現役生活二十六年。疲れたので、バ美肉して野球解説系Vtuber始めます 作:義藤菊輝@惰眠を貪るの回?
4月3日金曜日
3月27日の金曜日に開幕し、金土日と3連戦。月曜日を挟み、場所を移動して火曜日から3連戦。そして、今日が7戦目。各チームは3チーム目との初対戦になる。
「お! 津路さんやん!! どないしたん久しぶりやで」
「久しぶりだなノリ。今日の解説私だよ。だから前入りして皆の調子見ようと思って」
今日はスーツを着込んだ姿でグラウンドに立つ。
これまで十六年も居た大正ブルズスタジアムなのに、装いが違うだけで感覚が違うことに驚いてブラブラと観客が入る前のフィールドをうろつく。
試合前の取材陣に紛れるように動いていたのに、打撃練習待ちなのかネットの裏でバットを振っていたノリに気づかれた。
「七番はどう?」
「前にランナー居らんし、居っても盗塁とかないから気が楽やわ。思ったよりええな」
ここまでの6試合でノリの成績は0.311とかなり状態が良い。ホームランも4本と下位打線の軸にもなっている。
「最初は、なんやこの打順! って言いに行ったんや。けど、下位で得点取るために力居るって言われて、そこはメイルやエドやのーてお前しか居らんて言われたらなぁ」
あれ? 志島さんってそんな熱い感じの人だった? いつもいつも澄まし顔でノック打ちしてなかった? それを鈴木コーチが外からわいわい言って盛り上げてなかった?
「ワオ、ヒーロー!」
「
「
やあやあ! と声をかけてきたのはメイルとエドワードの二人。その二人の後ろからはアンディが三人分のバットを持って走ってくる。
「アンディ、今年も遊ばれてるのか?」
「あはは。まあ、お二人はタイトルに絡むほどの成績を残してますし。僕は、二人に比べればまだヒョロヒョロですから」
日本人の母によって、アメリカに住んでは居たが日本語がしっかりと話せるアンディは、私と話している最中もメイルとエドワードの二人によってバシバシと体を叩かれている。
時々、肩とかをがしっと掴んでからスモール? とか話しているから、多分筋肉の話をしているのだろう。
「ヒロ」
「おお、ヒロ。元気か?」
今はバ美肉Vtuber だが、去年まではこのチームの監督だったんだ。流石に気づいた選手は入れ替わり立ち替わり話しかけてくる。
開幕投手を務めた水走は、7戦目のこの試合でも先発登板する。あまりにも良かった開幕戦はスポーツ紙やスポーツ中心のテレビ番組に取り扱われ少し話題になっていた。
「今日の成績でローテが変わるんだよ」
「
「ああ。あいつも気がつけば10年目だぞ? そりゃあ俺もおっさんだ」
高卒で入団した隅久も28歳。水走と繁野。そして野口の三枚看板に割って入ったゴールデンルーキーも選手人生の折り返しに近づいている。
二年前の8年目のシーズンには28登板の内21勝4敗。8割4分の勝率。200イニング越えの奪三振160。2点を割る防御率で沢村賞に輝いている。
だが、肘に負担のかかる縦のスライダーを多用していたことでキャンプ中に故障してしまった。
「キャンプのときの怪我は完治か?」
「ミーティングだとそう言ってた」
オーダーはこれまでの試合と変わらないはずだ。6戦で4勝1敗1分。負け自体は開幕戦のみで、2チーム目の埼玉ホワイトウルフズとは1勝1敗1分の痛み分け。
「志島さん!」
「あっ! 津路嶌テメェ良くノコノコと来れたな」
杖代わりに地面についていたバットで、軽く太ももをポンポンと叩かれる。
「テメェがリーグ優勝とかさせるからこっちへの期待凄いんだよ。それに、内野連携の指示とか全部お前一人でやってたから、水口達とサインの確認とかするのアホほどしんどかったんだぞ」
そう言われてあっ! とする。
自分が監督であり、なんだかんだで捕手としてマスクを被る機会も度々あった。故に、メインでマスクを被る水口ともう一人の補欠である
