現役生活二十六年。疲れたので、バ美肉して野球解説系Vtuber始めます   作:義藤菊輝@惰眠を貪るの回?

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5/26(火)中部日報コアラーズ対近畿通運パワーブルズ【実況小西:解説辰濱義和&津路嶌洋弥】 part2

 隅久が崩れた。

 6回を投げきり四球が1つと、ノーノーのペースで進んできた隅久は、大嶋に単打を貰い、続く福橋の初球で盗塁をあっさり決められると、3球目のストレートが綺麗にセンター前に落ちる。

 1アウト1、3塁のピンチで5番のタンケに投じた初球、甘く入ったアウトコースのフォークを、彼は軽々ライトスタンドへぶち込んだ。

 

 0対3といきなりビハインドになった畿通だが、隅久を下げることはなく、6番の高田選手に打順が回る。志島監督も、波野コーチも全く動く気配がない。エースに任せると言わんばかりに不動を貫いている。

 

 初球、2球をと続けてフォークを投げるが、二球とも地面にワンバウンドする球。かろうじて水口が抑えるが、明らか隅久の様子がおかしい。

 

 3球目のストレートはストライクゾーンに入るが、甘い。真ん中寄りのアウトコース。人によっては大得意のコース。

 

「フォークボールを二球続けてのストレート。どう見ますか? 津路嶌さん」

 

「えっとですね……。私的には悪くない配球だと思います。ただ、ここに来て制球が良くないですね」

 

「連打を浴びていることが原因でしょうか?」

 

「一概にそれが原因だと言い切ることは出来ません」

 

 投球というのは、多くのパーツを使って投げる。体全体で投げろ。なんて言うが、そんな単純なことで投球は成り立っていない。

 先ずは片足を上げて体重と重心を1カ所に集める。重心に力を残しながら腕を回し、体から1番離れた位置から体の中心線に引き込むようにして腕を前方へ伸ばすことによって、重心と中心線が噛み合い、力が1番高まった場所がリリースポイントとなってボールが放たれる。

 

 全てが噛み合うことによって成り立つのが投球だ。

 隅久の場合、二段モーションという独特なパターンの投球フォームで、さらには力を溜めるためにある腕を後ろに引く動作が殆どと言って良いほどにない。

 その代わり、彼の場合腕を回すスピードがかなり速いため、フォームとしてのバランスが取れているから150キロ台の速球をバンバンと投げ続けられる。

 

「さあ、アウトコースのスライダーをファールにした高田。カウントは2-2。狙い球は何か」

 

「隅久選手の球種は速球系が多いですよね?」

 

「そうですよ辰濱さん。ストレート、ツーシーム、スライダーが縦と横。シュートとフォーク。私が捕ってた頃は、肘への負担が増えないよう縦のスライダーとシュートは余り投げさせないようにしてました」

 

 水口の配球も私と大体が同じだ。

 ここぞと言うときに投げる球が1つあるのは大きい。

 隅久の場合、直球とスライダーの軌道が似ているが、それ以上に縦と横のスライダーの軌道がかなり似ている。

 紅白戦で対戦したときに苦労したが、それほどまでに彼のスライダー2種類は凶悪だ。

 

 縦のスライダーだけなら、投手4冠を取った全盛期の水走より上なのだから。

 

「おっと!! 見逃しました高田!! アウトコースギリギリの縦のスライダー。ウイニングショットと言っても過言ではないキレでしたが見極めました」

 

 フルカウント。1アウトランナー無し。

 

 次の打者は打撃にムラのある外江尚道。期待されているが芽が出ず、自身の外れ1位である東栄の元坂とは片や球界を代表するショートであり、片や鳴かず飛ばずの守備固め。

 

「さて、最終的にはわざと外すようなストレート。フォアボールで高田選手が出塁。内野陣、キャッチャー、そして波野ピッチングコーチが出てきます」

 

「この1~2分で落ち着けるかが重要ですね。バッター心理としては、ファーストストライクを狙いに来ますから」

 

 ブンブンと勢いよくバットを振る外江。たしか、彼の兄は去年、自由契約になっていたはず。

 

「さあ、自由契約によってチームから出て、現在は東栄に所属している兄、外江武弘(とのえ たけひろ)選手が背負っていた背番号を身につけた外江尚道選手が打席に入ります」

 

 初球。インハイに今日最速タイの153キロのまっすぐが突き刺さる。

 大きな声でストライクと宣告され、内野陣はグローブを叩きながら盛り上げる。

 

 ええで! ええで! と声を出すノリ、ファーストのエドワードも、セカンドのアンディも声を出し、キャッチャーの水口はバシン! と一度プロテクターを叩く。

 

「2球目です。セットポジションから……」

 

 ボールがリリースされ、外江がバットを出す。

 水口が隅久に要求したのは、インコース低めに入ってくるカーブ。

 ブレーキの利いたストレートと球速差のある良い球が、外江のバットに捉えられた。

 

「飛んで行く! 飛んでいきます! 外江尚道勝負の年の第一号は、交流戦の初戦! 畿通のエース隅久からの、ダメ押しホームラン!!」

 

 これで点差は五点。ドームの天井を見上げた隅久は、波野コーチに支えられマウンドを後にした。

 

 何だ? 何が原因で、隅久は突然ペースを乱した?

