現役生活二十六年。疲れたので、バ美肉して野球解説系Vtuber始めます 作:義藤菊輝@惰眠を貪るの回?
YouTubeの動画でウマ娘見た。トウカイテイオーの話良いな。10分もないのに泣いたわ。
「さて、これから配信を始めるわけですが、その前にお一つ言いたいことがありますの」
コメント:お?
コメント:なになに?
コメント:どうしたのお嬢
「畿通の水口っていう選手は、新加入選手ですの? 新戦力獲得可能期間は過ぎていると思うのですが……」
コメント:草
コメント:たしかにw
コメント:それは
9/2(水)
#敷島洋美 #ムジカ・ムジーク
【あなた】最近調子いいですが、なんなんですの? 畿通対千葉【どなた?】
「はい。というわけで皆様ご機嫌よう。よく知ってる方についに確変が起きて少し困ってしまっている敷島洋美ですわ。早速ですがゲストです」
『おー。よっすよっす! ムジカ・ムジークです。ついにBクラス転落が見えそうな試合なので無理言ってお嬢と観戦するぜー』
何がどうなってこうなったのか。
海洋リーグは、独走状態を維持し続けている好調のモバイルホークスに対して、切磋琢磨しながらなんとか追いかけるウルフズ・シーガルズ。という状態だった。
しかし、番狂わせは起きる。
シーズン開幕から絶不調だった畿通が盛り返し、8月23日から怒涛の8連勝を決めた。
いてもうたれ打線の言葉よろしく、ホームランなどを量産し逆転勝ちを4回、二桁得点は5試合と彼らの打棒が火を吹いている。
『シーガルズとスカイブルーズが伸び悩んでるとは言え。だよな』
「2番のアンディー、3番の磯岡が3本。4番の外街が6本。5番の芳岡が5本。6番の水口が6本……。しかも得点圏打率5割6分って……」
『ドーピング疑われたんだっけ』
「まあ、ネットのネタではあるでしょうが」
8月23日のお立ち台。決勝のホームランを打った水口が台に上がったわけだが、彼の言葉は単純だった。
「シーズン当初からチームはドン底で空気も悪かった。また負けた。負けてもしょうがない。っていう雰囲気がチーム内にあった。誰も津路嶌さんにはなれないように、津路嶌さんは俺たちにはなれない。ならその事実から逃げず、自分たちにできる一つのことでチームに貢献する。ですわね」
『割とおちゃらけなイメージあんだけどな』
「逃げるくらいなら死ね。ってチームに言ったって言ってましたし、彼にとって何かあったんでしょうね」
というわけで、オープニングもそこそこにスターティングメンバーの紹介。
「さて、まずは先攻のシーガルズから。相変わらず一番センター萩原から始まるメンバーです」
足のある萩原を先頭にケースバッティングが得意なDAICHI。俺たちの幸浜と続く。4番に座るのは、助っ人外国人のタダーヒ・トイグチ。
盗塁、バントなんかの小技を使いながらミート力の高い中軸が得点を挙げられるか。それがシーガルズが勝つために必要なこと。
『5番に伴崎が入ってるけどどう?』
「そうですわね。悪くはないと思いますわよ。パンチ力はありますし長打時々常外野という打者が5番にいるのは割と怖いですわ」
『キャッチャーとしてはどうなの? 好き? 嫌い?』
伴崎慧。特徴は時折見せるパンチ力。そして捕球の上手さ。
現在試合によく出場してる選手の中で、後ろに逸らす割合はかなり低い方だろう。そこそこに肩も強いから盗塁もさせる。データ中心の配球だが、しっかりと1試合だけじゃなく3連戦を見越した配球もできる。
「好きか嫌いかで言えば好きなタイプの捕手ですわ。しっかりと自信を持ってリードする。それに、想定しているコースから外れる球が来た時はしっかりとお前のせいだと言える。キャッチャーとして必要な能力ですわ」
まあ、ピッチャーのせいにしたのも受け止めて自分のミスだと言えるのが一番。という話は何回もしているので口にするのはやめよう。
「ラルフとミハエルの助っ人二人が故障したのが全てですわね。シーガルズは」
『だよなぁ。飛ばせる人がいないってのはなぁ。タダーヒだけだと』
塁に溜めても返す人がいない。というのは問題だ。まあ、畿通のように溜めはしないがとにかく飛ばす奴らも問題なのだが。
「畿通は最近好調なメンバーですわね。2番セカンドのアンディーから、レフト磯岡、サード外街、ファースト芳岡、キャッチャー水口と重量打線」
『繋げれないから勝てないとか言われてなかった? ネットで』
「ノーバント、ノー盗塁ですからね。ただ、だからと言って単純に勝てないと言ってる人は野球を分かってませんわ。どうせ北九州のファンたちが叫んでるのでしょう? 畿通ほどバカスカホームラン打てるわけじゃないから」
コメント:いうな!
