ハイスクールD×D~堕ちた聖女の剣~   作:剣の舞姫

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お待たせしてしまいました。


第七十七話 「最高の騎士(ヒトヅマニア)は女好き」

ハイスクールD×D

~堕ちた聖女の剣~

 

第七十七話

最高の騎士(ヒトヅマニア)は女好き」

 

 ライダーと、そのマスターであるフリードが去った後、リアスは先ほどまで戦っていたアーチャーとセイバーがそれぞれのマスターの後ろに立ったのを確認して改めてセイバーと、そのマスターに視線を向けた。

 

「それで、セイバーが居るって事は貴女……禍の団(カオス・ブリゲード)ね?」

「はい、ヴァーリ様が率いるヴァーリチームの一員、セイバーさんのマスターでルフェイ・ペンドラゴンと言います」

「ペンドラゴン……あのアーサー王の子孫の家系ね」

 

 所謂、英雄の子孫という奴なのだが、英雄派ではなくヴァーリチームのメンバーだというルフェイだが、それは別段どうでも良い。

 今、この場で考慮すべきはセイバーの存在と、何故彼らがアーシアと共に戦っていたのか、だ。

 

「そこの所はどうなのかしら? アーチャー」

「ふむ、君の疑念は最もだが……まぁ安心したまえよ、少なくとも私もアーシアも君達を裏切るつもりはない。ただ、セイバーのマスターとは停戦協定を結んだだけだ」

「停戦協定?」

「ああ、なんでもヴァーリ・ルシファーの提案らしい」

 

 ヴァーリが言うには、いずれ彼らがアーシアの力を借りるかもしれないという事、それについては少しだけ暈かして、簡潔にセイバー陣営とアーチャー陣営は敵対行動を取らないという事になったと伝えた。

 

「そう、じゃあ少しだけ話を聞かせて……そうね、セイバーは、間違いなく湖の騎士サー・ランスロットなのね?」

「いかにも、この身は畏れ多くも最高の騎士などと分不相応な呼び名を頂戴している湖の騎士、アロンダイトの担い手です」

 

 リアスに問われ、兜を脱いだセイバー……ランスロットは長髪に幸薄そうな表情の美顔を晒しながら己が正体を明かした。

 

「頭が痛いわね、アーサー王の子孫のサーヴァントが円卓最強の騎士だなんて」

「リアス・グレモリー殿、私は最強などと呼ばれるような騎士ではありませぬ。我が王に忠誠を誓い、王に剣を捧げた身として迫り来る敵を屠ってきただけの存在、でありながら最終的に不忠を働き円卓と、ブリテン崩壊の引き金を引いた愚か者、不忠の騎士に過ぎません」

 

 例え、周りが、歴史がランスロットを円卓最強の騎士と認めようと、本人は頑なに己を円卓最強の騎士とは認めなかった。

 円卓を滅ぼす切欠を作った自分が、どの面下げて円卓最強などと語れようか。その名は、同じ円卓に所属し、誰よりも輝いていた太陽の騎士にこそ相応しいのだと。

 

「まぁ、あなたの身の上は正直、なんとも言えないけど……それで、アーシア達とは敵対しないという事で良いのよね? その、騎士の誓いとやらに賭けて」

「ええ、無論です。たとえ不忠の騎士であろうと、それでもこの身は騎士の端くれ。約定は違えませぬ。いや、寧ろ……」

 

 すると、突然ランスロットは鎧も消して黒いスーツ姿になり跪くと、そっとリアスの手を取って、その美貌を誇る顔を見上げた。

 

「貴女のような美しい御仁となら、私はマスターに貴女方とも停戦協定を結ぶよう進言致しましょう」

「え、え~と……?」

 

 突然何事かと思ったリアスだったが、ナンパらしきことをしてくるランスロットに顔を真っ赤にしたルフェイが詰め寄って強引に引き剥がしたため何とか気を取り直した。

 

「もう! どうしてそう、女性なら手当たり次第なんですか!!?」

「いやぁ、はっはっはっ! 申し訳ないマスター、如何せん美しいご婦人を見ると、口説かずにはいられない性分でしてな」

「って、あなた生前のこと、何も反省してないじゃないですかぁ!」

 

 セイバー陣営が何やら言い争い(主にマスターが攻め立ててる)をしている間に、アーシアはアーチャーと共にリアスの横に並ぶ。

 その際、アーシアの表情は憧れた円卓の騎士最強と謳われるランスロットの素の性格に、どこか落胆していたのは言うまでもないだろう。何せ、彼女はアーサー王伝説が最も有名な欧州出身なのだから。

 

「こほん、えっとですね。こちらからは協定の証としてアーシアさんと他のサーヴァントについて情報交換をしましたので、それはそちらで自由にして頂いて構いません」

「良いのかしら? たしかそっちにも他のマスターが居たはずだけど」

「ええ、ヴァーリ様も問題は無いと仰ってますから」

 

 どうやら曹操の事やジャンヌの事はヴァーリ自身、仲間と思っていないようで、彼らの情報を渡す事について何ら制限を掛けていない。

 

「えっと、私達はそろそろ失礼します。ヴァーリ様からメールが来まして」

 

 そう言ってルフェイはスマートフォンを取り出すと、画面に映ったSNSアプリの画面を見せる。そこにはヴァーリの名前と「美味いラーメン屋を見つけた、食わせてやるから来い」という文字が。

 

