現役生活二十六年。疲れたので、バ美肉して野球解説系Vtuber始めます 作:義藤菊輝@惰眠を貪るの回?
※実は、前回の女の子の名前、まだ決めてない……
「え? 事務所で、ですか……」
『はい。ばーちゃりある全体でのコラボ企画と言うことですので、何組かに分けて打ち合わせや説明をするつもりですが』
初めての解説業を終え、いつも通り東京に戻って配信を続けている。
習い事という名のリアルな仕事以来初の配信だった日には習い事の内容を何回か聞かれたが、馬鹿正直に答えるのは論外なので、実家の方に用があってとだけ伝えていた。
ただ、リアルでワテクシ言葉が出てしまったときは焦ったが。
まあ、4月3日からこっちに戻るのに1日。そこから気がつけば3日も経ってるし、私の存在に気づいた人がいても事務所にまで張っていることはないだろう。
「何人くらいで打ち合わせする感じですか?」
『十四名です。内訳としてはこの企画を考えたムジカ・ムジークさんと司会になる
自分と関わったことがある人が多いのは、恐らく事務所側が配慮してくれたのだろう。
ばーちゃりあるの設立にも関わった元個人勢のムジカさんは、リアルだとばーちゃりあるの親会社であるVRgaming company の社員扱い。実質、所属ライバー達のリーダーもしている。そういった面でも事務所側が考えてくださっているのだろう。
「分かりました。企画日時とかもその日ですのね?」
『そうですね。基本的にはムジカさんと迫さんが自由に動ける日を考えていますので、これからの打ち合わせの進み具合だと、五月末……。下手すると交流戦と重なるかも知れないですね……』
「それは……。交流戦の初日、解説入ってるんですよね。畿通と中報なので」
ある程度野球が分かるマネージャーさんも、あちゃーと声を出している。流石に担当相手の所属チームがどこだったかは分かっているらしい。
始めて顔合わせしたとき、キャッチャーってボール投げる人ですよね? と言ったことは忘れない。大爆笑した。
『そこら辺はちゃんと調整します。ので、安心して下さい。それじゃあ4月の14日、火曜日。ちょうど一週間後ですね。15時からですので、遅れないようよろしくお願いします』
「分かりました。よろしくお願いします」
さて、マネージャーさんとも連絡を取り合ったところだし、お昼ご飯でも食べよう。ちょうど十二時だ。
ふわぁー。とあくびと共に体を伸ばした私は、パソコンの画面に、メールが届いているのに気づく。
それも、敷島洋美宛ではなく、津路嶌洋弥宛のメール。水口なら何も気にせず電話してくるし、水走なんかだと逆に電話などしてきたこともない。
「解説の依頼かな? 珍しいな。アンディじゃん。今日のお昼くらいから打撃指導してもらえませんか? ってか、今がお昼だよ」
4月3日の試合で同点ホームランを打ったアンディだが、その後の2試合で8打席ノーヒット。6三振と全然よくなかった。たしかエラーも2回くらいしていたはずだ。
「そう言えば、二軍に落ちたって言ってたな。水口が」
文面にはいつ電話かけられても出られると書かれていた。今は十二時。ちょうどお昼頃でご飯はまだ……。
「流石に後輩に飯奢れってのもなぁ……」
そもそも年齢が違う。アンディはまだ19なのに対し、私はもうすぐ45。アラフィフアラフィフと言っているが、6月で本当のアラフィフになる。
仕方がない。奢ってやって、話聞いてやって、ちょっと見てやろう。自チームであり、何なら一昨年、自分が上に推して獲得した選手だ。ドラフトの順位は6位だが。彼が一人前になる補助くらいはしてやった方が良いだろう。
「もしもし? アンディか?」
『はい。お久しぶりです津路嶌さん』
数コール後にかかって電話に出たアンディは、少し暗い声をしている。
そんなにショッキングなことがあったか?
