ハイスクールD×D
~堕ちた聖女の剣~
第四話
「聖女、学校に通う」
駒王学園のいつもと変わらない朝の光景。8時30分にHRが始まり、担任のどうでも良い話をだらだら聞かされ、その後に授業が始まるという普通の日常に、この日だけは一匙のスパイスが加えられた。
2年のとあるクラスに転入生が来たのだ。それもイタリア出身で金髪碧眼の超絶美少女、保護欲をそそる笑顔が可憐な少女の名は、アーシア・アルジェントという。
「(あ、あの……アーチャーさん? 流石に美少女とか、可憐って言葉は私には)」
『む、聞こえていたか』
霊体化して後ろに立っているアーチャーから聞こえてきた念話にアーシアがツッコミを入れつつ、自己紹介を済ませると、途端に男子がいきり立った。
無理も無い。アーシアの容姿は正に芸術品と言っても過言ではないのだ。西洋が生んだ美の芸術とも呼ぶべき可憐な美貌、それに思春期の男子が反応しない訳が無い。
「(も、もう! 怒りますよ!?)」
『フッ……事実を言ったまでだ』
クラスを見渡せば見知った顔があった。リアス・グレモリーの眷属の一人であり、アーシアの友人だという悪魔、イッセーこと兵藤一誠。
どうやら、彼の所属するクラスに転入した事になったらしい。見ればイッセーもアーシアの姿を見て驚愕の表情を浮かべている。
「イッセーさん、よろしくお願いします」
「あ、アーシア……何で学校に、転入!?」
イッセーの前に来て礼儀正しく頭を下げたアーシアの姿にイッセーが己が疑問をぶつけるが、すぐに周囲の視線に気がついたようだ。
それもそうだろう。アーシアのような美少女転校生と最初から知り合いなど、他の初対面の男子生徒達から見れば羨むべき事請け合い。
クラスの男子生徒殆どからイッセーは殺気を向けられ顔色が真っ青になっていた。
「イッセーさん?」
「え、えと……アーシア、後で話そう」
「はい!」
アーシアはイッセーにもう一度だけ頭を下げると、自分に割り振られた席に座る。その背後には霊体化したままのアーチャーも待機して人生初の授業が始まった。
「(アーチャーさん、まだ日本語が上手く理解出来ませんけど、大丈夫でしょうか?)」
『心配はいらん。所々私が通訳するから、君は安心して授業を受けたまえ』
アーチャーが付いて来た理由は簡単。アーシアの護衛兼通訳の為だ。
アーシア自身、日本語を話すのは大分上手になったのだが、まだまだ聞き取るのに苦難しており、アーチャーが通訳する事で理解出来なかった点を埋める事にしているのだ。
『しかし、学校か……』
「(アーチャーさんも学生だった頃があったんですか?)」
『ああ、もう随分と昔の話なので、殆ど覚えてないが……随分と五月蝿い担任が居て、心許せる友人も居たような気がするな』
アーシアは、既にアーチャーの真名を聞いている。
アーチャーの真名、英霊エミヤ。生前の名を衛宮士郎という日本人だった。それも現代の英雄なので、10代の頃は普通に学生をしていたという話も聞いていた。
「(アーチャーさんの本当のお名前は、あまり口に出さない方が良いんですよね?)」
『ああ、そうしてくれ。この時代、この世界に私の真名を知る者など存在しないだろうが、それでも英霊が真名をマスター以外に知られるというのは危険だ』
偽造した戸籍すら衛宮士郎ではなく別の名前を使っているほど徹底しているのだ。あまり真名は公にしたくはない。
『それからアーシア』
「(はい?)」
『放課後、覚悟をしておいた方が良いだろう……恐らく向こうから接触してくる筈だ』
アーチャーが霊体のまま目を向けた先には、一匹の丸い図体をした小さな蝙蝠らしき生き物が窓の外にある木の枝に隠れてアーシアを監視していた。
恐らくはリアス・グレモリーの使い魔なのだろう。もっとも、こちらもアーチャーが放った使い魔が現在進行形でリアスを監視しているので御相子だ。
『……さて、どうなる事やら』
放課後、アーチャーの予想通り、アーシアはイッセーと、他のクラスから迎えに来た木場祐斗の二人に連れられて旧校舎にあるオカルト研究部部室に来た。
中に入ると、当然の様にリアス・グレモリー、姫島朱乃、塔城小猫の3人が待っており、各々が若干の敵意らしき感情が混ざった視線を投げてかけている。
「いらっしゃいアーシア・アルジェントさん、オカルト研究部へようこそ」
「は、はい! あの……なぜ、私は此処に呼ばれたのでしょうか?」
「そうね、その話をする前にまずはあの男を呼んで貰えるかしら?」
「えと、アーチャーさんの事ですか? それなら……」
アーシアが言い終わる前に、アーシアの背後に居たアーチャーが霊体化を解いて実体化する。
腕を組み目を閉じたままの姿だが、そこには一切の隙が無く、迂闊に手を出そうものなら即座に殺されてしまうだろうという事は簡単に予測出来た。