そのために、サイン決めとか傾向とかを洗い出していたのか。
「キャンプのサイン合わせの時間長かったのってそれ?」
「それがメインだよアホ!」
この話解説で使って良い? と志島さんに聞けば、使え使えと笑いながら言ってくれる。
うん。やっぱりこの人こんな明るくなかったはずだ。
「今日勝てそう?」
「中継ぎがウチは毎年貧弱だからな。水走がどれだけ持つかだな」
「打撃は?」
「心配する要素はない。角田もアンディも調子良いからな」
よし。この話も解説で言おう。今日の試合に向けての意気込みとして。
◆◇◆◇◆
「さて、プロ野球が開幕して一週間が経ちました。今日は大正ブルズスタジアムより、近畿通運パワーブルズ対北九州モバイルホークスの第1回戦をお送りします。実況は私安藤。解説は去年、パワーブルズで選手兼任監督を務められていました津路嶌さんです。本日はよろしくお願いします」
「どうも、よろしくお願いします」
少し小さい部屋。球場に作られた放送用のブースで私はアナウンサーの安藤さんと共に居る。
「引退後解説は初めてと言うことですが津路嶌さん。どうですか、引退前と後で、何か変わりましたか?」
「そうですね。選手だった時と比べるとやはり時間が出来たので、今までやってこなかったことを手当たり次第やってますね」
Vtuber になってからは、特にゲームをやり始めた。ドリプロやウィアクラ。ネット麻雀である雀ソウルも時々配信している。
先輩方に誘われてFPSゲームも経験した。やったことないことに挑戦するのは意外と楽しい。ファーストとか守るの大っ嫌いだったけど……。
「今は楽しいですか?」
「野球という好きなことを仕事にすることが出来ました。でも、それは結果が求められることで、ルーキー時代に突拍子もない成績を出してしまったが故に、凄く重い期待を受けていました」
ファンの期待を裏切らないようにする。
言葉で言えば簡単だ。守備ではミスをせず、打撃では求められるときに打つ。そして、そのことを当たり前のようにこなす。基準が高ければ高いほど求められる。
「楽しいはずが楽しくない。そんなタイミングが私にもありましたが、振り返ってみると楽しい26年間でしたよ。そして、やりたいことをやれている今も」
「心身ともに満足しているのは今も昔も変わらないと?」
「そうですね」
インタビューになってしまっていたが、放送を行っている画面に畿通と北九州のスターティングメンバーが表示され話が変わる。
「このスターティングメンバー。どう感じますか?」
「開幕戦の並べ方を基準にして調子に合わせて変動させている様に見えますね。畿通は」
畿通 スタメン
1 指 メイル 10
2 左 水口良輔 27
3 遊 安木省吾 4
4 一 エドワード 2
5 右
6 二 アンディ加藤 14
7 三 外街洋紀 66
8 捕 成科崇 8
9 中 角田大平 34
投 水走洋和 11
「珍しく水口選手がレフトですね」
「おそらくは成科を志島監督が使いたかったのでしょうが、ランナーがいないときは打率が4割近くある水口を外したくなかった。と言うことでしょう」
ランナーがいないときの打率が高いというのは、言い換えるとチャンスを作りやすくすると言うこと。4・5番の得点力がある選手の打席で、一塁にいるのと二塁にいるのは話が違う。
北九州 スタメン
1 右
2 遊
3 一
4 三
5 中
6 指 バレンティアーノ 4
7 左
8 捕
9 二
投
「対して、北九州はかなりオーソドックスな形ですね。パワーのある主軸と、打率と出塁率が高い1番と9番」
「はい。3番の外川は打率ランキング2位。4番から6番の三人は全員が2本ずつホームランを打っています」
打力を散りばめた畿通と、主軸を基準にした北九州。
「さて、1回の表。北九州モバイルホークスの攻撃からゲームが始まります。先頭打者である東山佑都が左打席に入ります」
