現役生活二十六年。疲れたので、バ美肉して野球解説系Vtuber始めます   作:義藤菊輝@惰眠を貪るの回?

55 / 80
 新学期に合わせてバタバタとしておりました。
 当分更新遅くなると思います。


低迷する猛牛。確変する男。

 あ、打たれる。

 

 そう思ったのは、ピッチャーである森田幸喜が踏み込んだ瞬間だった。

 普段よりも足が横に開いており、少しバランスが崩れている。肘の出方も見える。力が入りすぎて、体全体の軸がぶれているのが見え見えだった。

 

 求めた変化球はシュート。彼の決め球であり生命線でもあるその球が投げられるが、指の引っ掛かりが悪いのか回転量が少ないのが見て分かる。

 

 モバイルホークスが誇る次代のスター。若鷹の凪多は見逃すことなかった。

 右ピッチャーのシュートは左バッターからすれば離れていく球。ストレートと変わらない速さを誇る彼のシュートは、変化が弱ければ飛びやすいただのストレート。

 

 8回の表。2点のリードをひっくり返すスリーランが鷹の応援団が待つレフトスタンドへと飛んでいく。

 球場に溢れるため息。またこのパターンかと呟く声が耳元で聞こえている気がしてしまう。

 水口じゃあ……。

 津路嶌じゃないと……。

 6分の1しか勝てないのはなぁ。

 どないなっとんや。

 

「おい! しっかりせえ!! 裏の攻撃2回もあるんやぞ!! 2点くらい取り返せんのやからな!!」

 

 無理だって。そんな雰囲気がグラウンドには流れている。

 まだアウトは一つ。森田はすでに交代させられており、三日前に合流した助っ人外国人がマウンドに上がっている。投球練習の感じだと調子は悪くない。

 150を平均的に投げれるところを評価され、スライダーとツーシーム。カットボールと芯をずらす球を使える。決め球のシンカーはフォークのように縦に落ちる。昨日初めて受けたが、大丈夫な気がしていた。

 

 そう、気がしていただけだった。

 

 5番、バレンティアーノがライトへ単打。代走が送られ、東山が盗塁を決めワンナウト二塁。

 6番の外川が再びライトへ単打を打ち一、三塁のチャンスにすると、7番の本田が今シーズン3本目のホームランを打ち込んだ。

 

「くそっ……。どうしろってんだ」

 

 ほとんどの球が求めたコースに来ない。ノーコンすぎてフレーミングとか関係がないほどにゾーンから外れる。逆球も多い。

 志島監督に向けて投手を変えてくれというサインを出そうとはしたが、そもそもハマる投手がいないからこんな現状になっているのだ。打つ手がない。

 

「なぁ甲斐田。どうやったら勝てると思う」

 

「え、僕に聞くんですか……」

 

 右打席に入った他球団の後輩に思わず愚痴るが、そもそも高稼働で自滅している投手陣をどうにかしなければ意味がない。

 とりあえず使い方を変えよう。そう思いまずストレートではなくシンカーを投げさせる。ど真ん中から落とすイメージで真ん中に構えれば、綺麗に2球投げてきた。

 

「なるほどね」

 

 当ててもいい。そんな感覚で俺はインコースに構え、ドミニカリーグで彼が成績を残せたツーシームを投げさせる。

 

「ットライク!! バッターアウト」

 

 後一人。アウトコースが苦手な打者だが、第一打席ではインコースを詰まらせ、第二、三打席はアウトコースを使った。きっとアウトコースに意識が入ってるだろう。

 

 ストレートは使わない。ツーシームを投げる加減かたまにシュート回転するから。なら、カットボールを打者の胸元に食い込ませる。

 

「うん」

 

 背中から聞こえるアウトの宣言に頷くと、ベンチへトコトコと戻る。この回は四番から。主砲のノリが調子を崩していることもあり、元気のない中軸。ノリ、磯岡、そして俺。

 この三人でせめて一点取らないと、逆転の目はない。

 点差は4点差。畿通が4点で北九州が8点。

 

「ノリさん、気負いすぎてもダメですからね。やりたいようにやりましょう」

 

「おう。せやな。まあ、打てるかもわからんけど、やるだけやる」

 

 ダメだ。ここでもそう思う。普段なら、俺に打てん球なんぞないわ! と言った好戦的な彼が、やるだけやる。と内向きな気持ちをこぼしてる。磯岡も、アンディーも、芳岡も、全員の気持ちが落ちている。

 

「監督」

 

「どうした。水口」

 

「今日のスタメン。全員2軍に落とした方が勝てます。誰も活気がない。勝つ気もない」

 

「おい、水口、それは違うぞ。こっちがどんだけ打っても負けてんだからようおい、テメェのリードがよくねぇんじゃねぇか!!」

 

