した場所を調べていた。

 解析魔術を使えるアーシアとアーチャー、二人が手分けして一帯の解析を行って、その間に他の痕跡は無いかとアザゼル、ガブリエル、ルイーナが調べている。

 

「これは……」

「気づいたか、マスター」

「はい……でも、この気配は」

 

 最悪の気配を感じた。少なくとも、まともな魔術師であれば即座に発狂するであろう魔術の痕跡と気配……これは、クトゥルフ系の魔術の痕跡だ。

 

「クトゥルフ系って?」

「マスター、私に聞くでない。私は魔術については門外漢だ」

 

 魔術に詳しくない藍華がアサシンに聞いてみるも、アサシンとて魔術は基礎知識こそあっても専門家ではないので理解出来ていない。

 

「クトゥルフ系の魔術というのは、簡単に言えばクトゥルフ神話の神々を祖とする魔術の系統なんです。基本的に外道の知識の集大成なので、普通の感性を持つ人間であれば簡単に発狂するような魔術なので、それ専門の魔術師でなければ扱えない代物ですね」

「クトゥルフ系の魔術は魔道書の存在が有名だ。桐生藍華、君でもネクロノミコンやナコト写本、ルルイエ異本などの名は聞き覚えがある筈だが?」

「あ、ゲームとかで聞いたことあるかも……」

「これ、水の属性を帯びてますから……ルルイエ異本か、水神クタアト、どちらかの系統の魔術ですね」

 

 果たして、この魔術の痕跡がマスターによるものか、それともサーヴァントによるものかは不明だが、ここでクトゥルフ系統の魔術が使用されたのは間違いない。

 

「アザゼル先生、そちらはどうですか?」

「一応、ガブリエルが気づいたんだが……聖剣を使った痕跡があるな」

「聖剣ですか……」

 

 聖剣とクトゥルフ系魔術、随分と相性の悪い二つが揃ったものだ。

 この後、他の場所も周って見たが、その全てで同じくクトゥルフ系魔術の痕跡と聖剣の痕跡が発見された。

 つまり、犯人は同一人物。更に言うなら、状況的にマスターが聖剣使い、キャスターがクトゥルフ系魔術の使い手であろうという事も予想出来る。

 

「厄介だな」

「ええ、厄介ですわね」

 

 アザゼルとガブリエルの言いたいことは理解出来る。もしかしたら、キャスターのマスターは教会のエクソシストか、はぐれエクソシストの可能性が出てきたのだから。

 

「ガブリエル様、確か過去に聖剣を受領したエクソシストの名前は教会が保管してますよね?」

「ええ、アーシアさんの言う通り、正式なエクソシストであろうと、はぐれエクソシストであろうと、現在聖剣を所持している者の名は保管していますし、天界でも把握していますわ」

 

 人間の子供まで誘拐しているとなると、はぐれエクソシストが怪しいが、だからといって正式なエクソシストも可能性として挙げられない訳ではない。

 ガブリエルは早速だが天界へ一時帰還してミカエルと共に調べる事になった。

 

「んじゃ、ルイーナにはおつかいな」

「お使いですか?」

「おう、シェムハザの所に行って現在確認されている聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)の所持者全員をリストアップしてくれ」

「わかりました」

 

 聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)とは、木場祐斗の魔剣創造(ソード・バース)の聖剣バージョンの事で、聖剣を作る事が出来る神器(セイクリッド・ギア)の事だ。

 

「んじゃ、そろそろ戻ろうぜ。時間的に子供は寝る時間だ」

「そう、ですね……私も眠くなりましたぁ」

「あたしも、ちょっと眠いかな」

 

 馬車に乗り込み、グレモリー邸へ移動する間に、アーシアと藍華は限界が来たのか眠ってしまった。

 アザゼルは二人の教え子に毛布を掛けると、実体化したままのアーチャーとアサシンと向き合う。

 

「んで、お前達はキャスターの正体に気づいたのか?」

「いや、現時点では情報が交錯していて確信しているというレベルに至っていない」

「私はそもそも然程詳しく無い故、気づけという方が無理というものよ」

 

 ルルイエ異本も水神クタアトも、いずれも歴史上の所有者についての知識はアーチャーにもあるが、現状ではこれだというアタリは付けられていない。

 そもそも別の可能性とて考えなければならないのだ。実はマスターが聖剣と魔道書の両方を所持している可能性、これも十分可能性として考えられる。

 

「とりあえず言えるのは……ソーナ・シトリーとのレーティングゲームを控えているリアス・グレモリー達には、この事を内密にする必要があるという事だ」

「だな。あいつらにはゲームに集中して貰わなきゃならねぇし、余計な心配を掛ける訳にいかねぇ」

 

 正体不明の犯人に対する怒りと、教え子達への心配の板挟みになっているアザゼルに同情するアーチャーとアサシンは、それぞれ己のマスターに目を向ける。

 これから二人は、更に激化した戦いに巻き込まれる事になるのだ。自分達の所為で、このあどけない寝顔を見せる少女達を、血の匂いと死の気配が支配する戦場に。

 

「アーチャーよ」

「何だ?」

「私は存外、このマスターを……藍華殿を気に入っているのやもしれぬ。守りたいなどと、生前含めて初めて思った事よな」

「そうか……」

 

 それは、アーチャーも同じだ。アーシアを、この心優しいマスターを、心の底から守りたいと、そう思っているのだから。

 そうしている間に、5人を乗せた馬車はグレモリー邸に近づき、残りの道程も穏やかに過ぎ去るのだった。




次回はリアスとソーナのレーティングゲームの開始時期、その裏側で動くアーシア達のお話です。

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