コメント:それは言っちゃダメだ!!
コメント:畿通ファンとしては繋げれる打線の方が羨ましいけど……
『あのさ、どっちの方が良いの? チームとして』
「そりゃあチームとしては繋げれる方が良いですよ。ただ、キャッチャーとしては単発でぽんぽんぽんぽんやられる方がいやですわね」
オープニングもそこそこに、試合解説を始めていく。
「さて、まずはシーガルズの攻撃ですわよ。2位のウルフズとはすでに4ゲーム差。これ以上負けると2位には届かなくなる以上、負けられませんわ」
『畿通は水走だろ? 本当に45かよ。12勝だろ?』
ブルズスタジアムの真ん中に立つのは見慣れた男。水走。すでに45歳でありながら12勝を挙げており、しかも4連勝中。やっぱエースだわ。そう言われてもおかしくない状態になっている。
「さて、萩原選手に対する初球。プレイボールが宣言されて?」
応援歌など関係ない。そう言わんばかりにミットを鳴らした水走のストレートが、インハイギリギリの良いところに決まる。
「あ、これ勝ちましたわ」
『え? なんで?』
怪我がなければ盗塁王。怪我がなければ3割バッター。怪我がなければ……。そう言われる不運な男、萩原。センスは高く、球界随一の足の速さを誇る鴎戦士は、この試合一度も塁に出ることはなかった。
◆◇◆◇◆
『4回まで完全試合なんですけど……』
コメント:うひょー!!
コメント:さすが投手四冠
コメント:これは水走
初回の萩原に対する直球。体に一番近いところを投げられた故に、体から一番遠いアウトローのカットボールを引っ掛けた。そのあとは、直球とチェンジ。ウィニングショットの縦スラで三振の山を築く。
「萩原、幸浜、タダーヒの3選手にはかなり丁寧に攻めてますね。クロスファイアーを中心に外寄りの配球。多分、6回の二巡目までしか考えてない。って感じで組んでますわ」
『二巡目?』
「配球がかなり偏ってますわ。普段の水口選手に比べて。もう少し散らして打者の目論みを惑わすタイプなのですが、苦手なところを攻め続けている、三巡目で捕まらなければ良いですが」
多投している訳ではないが、普段よりも縦スラの数が多い。4球連続なんかもある。正直見ていて怖いものがある。
「とりあえず、4回裏ですわね。バッターは3番の磯岡」
『そういや、磯岡って元々キャッチャーじゃなかった?』
「入団時は。ただ、キャッチャーじゃ生き残れないぞって言われて外野とかファーストとか練習したらしいですわね。まあ、水口とありなしの三人いたらどうしようもないですわ」
磯岡が入団したのは扇さんが監督をしていた頃で、津路嶌、水口、有吉、成科の四人が一軍にいた頃。
私がメインの捕手で、水口が投手によって出場する。メインとしては外野で出場が多かったがバカ勝ちしている時は私がレフトに行ったりファーストに行ったり。最初の方はシーズンまるまるマスク被ったが、水口が頭角を表してからは併用。
ありなしコンビは一週間に1試合ずつスタメン出ることが多かった。投手固定だったな。
まあ、それを有吉は良しとしていなかったが。
「今の畿通には正捕手が三人いる状態ですからね。贅沢な悩みですわよね……」
コメント:なお、その中心の模様
コメント:だいたい津路嶌のせい
コメント:津路嶌が悪い
雑談をしているうちに磯岡がサードゴロに倒れ、打席には4番のノリが立つ。
少し前まで絶不調だった男。水口の場合は覚醒ともいうべき状態だが、ノリに関しては復調だ。状態はかなり良い。タイラー、ノリ、私の三人で150本打った時のスイングに近い。
「待ってる感じですわね」
投手はシーガルズのエースである白木。それほど状態が良いようには見えない。普段より球が荒れているように見える。
コメント:頼むぞノリ
コメント:お前が打てば勝つ
コメント:待ってるの?
