現役生活二十六年。疲れたので、バ美肉して野球解説系Vtuber始めます   作:義藤菊輝@惰眠を貪るの回?

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 かなり時間が空いてしまいすみませんでした。
 親戚の法事、大学のこと、就活に卒論に課題に圧倒的に足りない単位と……。立て続けに事件が。

 隙間を見つけて更新していく所存です。

 あと、投稿時間ミスってました。9時半に読んでくれた方々、ありがとうございます。


6/28(日)【敷島洋美】ご報告があります【ばーちゃりある6期生】

「あーあー。聞こえていますでしょうか」

 

 上位チャット

 コメント:聞こえてるよー

 コメント:大丈夫

 コメント:オッケーよ!

 

「先延ばしにするのは良くないとそう思い、急ではありますが、ワテクシの存在を知る皆様にご報告を致したくこの配信枠を取らせていただきましたわ」

 

 上位チャット

 コメント:ツイッターで見て飛んできた

 コメント:報告って何?

 コメント:なんかあった?

 

「えーっと、本題に入る前に……」

 

 6/28(日)

 #敷島洋美 #ばーちゃりある #ご報告

【敷島洋美】ご報告があります【ばーちゃりある6期生】

 

「視聴者の皆様ご機嫌よう。ワテクシが、ばーちゃりある6期生の、敷島洋美でございますわ。改めて、本日はご報告がありまして、急ではございますがこの配信枠を取らせていただきました」

 

 画面に映るのは敷島洋美だけ。普段使っている背景は全くなく、ばーちゃりあるのメンバーに配られる初期背景の真っ白な壁と、『ばーちゃりある』の文字。そして、コメント欄が映る。

 服装も、敷島洋美の正装である学校の制服。初期アバターだとユニフォームであるため、今回はしっかりと状況にとって正しい服を選んだ。

 

「ご報告というのは、ワテクシ、敷島洋美の所謂前世についてで御座います。ワテクシが敷島洋美として活動を始めてから、この件に関しては公表しないつもりでいました」

 

 長谷部さんに言われて考えた。

 洋美として活動し始めた時の気持ちと、今の気持ち。そして、敷島洋美ではなく津路嶌洋弥としての気持ち。周りに対してどう思っているか、どう思われたいか。

 

「公表しなかった理由はちゃんとあって、私の存在を知って夢を見てくれた方が落胆する可能性があることが怖かったこと。それが何よりも怖かった。

 

 視聴者の100パーセントが、純粋に私のことを応援してくれているわけじゃないことを私は理解しています。そのことを私は非難するつもりはありません。そんなこと、選手時代から知っている。私がいなければ俺たちの球団が優勝するのに! と、キャンプ場や試合後に言われたこともあります。だから、そのことは理解しています。

 

 だからこそ、チームなんて関係なく応援してくれる状況がとても嬉しかった。チームが勝つために国際大会には出場しませんでしたが、それでも交流試合に積極的に出ていたのはそういう意図もあります」

 

 東栄ドーム。約46000人が敵味方関係なく応援してくれる。

 オールスターなら半分の約23000人。アツタドームもブルズスタジアムも約2万人が応援しているリーグという傘のもと応援してくれる。

 

 敵味方関係なく叫んでくれる応援歌やコールがどれほどの力になるか。それを私は覚えてしまった。

 

「私の存在を気にしない人たちなら、ワテクシのことを応援してくれる。そんな皆様の言葉を私は聞きたかった。始まりは些細なことです。引退後のセカンドライフをどうするか」

 

 悩んでいた頃に水口の奥さん。つまりは那須癒子こと絵理香ちゃんに誘われたことがきっかけだ。楽しいことしませんか? と誘われた。絵理香ちゃんからじゃなければ絶対に誘いに乗っていなかったと思う。これが弟夫婦の嫁さんとかだったら絶対聞いてない。

 

「最初はこっそりするつもりでした。まあ、企業の一部として活動している以上敷島洋美という存在が大きくなることは理解していましたが、それでも目立たずにいるつもりでした。

 

 ですが、野球というVtuberを愛する方々からは遠く離れた分野にもついてきていただけたことが嬉しくて、敷島洋美という存在をきっかけに野球を見るようになったと言ってくれる方が増えたことが嬉しかった。

 