「そ、そう……なら、情報は感謝するわね」

「いえいえ……それじゃセイバーさん、行きますよ」

「な!? 暫しお待ちをマスター! せめてリアス殿と連絡先の交換を……!」

「良いから行きますよヒトヅマニア!」

「ヒトヅッ!? そ、それは私のことですか!?」

 

 ランスロットが着ているスーツの裾を引っ張って強引に歩き出したルフェイと、ヒトヅマニア呼ばわりにショックを受けるランスロットにリアスは困惑しつつもルフェイの苦労を想い、そっと心の中でエールを送った。

 

「あの、アーチャーさん」

「む?」

「円卓の騎士の方々は、皆さんあんな感じなのでしょうか……?」

「……いや、どうだろうな」

 

 英霊エミヤの記録にある円卓の騎士達……もう一人のヒトヅマニアの弓騎士に、円卓の借金取りこと太陽の騎士、父上大好きツンデレ叛逆の騎士、胃薬が欠かせない働きすぎ文官騎士、使い魔にシスベシと言われている魔術師、唯一と言って良いかもしれない常識人にしてアーサー王の最期を看取った銀騎士。

 彼らを思い浮かべるとベディヴィエールとアグラヴェインくらいしかまともな騎士が居ない気がする。

 

「まぁ、アルトリアの部下達だ……騎士としての実力は確かだろう」

「あの、実力ではなく人格面は……」

「実力は、確かだ」

 

 そう、円卓の騎士は実力こそ確かだろうが、人格面は……正直、なんとも言いがたいのだ。

 

「それよりもだマスター、ライダーについてだが」

「は、はい」

「奴は現状、宝具を二つ失った状態だ。槍はアザゼルに預けてあり、戦車(チャリオット)も先ほどの戦いで破壊した」

「でも、ライダーさんにはまだ……」

「そうだ、まだ宝具はある。それも、奴を不死身たらしめる肉体の宝具と、更に俊足のアキレウスの具現である宝具、他にも奴が持つ盾もまた宝具のようだ」

 

 解析してみた結果、あの盾はかなり厄介な宝具である事が判った。あの盾については対処のしようもあるが、他の二つについては厄介極まりない。

 

「不死については何とかなるとしても、俊足の宝具は対処法が無い」

「そう、なんですか?」

「ああ、奴の速度に追いつけるとすれば……アサシンか、もしくはランサーとして召喚されたクー・フーリンくらいだろう」

 

 アサシンでありながらランサーやライダーを超える敏捷値を持つ佐々木小次郎と、ランサーとして召喚されたなら速度で言えばサーヴァント界トップクラスになるクー・フーリン、この二名くらいしかアキレウスに追いつける者は思い浮かばなかった。

 

「桐生藍華とアサシンの存在は、対ライダー戦において重要になるな」

「あの、でもアサシンさんではライダーさんに傷を付ける事は……」

「ああ、だからアサシンにはライダー戦において燕返しを封印してでもこれを使って貰おうと思っている」

 

 そう言って、アーチャーが投影したのは一本の刀だった。水色の柄紐と雷模様の鍔が特徴のその刀の刀身は、雷を帯びている。

 

「立花道雪が雷神を切った事で雷を纏うようになった神殺しの刀、千鳥……又の名を雷切」

「神殺しの……」

 

 雷神という神を斬ったという逸話を持つこの刀ならば、ライダーの宝具を突破して肉体に傷を付けられる筈だ。

 アサシンが使う物干し竿よりも尺が短い刀ではあるが、アサシン程の剣士ならば使いこなせるだろう。

 

「セイバーは持ち前の宝具がある、アサシンには雷切を渡す、そして私もライダーに有効な宝具を所持しているから、奴の速度さえ何とか出来れば勝てる」

「……はい」

 

 問題があるとすれば、アーシアの魔力だろうか。

 最初の頃より多少魔力が増加して、堕天聖女の(ダウンフォール・セイント・)弓鎧(アナザーアーマー)のお陰で禁手化(バランスブレイク)中ならば更に魔力が増えた。

 しかし、それでも根本的な解決になっていない。アーチャーが真名開放出来る宝具の数には限りがあるし、宝具の投影も数に上限がある。そもそもアーチャー本来の宝具を1分しか使えない状況は、アーチャー陣営の弱点なのだ。

 

「アーシア、気にする必要はない」

「アーチャーさん……」

「私は君がマスターで良かった、確かに魔術師としてはまだまだ未熟で、魔力も不足しているのかもしれないが……君は間違いなく最高のマスターだ。アーシアがマスターである限り、私は最強のサーヴァントであり続ける」

 

 前にも言っていた事だ。アーチャーは、アーシア・アルジェントという歴代最高の聖女をマスターに持つサーヴァントであり、そのアーチャーが最強でない筈が無いと。

 

「(でも……それじゃ駄目なんです)」

 

 アーシアはアーチャーから寄せられる絶対の信頼に目を背けて己の令呪に視線を向けた。

 

「(強くなりたい……魔術師としてアーチャーさんの足を引っ張るような、足枷にはなりたくありません)」

 

 初めて、アーシアとアーチャーの心がすれ違った気がした。アーシアが未熟であろうと、最高のマスターだと断言するアーチャーと、そんな言葉から顔を背けてしまい己の未熟を恥じるアーシア。

 聖女と弓兵、二人の心は……今は確かに、離れていた。




次回は再び登場するゲスドラ君、しかし今のアーシアとアーチャーの状態を考えると……。

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