よし、後はお盆に遠距離中の彼女にプロポーズするだけだ。
ハイスクールD×D
~堕ちた聖女の剣~
第八十話
「聖女の怒り」
アスタロト眷属とのレーティングゲームが始まるまであと少し、グレモリー眷属チームの控室はある意味緊張感に満ちていた。
リアスにとってはゲーム一つ一つが将来に関わる大事なものであるが故に、朱乃にとってもそんなリアスを支える
そんな中、リラックスしている者が一名と、何を考えているのか不明な者が一名。前者は猫耳を出したままアーシアの膝枕を堪能する小猫、後者は当然アーシアだ。
小猫に膝枕をしながらアーシアは瞑想しており、時折頬などの皮膚に可視化された魔術回路の光が浮かび上がっては消えるというのを繰り返している。
「……(回路16本全て異常無し、各種礼装も点検は怠っていませんし、魔力も十分あります。特に
既にアーシアは左手に
両太腿のホルダーには合計16本の黒鍵の柄が括り付けられており、マグダラの聖骸布や魔剣フォーリン、プライウェン、変化の魔術でブーツに加工したヘルメスのサンダルの用意も出来ていて、着ているシスター服もアーチャー特製の特別仕様、現時点でフルアーマー状態だ。
因みに、聖水に漬け込んだ銀糸が織り込まれたシスター服を着ているアーシアの膝枕に直接頭を乗せるのは危険という事で小猫は枕をアーシアの膝に置いている。寒気と怖気がするのは甘えたいという欲望と気合で堪えているのだ。
「にゃあ」
「……小猫ちゃん、あの」
「大丈夫です。ゲーム開始前には下ります」
「いえ、そうではなくて、あまり動いて服に触らないで下さいね? 冗談抜きで消滅してしまいますから」
アーシアのシスター服に使っている銀糸を漬け込んだ聖水には大天使ガブリエルの祝福がこれでもかと言わんばかりに込められているので、並みの悪魔が触れれば火傷だけでは済まない。
事実、枕越しなのに小猫の後頭部は先ほどからチリチリと痛いのだから、その効果は言うまでもないだろう。
「イッセー、間違ってもアーシアに
「わ、わかってますってば部長! 流石に仲間に使うほど俺も馬鹿じゃないっす」
使えば最後、一誠に待っているのは全身串刺しの刑なのだから、使うわけがない。
「さて、そろそろ時間ね」
控室の時計を見れば、確かにゲーム開始時刻が迫っていた。各自、己の武器の最終確認をしていると、ついにゲーム開始時間となった。
『これより、グレモリー眷属とアスタロト眷属のレーティングゲームを開始します。各陣営、ゲームフィールドへ転移しますのでご用意をお願いします』
リアス達の足元に転移用の魔法陣が展開される。これから転移されればゲーム開始となるので、緊張感は最高潮に達していた。
「さあ、行くわよ皆!」
「「「「「「「はい、部長!」」」」」」
「い、行きます!」
気合十分、必ず勝つという意気込みで転移されると、そこは予定されていたゲームフィールドではなく、しかも上空には数えきれない程の悪魔がこちらに武器や魔法陣を向けて構えている光景が広がっていた。
「な、何だよこれ!?」
「イッセー! 構えなさい!!」
驚いて構えを解いてしまった一誠に一本の槍が投擲されたが、咄嗟にリアスが滅びの魔力で槍を消滅させると、気を抜いていた一誠を叱責する。
慌てて
「ぎゃあああああああああああ!?」
魔力を感じるのと同時に悲鳴が直ぐ近くで響き渡る。全員そちらに目を向ければ、アーシアの傍に両手が煙を上げながら消滅しているディオドラの姿があり、あまりの激痛に転げまわっているではないか。
「ディオドラ!?」
「あああああああああ!!! な、なんだこれはぁああああ!!!」
おそらく、アーシアの服に触れたのだろう。大天使ガブリエルの祝福と加護が込められた聖水に漬け込んだ銀糸を織り込んだシスター服は恐らくアーシアを拉致しようとしたのであろうディオドラからアーシアを守るのに役に立ったようだ。
