ハイスクールD×D~堕ちた聖女の剣~   作:剣の舞姫

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最近整体に行ってきました。
首が、回るようになった……!


第七十二話 「傲慢なるアスタロト」

ハイスクールD×D

~堕ちた聖女の剣~

 

第七十二話

「傲慢なるアスタロト」

 

 アスタロト家次期当主、ディオドラ・アスタロト。現魔王、アジュカ・アスタロト……今のアジュカ・ベルゼブブの従兄弟に当たり、アジュカが魔王となった事でアスタロト家次期当主の資格を失った為、代わりに次期当主の座に座る事となった若手悪魔だ。

 その性格は温厚穏やかで、争い事は余り好まない紳士な性格と言われ、いつも笑みを絶やさない甘いルックスからイケメン若手悪魔として冥界の女性層から高い人気を誇る。

 更に、彼の眷属は全員が元人間の女性で、人間好きな悪魔だという噂もある彼は悪魔と人間の架け橋になれる存在なのではないかと注目する悪魔もいる程だ。

 そんなディオドラ・アスタロトが一介の若手悪魔という立場も弁えず、名ばかりとは言え中立勢力代表のアーシアに対して求婚した。

 それはつまり……死にたいという事なのだろう。

 

「ちょっ!? アーチャーさんストップ! ストップ!!」

「離せ兵藤一誠、私はただ、あの小僧を17分割にしてくるだけだ」

「アンタ何処の殺人貴!!?」

 

 アーシアの後ろで“七ツ夜”と刻印されたナイフを投影して構えるアーチャーを一誠が必死に抑えている中、アーシアは自身にプロポーズをしてきたディオドラと対峙していた。

 更に、ディオドラと同じ若手悪魔という立場にあるリアスも、今回ばかりはアーシアの友人という立場ではなく、一人の若手悪魔としてディオドラの行いを批判している。

 

「ディオドラ、あなた正気かしら? 私たちのような一介の若手悪魔が、アーシア……アルジェント代表にプロポーズなんて、外交問題になるわ」

「君こそ正気かい? リアス、彼女は確かに中立勢力代表という事にはなっているが、所詮は形だけの名ばかり組織の代表だ。形式上は魔王様と同格とされていても、実質的権限は持ち合わせていないし、老悪魔達はむしろ彼女を疎ましく思っている程だ」

 

 事実だ。確かに、アーシアは中立勢力代表として魔王、神の子を見張る者(グリゴリ)総督、熾天使(セラフ)から認められ、同等の立場として見られているが、それはあくまでトップの間での話だ。

 神の子を見張る者(グリゴリ)や天界は然程でもないが、教会上層部や冥界の上層部にとっては所詮は追放された元聖女が魔術に手を出した本物の魔女、所詮は名ばかりの代表に過ぎない下等生物、そんな認識しか持たれていない。

 

「でも、だからこそ僕は彼女に婚姻を持ちかけたんだ。彼女を救うのに、僕と結婚する事が何よりの重要だからね」

「どういう事だ?」

「簡単ですよアザゼル総督、彼女は今の立場に無理して座る必要は無いんだ。僕と結婚し、僕の眷属になればアーシアは若手悪魔の一人の眷属としての立場になる。教会も冥界上層部もそれで彼女が分相応な立場に納まったと納得出来れば、彼女の危うい立場も解消されるんだよ」

 

 世間的には若手悪魔、ディオドラ・アスタロトが自身の眷属と結婚するという形になる。純潔悪魔が転生悪魔との結婚は、と懸念されもするが、そこはディオドラが純潔悪魔を正妻に迎え、アーシアを側室にするという方法を取る事で解消されるというのが、ディオドラの意見だ。

 

「ふざけんな!! アーシアを愛してるから結婚しようとか言っておきながら、側室として迎えるだと!? テメェ、アーシアを何だと思ってやがる!!」

「その言葉、貴様は私のマスターを侮辱したと見るが、構わんのだな?」

「ふん、薄汚いドラゴン君と、アーシアを今の立場に座らせた不幸を呼ぶしか能の無い使い魔如きが、口を挟まないで貰おうか」

 

