ハイスクールD×D~堕ちた聖女の剣~   作:剣の舞姫

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や、やっとここまで……。


第六十八話 「戦いの終わり」

ハイスクールD×D

~堕ちた聖女の剣~

 

第六十八話

「戦いの終わり」

 

 アーチャーと曹操の一合は、圧倒的な下地の差によってアーチャーに軍配が上がった。

 悪魔相手ではないため、聖槍の聖なる波動は何の役にも立たない上、下地の実力差があり過ぎる事に焦った曹操は、このままでは負けると思ったのか己が神器(セイクリッド・ギア)禁手化(バランスブレイク)させる。

 

「これが我が神器(セイクリッド・ギア)黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)禁手(バランスブレイカー)極夜なる(ポーラーナイト・)天輪聖王の(ロンギヌス・)輝廻槍(チャクラヴァルティン)だ」

 

 禁手化(バランスブレイク)をしても槍自体には変化は無い。しかし、曹操の背後に現れたボウリング球のような大きさの7つの球と神々しい輪後光が彼の禁手(バランスブレイカー)ということになるのだろう。

 

「この力はまだ未完成で調整中なのだが、貴様を相手に出し惜しみをしている訳にはいかないようだ」

「ほう……ならばその未完成の力ごと、私は貴様を斬るまでだ」

 

 言うや否や、アーチャーは干将・莫耶を構えて走り出す。対する曹操は冷静に、この状況下で使うべき二つの力を選出し、発動させた。

 球体の一つが曹操の足元に移動し、曹操は軽々と飛び上がり、飛翔したのだ。

 

「これが七宝の一つ、象宝(ハッティラタナ)の力! そしてこれが!!」

 

 更にもう一つの球体……七宝の一つが槍状になってアーチャーに襲い掛かった。

 放たれた七宝がアーチャーの手に持つ干将・莫耶を破壊し、そのまま背後に移動して後ろから串刺しにしようとしたのだろう。

 だが、その程度で倒されるほどアーチャーは甘くはないし、そもそもアーチャーと曹操では、まだまだ潜って来た修羅場の数が違うのだ。

 

「ふん!」

 

 槍には槍を、とでも言いたいのか、アーチャーは一本の紅い槍を投影して七宝を迎撃、結果として七宝はまるで初めからそこに存在していなかったかのように掻き消されてしまった。

 

「そ、そんな……俺の輪宝(チャッカラタナ)が」

「悪いが、魔力を用いているのならこの槍に貴様の攻撃は無意味と知れ……破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)!!」

 

 放たれたのはケルト神話における英雄、輝く貌の異名を持つフィオナ騎士団が一番槍ディルムッド・オディナの持つ破魔の槍だ。

 勿論、この槍自体は原典であり、尚且つ投影品でランクダウンしている為、かの英雄が持つ真作と比べれば破魔の力も劣化しているが、それでも未完成の力如きに負けるような投影品を、アーチャーが作る筈も無い。

 

「ぐ、うぅぅ!?」

「ほう、避けたか」

 

 ギリギリで、曹操は破魔槍の穂先を回避したものの、背後にあった七宝の大半が破壊されてしまった。

 迎撃にと空中では身動き出来ないであろうアーチャーに、自身の聖槍による突刺を放ったが、アーチャーが左手に投影した黄色い短槍によって弾き返され、その短槍が曹操の右肩を穿つ。

 

「がぁっ!?」

 

 右肩を穿たれ、破魔槍によって足元の象宝(ハッティラタナ)までもが破壊された曹操は地面へと叩き落されてしまった。

 血を流す右肩を見て、着地したアーチャーが襲い掛からないのを不思議に思いながらも懐から取り出したフェニックスの涙を呑んで回復しようとしたのだが……。

 

「馬鹿な!? フェニックスの涙で傷が癒えないだと!?」

「無駄だ。この短槍……必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)で付けられた傷は、この槍を破壊するか、私を殺す以外に癒す方法が無い不治の呪いを与える」

「クッ……先ほどの破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)、まさか貴様、ディルムッド・オディナか?」

「まさか、私はかの魔貌とは比べ物にならないほど霊格の低いサーヴァントだ」

 

 しかし、たとえ霊格の低い守護者なれど、人間相手に負けるような英霊ではない。

 

「さて、その肩の傷で何処まで戦えるのか疑問だが……ここらで殺すとしようか」

「グッ……」

 

 右肩の負傷で槍はまともに振れず、七宝も大半が破壊され、残ったのは未完成の物か、男性であるアーチャーには効果の無い物だけ。

 完全に手詰まりになった曹操は視界の隅で猛攻を続けるバーサーカーと、それを柳の如き立ち振る舞いで避け続けるアサシンに気づいた。

 

