現役生活二十六年。疲れたので、バ美肉して野球解説系Vtuber始めます   作:義藤菊輝@惰眠を貪るの回?

20 / 80
 さて、今日から毎日投稿復活だ!!


ばーちゃりある大規模コラボ打ち合わせ

 ため息を1つつく。

 ため息をついては窓の外を眺め、アイスコーヒーを一口飲む。その繰り返しだ。

 

 4月14日火曜日。腕時計の針は、14時半を示している。文字通り14時だ。愛用の時計はスウェーデン製の24時間表記の時計だから。

 

 既にコーヒーを飲み始めて30分ほど。

 

「こう言うのって、何分くらい前に行けば良いんだ?」

 

 高卒でプロ入りし、ルーキー時代は先輩達が来る前に移動用のバスなり練習場に入るようしていた。だが、こういった事務所でのルール的なことは知らない。

 

「絵里香ちゃんが入っていったら行こうかな……」

 

 今日顔を合わせる人たちの中で私が顔を知っているのは三人だけ。一人はマネージャーだが、彼はばーちゃりあるの社員なので事務所からは出ない。今も中で仕事中だろう。

 二人目は那須癒子こと水口絵里香。先日のコラボでは迷惑をかけた。本当に申し訳なかったと思う。今日はたくさん助けて貰うことになるだろう。

 そして、三人目は一週間前に思わずして出会ってしまった自称敷島洋美の姉である幸田楓花こと西野茉莉。彼女を見つけたら動くでも良いかな? なんて考える。

 

「無くなった」

 

 スマホのニュースで野球の記事を見ながらストローでコーヒーを啜っていたが、流石になくなってしまいズルズルと音を立てる。

 もう早くてもいいや。

 

 グイーッと体を伸ばして立ち上がった私は、被っていた帽子を少し深く被る。

 メモ帳と筆箱があれば困らないかな? と安易な考えで持ってきた鞄は小さく、肩から斜めにかける。

 入り口付近に設置されているゴミ箱にゴミを捨ててから店を出る。

 

「自販機でお水でも買おうかな」

 

 多分事務所側がお茶なりお水なり、何かしら飲み物を用意してくださっているだろうが、出てきた飲み物が飲めなかったとき困る。

 キョロキョロと周りを見渡して見つけた赤色の自販機と四つ葉の自販機に行く。

 

「あ~。こっちのスポーツ飲料苦手なんだよなぁ……。四つ葉の方の水にしとくか」

 

 小銭を入れてボタンを押し、山の絵柄が入っているフランス製のお水を購入する。がしゃこん! と受け取り口へ落ちてきたのをしゃがんで取ろうとした。

 

「おいしょっと……。あぁ、またやってる」

 

 ドリンクを取るためにしゃがみ込んだが、キャッチャーをしていたときの癖で両足のかかとがぺったりと地面についていた。

 というか、いつの間にかこの態勢が基本で、かかとが上がっている方が気持ち悪いのだが。

 

 受け取り口に手を入れてドリンクを取り出す最中、お下げの女の子が私の後ろを通った。

 スカートが私の体に当たっていたが、彼女自身はなんともなかったのだろう。私に気づかず、さっきまで入っていたカフェの隣のカフェへ入っていった。

 

「まあ、スカートが当たったくらいでなんともないし」

 

 別にどっちかが怪我をしたわけでもないし、見た感じ彼女のスカートも汚れてはいなかった。

 自転車置き場が車道のすぐ近くにあることで狭くなった歩道なのだ。そう言うこともたまにはあるだろう。そんな程度に考えた私は、信号を渡り、ばーちゃりあるの事務所が入っているビルへと入った。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

「あの……、絵里香さん絵里香さん?」

 

「はい、どうしました津路嶌さん?」

 

「すっごい視線を感じるんですけど……」

 

「諦めて下さい」

 

「え?」

 

「諦めて下さい」

 

「あっ、はい……」

 

 こうなってしまったのにも経緯がある。

 

 事務所が入っているビルに入りエレベーターに乗り込む。そして3階の事務所入り口で名簿に名前を書き、敷島洋美と書かれた名刺入りのネックストラップを首にかける。

 コラボの説明会については6階の中会議室Bにて行う。と前にマネージャーから聞いていたため、エレベーターを使い6階で降りる。

 

「あ、津路嶌さん」

 

「絵里香ちゃん」

 