「水走がどんなピッチングをするのか、成科のリードが水走をどう引き立てるのか。個人的に注目ポイントです」
◆◇◆◇◆
「水走選手が毎回得点圏にランナーを置きますが、きっちりと抑え、試合は4回の裏、近畿通運パワーブルズの攻撃へと移ります。どうですか? 高校時代から見続けている水走選手のピッチングは」
「そうですね。ここまでの感じだと、別に水走選手の調子が悪いとかは感じないですね。腕もしっかり振れています。ただ、二種類のスライダー。変化量が開幕戦や昨シーズンより少ない気がしますね」
カーブやチェンジアップはあまり打たれていない。ストレートもしっかりとコーナーに決まっていることから、制球についてはあまり問題ない。
「試合前に本人に聞きましたが、隅久選手が怪我から戻ったらしく、水走選手の投球内容次第では次戦からローテーションを入れ替えると言ってましたね」
「と言うことは、この後水走選手が崩れてくると、昨年と同様に中継ぎへ回ったりする可能性があると」
手元の資料として、この試合中のリードをまとめているものと、成科のリード傾向をまとめたものを並べて考えるに、投手の得意球を決め球にすることが多い。
「水走の中には、開幕戦の調子の良かった変化球があるんですかね?」
「多少なりともあると思いますよ。ワテ……、私や水口なんかは使えないと思った時点で使いませんが、成科は優しいですからね。水走の投げたいスライダー系を投げさせながら緩急を交えようとする」
この回の攻撃、パワーブルズの2番である水口は安定のレフト前ヒット。続く3番の安木がショートゴロの併殺。エドワードが三振でスリーアウトになる。
「三人できっちりと回をまとめましたホークス大輪。4回まででヒットはわずかに2本。4つ目の三振と共に五回表へと移っていきます」
123456789 計
北九州 0000 0
畿通 0000 0
◆◇◆◇◆
試合も遂に9回に回る。
北九州は、6回、水走の投げる変化量の少ないスライダー系を叩き、4番大窪の二塁打。5番凪多のタイムリー。そして、バレンティアーノの一発で一挙3得点。
それに対し畿通は7回。4番エドワードの四球、5番の磯岡がライト線のヒットで一・三塁のチャンス。6番に入った期待のかかるアンディ加藤が単打で1点を返す。続いて8回、1番に入っているメイルがライトを抜けるヒットでツーベース。だが、2番の水口のバント失敗により三塁でメイルがアウト。一塁に転送され、水口もギリギリだがアウトになったところで、3番の安木に対して、代打の川北が出され、まさかのホームラン。1点差まで追い上げた。
123456789 計
北九州 00000300 3
畿通 00000011 2
「北九州モバイルホークスの最後の攻撃に対して、畿通は守護神の
「ここを確実に締めて、裏の攻撃へ流れを作りたいと言うことでしょう。私も同じ判断をします」
「スライダーとシュートを使い、ストッパーに多いフォーク系の落ちるたまを使わない特徴のある選手です。ホークスの攻撃は6回に得点を挙げた主軸の大窪から始まります」
大窪に対し、初球からインコースギリギリの球で強気に攻める。
9回に入り守備固めを行った志島監督だが、レフトにいた水口は捕手に、レフトに羽合が入り、ショートには井出。
「良い攻め方です。背中側から襲ってくるスライダーに続いて、今度は入ってくるシュート。かなりのパワープレイですが効いてます」
3球目のアウトコースへのスライダーで大窪を三振にし、凪多はレフトフライ。バレンティアーノはセカンドゴロで終える。
「良い感じで攻撃に回れます! 近畿通運パワーブルズ。最後の攻撃に期待しましょう!」
ヘルメットを被ったアンディ加藤が、メイルとエドワードに押されながら、ベンチから飛び出した。
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