「水口さんはちゃんとしてますよ! キャッチャーのこと知らないのに言わんでくださいよ安木さん!」

 

「そうですよ! 試合終わり毎日水口さんと有吉さんと三人で相手チーム分析して、ピッチャーの状態も確認しあってるんですから」

 

 空気が悪い。悪手だ。

 発破をかけるために言い出したが、野手と捕手陣で溝ができてる。実際負けてるのは自分のせいとでも思ってるのか、ピッチャー陣は俯くだけ。

 

「どうせお前らじゃ津路嶌さんの足元にも及ばねぇだろ! 失点減らしてから言えよ」

 

「あ、あの皆さん」

 

 んだよアンディー、と羽合さんが語気の強いまま仲裁をしようとしたらアンディーに突っかかる。

 

「いつまでも捕球ポロポロさせやがって、図体でかいだけのデクの棒はいらねぇんだよ」

 

「責任転嫁なんかいらねぇんだよ!!」

 

 流石に大きな声を出しすぎたか、少しベンチの上がざわついたような気がする。まあ、そんなこと気にしてる暇はない。

 

「俺らは取り返す猛牛だろ? たしかに俺たち捕手陣に津路嶌さんのような力はない。誰がどう見たってない。チャンスに弱いし、こぼすし、打てない。でもよ、それでもできることを伸ばそうとしてんだよ。自分以外に文句は言わず、自分たちの課題を潰してってんだよ」

 

 アンディーの守備に文句を言ったことはない。不調のノリにしゃんとせいと怒らない。ピッチャー陣にはもっとだ。津路嶌さんが教えてくれた。

 

「失投で点を取られたらピッチャーのせいだ。それは事実だ。でもな、だからってその失投をさせないようにする努力を俺たちは怠ったことはねぇ。読みが外れて打たれたら俺たちが悪い。お前ら八人と向き合えるのは俺たちキャッチャーだけだぞ!!」

 

 ノリと磯岡が単打で出塁し、俺の出番になっている。ウグイス嬢が宣言もしているのに、出てこない俺を審判が急かしに来る。

 

「やりたいようにやる。打ちたいように打つ。守備の責任はキャッチャーだ。なら、攻撃の責任は誰だ? 逃げんな。逃げるなら死ね」

 

 急いでメットを被り、バットを握った俺は打席へ向かう。

 

「すまん絵理香。多分また罰金だわ」

 

 そう呟きながら入った打席は、思いのほかいつもより狭く感じた。

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

「おい、俺の前でよく喧嘩しやがったな。試合中の喧嘩は罰金だっていっつも言ってるよなぁ」

 

 ベンチに座り、腕を組んで静観していた俺は、立ち上がり声を出す。

 

「止めようとしたのはアンディーだけか。んで、投手は止めにすら出なかった。なら、アンディー以外ここにいる奴全員罰金だな。まあ、アンディーもエラーの懲罰で罰金か……」

 

「すみません……」

 

「まぁ、お前らを使いこなせてない俺にも責任がある。だから今回だけは罰はなしだ。だがな、あんだけ言われて俯いてるやつは、全員落とす」

 

 津路嶌が監督を辞め、次の人物として俺が選ばれた時、球団社長に会いに行きまず挨拶をしてきた。ただ、彼を含む上層部が気にしていたのはお金に関してのみ。

 津路嶌という客寄せパンダがいないチームは、優勝しなければ存続できない。グッズの収益なども、津路嶌の影響は大きく、チーム運営の財源は減っていくばかり。

 もって2年。そして、そのうちに収益をあげられるよう勝たなければ、首だけじゃ無く、チームがなくなる。たしかにそう言われた。

 

「上も企業も変なことしてる。お前らも気づいてるとは思うが、球団の黒字はここ数年発生していない。そんな状況を知ってるのかは知らねぇが、お前らはがむしゃらにやってる。やり過ぎてハマってないくらいにな」

 

 得点圏にランナーがいる状況で、水口が打席に立つ。それは即ち併殺を意味する。そんなことを津路嶌と俺は愚痴りあったことがある。満塁のチャンスでトリプルプレーを3回した時はもう笑うしかなかった。

 だが、このチームの中であいつだけが違う。

 

「好きにやれよ。俺も、津路嶌も津路嶌の前の扇監督もスタンスは変わらん。お前らが自由にやることに関して枷はない。責任もない。責任は俺だけに来るんだから」

 

 俺がそう言った瞬間、グラウンドに快音が響き渡る。

 

 まじかよ。そう呟きながら顔をベンチから出すと、ファンたちが待つライトフェンス直撃の2点タイムリーを放つ。

 

「お前ら、17年目のベテランが打って、走ってんだぞ、あんな笑顔で」

 