 エレベーターの扉が開いた先、そこにいたのは、ジーンズに白シャツという春らしい服装をした知り合い。敵地に乗り込むくらいの思いでここへと来たため、とてもほっとする。

 

「知り合いって……。凄いね」

 

「え? なんですかいきなり」

 

 私の突然な言葉に首を傾げる絵里香ちゃん。くそ水口め、こんな可愛い子を捕まえやがって……。ちゃんと幸せにしろ。

 

「あ、会議室はこっちです。Bは基本的に私たち所属VTuberの大型コラボとかで使う会議室なんですよ。隣のCはスタジオも兼ねてて、月一でやってるばちゃりあ速報の収録なんかもあそこでやってます」

 

 流石2期生。事務所のことだったり色々と知ってる。

 因みに。私は、大阪と東京に家があるが、彼女の場合は家が大阪なので、会社が新幹線代を出して会議に出て貰っているらしい。ネットでさせてあげてよ。

 

「緊張してます?」

 

「凄く。初出場の時よりしてるかも」

 

 26年前の開幕戦を思い出すが、うん。あの日よりも緊張してると思う。というか、あの日はエースだった時中(ときなか)さんや星合さん。辰濱さんとかが試合前に話しかけてくれていたおかげで大分気持ち的に楽だった。

 

 あのときの中報ってバケモンだったなぁ。

 時中さんと河下(こうが)さん。山元(さんもと)さんの3枚看板に星合さん。濱辰さん。荒端(あらばた)さんと井木(いき)さんの二遊間。内野陣だけでも怪物揃いなのに、外野3枚は強肩で守備範囲の広い蔵英(くらひで)さんを始めとする守備のスペシャリスト。

 そら守備率と失点数がおかしな数字になる。

 

「おつかれさまです」

 

 絵里香ちゃんが挨拶しながら会議室に入ったのを見て、私も真似をしてみる。まあ、挨拶はどんなときも基本だ。

 

「席はどこでも良いって、どうします?」

 

 会議室には長机が正方形に並べられ、ホワイトボードの近くにはファイルなど資料がある。椅子の上には幾つか鞄が置かれており、人が座っているところも。

 大体は期生毎に分かれているらしいが、見た感じネックストラップに同期生の名前がないので、絵里香ちゃんの隣に座る。

 

 そして、会議の始まる10分前。冒頭に戻る。

 

 私は、会議室にいるほとんどの人からの視線に耐えている。

 1人。また1人と会議室に人が増える度に、入ると同時に少し入り口で私を見て立ち止まる。そのまま席に着き、荷物を置いて私を見る。

 絵里香ちゃんは私のことなんて気にしないし、マネージャーと宮下さんは私のことをあらかじめ知っており、企画の準備などでそれどころじゃない。

 

「はぁ~」

 

 ニコニコの笑顔で手を振る幸田さんもとい、西野さんの反応がおかしいのだろうか……。

 

「ごめんなさい。ちょっとゲームの方で遅れちゃいました。全員いる?」

 

 スーツを身につけた、長い髪をハーフアップにまとめた眼鏡の男性が入ってくる。既に来ているマネージャー達とは違い、名刺の入ったネックストラップを胸のポッケへと入れている為、名前が分からない。

 

 ちょこちょこと2本の指で人数を数えた彼は、全員が居ることを確認し、パンッ! と手を1つ叩いた。

 

「皆色々集まった加減で思うことはあると思う。俺自身もメンバーを集める過程で知って、色々思った。なので最初に1つだけ言うね。6期生。この中だと新人だけど、敷島洋美ちゃんを担当してくださっている、元プロ野球選手の津路嶌さんです」

 

「だよねやっぱり!!」

 

 私の向かいに座っていた、ずーっとこちらを見て首を傾げていた茶髪の男性が、勢いよく立ち上がり叫ぶ。声が蔀先輩に似ている気がするけど、果たして本人かどうか……。

 他の人たちも似たような反応をしている。

 

「それじゃあパパッと自己紹介しようか。俺の名前はカナリエミ。華が鳴いて咲くって書いて華鳴咲(かなり えみ)だ。ムジカ・ムジークとして活動していて、VTuber としては1期生だ。気がつけば『ばーちゃりある』全体のリーダーになってしまった不憫枠」

 

 それじゃあ次。と、華鳴さんの隣に座っていた短髪の爽やかな青年に話が振られ、彼が立ち上がる。

 