「いつから、そこに居たのかしら?」
「いつからと問われてもな、アーシアと共に入ってきたが?」
「姿を消していたのは魔術か何かって事?」
「さて、それを教える必要は無い筈だが?」
アーチャーとリアスの間に火花が散って見えたのは、気のせいではないだろう。
話を戻し、アーシアが此処に呼ばれた理由だが、簡単な話だ。この駒王学園は生徒の一部、及び教職員の半数が悪魔で構成されている悪魔が運営する学園。
アーシアの存在は言わば学園の異物であり、シスターである彼女が何故この学園に転入してきたのか、その真意を知りたいとの事。
「真意ですか。私はアーチャーさんに言われて学園に通う事になっただけなんですけど」
「そう。それで? あなたは何故、主であるアーシアさんをこの学園に通わせようとしたのかしら?」
「……簡単な話だ。彼女はまだ16の少女、今までまともに学校に通った事など無いという話だからな、少しでも年頃の少女らしい生活を営んでもらいたいという、ただのお節介だ」
普通に考えれば悪魔であるリアスが今のアーチャーの話を信じる道理は無い。だが、リアスには少なくとも人を見る目は確かにある。
アーチャーの言葉に嘘は無いと確信出来たのだ。それに、アーシアの過去の話はイッセーから聞いているらしく、十分に同情の余地はあるので、普通の年頃の少女らしい生活をアーシアが営む権利はあると判断した。
「わかったわ。アーシアさんを学園に通わせるのは認める。私だって鬼じゃないわ、どんな身分の人間にだって普通の生活をする権利はあるもの。ただし、オカルト研究部に所属してもらうわね」
監視、なのだろう。それもアーシアの、ではなくアーチャーの。
もっとも、アーシアがオカルト研究部に入部するのはアーチャーにとって問題は無い。むしろ友人と同じ部活に入るというのは、アーシアにとっては良い経験になるだろうと思った。
「あの、オカルト研究部って何をする部活なんですか?」
「そうね……基本的には私たち悪魔の仕事をしているんだけど、アーシアさん……アーシアって呼び捨てで良いかしら?」
「はい! 是非そうしてください」
「ありがとう。それで、アーシアは悪魔じゃないから、契約取りの仕事をする必要は無いわ。だからそうね……部室に居る間はそこに居る部員と楽しくお茶しながらお喋りでもすると良いわね、同じ年代同士、色々と話に花を咲かせる事も出来るでしょう?」
悪魔であるイッセーすら友人だと思っているアーシアの優しさなら、他の悪魔である部員とも仲良くなれるだろう。
悪魔家業は出来ないにしても、彼女には彼女に出来る事をやってもらえば良いのだ。疲れている部員の癒しになったり、女の子同士の話をしたり。
「それでアーチャー、あなただけど」
「私は基本的にアーシアの傍に居るさ。何なら紅茶の用意でもしよう」
「わぁ! 学校でもアーチャーさんの紅茶が飲めるんですね!」
「あら、アーチャーの淹れる紅茶はそんなに美味しいのかしら?」
「昔はイギリスのとある貴族の屋敷で執事をしていた経験があるのでね。紅茶の淹れ方は真っ先に覚えさせられた」
実際に部員全員分の紅茶を用意してみせると、皆がその美味しさに驚き、直ぐにお代わりを要求してきた。
「あなた、アーチャー……弓兵よね?」
「そう名乗った筈だが?」
「
朱乃のツッコミに、アーチャーは何も返さなかった。
「それより、改めてアーシア。ようこそ、オカルト研究部へ、私は部長のリアス・グレモリーよ、よろしくね」
「副部長の姫島朱乃ですわ」
「2年の木場祐斗だよ。クラスは違うから会うのは殆ど部室になるけど、よろしくね」
「1年の塔城小猫です。アーシア先輩、よろしくお願いします」
「んで、改めてよろしくなアーシア! 兵籐一誠だ、同じクラスだから仲良くしようぜ」
これから、彼らがアーシアの友人となる。
クラスでも既に友達が出来たアーシアに、また更に友達が増えたのだ。聖女としてではない、アーシア・アルジェントという普通の女の子としての友達が。
「はい! アーシア・アルジェントです、皆さんよろしくお願いします!」
今のアーシアの笑顔は、本当に輝いていた。
16年間、友達が欲しいと願ってきた彼女に漸く訪れた幸せ、とでも言うべきなのだろう。
「ああ、それから兵藤一誠と木場祐斗」
「何ですか?」
「ん?」
「アーシアに色目使おうものなら斬り捨てるから、そのつもりでいろ」
どこのお父さんだ。この場の全員がツッコミを入れた瞬間だった。
感想でアーチャーは剣以外の宝具は投影できないと言われてますけど、出来ないわけじゃないはずなんですよね。
実際、剣以外の宝具投影が出来ないのであればロー・アイアスの投影だって出来ませんし。
アーチャー・・・つか、エミヤシロウは剣以外の宝具投影は出来るけど、剣の宝具を投影するより余計に魔力を消費する、というのが私の見解です。