ハイスクールD×D~堕ちた聖女の剣~   作:剣の舞姫

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ほんと、お仕事忙しいと日曜にしか更新出来ませんわ。


第七十一話 「次のゲーム」

ハイスクールD×D

~堕ちた聖女の剣~

 

第七十一話

「次のゲーム」

 

 夏休み中に行われたリアス率いるグレモリー眷属VSソーナ率いるシトリー眷属によるレーティングゲームが終わり、新学期が始まって早々だが、次の若手悪魔のレーティングゲームの対戦表と日程が決まったとアザゼルから連絡が入ったのは朝の事だった。

 その日は通常通りの授業が終わってから放課後、オカルト研究部の面々は部室に集まり、少し遅れてきたアザゼルに誰もが注目していた。

 

「よう、揃ってんな」

「ええ、それでアザゼル……先生、次のゲームの対戦表は?」

「そう慌てるなよ、今から読み上げるから確り聞け」

 

 次のレーティングゲームが行われるのは一ヵ月後、最初に行われるのはグレモリー眷属VSディオドラ・アスタロト率いるアスタロト眷属、その翌日に若手ナンバーワンと謳われるサイラオーグ・バアル率いるバアル眷属VSシーグヴァイラ・アガレス率いるアガレス眷属だ。

 

「あれ、先生……あのヤンキー野郎は?」

「グラシャラボラスの方は、前回のサイラオーグとの戦いでゼファードルが精神的に再起不能になったからソーナ達の不戦勝だ」

「再起不能? サイラオーグってば、若手悪魔最強とは聞いてたけど、そんなに強くなってたのね」

「ああ、俺も試合を見せてもらったが……正直、サイラオーグは強い。眷属の質はグレモリー眷属だって負けてないが、サイラオーグは別格だ」

 

 アザゼルから見る限り、サイラオーグの実力はリアス含めグレモリー眷属の誰もが現時点では敵わない程だという。

 丁度、アザゼルが持ってきた映像データがあったので、それを見せてもらったが、サイラオーグは魔力が無い為に魔法を使えず、代わりに己が拳のみでゼファードルが何重にも張った防御シールド魔法を貫き、ゼファードルを殴り倒していた。

 生半可な攻撃では一切傷つかない屈強の肉体と、どんな防御すらも貫く鋼の拳、バアル家の生まれでありながら滅びの魔力はおろか、魔力そのものを持って生まれなかったサイラオーグは、限界まで己の肉体を鍛え上げた、正に究極の努力型。

 そして、努力とは時に、才能の無い者でも天才を下す程の結果を齎す事がある。サイラオーグはそれを体言した努力の体現者だ。

 

「私の雷なら……無理ですわね、彼の肉体を傷つけるには火力が足りませんわ」

「僕の剣も、かな。速度では勝てるだろうけど、決め手に欠けてる」

「デュランダルならあるいは……いや、これほどの実力者では当てる事が出来るかどうか」

「わたしはもう最初から勝ち目が無いなぁ」

「私も、拳が軽くてダメージが期待出来そうにありません」

 

 朱乃、祐斗、ゼノヴィア、イリナ、小猫はサイラオーグの戦いを見て、自分達では彼に勝つのは不可能だと悟った。

 非戦闘員のギャスパーはそもそもサイラオーグの鬼気迫る映像を見た瞬間からダンボールに避難しているので、彼もまた同様に勝てる見込みは無い。

 

「部長は、どうっすか?」

「……魔法が当たれば、何とか。でも無理ね、私の魔法はチャージに時間が掛かる物ばかりだから、その間に距離を詰められて終わるわ」

「そう、お前らは現時点で誰もサイラオーグに勝てない。唯一可能性があるとしたら……イッセーくらいか?」

「お、俺!?」

 

 確かに、一誠は禁手(バランスブレイカー)に至ってから実力が跳ね上がった。しかも、禁手化(バランスブレイク)中は常に倍加して力を上げていくから、下地さえ更に鍛え上げれば序盤の倍加で十分サイラオーグに並べる可能性がある。

 

「アーチャー、イッセーに教えてる八極拳はどうなんだ?」

「ふむ……筋は良い。才能は確かに無いが、本人が強くなりたいという意思を持っているから成長も人並みとは言えずとも、確かに感じられる」

「なるほどなぁ……」

 

 それに加え、一誠はアサシンから剣を習い始めたので、アスカロンを使った剣術の方もこれから上達が見込める。

 次のアスタロト眷属とのゲームが終われば、次はアガレスかバアルのどちらかとゲームを行う事になるのは間違いないので、今から更に修練を積めば一誠もサイラオーグと互角に戦えるようになるかもしれない。

 

「しかし、今はバアル殿の事よりも目先の問題に目を向けるべきであろう? アザゼル殿、アスタロト眷属とやらの試合の映像はあるのだろうか?」

「あ~……まぁ、あるっちゃあ、あるぜ」

 

 急にアザゼルの顔色が曇った。ディオドラ率いるアスタロト眷属に何か問題でもあるのだろうか。

 

「そういえば、シーグヴァイラが前回、ディオドラと戦ったのよね? やっぱりシーグヴァイラが勝ったのかしら」

「まぁ、普通はそう思うわな。シーグヴァイラは知力に長けた悪魔で、ゲームを有利に進める事において若手悪魔の中ならソーナと並び立つ程だ」

 

 アザゼルがそこまで評価するシーグヴァイラだが、ディオドラとの試合の結果は……アガレス眷属の敗北というものだった。

 

「なっ!? シーグヴァイラが、負けたですって!? ありえないわ!! ディオドラは確かに魔王様を輩出したアスタロト家の出身だけど、彼本人の実力は突出した物が無い平凡なものだったはずよ」