コメント:何待ち? ストレート?
コメント:ノリ芳岡水口で一点だ
『何待ちかとかってわかるもの? ってコメント欄にあるぞ』
「え、何待ちか? ……。んなもんワテクシに聞かれましても……。多分ストレートとしか言いようありませんよ?」
初球はアウトローのストレート。ミットから少しずれたボール球。続く2球目もアウトに投げたカーブ。
狙うなら高めに浮いたスライダーやストレート。ノリなら無理に打ちに行っても外野まで運べる。
「あら、インローとか勇気ありますわね。ノリのスイング的にインローは大好物なのに」
ノリの特徴はスタンスが狭く、バットをかなり高い位置で持つところ。そこから豪快なアッパースイングで球を飛ばすのだが、インローのスライダーをよく伴崎が投げさせた。
かなり強気の配球と言っても良い。
『お嬢が、アナコンダバイスの球団編成? なんていうの』
「70人の選手を決めれるとしたら〜。みたいな話ですの?」
『そうそう。お金の面度外視して試合メンバーの二十五人選べるとしたら誰選ぶの?』
「現役ならですわよね。というか、ムジカさんもリスナーも聞きたいのは現役捕手の誰を評価してるの? って話ですわよね?」
バレた? と軽くいう彼をよそに誰を選ぼうか。リスト的なものはある。
レッズのベテランである岩原。チーターズの梅花は捕球能力が高い。それを言うなら今試合に出ている伴崎選手もか。あとはウルフズの林は打てる捕手。
「今の好調な水口選手がこのままシーズンを終えれるのであれば彼を使いますが、……まぁ、伴崎選手でしょうね。情報をあげればあげるだけ使ってくれそうですし」
あとは誰だ? ピッチャーなら簡野一択だな。数字あるし。
「困ったものですわね……」
『ん? 何が?』
「いえ、それほど重要なことではありませんわ」
本当に困ったものだ。自分にとって最高のメンバーがプロ入りした時のあのメンバーなんだから。誰も彼らの上であると思えないのだから。
◆◇◆
123456789 計
千葉 000000200 2
畿通 00000000 0
「さて、9回裏。畿通の攻撃前に試合を振り返りますわよ?」
『よしきた! タダーヒのホームランだな?』
振り返りは両チームの先発についてから。水走は一回12球のペースで投球を行い6回まで完全試合のペースで飛ばしていた。
七回。一人目を抑えた後ついに崩れ、幸浜のヒットによってついに完全試合が崩れた一死一塁の状況。助っ人のタダーヒが、高めに抜けたカーブを狙い撃ち、そのままレフト方向へ突き刺した。
そのまま崩れるか。と思うもののなんてことはなく、むしろギアを一つ引き上げ、続く二人をそのまま奪三振で切り抜けた。
対するシーガルズの白木は毎回ランナーを背負うもののしっかりとした投球内容と、それをリードする伴崎のお陰でミスらしいミスもなく完投ペース。七回には一死満塁をダブルプレーで切り抜け、八回は二死二三塁を切り抜けている。
『ここまで毎試合得点を挙げていた畿通が無得点。さすがジョニー!! このまま完封行ってみよう!!』
「まあ、そうも言えませんわよ? 畿通は外街・芳岡・水口のバカ……。失礼、打ち所を考えてない……、これも悪口?」
コメント:うん。
コメント:悪口かなぁ
コメント:少し前までお前いたからな
『けど、実際コイツらいたら怖いよなぁ。どんだけ丁寧に攻めてもあー!!!!』