 二塁ベースの上に立つ男は、満面の笑みで拳を突き上げる。ポテンヒットが常のあの男に、フェン直タイムリーが出た。

 

「良い手本がいる。あいつみたいに楽しんでみろよ。後3点。取れんだろ?」

 

 振り向いた先、野手たちの顔に曇りはなかった。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「くっそ……。勝てたはずなのに」

 

 自宅のベッドにうつ伏せになりながら、俺は今日の試合を振り返る。

 延長12回で勝敗は決まらず、10対10の引き分け。畿通としても北九州モバイルホークスとしても、後一点が出なかった。

 

 8回の裏、ノリと磯岡による連打で塁に走者を溜め、俺のフェン直で2点を返して8対6。一塁コーチャーにクセを教えてもらい、久しぶりの盗塁を決めようと走り出したら、7番のアンディーがひっかけてしまいゲッツー崩れでランナー二塁。

 その後三振とセカンドフライでチャンスを潰した畿通だが、9回の表はイニングを跨いだグロージャンが三者三振で切り抜け、裏へ繋ぐ。

 

 フォアボールとライト前のヒットで一、三塁になったのを、3番の芳岡が返し一点差まで詰め寄ると、ここ二週間打点を上げていないノリに代打を送る。

 チームの主砲に代打を送るという屈辱に、ノリはベンチに戻った後俯いていたが、彼独特の太く長いバットを持ってベンチ裏へ消えていった。そんな中出てきたのが代打の切り札。西山。

 代打での出場時、抜群のセンスを見せる彼が打ったのは、センターの奥へ落ちるヒット。二塁ランナーとして出ていた羽合が駆け抜け、同点へ追いつく。

 

 10回と11回はお互いに0点のまま続き、お互いに打者を使い切った状態で迎えた12回。

 

 北九州の打線がつながり、ツーアウト二、三塁から代打で出てきた粟原がライト方向へ大きな当たりを打つ。2点が入るものの、粟原は暴走し三塁へ好送球を見せた磯岡の刺殺によってチェンジ。

 

「良ちゃん的には勝てた?」

 

「勝てたね。と言うか、全部の試合勝てるはずなんだよ。チーム打率はトップだし、ホームラン数と得点も高い。いつも通りの畿通だよ」

 

 ただ、投手が噛み合っていない。

 

「今って、水走さんと隅久くんだけだっけ」

 

 うつ伏せになっていた俺の横に座った絵理香が、静かに俺の頭を撫でる。

 いつぶりだろう。こんなに甘やかされるのは。普段なら隣の配信部屋でゲームでもしてるのに。

 

「水走さんが11勝6敗。隅久が10・10のトントン。正直他が負け越してるけど、中継ぎの負けが多すぎる……」

 

「津路嶌さんに」

 

「いや、あの人に頼るのはやめた。あのチームにいるのは俺だし、俺だけで戦えるよう17年間も長い間見てくれたんだ」

 

 ぐるっと体を回し、天井を見つめた俺は全力で思考を巡らす。どうすれば勝てるか。

 取られた点数以上に奪い取る。それが俺たちだ。

 盗塁はせず、バントもせず、それぞれがやりたいようにぶっ飛ばす。だからこその「いてもうたれ打線」だ。

 

 俺にできることは打撃じゃない。逆立ちしたとしてもノリほど飛ばせるわけでもないし、堂本ほど打率がいいわけじゃない。安木さんほどゾーンの見極めができるわけでもない。

 

 チームはドン底。112試合を済ませて42勝67敗3分。勝率は3割7分と両リーグ見てもぶっちぎりの最下位。

 

「明日、予定ある? 配信の」

 

「配信? いや、特にないけど。コラボとかもないし、まったりお酒飲みながら配信でもって」

 

「わかった。んなら明日練習場行くから」

 

「オフなのに? 気の詰めすぎもダメだからね? 良ちゃんすぐ体強張るんだから。休むのも仕事だよ?」

 

 ツンツンと体を突いてくる嫁に対し、未だにドキドキとしてしまう自分に恥ずかしくなる。が、そんなことも言ってられない。

 

「たまには父さんもすごいって、香弥に見せてやらんとさ」

 

 まあ、ほどほどに頑張るよ。()()()()だけど。




 香弥ちゃん。
 水口良輔と絵理香の一人娘、七歳。好きなことは運動。

 好きな選手は元坂勇。

誰と絡んでるのみたい?

  • 一期生(卯月美トトや清水浜凛)
  • 二期生(セデスや刀義岳)
  • 三期生(セイン・バルディーや迫夢走)
  • 四期生(エラや七伴瑠衣)
  • 五期生(和泉ペニーや元舞修介)
  • 七期生(坂口弘樹や雉間小町)
  • その他箱外
  • 野球選手(引退した選手のチャンネルで)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。