「ディオドラ様! 失礼します!!」
直ぐにディオドラを捕えようとしたのだが、ディオドラの女王らしき女性がディオドラを抱きかかえ転移してしまったため逃げられてしまった。
「え、私ってもしかして下手したら頭が消滅してました?」
両手が消滅していたディオドラを見て、小猫は先ほどまで枕越しに膝枕してもらっていた事を思い出し、もし枕がずれていたら頭が消滅していたかもしれないと冷や汗を流す。
「それにしても、どうやらこれはゲームではなさそうね。恐らくディオドラが裏で
襲い掛かってきた悪魔の群れに滅びの魔力による魔法を放ちながらリアスは現状を確認していた。
明らかにこの状況はレーティングゲームとは言えない。そして見たところ旧魔王派らしき悪魔達、これはもうリアスの予想が当たっているとしか言いようがない。
『グッ、うぅ……そう、さ! その通りだよリアス・グレモリー!』
「この声は、ディオドラ!」
突如、リアス達の所にディオドラの声が響いた。どうやら遠隔通信のような形で声だけ届けているらしい。
『本当はアーシアを先に貰う予定だったのだけど、忌々しい加護が邪魔をして触れる事すら出来ないみたいだからね……そうだね、もし元の空間に戻りたければアーシアを裸の状態にして僕に差し出す事だ。この空間は僕にしか解除出来ないから、言う事を聞いた方が身の為だよ? まぁ、僕の所に来るまでに君たちが生きていればの話だけどねぇ』
それだけ言って、ディオドラの声は聞こえなくなった。
「チッ、あのお坊ちゃん野郎! 何がアーシアを裸で渡せだ!!」
「イッセー先輩並みの変態ですね」
「え、あ、あの小猫ちゃん? 俺ってあんな変態野郎と同列なの?」
「残当です」
しかし、どうしたものか。ディオドラの言う通り、彼にしかこの空間を解除出来ないのであれば、どの道ディオドラの所へは行かなければならないのだろうけど、その為には目の前の悪魔の群れをどうにかしなければならない。
攻撃力という点では若手悪魔眷属でもトップクラスのグレモリー眷属だが、流石に数が多すぎて突破するのに時間が掛かってしまう可能性が高い。
時間を掛ければ当然だが体力も魔力も消費して、途中で力尽きるのが目に見えている。
「あらあら、これは困りましたね」
「どうする? デュランダルの最大限の聖なる一撃で突破口を開くか?」
「いや、それはやめた方が良い。デュランダルと
当然、祐斗の聖魔剣と一誠の
「じゃ、じゃあ僕があの人たちの時間を止めて……」
「それしか、無いのかしら」
ギャスパーの力なら、確かに一気に目の前の悪魔の群れの時間を止めて、その間に先に進む事も出来るだろうが、流石に数が多すぎて、以降はギャスパーの体力が残るかどうか。
「みなさん、今の状況はある意味、私が招いたようなものです。ですから、私に任せてください」
最悪、ギャスパーに任せようかと考えていたリアスだったが、アーシアが一歩前に出た事で試行が一時中断された。
「あ、アーシア? 何をするんだ?」
「この状況を、打開します」
アーシアが左手に装備した弓籠手を掲げると、その全身が光に包まれた。
「
先祖返りと人工神器により活性化したアーシアの堕天使の血の力は、アーシアに堕天使の力を与えた。
「光の槍よ!!」
魔力ではなく、堕天使の力によって作られた光の槍の数は数えきれず、その全てがアーシアの背後に展開され、悪魔の群れに光り輝く穂先を向ける。
「
一瞬だった。その一瞬で、空を埋め尽くすのではないかという数の悪魔の群れが、一誠やリアス達の見てる前で、消し飛んだ。
「あ、アーシア……さん?」
その光景に、流石の一誠も思わず呼び捨てる事を躊躇ってしまう。そして、振り返ったアーシアの、正に聖女の如き笑みを見て、引き攣ってしまった。
「さあ、行きましょう皆さん」
この時、この場の全員が悟った。ああ、この子……キレてる。と……。
次回、アーシア無双。