最終回、打席に立ったノリが振ったのはアウトコース低めのスライダー。右膝が付いているのでは? と思うほどバランスを崩した打ち方で飛んでいった球は、そのままライトスタンドへ、
「は届かない!! ギリギリフェンス」
『っぶねー!! ギリギリ! ギリギリセーフ!!』
「何故あの打ち方であそこまで飛ばせるんですの? と言うか、あんなアッパーでよく当てれますわね……」
コメント:誰が言ってんだ
コメント:お前も大概
コメント:逆スタンス神主打法という謎
誰だ、逆スタンス神主打法とか言ってるやつ……。いや、まあ言い得て妙か。
『まずいまずい! ジョニー頑張れ!』
ツーボールナッシング。絶対にストライクを取りにいかないといけない状況は狙われやすい。安易な直球は打たれるが、全力で投げるとコントロールだったりが狂う危険がある。
「ワテクシならインハイですわね。普通ならアウトローのストレートかスライダー。裏を突いて多少ボール球でも振らせるくらい強く投げさせますわ」
時にはカウントを考えずに投げることは重要。スリーボールワンストライクで投げないといけない質の良い球を常に投げる。それができるのがジョニーの強み。シーガルズのエースである白木の強み。
「セットポジションから? 投げた! 打ちましたわ!」
『あちゃー!! 一二塁じゃん!!』
セオリー通り、伴崎が白木に投げさせたのはアウトローのスライダー。別に悪くない球だ。これまでの球数から考えれば疲労も少なく、指のかかり方も良さそうな球だった。
まじか。あれレフト前に運ぶとか……。
「ここで確変男が来てしまいましたわね……」
『確変だったら長いんよ。強すぎるんよ』
コメント:それなw
コメント:2番からヤバい
コメント:アンディーはまだまだ
「アンディーがまだまだ。というのはその通りですわね。バッティングの時の軸を保てればもう少し率も上がるのですが」
今は体格の割に小技をメインに戦っているアンディー。アベレージヒッターの磯岡の後ろに、脳筋のノリ。そしてヒットもホームランもケースで打ち分けれる器用な芳岡。クリーンナップが終わったと思ったら出てくる畿通攻略の鬼門、水口。
打席に立つのは水口。ここまで二打数一安打。彼らしいアウトコース高めの球をライト前に落とすヒット。
『なんか水口選手で面白い話ある?』
「あー。叔父と志島監督が話してましたが、一二塁の水口は併殺しか打たん。って言う話が鉄板でしたわね。毎回その話から始まってましたわ」
『あれだっけ、シーズン併殺記録を打ち立てて翌年自分で超えるんだろ?』
そうそう。あったなぁそんなこと。
34の記録を43で更新して、北本監督がブチギレたんだよな。まず。お前がランナー殺すから津路嶌が三冠取れねぇんだろ! とか言われてた。ただその年の私100打点超えてたけど。
んで翌年扇監督に変わって打順が3番から6番に変わって、前にいたノリ、私、タイラーの3人なのに併殺打打ちまくって48個。ブチギレたんだよな。まあ、誰でも切れると思うけど。
打席に立つ三回に一回は併殺。1番に置いてみたらそれはそれで八、九が打っても併殺。2番でバントさせてもバントが下手で併殺。ネタにされても文句言えんわな。
「多分あれはアンタッチャブルレコードですわね」
それに比べたら最近は……。チャンスでヒットを打ち、ホームランを打ち、それを当たり前のような面持ちでダイヤモンドを駆ける。何故それをあの年にできなかった……。