「ああ、そうだな。確かにディオドラ・アスタロトは大した実力じゃない。魔力の扱いではリアスに、戦略ではソーナに、知力ではシーグヴァイラ・アガレスに、腕力ではサイラオーグ・バアルに、それぞれ劣っている。唯一ディドラ・アスタロトが勝てそうな相手はゼファードル・グラシャラボラスくらいなもんだ」

 

 故に、ディオドラがシーグヴァイラに勝てる要因が全く無いのにも関わらず、結果がディオドラの勝利という事に対してリアスは納得出来ないのだ。

 

「なら、実際に見せてやるよ……先日行われたアスタロト眷族とアガレス眷属のゲーム映像をな」

 

 先ほどのサイラオーグとゼファードルの試合映像の時と同様、空中ディスプレイに映し出されたのはディオドラとシーグヴァイラの試合映像だ。

 序盤は順調にアガレス眷属がアスタロト眷属を押していて、次々とリタイアさせていく。このまま行けば通常ならシーグヴァイラの勝利を疑わないだろう。

 だが、試合結果が逆転してしまった理由は次にあった。突如、シーグヴァイラ達と戦っていたディオドラは、急に先ほどまでとは桁違いの動き、いつものディオドラではあり得ない量の魔力の行使でシーグヴァイラを圧倒、そのまま(キング)であるシーグヴァイラを討ち取って勝利したのだ。

 

「妙、ですね」

 

 誰もが思っていた事を、祐斗が代表して口にした。そう、明らかに変なのだ。途中からのディオドラの急激なパワーアップが、余りにも不自然過ぎる。

 

「力を隠していた? いえ、確かに自分の実力を隠すのは常套手段でしょうけど、だからってこれはいくらなんでも隠していたというには実力が跳ね上がりすぎよ!」

「ああ、それは実際に試合を見ていた俺だって思った事だぜ。だからサーゼクスにも進言したが、一先ずは調査をしてみるとよ」

 

 このとき、アザゼルの脳裏にはディオドラの謎のパワーアップの正体について凡その検討が付いていた。

 龍の手(トゥワイス・クリティカル)にしてはパワーアップの度合いが高すぎる点、ディオドラには人工神器など渡した覚えが無いという点、何より試合を会場で見ていたアザゼルだからこそ気づけたディオドラの魔力自体が突然増えたという事実、これらを鑑みると、自ずと答えは見えてくる。

 

「まぁ、ディオドラのパワーアップの件は一先ず置いておけ。それより、次の試合はそのディオドラだって事だ」

「そうですわね。こんなパワーアップをする相手となりますと、序盤の実力と終盤の実力の差に戸惑わないようにしなければ」

「そういうこった。幸い、眷属の質は間違いなくリアスのが上だし、王としての実力、カリスマなんてのもリアスが圧倒的に上を行く。そのパワーアップさえ警戒しておけば勝てない相手ではないぜ」

 

 シーグヴァイラが負けたのも、その急激なパワーアップに戸惑ってしまった隙を突かれたに過ぎない。

 ならば、最初からディオドラが途中からパワーアップする相手だと思って警戒しておけば、十分に対処する事は出来る。

 

「今回は私も桐生さんも応援に行きますね!」

「おう! 応援頼むなアーシア! 桐生!」

「ま、兵藤がドジしないよう祈って置くわね」

 

 決して勝てない相手ではない。それが分かって安心したのか、部員たちはいつもの雰囲気に戻ったのだが、その空気も直ぐに壊れる事となる。

 何故なら突如、部室の中央に転移魔法の陣が展開されたのだから。それも、その陣に描かれている紋様は、アスタロト家の家紋。

 

「どうも、リアス・グレモリー嬢、そしてグレモリー眷属の皆さん。アスタロト家次期当主、ディオドラ・アスタロトです」

 

 転移してきたのは、先ほどの試合映像でも見ていた優男。若手悪魔の会合にも出席していたアスタロト家次期当主、ディオドラ・アスタロトだった。

 

「ディオドラ……連絡も無しに、一体何の用なのかしら?」

「いえいえ、今日はリアス・グレモリーに用なのではなくて、そちらの……アーシア・アルジェント代表に用があったのさ」

 

 そう言って、ディオドラはアーチャーに紅茶のおかわりを淹れて貰っていたアーシアに目を向けた。

 

「私、ですか……?」

「ええ、そうですよアルジェント代表……いや、ここはあえてアーシアと呼ばせて貰おうか。久しぶりだねアーシア! 僕だよ、ディオドラだ! 昔、君に命を救って貰った恩、僕は忘れたことが無い」

「昔、命を……? ……っ!?」

 

 命を救ったと言われても直ぐにはピンと来なかったアーシアだが、過去に悪魔の命を救った経験など一つしか無い。

 そのことを思い出し、そしてアーシア自身が聖女から魔女と呼び名が変わる切欠となった悪魔の正体が、目の前の男だと気付いた。

 

「あなたは、あの時の……」

「ああ! 思い出してくれたかい? さぁ、迎えに来たよアーシア! 僕はあのとき命を救われた時からずっと、君を愛していた! だから、僕と結婚してくれないか?」

 

 中立勢力の代表として悪魔側の魔王と同等の立場にあるアーシアに、一介の若手悪魔風情にしか過ぎないディオドラがプロポーズをした。

 これは、アーシア・アルジェントという聖女が、己の過去に決着をつける戦いへの、始まりに過ぎない。

 名ばかりの中立勢力代表の椅子に座っていたアーシアが、本当の意味で中立勢力代表として堂々と看板を掲げる事になるのは、まだ先の話。




次回、ディオドラ本格登場! 
己の立場も弁えず、魔王と同格の立場にあるアーシアにプロポーズをしたディオドラの運命や如何に!

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