お待たせしました。データが消えるなどのトラブルに見舞われましたが、漸く書きあがったので、2021年初投稿となります。
ハイスクールD×D
~堕ちた聖女の剣~
第八十五話
「二天龍」
おっぱいドラゴンの歌、それは作詞・作曲を魔王サーゼクス・ルシファーと堕天使総督アザゼルが、振り付けを魔王セラフォルー・レヴィアタンが行い、更に魔王アジュカ・ベルゼブブと魔王ファルビウム・アスモデウス、熾天使の長ミカエルが出資して作られた赤龍帝・兵藤一誠専用の子供向け楽曲だ。
その内容は一言で言うならば……子供向けと謳うには下品極まりない。赤龍帝ドライグが大泣きする未来しか見えないソレは、制作関係者一同がドライグに土下座するべきものだった。
「それで深層心理を揺さぶられてるイッセーさんが相棒って、ドライグさんも悲劇ですねぇ」
目の前で頭を抱えながらもがき苦しむ暴走状態の一誠の姿に、遠い目をして現実逃避するアーシアの気持ちを、この場のアザゼル以外の全員が理解してくれるだろう。
「一先ず、動きが止まった今の内に何とかしなければ暴走も解除されまい」
殺さず、一誠の意識を奪う為にと、アーチャーが投影したのは一本の大金槌だ。それも普通の金槌ではなく、宝具に分類される戦槌だった。
「おいアーチャー、それは……」
「
アザゼルの問いに答える事なく、アーチャーは戦鎚の真名解放を行う。真名を解放した事で戦鎚……
「ほう、北欧神話の神、雷神トールの雷鎚か……良いな、やはり弓兵、君とは一度戦ってみたいものだ」
「私も興味がありますね、ヴァーリの話では我が先祖の剣を、それも天界が作った名ばかりの贋作物ではなく、真作に最も近い物を持っていたという話ですし」
ヴァーリと、それから一緒に居た眼鏡の青年が何やらアーチャーに対して興味の矛先を向けているようだが、正直に言ってアーチャーは二人と戦う事について一切の興味が無い。
それよりも、今注目するべきは意識を失ったまま倒れている一誠の事だろう。既に朱乃達が駆け寄って一誠を起こそうとしているようなので、アーチャーはアーシアと共に向かい、ようやく目を覚ました一誠に二人揃って安堵の溜息を零した。
「あ、俺……何が」
「イッセー君!!」
「朱乃さん……? あ、そっか……俺は確か」
リアスが死んだと思って暴走したのだという事だけは思い出せたようだ。だが、暴走している間の記憶は無い様で、周囲の惨状を見ても自分が暴れた結果だという認識は出来ないらしい。
「ホントに、これを俺が?」
「中途半端な
いつの間に近寄ってきたのか、ヴァーリが座ったまま辺りを見渡して絶句する一誠に現状の説明と、
その存在を知らなかったとは言え、無意識に発動させた力がどういう物なのか、赤龍帝として一誠は知らなければならない。
「そんな力があったのかよ……俺の中に」
「そうだ、俺達の持つ二天龍の
暴走する程の膨大な力、それ故に発動には相応のリスクが伴う。それは担い手の寿命、寿命を喰らって発動するからこそ、強力でありながら暴走の危険があり、担い手を殺す力でもある。
「寿命って……じゃあ」
「そうだ。1万年という悪魔の長い寿命があっても、発動させ暴走してしまえ直ぐに無くなってしまう……ドライグ、今回の暴走で兵藤一誠の寿命はどれほど減った?」
『……99%は持っていかれただろうな。悪魔の寿命の99%だ、今の相棒の寿命は人間の寿命と同等程度だろう』
「ま、マジかよ……」
「一応、相応の魔力を代償の代わりに消費する事で寿命を減らさない方法もあるが、兵藤一誠の低すぎる魔力では代償の代わり足り得ないだろうな……次に発動させれば死ぬぞ?」
死ぬ。その言葉に気圧されたのか、一誠はゴクリと唾を飲み込み、そっと左手に視線を落とす。手の甲に現れた緑色の宝玉が静かに明滅していて、まるでそれがヴァーリの言葉を肯定しているかのように警告しているのではないかと、思わず考えてしまった。
「アーシアちゃん、イッセー君の寿命を治療出来ませんの?」
「……すいません、外傷や病気、精神的な病などであれば治療は可能ですが、失われた寿命を治すのは、不可能です」
朱乃が治療のスペシャリストであるアーシアならばと期待して問いかけて来たが、残念ながら失われた寿命を回復させるなどアーシアにも不可能な芸当だ。
寧ろ、その手の分野は小猫が修行中の仙術の分野になるので、小猫が定期的に生命力を回復させる程度の事しか出来る事は無い。しかし、それでも回復するのは微々たるもので、残り100年の寿命にほんの数か月程度をプラスする位の効果しか見込めないだろう。