 幸田先輩を好きな方は中国東洋レッズのファンになると言ってくれたり、ムジカ先輩のファンは千葉京葉シーガルズを応援すると言ってくれたり。自分の住む場所だから。住んでいる場所から一番近いところだから。そう言って球団のファンになってくれる方がいた。その事実が、私にとって現役時代に背中で感じてきた観客の皆様の視線と重なりました」

 

 長くなりましたね。そう話を一度止め、手元の水を口に含む。コメント欄は、自分の推し球団を言ってくれている。やはり畿通が多い。まあ、畿通についての配信が多いから予想通りだが。

 

「ワテクシ敷島洋美は、中部日報コアラーズと近畿通運パワーブルズで二十六年間活動していました津路嶌洋弥です」

 

 声が震えてる。そんなに怖かったのか? 私は。

 目に見えない、画面越しにいる約20万人との繋がりが。

 

 上位チャット

 コメント:お嬢?

 コメント:声震えてんぞー

 コメント:知ってる

 

 スーパーチャット:津路嶌洋弥って誰だ? 俺は敷島洋美しか知らねぇ 10000円

 

 コメント:公然の秘密だぞ?

 

 スーパーチャット:僕は洋民であって、前世なんて興味ない 5000円

 

 スーパーチャット:そんなことより、明日の配信何すんの? 3500円

 

 コメント:わかってるよ

 コメント:気にすんな。誰もお嬢から離れねぇ

 

 スーパーチャット:野球知らない俺たちに何言っても無駄だぞ? 200円

 

「あの……。そんなこと言われると、ここまでの数日間めちゃくちゃに悩んでいた私がバカらしいのですが」

 

 上位チャット

 コメント:草

 コメント:全て否定されるお嬢

 コメント:w

 コメント:草越えて芝

 コメント:天然芝生える

 コメント:いや、人工芝生えたわ

 

「あの、もう少し嫌われるものだと思っていたのですが……」

 

 上位チャット

 コメント:芝

 コメント:芝

 コメント:芝

 コメント:芝

 コメント:芝

 

 スーパーチャット:配信スタイル変えるの? 変えないのなら、洋民は何も気にしないよ? 100円

 

 コメント:芝

 コメント:芝

 コメント:芝

 

「いや、変えるつもりはありませんわ。これが洋美の戦い方だと思っていますもの」

 

 コメント:ならいいじゃん

 コメント:気にすんな

 

「なんというか、皆様の受け取り方が予想外すぎてちょっと困ってます。このあとどうしよう。あ、ワテクシと津路嶌の関係性の設定を考えます? マネージャーからは、叔父と姪の関係で説明しては? と言われまして……」

 

 もう頭が回ってない気がするが、その場のノリでエクセルを開いて設定を作り始める。もうこうなったらどうとでもなれ。やりたいことをやろう。やりたいをことをやって、ファンと一緒に走れるならそれでいいや。

 

 新たに細かな設定の枠組みを一覧にし、いろいろな部分を埋めていく。

 

「ワテクシが野球を始めたきっかけは……」

 

 コメント:そりゃおじさんに憧れてだろ

 コメント:津路嶌に憧れないやつ居ないんだよなぁ

 

 敷島洋美の設定がどんどんと作り込まれて行く。

 野球を始めたきっかけは、叔父である津路嶌洋弥に憧れたから。キャッチャーを始めたのも同じ理由。口では洋弥のことを嫌っているが、憧れから恋心を抱いている。そんな感じ。

 大体の設定は視聴者の悪ふざけだ。ツンデレ要素が多いのも、何故かツンデレ好きが多かったせい。

 

 スパチャでツンデレ属性を推さないで欲しい。みんなそれに乗っかって2〜3分の間コメント欄がツンデレの四文字で埋まったよ。ツンデレってどうすりゃいいんだ。

 

「改めて言いますが、こうやって敷島洋美として活動している時は津路嶌洋弥と呼ばないようにお願い致しますわ。ワテクシの我が儘ではありますが、全く別の存在ということでお願いいたします」

 

 上位チャット

 コメント:了解

 コメント:オッケー!

 コメント:わかったぜお嬢!