「なるほど、これは分が悪いな……バーサーカー!!」

 

 すると、アサシンと戦っていたバーサーカーは突如猛攻を止め、霊体化する。そして曹操自身も先ほどのジャンヌとキャスター同様に霧に包まれた。

 

「させるか!」

 

 逃がさないとばかりに破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)を投擲するが、既に霧に包まれた曹操は転移した後のようで、双槍は霧を掻き消して向こう側の木の幹に突き刺さってしまった。

 

「逃げられたか……アサシン」

「うむ、こちらは特に外傷も無い。彼奴め巨躯でありながら素早いが、狂化の影響か戦い易くなっておったわ」

「そのバーサーカーに、私は負けた訳だが……まぁ貴様と私では実力が違うか」

「いや何、貴殿とて戦い様であろう? 彼奴の猛攻は確かに判断力を鈍らせるやもしれぬが、所詮はその程度、獣の相手ほど容易いことは無い」

 

 あれはどちらかと言えば猛獣の類なのだが、それをただの獣と言ってしまう辺り、アサシンの凄さを垣間見た気がする。

 とにかく、アサシンが無事なのを確認したアーチャーは己のマスターの身体を使っているアーシェへと目を向けた。

 

「それで、君はいつまでマスターの身体を乗っ取っているつもりだ?」

『あら、乗っ取るだなんて心外ですね。ただあの子の心を守っていただけなのに』

「……アーシアの心象風景と言ったな。つまり、マスターは」

『ええ、貴方同様に固有結界持ちの魔術師です。まさか人間でありながら悪魔や妖精の失われた秘術を使えるとは、些か驚きですが』

「その秘術を魔術で再現したのが固有結界だ」

『なるほど、魔術というのは奥深いものですね……あら?』

 

 ふと、アーシェの紅い瞳がアーシア本来の碧い瞳へと点滅を始めた。

 

「ふむ、マスターが目覚めるのか」

『そのようです。ただ、注意してくださいね? 今後、私が目覚めた影響でアーシアさんの魔術回路に変化が起きた事と、それから彼女の心如何では固有結界が反転する恐れがあるという事を』

「十分、留意しておこう」

『そうして下さい。一応は、私が内側から彼女の固有結界が簡単に反転しないように防護しますが、限界がありますので』

 

 因みに、その防護をするので手一杯になるので、今後再びアーシェが表に出てくる事は無いらしい。

 しかし、先ほどアーシェが言っていたように、アーシェが目覚めた影響でアーシアの魔術回路に変異が起きた為、彼女の本来の治癒魔術以外に洗礼詠唱などの使用も可能になった事から、アーシェの力をアーシアが使う事も可能なのだ。

 

『では最後に……貴方の宝具を完全な状態で使いたいのであれば聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)聖母の慈愛(トワイライト・グレース)禁手化(バランスブレイク)させることです』

「……何?」

『では、これにて……どうぞお父様と、それからアザゼル小父さんによろしくお伝え下さい』

 

 点滅していた瞳の色が完全に碧になった瞬間、アーシェは意識を失って倒れてしまった。慌ててアーチャーが抱きとめると、どうやらアーシアは眠っているのか可愛らしい寝息が聞こえる。

 

「ね、ねぇ……アーシアは大丈夫なの?」

「ああ、問題ない。今はただ眠っているだけだ」

「然様か。しかしこのような場所で寝かせる訳にもいかぬ。少し落ち着ける場所へと移動すべきであろう? 藍華殿も流石に疲れたであろうしな」

「そうね、魔力ってやつ? それが随分と減った感じよ」

 

 宝具を持たないアサシンは比較的燃費の良いサーヴァントなのだが、そもそも藍華の魔力の絶対量が少ないので、短時間の戦闘でも随分と魔力を消費してしまったらしい。

 なのでサーヴァント二人はマスター達を休ませるため、それぞれのマスターを抱きかかえると、その場から高速で移動を開始した。

 

「……おや、どうやら終わってしまったみたいですな、マスター」

「そんなぁ、せっかくここまで来たのに……」

「そう落ち込みまするな。機会はまた再び巡ってくる事でしょうし、今日のところはヴァーリ殿の所へ帰りましょう」

「そう、ですね。セイバー、帰りましょう?」

「御意」

 

 アーチャー達が立ち去った後、そこには先日戦ったセイバーと、典型的な魔女のような姿をした少女が立っていた。

 しかし、既にその場での戦闘は終了して、アーチャー達も居ない為、用事を果たせなかった二人は静かにその場から消える。

 

「いずれ、お会いしましょうね? ご先祖様の剣を使った弓兵さん」




次回にて冥界地獄のヘルキャット編も終わりです。
その次は体育館裏のホーリー編……つまり、お坊ちゃんフルボッコ編ですw

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