現役生活二十六年。疲れたので、バ美肉して野球解説系Vtuber始めます 作:義藤菊輝@惰眠を貪るの回?
アンディ加藤が右打席に入る。
「前回の打席でタイムリーを放っているアンディ加藤ですが、どうですか?」
「キャンプの時に比べて重心がしっかりしているようにみえますね。もともと日本人離れした体躯ですし、軸足に力を溜めれば、去年課題だった変化球の対応も容易だと思います」
1球目はアウトローへのストレート。2球目は単純に低く、ボールが2つ続く。
「真原選手は慎重に投げてる印象ですね」
「アンディの次は外街です。二人で1点になれば、今シーズン延長でのサヨナラ負けが既に2回ある北九州モバイルホークスからすればたまったものじゃありませんからね」
「ボール先行での3球目。どうしますか?」
「ストレートに力が入りすぎているように思えます。ですので、一度フォークやカーブと言った抜く球を使わせるのもありですね。無駄な力が抜けるときもあります」
北九州モバイルホークスの甲斐田は、あまり突飛なことをしない。セオリーの通り組み立てることが多いのだ。
強気に突飛なことをするのは、シーガルズの伴崎だろう。4番打者に4回連続でスローカーブを投げさせるのは真似できない。
「真原選手! フォークが低めギリギリに入ります!」
「ワンバウンドしても良いと言うような甲斐田選手のジェスチャーがありました。そのおかげかも知れませんね」
4球目は何を投げるか。低めに集めたボール先行により2ー1になってしまっている。バッターのアンディにとっては、一球待っても良いし、振りに行っても良いと、選択肢が生まれている。
「2年目の新人アンディ加藤。去年は自分の体近くに来る変化球が苦手でした。ここも変化球で攻めますか?」
「理想はインコースに入るスライダーで内野ゴロ。もしくは、一球見せ球を使ってカーブなんかも良いですね。ストレートは平均が150を越えますから、緩急でも戦えます」
アンディがタイムを取り、1度バッターボックスから出る。バットを見つめグリップを握り直し、もう一度打席に入る。
「さて4球目。真原選手が首を振ります。リードが決まりません。二度、首を振ってやっとサインが決まります」
「球が抜けましたね。アンディの顔の横を通過しました。サインを変えてまでストレートを投げましたが、それでもやはり調子が良くないですね。シュート回転とかはしているように見えないですが」
アンディは再びフォームルーティンを行う。
左足だけをボックス内に入れたまま、腰を回して少し解す。ボックス内に両足を入れると、バットをクルッと1回だけ回して構える。
「一度カーブで整えるでしょう。そこを狙えるかどうか」
グラブを腰の位置に置き、上げないまま入る投球モーション。一度グラブをポンッとボールで叩き、投げる。
緩く上に上がった軌道は、アンディの膝元へと入ってくる。その球を、しっかりと掬い上げた。
「アンディかっ飛ばした!! どこまで行く! 入るか? 入るか? 入ったーっ!!」
インコースに甘く入った膝元。あと少し内側なら見逃しのストライクが取れているような位置だ。そこを規格外のパワーでもって、アンディがホームランにする。
「七戦目! アンディ加藤による、今シーズン初ホームランは、9回の裏で同点へとなるホームラン!!」
「これで水走の負けがなくなりましたわね。良い感じです」
あれ? いま私……「わね」って言った?
「そうですね。負けがなくなりました。サヨナラの期待がかかる中で、昨年は4番を打っていた外街へと続きます」
暗い部屋。
扉も閉じ、カーテンも閉められ、夜も遅いというのに、明かりが1つもない部屋。
「ふふふ。良いぞ良いぞ! 畿通なら勝てる!」
画面に映っているのは野球中継。9回の表を守護神の元堀が、北九州モバイルホークスの最後の打者であるバレンティアーノをゴロでアウトにしていた。
「アンディか……。アンディって打つの?」
根っからの畿通ファンであるこの部屋の主は、去年入団した彼のことも勿論知っている。
二軍ではホームラン王に輝き、フレッシュオールスターにも出場。インコースの変化球には弱いが、腕も長いためにアウトコースが得意な選手だ。
「まはら……荒れてる」
鷹の守護神。ストレートの強さとフォークが特徴のベテランだが、150に集まるストレートが、綺麗にコースに入らない。
「っぶない!! アンディか怪我したらどうするんだよアホ!!」
真原のストレートが抜け、アンディの顔の横を通る。
「審判危険球だろ!! 退場させろよ!」
モニターを置く台をバンバンと叩きながら抗議を口にするが、現地にいない声が審判に届く訳がない。
「打てよ打てよ? お前なら出来るさアンディ!!」
両手を握り、祈る。
「きたー!!!」
祈りが届いたのか、アンディ加藤が同点の一撃をライトスタンドにぶち込んだ。
「よしよし! 鷹だらけのライトスタンドに入れたのも評価高いぞ!!」
『七戦目! アンディ加藤による、今シーズン初ホームランは、9回の裏で同点へとなるホームラン!!』
『これで水走の負けがなくなりましたわね。良い感じです』
『そうですね。負けがなくなりました。サヨナラの期待がかかる中で、昨年は4番を打っていた外街へと続きます』
聞こえてきた声に、違和感を覚えた。
今日の解説は津路嶌洋弥。プロ野球史上最強で最高の捕手だ。あの克村ノムの記録をことごとく破り、獲得回数最多タイの三度の三冠王。優勝決定の逆転満塁ホームランを最終戦にはなった奇跡の男。
部屋の中には背番号97のユニフォームも、ホームビジター関係なく掛けられている。
サインの入った彼のホームランボールだって飾ってある。
「いま、わねって言った?」
そう言えば津路嶌は4回の裏にも気になる言葉を言っていた。
「あのときの『ワテ』って、『ワテクシ』? でも、津路嶌みたいな選手がVTuberになる?」
急いで掲示板を開く。
突如現れた金髪美少女のバ美肉おじさんのVTuberについての掲示板。
内容は大体誰だ? というもの。
「いや、ある」
敷島洋美としての特徴に、好きな球団として畿通を出し、好きな選手は水走。水走について話していたときに暴走していたのを実際に見ていた。切り抜きにもされていた。目にかけている選手は水口。
「いやある! これ!」
ツイッターの投稿には、数日間習い事をしていて配信が出来ないとある。そして投稿日は4月1日。今日は4月3日。件の敷島洋美は配信せず、津路嶌洋弥が解説をしている。
敷島洋美の正体は津路嶌洋弥。だとすれば、この事実を知っているのは何人いる? 会社の人と、本人だけ? 彼女の同期である二人も知らないはず。
「ばーちゃりあるの事務所って……」
引きこもりは、部屋の電気を付けた。
「場所は近い。明日行く。明日だ……」
長く伸ばした髪はボサボサであり、眼鏡も汚れている。だが、目はしっかりと光を持っている。
「服、探さなきゃ」
引きこもりの少女は、暗闇の中から動き出した。
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