ハイスクールD×D~堕ちた聖女の剣~   作:剣の舞姫

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お待たせしました。お盆休みが終わって、仕事が再開しましたが、何とか執筆意欲が継続してくれました。


第八十三話 「聖女が下す審判」

ハイスクールD×D

~堕ちた聖女の剣~

 

第八十三話

「聖女が下す審判」

 

 ついに、アーシア達はディオドラ・アスタロトの待つ神殿の最奥に辿り着いた。

 大ホールの様に広い最奥部の最も奥の場所に設置された玉座には両腕を失ったディオドラが、それでも余裕だと言わんばかりの表情で優雅に座ってアーシア達を見下ろしている。

 

「やあアーシア、ようやく僕の花嫁になりに来てくれたんだね」

「……」

「後ろの薄汚いドラゴンやリアス達の事なら心配いらないよ? 君が僕の花嫁になると言うのなら、殺さずに人間界へ帰してあげるからね」

「……」

 

 ぺらぺらと、もう勝ったかのように喋り続けるディオドラに対し、俯いたまま沈黙を続けるアーシアの姿に、後ろに立っていたリアス達は寒気のような物を感じていた。

 気温が下がった訳ではない。ただ、アーシアから漏れ出る殺気が、抑えきれない程の殺意が、近くに居るリアス達にはハッキリと感じ取れたからこそ、薄ら寒くなったのだ。

 普段の、殺意とは無縁の心優しい彼女が、殺意を抱くとここまで寒気のするような恐怖を感じてしまうものなのかと。

 

「アーシア? さっきから黙ってどうしたんだい?」

「……主よ」

「え?」

「主よ……生まれて初めて他者を殺めてしまう、罪深き私を、どうか御赦しください。そして……」

 

 そっと、アーシアの左手に現れた三本の柄から刃が伸びて黒鍵となり、右手に亜空間から飛び出した魔剣フォーリンが握られる。

 

「この、余りにも罪深く愚かな男に……」

 

 最後に、背中から6対12枚の黒翼が広げられ、大気が悲鳴を挙げるような重圧が神殿最奥部を支配するのと同時に俯かれていたアーシアの顔が上げられる。

 普段は碧眼の彼女の両瞳の内、左の瞳が紅色に染まり、頭上には天使の輪が現れた。

 

「主に代わり審判を下す事を、御赦し下さい」

 

 一瞬だった。その一瞬でアーシアはディオドラの目の前に現れ、右手のフォーリンを突き刺そうと構え、その堕天の輝きを放つ刃をディオドラの心臓目掛けて突き出した。

 

「なっ!? ぐぅ!?!?!?!?」

 

 ギリギリ躱せたのは、奇跡だった。

 確かに事前にディオドラは“蛇”を飲んでいる。だから両腕こそ最初の段階で失う失態を犯したが、それでも十分アーシア達の実力など取るに足らない程の実力差が出来ていると思っていたのに、アーシアの動きが肉眼で捉えられず、襲い掛かった死の刃を躱せたのも、むしろ躱せた事に自分で驚いた程だ。

 

「ど、どういう事だ!? なぜ癒す事しか能の無い筈のアーシアがあんな動き!?」

「喋る暇なんて与えませんよ」

 

 距離を取ろうとしたディオドラの周囲を囲むように、光の槍が突き刺さり、光の檻となった。即座に翼を広げて宙へ逃げようとしたディオドラだったが、その翼を十字架の剣……黒鍵が射抜く。

 

「ガァアアアアア!? ぼ、僕の翼がぁあああああ!!」

「火葬式典」

 

 ディオドラの翼が突き刺さった黒鍵を中心に炎に焼かれ、数秒で焼失してしまう。翼を失ったディオドラはそのまま床に叩き落とされ、痛みに呻いている間にアーシアが目の前に立っている事に気づいた。

 

「ヒッ!?」

「……」

 

 心優しい、時に母性すら見せる普段のアーシアの目ではない。冷たく、鋭い、殺意の籠った碧と紅のオッドアイがディオドラを見下している。

 徐にアーシアは黒鍵を投擲した事で空いた左手を懐に突っ込むと、ペンダント状の小さな聖書らしき物を取り出した。

 

Avviare(起動)

 

 ネックレスの鎖を引き千切り、ペンダントトップになっている小さな聖書に魔力が流されると、聖書に青白い筋が浮かんで勢い良く開かれた。

 

「な、なんだ……それは?」

「これは、私が作った魔術礼装です。聖書をそのまま小さくしただけでなく、書き込まれている文字に使った墨に私の血を混ぜているこの礼装は、ページの消耗と引き換えに洗礼詠唱を含めた聖言魔術を魔力を通すだけで発動可能にする退魔礼装となりました」

 

 奇しくもそれは、アーシアのサーヴァント、アーチャーの生前の師である遠坂凛の得意とした宝石魔術と原理は似ている。いや、消耗品という点や、魔力を通すだけで大魔術を発動出来るという点などを見るに、ほぼ原理は一緒だと言って良いのかもしれない。

 

「た、退魔……だって?」

「ええ、魔を祓うのはシスターの十八番です……そう、貴方のような罪深き魔を祓うのは」

 

 開かれたページが一枚千切れると、それを握り締めたアーシアは千切れたページに魔力を流す。途端にアーシアの握り拳の隙間から聖なる炎が溢れ出た。

 

Bruciato(焼き尽せ) Fiamma del santo(聖女を殺す焔)

 

 それは、聖人の亡骸を焼いた炎、聖人を火炙りにした炎、聖なる炎だ。聖人を焼いた炎は、それ自体が聖なる属性を持つ為、魔に属する者がその炎を浴びれば、ただ焼かれるだけでは済まされない。