 

 おかしかったところは何もない。

 6回までの打者19人。確かに、フォアボールが1回あったが、それはツーシームがかかりすぎてしまった結果ストライクゾーンから逃げてしまったからだ。

 宮田選手は良く手を出さないで見逃せた。

 そう賛辞を送りたくなるような選球眼だった。

 

「突然打たれてしまった隅久投手ですが、どうでしょう……」

 

「いや、考えていますが、思い当たる節がなくて困っていま、困っているんです……。辰濱さん的に変なところって有りました?」

 

「変なところ……。あれか? 抜けたカーブ」

 

「抜けたカーブというと、ハーフスイングで三振になったシーンでしょうか」

 

 辰濱さんに助けを求めて聞いてみると、返ってきたのはこの回平良を三振に仕留めたカーブについて。

 しっかりと抜けきらなかったカーブが、真ん中高めのボールになったシーンだと思うが……。

 

「ツジ、揺れんな」

 

「あ、すみません」

 

 無言になって考えているとどうやら揺れてしまっていたようで、辰濱さんに鬱陶しがられてしまった。

 幸田さんや同期の二人から、無言の間は揺れている方が良いよ~。と言われてから配信中は体を揺らすように意識していたのが、こんなところで出てきてしまった。

 

「切り替えないと……」

 

 今私がいるのは現実だ。画面の中にいる敷島洋美じゃない。さっきも洋美の口調になりかけたし……。

 

「平良を抑えたカーブ。カーブという変化球は何か諸刃の剣的な部分があるんでしょうか?」

 

「なんとも言えませんね。私が球を受けていた人には……。そうですね、中報時代はカットボールが代名詞の河下さん。変な球を投げる山元さん。畿通だと水走、繁野なんかとバッテリーを組みましたが、実はカーブが得意な選手が多かったんですよね……」

 

 なので、特におかしく感じるところはなかった……。

 いや、違う。似たようなことが何回かあった。

 

「もしかしたら、って言う思い当たる節があるんですが、解説そっちのけになりそうなんです……。大丈夫ですか?」

 

「視聴者は津路嶌さんの話が聞きたいので、問題ありません!」

 

 辰濱先輩も聞きたいと言うので、私は思い出しながら話す。

 

「元東栄のエースである、桑原さんが話していたんです。カーブは家族じゃないって」

 

 カーブは家族じゃない。これは、他の変化球とひとくくりに出来ない。と言う話だ。

 

 カーブは、他の変化球から独立した変化球である。それはリリース後の手の向きによって分類をすれば。と言う話でだ。

 そもそも投球の基本とも言えるストレートは、必ずしも捕手に対して平行な回転軸でバックスピンがかかっているわけではない。これは、球と指が離れる瞬間に体に対し内側へと編み目にかかる人差し指や中指によって押し込まれるからだ。

 

「人間の体って基本的に内側に曲げる、曲がるんです。机なり窓なりを拭く動作を思い出して欲しいんですけど、自分の内側に向かって拭くのと、外に向かって拭くのだと、内に向かっての方が楽じゃないですか?」

 

 そう言うと、辰濱さんも実況の小西さんも利き腕を出して拭く動作をする。

 

「確かに」

 

「そうですね。内側への方がやりやすいです」

 

「プロレスの技にドラゴンスクリューっていう技もありますけど、あれも膝に対して靭帯が切れにくい内側へにしか回さない。かけないんですよ。それ以外はご法度。故意に怪我させに行ってる様なものですから」

 

 まあ、プロレスは相手に怪我させてナンボなんですけどね。なんて笑いながら話を続ける。

 

 私が何が言いたいか。

 それは、ピッチャーが投げるストレートを体験して、印象を話すときに、こいつはちょっとシュートする。とか、シュート回転だから遠くまで飛ぶぞ。なんて表現が使われるが、それは親指や人差し指が下に、言うなら投げ終わりの掌が体の外側に向くからだ。

 

「ストレートもスライダーもフォークもシンカーもシュートも全部、掌は外を向きます。シンカー方向に落ちるフォークは聞くことあると思いますけど、カーブ方向に落ちるフォークは聞いたことないでしょう?」

 

「そうか。言われてみたらそうだな」

 

 対してカーブは、内側に掌を向けたまま投げなければならない。手からボールを抜くことによって回転数を抑え変化をつけるから。

 

「手首を立てながら空手チョップをする感覚だって桑原さんに言われましたよ。カーブの投げ方は。それで畿通に移籍して、自分より歴の浅い選手に色々教えることになって、変化球投げさせたときの盗塁阻止練習とかしてましたけど」

 

「それってピッチャー使うの?」

 

「出来るならしたかったですけど、一軍も二軍もピッチャーは自分たちの調整と練習がありますから、頑張って変化球投げられるようになりましたよ」

 