失われた寿命を新たにプラスするなど、本来であれば“魔法”の領域だ。神ならざる身、“根源”に到達していない身では、どうする事も出来ない。
「ヴァーリは、その
「……使えるさ。幸いにも俺は人間と悪魔のハーフであり、先代魔王の曾孫だ、寿命の代わりとなる魔力は豊富にある」
「そっか……」
生まれついての種族の差、そう言われてしまえばそれまでだが、同じ二天龍として差が大きく開き過ぎている現実に、一誠の心に暗い影を落とした。
そんな一誠をじっと見ていたヴァーリは、暫くすると溜息を一つ零し、座りっぱなしの一誠の腕を取ると、強引に立たせた。
「お、おい!?」
「兵藤一誠」
「な、何だよ……?」
「俺に、勝ちたいか?」
勝ちたいか? その問いには様々な意味が込められている気がした。ただ単純にヴァーリより強くなって勝ちたいのか、それとも……。
「ああ、勝ちたい……」
「なら、アレをまず見てみろ」
「アレ?」
ヴァーリが視線を向けた先、そこにはいつの間に出来たのか、空間を割るような罅割れが出来ており、それが突如広がる。
「あ、あれは……」
空間の裂け目、そこから出てきたのは巨大な紅い龍だった。しかも、離れているというのに感じられる強力すぎるドラゴンのオーラは、並外れているや、桁違い等というレベルを遥に超越した、文字通り次元違いの力を感じさせる。
「あれが俺の倒すべき目標……黙示録の龍、“真なる赤龍神帝”や“夢幻の龍神”の異名を持つ世界最強のドラゴン、名をグレートレッド。
「グレート、レッド……」
「俺はいつか、アイツを倒し“真なる白龍神皇”となる」
「それが、お前の夢……?」
「そうだ、だが今はまだ敵わない。白龍皇としては歴代最強と呼ばれる恵まれた生まれである俺ですら、奴の前では赤子も同然だ」
真の強者の前には、一誠もヴァーリも大して違いは無い。
魔王の曾孫という生まれだろうと一般市民の生まれであろうと、グレートレッドの前には等しく弱者でしかないのだと、ヴァーリは言いたいのだろう。
「グレートレッド、久しい」
ふと、聞きなれない声が聞こえ、全員がそちらに目を向ければ、一人の少女がヴァーリの横の岩に腰かけてグレートレッドを眺めていた。
「あれは……」
その少女の顔を、アーチャーは忘れていなかった。何故なら過去に一度、手も足も出ずに敗北した相手、後に聞いた限りではグレートレッドを除けば世界最強のドラゴン……。
「来ていたのか、オーフィス」
「グレートレッド、見に来た」
無表情でそこに座っているだけだというのに、感じられるオーラはグレートレッドから感じられるモノと殆ど変わらない。
「御覧の通り、今の俺ですらグレートレッドにもオーフィスにも、いや……恐らくは他の神話体系の神々にすら勝てないだろう。そんな俺に勝ちたいのなら、生まれの差などに嫉妬している暇は無いぞ?」
「……ああ、そうみたいだな。それに、俺が勝たなきゃいけないのは、お前だけじゃない。一杯いるんだ」
「俺もだ……宿命付けられた対決よりも、大切な目的や目標が数多くあるというのも、可笑しな話だが、今代の二天龍である俺と君は、変わった宿主なのだろう」
「そうかもな……俺達、似た者同士じゃねぇか」
ようやく、ヴァーリの腕から離れ、一人で立った一誠は真っ直ぐヴァーリと向き合い、お互いに不敵な笑みを浮かべる。
「だが、いつかは……」
「ああ、決着を付けようぜ! その時までに、俺は今よりもっともっと強くなって、ヴァーリ……お前よりも強くなっているからよ」
「フッ……俺も、負けるつもりは無い。だが、楽しい戦いとなる事を願っているからな、強くなれよ兵藤一誠、強くなったお前を倒して、そうして初めて俺は“真なる白龍神皇”へと近づけるんだ」
いつの間にか、紫色の宝玉が出現した左手の拳を突き出したヴァーリに、同じく緑色の宝玉が出現している左手の拳をぶつける一誠、二人のライバルは今この時、初めてお互いを対等のライバルだと認識したのかもしれない。
確かに生まれついての差、才能の差、人生経験の差、様々な面で差があるのかもしれない。しかし、世の中の本当の強者達と比べればその程度の差など無いも同然、そんな些細な事を気にしている暇があるのなら、お互いの目的、目標の為に日々強くなる為の努力を欠かさなければ、それで良い。
この若き二天龍達はそれを認識して漸く対等になれたのだ。
次回は騒動が終息したので、色々と事後処理ですね。
ディオドラの案に賛同していた政府の老害共にも相応の罰を与えるべきでしょう。