遅れた言い訳です。
ハイスクールD×D
~堕ちた聖女の剣~
番外編1
「IF未来:死徒の女王」
彼が居なくなってから、どれ程の時が流れただろうか。
満月の夜、ふと過去を思い返すのはブロンドが美しい髪をストレートに伸ばした女性だった。シスター服を身に纏うその女性は、言うなれば絶世の美女とでも言うべきだろう。
しかし、その女性が立っている場所は、誰もが振り向くような美女にはとてもではないが似つかわしくない場所だ。
「ふぅ……ご馳走様でした」
一面、血の海。多くの人間の……それも食い千切ったのではないかと思われる傷跡ばかりが残る亡骸が転がり、辺り一面を真っ赤に染められた大地に、その女性は同じく口元を血で汚しながら立っていたのだ。
「アーシア様、お食事中でしたか?」
「あら、アルトちゃん」
物思いに耽る女性……その正体は200年前まで聖女アーシア・アルジェントと呼ばれていた元人間であり、現在は死徒と呼ばれる吸血鬼の王だった。
そして、アルトと呼ばれた黒髪のロングヘアーが美しい女性は、アーシアが100年前に血を吸って己の死徒にした元人間だ。
「どうかしましたか?」
「いえ、実はアーシア様にお会いしたいと申している悪魔が居りまして……」
「悪魔、ですか」
随分と久しぶりに聞いた種族名だ。200年以上を生きてきて、人間だった頃は兎も角、死徒になってから最後に悪魔に会ったのは……アーシアが覚えている限りだと80年くらい前だったか。
「それで、その悪魔の方は私に何の御用ですか?」
「それが、ただアーシア様に会わせろと……自分はアーシア様の知り合いだと仰ってます」
「私の知り合い……」
さて、アーシアの知り合いの悪魔などそれなりに居るが……今現在も生きている悪魔で知り合いと言えば。
「アーシア!」
「やはり、あなた方でしたか……イッセーさん、リアスさん、ゼノヴィアさん」
アーシアとアルトの前に現れたのは、懐かしい顔だった。
最上級悪魔の一角、最弱無敗の赤龍帝こと兵藤一誠、同じく最上級悪魔で紅髪の殲滅淑女ことリアス・グレモリー、上級悪魔で聖剣デュランダル使いのゼノヴィア・クァルタ。
三人とも、アーシアがまだ人間だった頃の知り合いであり、ある日を境に袂を分って以来、こうして会うのは200年ぶりだ。
「やっぱり……噂になってた死徒27祖の王は貴女だったのね、アーシア」
「うふふ、有名になっちゃいましたねぇ私も……ええ、そうですよ。私が死徒27祖の王にして開祖、死徒27祖第1位“屍王”アーシア・アルジェントです」
「同じく、死徒27祖第5位“血と契約の支配者”アルトです」
本来、死徒など存在しない世界。吸血鬼の国がルーマニアに存在しているこの世界において、200年前に現れた死徒の存在は脅威となった。
死徒の誕生に伴い、吸血鬼の国は衰退、今では吸血鬼と言えば死徒を指し示すような時代になってしまったのだ。
「あ、アーシアが、27祖の屍王だと?」
「あらゼノヴィアさん、ご存知無かったのですか?」
「……噂で、屍王は元シスターだとは聞いていた、だがそれがアーシアだなんて、信じたくなかった」
「お優しいですねぇ」
さて、旧交を深めるのもこの辺にして、態々こんな人間界の田舎くんだりまで最上級悪魔二人と上級悪魔一人が尋ねてきたのだ。いったい、何の用事で200年も顔を会わせていなかった旧友を探し出したのか。
「アーシア、一つ聞かせて頂戴……此処最近人間界で起きている
「
「な!? ほ、ホントか? アーシア!」
「ええ、知っていますとも……だって、その事件の犯人、私ですから」
「「「なっ!?」」」
アーシアの突然の告白に、リアスも一誠も、それにゼノヴィアも驚愕して、そして警戒するように構えを取った。
「いったい、何故そんな真似を? それに、行方不明になった人達をどうしたの?」
「理由ですか……私はある
「あ、アー、シア……一体、何を?」
「うふふふふ、お会いしたいですか? 行方不明になった人達に」
すると、アーシアは右足の爪先で軽く足元にある自身の影にトンッと叩く。途端に、アーシアの影が伸びて周囲に広がり、影の中から出てきたのは……身体のいたるところに肉の欠損などが見受けられる
「
「この子達の魂は私の食事なんです。残った肉体は捨てるのも勿体無いですし、こうして私の
たまに死徒へと成長する子も居て面白いんです。などと笑顔で語るアーシアの姿は、200年前の、正しく聖女と呼ばれていた心優しい少女だった頃の面影なんて欠片も存在していなかった。
「さて、せっかくですし私からもリアスさん達にお聞きしたいことが」
「聞きたいこと?」
「ええ、私が捜し求めている
「せ、
「ええそうです。昔の、あの戦いでヴァレリーさんが殺されて、200年も経ったのですから、そろそろ今代の聖杯所有者が現れても良い頃だと思うのですが」
嘗ての
特に、リアスは当時を思い出すだけで胸が張り裂ける思いに駆られていた。当然だろう、何故ならその時に、ヴァレリーと共にリアスの眷属も一人、殺されているのだから。
「……知らないわ。もし、見つけたらどうするのかしら?」
「決まってるじゃないですかぁ~……奪って使わせて頂くんですよ。私がもう一度、アーチャーさんに会う為に」
「っ!? まだ、諦めていなかったの?」
「諦める? 何を? まさか、アーチャーさんの事をですか? ……あは、あははははははは!! 面白いご冗談ですねリアスさん! 思わず……殺したくなっちゃったじゃないですかぁ」
すると、碧眼だったアーシアの瞳が金色に輝き、リアス達の動きが鈍くなった。
「ぐっ!?」
「な、動けねぇ!?」
「あの眼……魔眼か!?」
「魅了の魔眼、死徒になった事で後天的に得た魔眼ですが、何かと重宝するんですよ」
そう言いながら、アーシアはアルトから一本の剣を受け取った。
「ありがとう、アルトちゃん」
「いえ」
鞘から抜き放たれたのは、一本の魔剣だ。細身の刀身が特徴の細剣、それはアーシアの長年の相棒にして数多くの血を吸い禍々しさを増した真の意味で魔に属するようになった魔剣だ。
「あなた方の来訪理由はわかっています……私に、これ以上人間を殺すなって仰りたいんですよね? でも、残念ですが……私も食事をしないと困る理由がありますから、それは聞けません」
次々とアーシアの影の中から
「もし、見逃して頂けるのでしたら、命までは取りません。ですが、これ以上私の目的を邪魔するのであれば……殺しますよ?」
黄金の瞳の瞳孔が細められ、突如三人を強烈な殺気が襲う。思わず寒気がしそうになるほど、恐ろしい殺気を、あのアーシアが放っているのだと、思いたくなくともこれが現実だった。
負ける気は、最初は無かったのに……なまじ長生きをして実力もついたからこそ、今のアーシアの実力に気付いてしまって、今の戦力では勝てないと判断した三人は見逃すという選択肢を取るしか、道はない。
「そう、それで良いんです。では、またいつか、今度はアーチャーさんも交えて同窓会でもしましょうね」
この日より数年後、今代の
D×D世界における死徒27祖について。
開祖はアーシアで、そのメンバーの大半はアーシアが吸血した事で死徒になった者達ばかり。
特に第5位の“血と契約の支配者”、第9位“龍血鬼”、第17位“灯幻凶”の三名はアーシアに心酔しているとも言えます。