 

 肯定的なコメントが多く流れることが嬉しい。そんな思いを抱いていると、一つのコメントが流れてきた。

 

 スーパーチャット:ところで、津路嶌洋弥が中報やめた理由って知ってる? おじさんから聞いた? 120円

 

「あっ……。それは……」

 

 コメント:気になる

 コメント:確かに気になる

 コメント:芝

 コメント:芝

 コメント:知りたいな

 

 え? どうする? 若気の至りを、中報に踏みとどまって成績で見返すことに嫌気がさして出て行ったことをここで暴露……。いや、それはないな。うん。ない。

 

「また明日からもよろしくお願いいたしますわ!!」

 

 コメント:あ!

 コメント:逃げんな

 コメント:ちゃんと話せ津

 ー配信が終了しましたー

 

 背もたれに体を預けた。どっと疲れが押し寄せてきたからだ。

 思っていたよりも気づいていた人が多かった。そして、思っていたよりも多く私の存在を知っていた。何より、思っていたよりも多くの人が、気にしていなかった。

 

「はっ、ははっ。ふぅ……。私だけか、アホらしくうじうじと悩んでいたのは」

 

 全身の力が抜けているのがわかる。喉が乾いているように感じるが、デスクに置いているペットボトルの水を取ることすら面倒だ。

 

 配信中は鳴らないように設定している通知が、止まることなく鳴り始めた。

 

「ツイッターツイッターツイッター、チャットチャットツイッター……。ばちゃりあメンバーもいっぱいなんか来てる。長谷部さんからもか」

 

 長谷部さんから来た言葉は簡潔だ。「やり切りましょう」とその一言だけ。

 

「やだなー。明日の朝とかになったら、畿通から電話とかくるのかな……」

 

 

 


 

 

 

「それじゃあそういうことで。みんな、明後日から新体制になるけどしっかりとメンバーを支えて行こう」

 

 ばーちゃりある本社の会議室では、社長である近衛が一つ手を叩いた。

 ホワイトボードを見つめるマネージャー陣はそれぞれがそれぞれの表情を浮かべる。無表情、笑顔、安堵や少し悲しそうな顔まで。

 

 そんな中、長谷部は俯いていた。

 

 今日の会議は、増えるメンバーを担当するマネージャーの変更についてだ。

 これまではデビューのタイミングごとで一つの期に一人という形だったが、業務分担やメンバーとマネージャーの相性などを考え、マネージャーの追加と同時に発表された。

 

「それじゃあマネージャー変更の話はこっちから報告するけど、担当が変わる人は個人でもしっかり連絡してあげてください」

 

 6期生は自分が担当すると思っていた。

 牧野くんも、朝比奈さんも、敷島さんも。自分と共に成長すると、彼らの足跡を見続けることができると思っていた。

 でも違った。

 

「鮫島さん。朝比奈さんと牧野くんをお願いします」

 

 6期生は手元から離れた。採用担当からマネージャー担当へ移った鮫島さんが二人を担当し、そして、最後の津路嶌さんは、元2期生担当の三宅さんが引き継ぐことになった。

 

「長谷部くん。敷島さんは任せなさい。私の担当は少なくなるし、あなたはあなたができることをなさい」

 

「はい」

 

 確かに、長谷部にはやることがある。それは予備生と呼ばれている七期生たちについてだ。

 長谷部の一言によって一芸に特化したメンバーの十人が選ばれ、その全員がデビューを果たした。それぞれの得意な分野が被っているメンバーはすでにコラボも始めており、なかなかいい滑り出しをした人もいる。

 もちろんそうでない人もいる。代表的なのが嗚呼絵桃子だ。

 

 彼女は行動力があるが、なにぶん慌てる。初配信も慌てすぎて十五分ほどで配信をやめてしまったし、2回目の配信では、緊張からか一言も話さずに十分間絵を描き続けていた。その奇妙な行動だったりが気に入られてはいるが、しっかりと配信して欲しいのが会社側の気持ちだ。

 

「6期生と今から! って気持ちはあるだろうけど、私たちはみんなでばちゃりあよ? 企画担当も採用も、私たちマネージャーも華鳴くん達メンバーも全員でね」

 

 そう言って三宅は会議室を出た。

 表情を変えず、至っていつも通りに。

 

「ふう。やっぱ三宅さんはすげーなー」

 

「まあねー。んで? どう、気持ちは切り替えれた?」

 

「あ、はい。社長……」

 

 気がつけば、会議室に残っていたのは3人だけ。社長の近衛と、華鳴。そして長谷部。

 他のみんなはすでに自分の持ち場へと戻って行っており、中には退社時間になったから会議終わりにそのまま帰った人もいる。

 