 一誠を薄汚いドラゴン、アーチャーを不幸を呼ぶしか能の無い使い魔、そう称したディオドラの態度は、完全に二人を見下していた。

 ディオドラにとって、赤龍帝といえど所詮は転生悪魔風情に過ぎず、情報として聞いた英霊とやらも下等生物が少し力を付けただけの蛮族でしかないのだ。

 しかし、ディオドラにとってはそうでも、彼がプロポーズした相手にとってはそうではない。アーシアにとって一誠は初めての友達で、アーチャーは家族であり……何よりも初恋の想い人だ。そんな二人を侮辱されたアーシアが、黙っている訳が無い。

 

「ディオドラさん」

「なんだい? アーシア、あの薄汚い二人の事は放って置いて何でも聞いてくれ」

「っ! これ以上、私の友人と家族を侮辱しないでください!」

 

 アーシアは太もものホルダーに収めていた黒鍵の柄を3本抜き取り、右手の指の間に挟むと、刃を生成してディオドラに突きつけた。

 その行動に驚いたのはディオドラで、ディオドラの知る心優しい聖女だったアーシアにはあり得ない行動に驚いていた。

 

「な、あ、アーシア……?」

「立場を弁えてください、ディオドラ・アスタロトさん。私は名ばかりとはいえど、一勢力の代表です。本来ならあなたが気軽に名前を呼び捨てることなど許されないのを見逃しているのに、それに加えて友人と家族を侮辱された以上、冥界には貴方の事を報告させて頂き、然るべき処罰を受けて頂きます」

「ちょ、ちょっと待ってくれアーシア! 君は、そんなこと出来る人間じゃ……」

「失せてください。これ以上、私の視界に入る事を許しません」

 

 アーシアの視線は、冷たかった。あの穏やかで、慈愛に満ちた瞳を持つアーシアが、ここまで冷たい瞳をしているという事は、ディオドラは間違いなくアーシアの逆鱗に触れたという事だ。

 これ以上、今の状態のアーシアと話すのは得策ではないと判断したディオドラは一歩下がり。

 

「……今日の所は、これで失礼しよう。どうやらアーシアの機嫌が良くないみたいだからね……でも、僕は諦めないよ。アーシア、君を必ず妻として迎え入れて見せる」

 

 そう言い残して再び転移魔方陣で冥界へと帰って行った。

 

「凄い気迫だったわねアーシア……えと、私もアルジェント代表とお呼びするべきかしら?」

「はぅ!? 部長さん達はアーシアって呼んでください~、えっとその……部長さん達は皆、お友達ですから」

 

 リアス達なら、もう友人だと思っているからこそファーストネームで呼ぶ事を許している。だが、ディオドラは、友人と認めたわけでもないし、そもそも出会ったのだって今回の事を除けば過去に怪我をしている所を治した時だけ。

 ディオドラとリアスでは、同じ若手悪魔であってもアーシアから得られている信頼に天と地ほどの差があるのだ。

 

「それにしても、アーシアちゃんは強くなりましたわね」

「だな。まさか教会の戦士ですら怯みそうになるほどの気迫を出せるとは……アーシアにはエクソシストの才能もあったのか?」

「確かに! アーシアさんなら良いエクソシストになりそうよね!」

「あの、えっと、私は戦いの才能がありませんから、エクソシストには……」

「でも、才能だけではエクソシストになれないと思うよ。まぁ、アーシアさんがエクソシストになったら、流石に僕も困るけど」

「だよなぁ、アーシアはエクソシストってより、やっぱ聖女って感じが一番似合ってるぜ」

「です。アーシア先輩は、みんなの聖女ですから」

「うぅ、アーシア先輩、カッコいいですぅ」

 

 アーシアがリアス達に揉みくちゃにされているのを尻目に、アーチャーは部室の片隅でアサシン、藍華と先ほどの事について中立勢力所属としての意見を述べていた。

 

「ディオドラ・アスタロトの言っていた事は、確かに的を射ている点があるな」

「ふむ、我らは勢力と名乗るには些か少数故、あのような舐めた者が現れるのも必須よ」

「でも、それはそれでムカつくわ」

 