 シュートはどうやら投げ方のクセで自然にストレートが変化していた。チェンジアップは元々投げられたから問題は無い。スライダーとシンカーは、高校時代に遊びで水走に教わったのを思い出しながら投げられるようになった。フォークは、握力と安定感の問題で慣れに時間がかかったが、いまはある程度問題なく投げられる。

 一軍で活躍している様な選手達の変化球ほどキレも変化量もないけど。

 

「カーブだけね。感覚が違うんですよ。抜くって言っても、フォークやチェンジアップとは全く違う感覚だったんで」

 

「その抜く感覚で隅久選手の調子が崩れたと?」

 

「はい。同じ抜く変化球でも、フォークは押し出すような抜き方をします。それに対してカーブはそのまますっぽ抜けるように投げる」

 

 人によっては弾く感覚で投げる選手もいるが、大半は抜く感覚だろう。私は、桑原さんに自然と曲がるよ。なんて言われて頑張ってみたが、一向に曲がらなかったので諦めた。

 

「力を抜いて投げなければならない変化球は、それまで入れていた力を抜くこともあります。ですが、力の抜け方が悪いとかえって調子を崩す」

 

 シーガルズの唐選手なんかも、カーブが上手く効かず調子を崩す事があり、回の短い中継ぎへと配置変換している。

 それがカーブを無理やり投げなければならないほど多くの打者と一試合に対戦しなくなったこともあり、現状だとホールドポイントランキングのトップ5に入るほど調子がいい。

 

「けど、考えてみればありえますね。これまで隅久選手はストレートが主体の投球で、スライダーとフォークで三振を取っていましたから」

 

「そう言えばツジって良くフォークとかカーブ投げさせてなかったか? けどそれで調子崩すピッチャーは……。そもそもカーブが得意だったってことか」

 

 辰濱さんの見解では、試合中に無駄を省くことを良くさせていたツジの弟子なんだから、水口だってそう言うリードだってするだろう。というもの。

 

「一長一短ですね。投手にも好みはありますから。直球勝負をしたいピッチャーもいれば、変化球で振らせたいピッチャー。コントロールで見逃し三振を取りたいピッチャー」

 

 ただ、カーブを投げさせることが多かったのは先発投手。長い回を投げさせるために無駄な力を抜くことは重要だ。

 やり過ぎは良くないので、打者が2巡するくらいからと決めていたが。

 

「カーブを投げたときの抜け方に意識と現実で差異が生まれた。その際、指を切るか擦る感覚で投げる他の変化球に影響を与え制球と変化量に異常が出る。ストライクが入らないから水口もストレートを投げさせ隅久も投げるが、焦りが出てフォームが乱れる」

 

 こんな感じの順番で、隅久選手は崩れたんじゃないでしょうか。と言う私に、辰濱さんも小西さんも納得の表情を浮かべてくれた。

 

「私の考えたことが全部間違えていて、右肘の靭帯に異常があるとかだったら大爆笑ですね」

 

「畿通的には笑えない話だけどな」

 

 そうですね辰濱さん……。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

「そう言えば、畿通って結構経営がやばいらしいな」

 

「え? そうなんですか?」

 

 8回、安木の代打で出場した7年目の芳岡雄次(よしおか ゆうじ)が一矢報いるホームランで1点返した。だが、畿通の攻撃はそこで終わり、1対5の完投負けを食らってしまった。

 

 途中降板した隅久に関しては、球団からの情報では怪我などではないらしい。交流戦に勝って後半戦へ勢いをつけていきたいのに、数少ない勝ち星を計算できるピッチャーの離脱は相当な痛手になる。

 そんな情報が載った記事を見ていたのだが、辰濱さんの話に意識が全て持っていかれた。

 

「でも親会社の経営が厳しいのって結構昔から言われてません?」

 

 まあそうだな。と、球場から移動して栄にあるとある居酒屋でチームの話を辰濱さんとする。

 

 球団の親会社である近畿通運は、主に関西圏を中心にする物流系の企業だ。ついでに高速バスやらなんやら、物だけでなく人も運んでいる。

 私は、中学生の頃に親の転勤に合わせて大阪に来た身だが、辰濱さんは根っからの大阪人。大阪の3球団のどこかに入団したかったと入団当初は溢していたらしい。

 

「けど、ちょこちょこ事業縮小してるらしいぞ。特に人関係の方は」

 

 そう言われ、パパッと携帯で調べてみると、出てきたのは中国・四国方向へと伸びる高速バス事業を売却する予定だというニュースと、畿通の持っている百貨店の内3店舗を閉店する予定だというニュース。

 

「これ、球団消滅とかありません?」

 

「そうなるとやばいよな。俺たちはもう選手じゃないから、選手として文句言うことができんからな」

 

 一応球団関係者として席に着けば変わる。コーチなり何なり。ストライキだって出来るが、今はただの部外者だ。親会社に文句を言える立場ではない。

 

「もし球団が消滅したら、新規参入あるのか?」

 

「さあ、そこまでは僕も知らんけど」

 

 畿通の事業縮小が露骨になり始めたら、球団に聞いてみるか。このとき、私はまだ軽くしか考えていなかった。

セ・パでどっちが好き?

  • セ・リーグだろ!!
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  • 12球団箱推し!!
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