「まあ、何て言うか、最初はそんなもんだよ。慣れてない人の輪の中に入って。マネージャーはメンバーと視聴者の間の立つ人物だ。その上で、箱としてのルールを守らせる強制力がある。そして、危なくなったらメンバーを守る」

 

「6期生は良い子ちゃんだからなぁ。クルも芳墨も洋美も」

 

 社長の隣でウンウンと頷く華鳴さん。この人は一体何目線なのだろうか……。

 一応、役職的にはマネージャー陣のリーダーか。役職多くないか? メンバーとしてもマネージャーとしてもリーダーとして動いてて、企画して、司会して、ゲームマスターなんかもして、曲作って……。

 

「人じゃない」

 

「んぁ?」

 

「い、いえ……」

 

 無意識のうちに言葉が出てたのを必死でごまかしていると、会議室の扉がばだっ! っと大きな音を立てて開かれた。

 

「しゃ! 社長!!」

 

「あらあら、どしたー」

 

 完全に切羽詰まった表情の社員に対し、オフモードなのかゆったりと答える社長。チェアの背もたれに体を預ける様はどこかるどう見てもやる気がない。

 

「あ、あの……敷島さんが」

 

「ん? 敷島さんがどうしました?」

 

 まさかの名前に驚いた長谷部が声を出すが、会議室に来た社員はそんなこと気にせず言葉を続ける。

 

「敷島さんが、自分が津路嶌洋弥だと告白しました!」

 

 そういえば、今日配信スケジュールに書いてたなー。一応、野球配信とか書いてた気がするけど……。

 そう思考を放棄してから理解が追いつく。

 

「え?」

 

「え?」

 

 異口同音に驚く長谷部と華鳴。そして、何も言わずに頭を掻き毟る近衛社長。

 

「は? 敷島さん、身バレしたの? 自分で? 何で? 隠しきれんから? そないなこと良いわ。どうする? 彼女のキャラは? 価値観や存在感は? リスナーはついてきてくれんのか? 大丈夫なんか?」

 

 早口言葉のように小さい言葉で独り言を話す社長。その横にいた華鳴さんは椅子から立ち上がると、そろりそろりと出口の方へ向かう。

 

「あーっもう! やってられっか!! 横溝、三宅と鮫島呼んで! すぐ!」

 

「はっ! はい!」

 

「わ、私が呼ぶよ」

 

「お前は強制参加だ! 長谷部も!」

 

 情報を伝えにきた広報の横溝さんが指示を受け走り出す。

 何が何だかわからないままキョロキョロとしていると、入り口付近で静止された華鳴さんが悲しそうな顔をする。なんかやばいらしい。

 

「何よ近衛くん。付き合わされるこっちの身になりなさい」

 

「そうだぜ? めちゃくちゃ帰ろうとしてたのにっと……。お前は道連れだ華鳴さんよぉ」

 

 しばらくすれば扉が開き、やれやれと言った表情をする三宅さんと鮫島さんが入ってくる。それでも近衛さんはずっと頭をガシガシと掻いているし、華鳴さんは会議室の扉に持たれている鮫島さんをどかそうと必死になっている。

 

「安心しなさい。ただの飲み会よ? それよりも、今からで良いから敷島さんの配信を見ておきなさい」

 

「え? あの、どういう」

 

「近衛くんは、自分の理解が追いつかない時はヤケ酒に走るのよ。だからそのたびに親会社の同期だった私たちと、友達の華鳴くんが生贄にされるわけ。あと、マネージャーの配属が変わるのは明後日よ? それまでは私じゃなくてあなたが敷島さんのマネージャーなんだから」

 

 その後、飲み会が始まって三十分でベロベロに酔いつぶされ、敷島さんの配信を視聴し、涙を流しながら「やり切りましょう」とメッセージを送ることになるとは知らない長谷部は、お酒苦手なんですけど大丈夫ですか? と不安げに答えることしかできなかった。




 よし。これで第一章の終わりかな?

 公然の秘密として、時にはネタにしながら敷島洋美と津路嶌洋弥は存在していきます。

セ・パでどっちが好き?

  • セ・リーグだろ!!
  • いいやパ・リーグだね!
  • 12球団箱推し!!
  • 野球分かんねぇ~

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