 現状、まだ代表のアーシアと、アーチャー、アサシン、藍華の4人の勢力だ。少数の弱小勢力と言われればそれまで。

 

「アザゼルは、もしヴァーリ・ルシファーの説得が出来れば、その仲間を含めてアーシアに面倒を見てもらいたいと言っている。つまり、中立勢力がヴァーリチームを引き取るということだ」

「白龍皇であったか? しかも先代ルシファーの子孫、闘仙勝仏の末裔に猫又、セイバーとそのマスター、確かに我らが勢力に加入する事で戦力が大幅にアップするな」

「でもさ、人数はそれでも大して大きくはならないわよね」

 

 個人の戦力が大きければ人数は問題にはならないが、それでも場合によっては人数の不利が悪条件となる事もありえる。

 だから、これから先は中立勢力を更に拡大する事も検討しなければならないのだ。

 

「本来なら、マスターの立場を確立する為だけの、本当に名ばかりの勢力だったが、ここに来てそれが仇となるか」

 

 だからこそ、ディオドラなどという小物に付け込まれてしまった。

 

「アーチャー、聖杯戦争は本当に7騎のサーヴァントしか参加不可能なのだろうか?」

「……いや、反則を使えば8騎目のサーヴァントというのもあり得る。それに、場合によっては聖杯戦争ではなく、聖杯大戦という14騎のサーヴァントがチーム戦をするパターンもある」

「ふむふむ」

「それに、聖杯戦争でも聖杯大戦でも、共通するのは聖杯戦争そのものが成り立たなくなるような事態が発生した際、聖杯により裁定者が召喚されるという事だ」

「裁定者……?」

「そうだ。とはいえ、私もサーヴァントとして聖杯戦争に召喚された際に聖杯から与えられた知識の記録でしか知らないが、裁定者ルーラーの適正を持つ英霊が、聖杯戦争続行を不可能にする可能性のあるルール違反を犯したマスターとサーヴァントを律する、または罰する為に、聖杯自身が召喚する……らしい」

「その、ルーラー? ってクラスの適正はどんなのがあるの?」

「さて、流石にこれ以上の情報は大聖杯側が秘匿していたのもあり、知識として与えられる事は無かったが、推測する事は出来るな。裁定者というのだから、大方物事を中立の立場で見れる者が選ばれるのだろう」

 

 これはアーチャーの推測になるのだが、ルーラーのクラス適正を持つのは裁定者というだけあり、聖人と呼ばれた者を予想している。

 聖処女ジャンヌ・ダルク、聖女マルタ、聖人ゲオルギウス、仏教の聖人として有名な三蔵法師こと玄奘三蔵などがアーチャーが予想したルーラークラスの該当者だ。

 

「ちなみに、人が召喚しようとするとジャンヌ・ダルクとゲオルギウスはセイバー、マルタはライダー、玄奘三蔵はキャスター辺りに落ち着くだろうな」

「うん? ゲオルギウスは兵藤が使ってるアスカロンの持ち主って話だし、玄奘三蔵はまぁ法師って事でキャスターなのは納得だけど、ジャンヌ・ダルクとマルタって聖女はなんで?」

「ジャンヌ・ダルクは伝承では聖カトリーヌの剣を所持していたという話だ。恐らくは彼女の宝具なのだろう、聖女マルタに関してはタラスクという龍を手懐け、退治したという逸話がある……マルタに関しては恐らくライダー至上初のドラゴンライダーになる可能性があるな」

 

 因みに、マルタに関しては剣を使ったという話が無いもののアーチャーの剣の丘には聖カトリーヌの剣が存在しているので、その情報を読み取れば歴代の担い手の一人としてジャンヌ・ダルクが出てきて彼女の事を知る事が出来た。

 

「まぁ、もし今回の事態でルーラーが召喚されたとして、こちらの陣営に引き込めるか否かは、不明だ」

「ふむ、前途多難よな」

 

 気楽に言ってくれるアーチャーとアサシンに、隣で藍華が頭を抱え、同時に自分達の代表であるアーシアの今後の苦労を思うと、少しは力になろうと心に決めるのだった。




次回は、久しぶりに登場、ヴァーリきゅんと……再び対峙する剣と弓。

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