「どうも。3期生の迫夢走(さこ むそう)こと三島翔(みしま かける)です。24の売れないミュージシャンしてます。それじゃあ宮下さん達社員を挟んだら1期生の幸田さんから期生毎に」

 

「今回の企画を担当します。ばーちゃりある企画課の宮下です。6期生の3人は初めましてだと思いますが、大型コラボなどの運営を担当しておりますので、何かしら企画を思いついた場合はご連絡ください」

 

「6期生のマネージャーを務めております長谷部です。私からは特に何も言うことがないので、幸田さん、お願いします」

 

 社員であるスーツを身にまとった2人、眼鏡が格好いい宮下さんと、ツーブロックでイケメンなマネージャーが挨拶を済ませる。

 というか、マネージャーの名前長谷部って言うんだ……。知らなかった。

 

「は~い! 幸田楓花こと西野茉莉です! 1期生です! 津路嶌さんとは一週間前にたまたま会いました!!」

 

 そうなんですか? と隣の絵里香ちゃんに聞かれ、そうです。と答えると、凄かったでしょ? とだけ言われた。たぶん、キャラを隠せてないところの話だよね?

 

「2期生の那須癒子をしてます水口絵里香です。よろしくお願いします」

 

「同じく2期生、アルレヒト・マル  

 

   長い」

 

「え? 酷くない水口さん」

 

「いや、むしろ長くないと思ってるの?」

 

「ちょっと華鳴さん!!」

 

「セデスって名前じゃないの?」

 

「それはリスナーが勝手に付けたんすよっ!! あーもう、毎回これじゃないすか!! 2期生セデスやってます栗栖克己(くりす かつみ)っす」

 

 やりとりから分かる。どれだけ先輩になっても、後輩からも同輩からもいじられ続けるタイプの奴だ。不憫枠とかじゃなくて、普通に不憫な奴だ。

 

「3期生の神室木(かむろぎ)アスカやってます仲邑明日香です。キャラクターだと男ですが、本体は女です」

 

「4期生蔀慶一してます奥田正史(おくだ まさし)です。スポーツバーで働いてます。津路嶌さん! 大ファンです!」

 

 最初、ムジカさんをしている華鳴さんが私を紹介した時に反応していた向かいの彼が自己紹介していた。

 反応していた時の声が蔀先輩に似ていた気がしていたので本人かな? と思ったが、まさかの予想的中だ。

 

「奥田とは高校時代同級生でした。4期生ダニエル・ヴァンガードをしてます。特牛太郎(こっとい たろう)です。山口の地名性です」

 

「相変わらず凄い名前やね先輩。名字と名前の温度差凄いで。僕は放出遼太郎(はなてん りょうたろう)。5期生のパン田やってるよ~」

 

「はいはい! 私は朝比奈クルやってます。深田舞(ふかだ まい)です!!」

 

「6期生牧野芳墨をさせていただいております。長尾景康(ながお かげやす)と言います。今日は皆さん、よろしくお願いします」

 

 私以外の13名の自己紹介が終わり、遂に私の番になる。野球界にいたときもこういうのは苦手だったけど、移籍して以降はあんまり自己紹介してなかった気がする……。

 

「あの、ムジカ先輩が紹介してくださったので、パスって言うのは……?」

 

「え? しないんですか?」

 

「はいは~い! 水口さんと津路嶌さんってどういう繋がりなの? 飲み会するくらい仲いいんでしょ?」

 

 うぐっ! と、先程のセデス先輩のようなことを絵里香ちゃんとすると、勢いよく手を上げた西野さんが、私たちの関係に突っ込んできた。

 言って良いの? という表情を絵里香ちゃんに向けると、彼女が話し出す。

 

「前に配信内で既婚者だってことを言ったことありますが、その相手が」

 

「え! 津路嶌さんなの?」

 

「いやいや、私は未婚ですよ」

 

 私の否定に、だよね~。と返した西野さんに対し、絵里香ちゃんは自身の名前を口にする。

 

「私の旦那、津路嶌さんの畿通時代後輩に当たる水口良輔なんですよ。旦那と結婚する前に、お前との結婚について、話したい相手がいるから会ってくれ。って言われたのが」

 

「私、津路嶌洋弥と言うことです。それじゃあ、敷島洋美をやってます。津路嶌洋弥です。去年までプロ野球選手をやってました」

 