『あの、指導付けていただけますか?』
「おまえ、コーチはどうなんだ。鈴木さんが見てくれてたんじゃなかった?」
『はい。鈴木さんにも見て貰ってるんですけど、あまりしっくり来なくて。メイルさんやエドさんにも話聞いたりして試行錯誤してみたんですけど』
鈴木さんに、私の指導を受けて良いか確認を取ったか尋ねてみると、許可されたと言う。
「とりあえず、話聞こうか。今どこだ?」
『いま、港区の実家です。コーチに、指導して貰うなら東京に居ろって言われたので。明日の新幹線に乗って大阪に戻って来いって言われました』
「了解。なら近所のファミレスの場所教えてくれ。そこで会おう」
『分かりました。メールで場所送っておきます』
◆◇◆◇◆
「こっちです!」
指定されたイタリアン系のファミレスに入ると、入り口から少し離れたところに金髪の男がいた。大柄で、腕も長い。筋肉はついているが、ゴツゴツしていると言った印象はなく、適正な筋肉量を持っている感じだ。
「アンディ。飯は?」
「来るまでと思ってまだです。何食べます?」
先に食べてて良かったのだが、先に伝えておけば良かったと後悔しながら、メニューを頼んでいく。倍の量になっているサラダとカルボナーラだ。
アンディはステーキとサラダ。そして二人分のドリンクバーを頼み、彼用のオレンジジュースと私用のブドウジュースを持ってきた。
「それで? 何があった」
「今年フォーム変えて、変化球に対応できるようにしたんですよ。チェンジアップとか、カーブとか、下に落ちる系にも対応できるように」
「打つ前にグッ! て力溜める形になってるな」
「おかげで大分変化球には対応できるようになったんですよ。パワーも乗せられるようになって、飛距離も伸びたんですけど、今まで捌けてたアウトコースの打ち方がだんだん分からなくなって……」
打撃のことに意識が行き過ぎて、打撃練習をすると守備の練習が疎かになって、1試合で2回もエラーをすることになった。と続ける。
「それで私に打撃を見て貰ったら上向きになるんじゃないかな? って考えた訳だ。分かってるか? ちょろっとアドバイス貰っただけで打力が向上するほど簡単じゃないぞ?」
「分かってます」
「ほんとに分かってる?」
こいつは分かってない。今こうやって相談できる年齢で、見てくれる歴で、使ってくれる期待がある現状がどれだけ恵まれていることに。
「まあいいや、近くにバッセンある?」
「はい! あります」
それじゃあ行くか。そうやってウェイターが提供してくれた昼食を食べる。やはりカルボナーラだ。松前寿司の次に良いな。
「今年タイトル取れたら飯連れて行ってあげるよ。まだ水口にしか教えてない店」
「ほんとっすか!!」
まあ、本当にホームラン王か打点王にでもなれば時計くらい買ってやろう。そう言えば、アマグー先輩がF1ドライバーモデルの時計欲しいって言ってたな……。一億くらいの。
後で見てみよう。時計に興味はないが。
◆◇◆◇◆
「いらっしゃいませ~」
今年に入ってすぐに新型の発表があり乗り換えた自慢の愛車を駐車場に入れ、アンディと二人で地元感満載のバッティングセンター『ポートファーム』に入る。
流石にバッティングセンターに居るような人なら私の顔も分かるだろう。気の抜けた挨拶をしながら携帯をいじっている女性店員の横を通り抜け、急いで一番奥の打席に向かう。
「とりあえず一回分やってこい」
自販機のコインを大量に買い、一回分をアンディに渡す。アンディはそれを受け取ると機械に入れる。
自前のバットを握ってルーティンを取る。
ピッチングマシーンのモニターが東栄のピッチャーなのはご愛敬だろう。ここは東京だ。
先ずは投げられてきた一球を打ち返す。
「モニターでモーション分かるんだから打ち漏らさない」
「はい!」
ぶんぶんと、リズム良く投げられてくる球を、順番に打ち返していくアンディ。だが、時々ではあるがしっかりと前に打ち返せていない。
そのことが良くないことだと思っているようで、良くない辺りの時は首を振ったり、傾げたりと納得が行ってないように見える。
「どう……。ですか?」