 

「あ……あ、ああ……ああああああああああ!?」

「聖なる焔に焼かれ、汝の罪を存在ごと浄化します……Amen(生には死を)

「ああああああ、ぎゃあああああああああああ!!!!!!!」

 

 聖なる炎が一瞬でディオドラの身体を包み込んだ。身体を炎に焼かれながら聖なるオーラによって蝕まれる激痛がディオドラを襲い、決して消える事のない炎に焼かれながら床を転げ回る。

 

「熱い熱い熱い熱い痛い熱い痛い熱い痛いぃいいいいいいい!!!!!」

 

 何とか炎を消そうと転がっても炎が消える事は無い。やがてディオドラは動きが小さくなり、叫び声にも力が無くなってきた。

 

「あ、あ……ぼ、くは……魔王を、はいしゅ、つした……あす、た、ろ、との……」

 

 アーシアに向かって涙を流しながら助けを求めるように顔を向けたディオドラだったが、その端正な顔はやがて炎に焼かれ、その身は骨すら残さずこの世から消え去った。

 

「ディオドラ・アスタロトさん、あなたの行いは、あるいは悪魔として正しかったのかもしれません。昔の、まだ三大勢力が敵対関係にあった時は、教会の力を削ぐという意味で、あなたが行った事は悪魔という立場から見れば正当性があったのでしょう……でも、私は人間です。人間として、あなたの行いを許す訳にはいきません」

 

 いつの間にか、紅くなっていたアーシアの左の瞳が碧眼に戻り、頭上の輪も消えた。

 神殿内を重く包んでいた重圧も消えて、息苦しさすら感じていたリアス達はようやく一息吐いたとばかりに溜息を零しながらアーシアの下へ歩き出す。

 

「部長、アーシアって強くなったっすね」

「ええ、そうね。でもイッセー、私達も負けてられないわよ?」

「うっす! 部長の為に、俺はもっと強くなりますよ!」

「ええ、期待しているわね」

 

 イッセー、と続く筈だったリアスの言葉は、そこで途切れた。

 リアスの前を歩いていた一誠は、リアスの言葉が途切れた事を怪訝に思いながら振り返れば、そこにリアスの姿は無く、ただ魔力の柱のような物が立ち上っているだけだった。

 

「ぶ、ちょう……?」

「部長!!!」

「リアス!!!」

 

 リアスが消える瞬間を見ていた祐斗と朱乃が慌てて魔力の柱に近づくが、二人が近づいた瞬間に柱が消えて、その真上から巨大な魔力の反応を感じ取る。

 

「ふん、偽りの魔王の妹はこれで片付いたか」

 

 そこに居たのは、軽鎧にマントを身に纏った茶色い長髪の男性悪魔だった。しかも、その身に宿す魔力は魔王クラスに匹敵する程で、只者ではないと誰もが悟る。

 

「ふん! リアス・グレモリーの眷属と、偽りの聖女よ! この真なる魔王、シャルバ・ベルゼブブ様に殺される事を光栄に思うが良い!!」

 

 シャルバ・ベルゼブブ、それは以前にアザゼルから聞かされた旧魔王派に属する先代魔王の子孫達の一人の名だ。

 初代ベルゼブブの血統の一人であり、禍の団(カオス・ブリゲード)の幹部の一人であると目されているこの男の登場によって、安心しきっていたリアスが犠牲になってしまう。

 新たな敵と、消えたリアス、誰もが不味い状況だと思ったその時だった。

 

「ぶ、ちょ……う?」

 

 リアスが消えた事を、その現実を受け止められない一誠が、茫然とリアスが居た場所を見つめて、自然と涙を流しながら誰も居ない空間に手を伸ばしては空を切るを繰り返していた。

 

『相棒』

「ぶちょう……リアス、ぶちょう……」

『落ち着け、相棒』

「おれ……まだぶちょうのおっぱい、ちゃんともませてもらってない……ちゃんと、すきだって、いって……ないのに」

『落ち着け相棒!! 覇に飲まれれば全てが終わるぞ!!!』

「……あ、ああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!! ぶちょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」

 

 何かが切れたように叫び出した一誠は、赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)を展開する。

 その全身から漏れ出るオーラは、いつもの力強いドラゴンのオーラではなく、禍々しい怨念の籠った負のオーラだ。

 

「ころす……ころす……コロス、コロスコロス殺すころすコロス殺すコロス!!! 全部ぶっ殺してやる!!!!!!」

『相棒……そうか、止められないか。姫島朱乃』

「な、なんですの?」

『今すぐ全員を連れて遠くへ逃げろ、もう止められん。巻き込まれれば死ぬぞ……シャルバと言ったな、そこの悪魔……貴様は選択を間違えた』

 

 そして、全ての終わりの始まりを告げる覇道が、紡がれる。

 

『我、目覚めるは』

<始まったよ><始まってしまうね>

 

『覇の理を神より奪いし二天龍なり』

<何時だってそうでした><何時だってそうだった>

 

『無限を嗤い、夢幻を憂う』

<世界が求めるのは><世界が否定するのは>

 

『我、赤き龍の覇王となりて』

<何時だって力でした><何時だって愛だった>

 

『『『『汝を紅蓮の煉獄に沈めよう―――――』』』』

 

『Juggernaut Drive‼‼‼‼‼‼‼‼』

 

 赤き龍の、悲哀に満ちた憎悪の咆哮が、響き渡る。




次回は、まぁアーシアの立ち位置がリアスになったってだけで、ほぼ原作と同じですが、一部サーヴァントが存在しているからこその違いを出せればと思います。

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