「よし! それじゃあここにいる全員の自己紹介も済んだことだし。改めて、このばーちゃりあるの仲間となってくれた3名に歓迎の拍手を送ろう」

 

 司会進行を務める華鳴さんの号令で全員で拍手を行う。そしてしばらく経てば拍手は収まり、今度はホワイトボードを引っ張ってくる。

 

「さて、早速だが話を始めよう。今回久し振りの大型コラボを行おうと考えているのだが、コラボ人数は最低24名を考えている」

 

 現在、ばーちゃりあるに所属しているメンバーは引退と休業を除いて34人。1期生5人と2期生の6人。3期生と4期生が7人の、5期生が6人。そして、私たち6期生だけ人数が少なくて3名。

 だから、ほとんどの人がこの企画に参加すると言うこと。企画者のムジカ先輩と司会をするらしい迫先輩が数に入れられていない可能性がある。

 

「行うことは、ウィアクラを使っての3つの勢力による戦争だ」

 

 ウィアクラを使った戦争。それがどういうことなのか、ほとんどの人が分かって居らず、左右にいる人の顔を見たりしている。

 

「簡単な話だ。先ずは各勢力のリーダーを出す。そして、そのリーダーの指揮の下、二週間、専用のウィアクラサーバー内で資源の確保や防衛地点の建設などを行い、最終日に戦争を始める」

 

「戦力差は?」

 

「いい質問だ仲邑君。この企画では、建築と言った得意不得意が如実に表れることになる作業が発生する。そこで、基本的に建築が得意な者と戦闘が得意な者。戦略立案などが得意な者をあらかじめ運営側が分散させる予定だ」

 

 建築で言えば、神室木先輩の他に、3期生のタルト・タルト先輩や5期生の雨宮かぐや先輩が建築が得意と言うこともあり、その3名は確定で別チームになると言うこと。

 

「通常生成の世界の中で、決められた枠内に3つの勢力拠点を作ることになる。地形によって公平差が損なわれないようある程度配慮するつもりだ」

 

「勝利条件は?」

 

 特牛さんの言葉に、華鳴さんはホワイトボードを反転させる。

 

 ①制限時間が過ぎた時点で、一番多く人数が残っていたチームの勝ち

 ②人数のカウントとして、リーダーは2名分のカウントとする

 ③カウント数が生存チームで同点の場合、リーダーが生存しているチームを優先する

 

「この3つが、勝利に関係するもの。そして敗北条件は皆の想像通り勢力の全滅。ただ救済処置として、プレイ中運営側がポイントを1カ所指定する。最も早くそのポイントへ入ることが出来た者が所属する勢力から1名、ランダムで復活する」

 

 復活地点は拠点であり、復活する者はリーダーが優先ではない。

 

「これをするの?」

 

「ああ。これを行う。そして、リーダーを新規参入ライバーにすることによって、今後の新規ライバー普及の手段にするのも目的だ」

 

 と言うことは、このウィアクラ戦争は今後も続き、そこでは新規参入ライバーが問答無用で駆り出されると言うこと。

 

「あの、この企画は新しくライバーが増えたときに行うんですよね? なら、今回出場した場合次回以降は参加しなくても良いと言うことですか?」

 

「別に次回以降の参加は強制じゃないが、ある程度人数が必要な企画だ。ばーちゃりある内でメンバーが集まらなかった場合は、俺の伝手を使って個人勢を集めるから、横の繋がりを持てる」

 

 拘束時間も長いが、それと同じくらいにメリットもあると説明を受ける。特に、新人である6期生に取っては。

 

「とりあえず6期生の3人は絶対参加して欲しい」

 

 たとえ、ばーちゃりある内でコラボをしていたとしても、この機会は良いことだろう。

 私の場合は、1期生と2期生の代表的存在の幸田先輩と那須先輩。朝比奈さんの場合は、ゲームが得意な1期生の先輩である加納先輩と一緒にバトルロイヤルゲームで優勝していた。牧野くんも、ばーちゃりあるの建築勢3人と仲良く大きな城を作り上げている。

 

 それでも、知らない先輩はいるし、関わってみたい先輩もいる。

 

「分かりました」

 

 私たち6期生は、異口同音に返事した。

どれくらい Vtuber をしてる?

  • がっつり沼ってる
  • 企業 or 個人でお気にがいる
  • 数名名前しか知らない
  • まったく知らない

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。