「聞く前に考えてよ。自分で疑問点見つからなかったらどうしようもないよ」
「そうですよね……」
ちょっと考えてて。とアンディに伝え、彼のバットを渡して貰い今度は私が打席に入る。
いつぶりだろう。バットを持つのは。いや、引退試合以来か。軽く五ヶ月くらい? まあいいや。
「バット短いな。もう少し長いと思ってた」
「あ、34インチです。短いですか?」
「長いと扱いにくい? 35インチの使ってみたら、3センチくらいしか変わらないけど、左腕、左打ちだから右腕を伸ばしきったときに、芯が通る位置で体に合うのを選んだ方が良いよ。あくまで持論だけど」
バットというのは、打撃の中で大きな力を持っている。元ヘルススワンズの古畑さんは、特定のバットを持っていなかったらしいけど、そのパターンの方が珍しい。
直接聞いたら、打撃不振のときにものに当たれる。と責任転嫁の矛先に使って心を落ち着かせられるらしい。しっかりとした打撃フォームがないからこそ出来ることだ。
「私が新人だったときは、まだ中報に星合さんが居たから。あとは
カーン! と気持ちのいい音を鳴り響かせながらボールを飛ばす。アンディの様に打ち漏らすことはない。
先ずはピッチャー返し。次にライト方向レフト方向。そして、位置的に少し右側にあるネットにかけられたホームランゾーンへ狙い撃つ。
真似することはものの始まりだと思う。憧れた選手の真似をするのが夢見る野球少年だ。
この独特な打撃フォームも、元の形は星合さんの神主打法だ。本人には、俺の打ち方なんて真似するな。と怒られたが、彼の打ち方を真似した方が打ちやすかったからしかたない。
機械から出てくる30球をすべて打ち返し、ブースを出て店内に戻る。
アンディは椅子に座りながら、スマホで何かをしていたが、私が出てきた途端にポッケへしまった。
「知ってるよ。メモを取ってたんだろ? 隠すな」
「あ、はい」
ついでに、メモ帳に記されている事柄を見せて貰えば、良い着眼点を持っている。そこから思考できていないのが良くない部分だとも見て取れる。
「まず聞きたいことがある。打席に入って、何を考えている?」
星合さんが言っていた。打者なら、打撃三冠タイトルを狙うなら、三兎を追って三兎を得よ。と。打率だけを求めていたらホームランは出ない。ホームランだけを狙ってたら率は狙えない。
すべてを狙い、すべてを達成するつもりで取り組まなければ、手元には何も残らない。
「どんな球が来るか、配球を読むとかじゃなくてですか?」
「配球も大事だが、意識だな。ヒットが飛んだのがホームランじゃない。ホームランに成り損なったのがヒットなんだ」
メモには、軸足の力とバットの出し方と書かれている。アンディの気づいていない問題は、体幹だ。
「さっきのを見ていて思ったのは、左足の軸足に力を残そうとしすぎて右足に力を移し切れていない。バットを上から出している。外と中、両方に対応しようとするために体が開きすぎている」
体重移動は、どんなスポーツにも発生する動きだ。
テニスなら、約200キロのサーブに対応するため、スプリットステップが使われ、サッカーやバスケットボールだと、相手を避けるために体重移動を使ってフェイントをかける。
「右側の壁を意識しろ。とか鈴木さんに言われたことは?」
「あります。肩がピッチャーよりファースト側に向いているから、内に入れて開かないように壁を作れって」
「なら……、一旦ボックス入って」
借りていたバットをアンディに返し、ガラス張りの店内から貸し出しのバットを1本取らせる。
「そのバットを右手で持って。いや、グリップじゃなくて芯の方。そうそう。それを左腰に当てて、左手1本でバット振ってみて」
「めちゃくちゃ振り辛いです」
左腰にバットを持った手を当てていると、体が固まったように開かなくなる。結果、バットを送り出す左手に力が残る。
「それで、インパクトの瞬間だけ右足だけ地面に付けて、左足を浮かせて振ってみて」
「片足だけっすか」
軸足となる左足を、インパクトの瞬間に地面から離す。すると、体の重心は後ろになる。だが、右手を左腰の位置に置いていることで、バットがミート位置に来ると、ちょうどそのタイミングで体の前、右足側に体重が乗る。
「バットとボールが当たる瞬間に重心が右足にあること。そのときの重心がしっかりとへそか腰の位置になるように軸足を置くこと。右肩が出過ぎないように壁を作る感覚は、左手を回したら出来た」
後は、自分の打ちやすいように整えていくだけ。
バットの出は水平かアッパー。どっちかは任せる。
「アンディは腕も長いからバットの先まで力を残せる。だから、長いバットでも問題ない」
マシンから出てくる球を打ち返す。アンディの体が、どんどんと良くなっていく。
地面に対して垂直に立っていたのに対し、インパクトの瞬間、だんだんと後ろに反っていく。その分バットが体に対して垂直になった位置でボールを打てるようになるので、両手でバットを振ったときに左手が伸び、手首を返さない位置でボールを当てている。
「あの……津路嶌さん。ですか?」
「え?」
体を動かすためにアンディが入ってるボックスの横に入って、バッティングをしようとしたとき、後ろから、女の子が声をかけてきた。
思わず気の抜けた声が出たが、かけてきた女の子の服装を見て安心する。
「店員さん、五月蠅かったですかね。ごめんなさい」
「いえいえ、全然全然」
ブンブンと首を横に振る店員さん。名札には西野と書いていた。
黒髪でちょっと短めのボーイッシュな髪形だ。綺麗というより可愛い感じ。見た目だけで言うと高校生か。
「あの、こんな店に津路嶌さんが来るとは思ってなくて、津路嶌さんが良ければ店にサインを……」
「全然良いですよ」
西野さんが持っていた色紙とペンを受け取ると、サラサラと慣れた手つきで自分の名前を書く。サインを書く度に思うが、私の名前画数多くないか? まあ良い。
日付と宛名、ポートファームさんへ。と書いて渡すと、背番号も良ければと言われ、97と書き足しておく。
「後でアンディ選手にも書いて頂くことって出来ますか?」
「問題ないと思うよ。まあ、まだサインに価値が出るほど活躍はしてないけど」
女の子的には格好いいのだろう。なんせ高身長の金髪優男だ。198? ふざけるな、174の私に6センチ身長よこせ。
ほくほくとした顔で嬉しそうな顔をする西野さんにこちらも嬉しくなると、ふと店内のテレビに映る野球に目が行く。
「そう言えば今日、東栄とレッズってなぜかデイゲームなんだよな」
「そうなんです。火曜日なので、普段なら十八時からなんですけど。でも、バイト中なら野球にさえしとけばおじさんには文句言われないし、好きなレッズの試合を見られるので」
「ん? 家族経営なの?」
「はい。私実家岡山の倉敷なんですけど、父方の叔父さんがここを経営していて、大学を東京にしたのもあってバイトをしているんです」
話を聞けば3年ほど前から東京に居るという。もうすぐ大学も卒業するらしい。もう少し幼く見えていた。
「頑張ってるんだねぇ」
「はい!」
良い笑顔の西野さんは、それじゃあ仕事に戻りますと一度ぺこりと頭を下げると、カウンターの方へと戻っていく。
そのときだった。
レッズの先発投手である三岡が、東栄の選手に捉えられ、強い辺りがセンター方向へ飛んでいく。だが、落下地点へ走り込む赤い姿。
そして、ボールが落ちるかどうかと言う場所で飛び込む。
『アウト! アウトです! 南か
たちゅま!!」
西野さんがカウンターから乗り出して、ファインプレーをした南川に向かって叫ぶ。
「あっ、ごめんなさい」
「良いですよ。好きな選手が活躍するのは嬉しいものですし。他に好きな選手はいるんですか?」
「はい! もちろん
ペラペラと好きな選手のことを話し始める西野さん。だがそれ以上に思うことがある。
南川選手に対して「たちゅま」と呼び、野々村選手のことを「ののちゃん」と呼ぶレッズのことが大好きな人を知っている。
目の前にいる西野さんの壊れ方は、あの日南川選手が活躍して暴走していたときのあの人と同じだ。だから思った。
風タソってやっぱ風タソだわ。
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