てか、そんなやつをよく東栄は取ったな。私なら取らない。
『外外できてるね』
「決めるならアウトロー、逃げるのもアウトロー。困ったらアウトロー。がリードの基本ですから。アウトローは流して、インコースと高めは全部引っ張る。最近の彼はそれしか考えてないんじゃないですの?」
打席に入る前にしていた素振りも、引っ張ることを意識していたように見える。私はポイントが後ろ寄りだが、彼の場合は体の軸より少し前。そこから押し出せば打球は引っ張り方向に。レフト方向へ飛んでいく。
「カウントはワンワン。見せ球でストライクを一つ取りたいが、速球打ちは得意な水口だからカーブか?」
『お嬢、口調』
「え? っあ!!」
コメント:うーんこれはおじさん
コメント:これぞバ美肉
コメント:帰れ津路嶌w
コメント:久しぶりに聴いたな
スーパーチャット
¥500
おじさん代
コメント:おじさん助かる
『おじさん助かるだって』
「っち……。なんで洋美より津路嶌の方が人気なんだよ」
『え? なんか言った?』
「いえ。特に何もありませんわ。ただ、今回視聴してくださっている皆様がおじさん好きのド変態だと言うことを痛感して軽蔑しているだけですわ?」
コメント:ふーん
コメント:冷徹お嬢……
コメント:いいなぁ
コメント:踏まれたい
ピロリン。と音がしてモニターの端を見てみると、ムジカ先輩がメッセージを送ってきた。なになに? ボイチェンで女の子になって変態って言ったらいい?
「んんっ!! ……変態」
え? なんでコメント止まんの!! 何? ラグ?
コメント:ありがとうございます!
コメント:やったー!
コメント:ありがとうお嬢
スーパーチャット
¥200
罵倒代
スーパーチャット
¥300
罵倒代
コメント:ガチ恋良いっすか
コメント:ずっとその声でお願い。
スーパーチャット
¥5,000
変態ですみません。最高です。もっと罵ってください。お願いします
「いや、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い」
荒れ狂うリスナーたちに初めて私は恐怖を覚え、ボイチェンを戻すことも忘れ怖いと連呼してしまう。が、それも彼らに取っては嬉しいことのようで、スパチャが続く。
「怖い! 助けてムジカさん」
『うぐっ……、バ美肉って……ええなぁ』
「うっさい! ぶっ飛ばす!」
コメント:ぜひ私に!
コメント:うっせぇ俺が先だ!
コメント:いつから変態しか居なくなった?
『怖いなぁ。洋美ちゃん、声戻しな? それのせいだから』
しばらくフリーズしていたムジカさんが元に戻り、彼の指示通りに声を戻す。
「今日からシーガルズがシーズン最多連敗を超える呪いかけます。18なんて中途半端な数字やめて20連敗しちゃえば良いんですのよ。ついでにムジカ先輩は禿げれば良いですわ」
『いきなり口調悪いな』
「あーあー! 聞こえませーん! 水口の打席しか見ていませんわー!!」
状況は2ー2。並行カウント。中外外中と来た5球目。
セットから投げた渾身の球は、水口の体近く。インコースの真ん中に突き刺さる。
「あっ……」
それは綺麗なフォームだった。
体の後ろにしっかりとパワーを溜め、正中線から少しだけ後ろ側にポイントを置き、右肘をたたみ左肘を上げるという、津路嶌洋弥が水口良輔というヒヨコに与えた、最初の力。彼の中の種。
何もわからなくなったと呆然としていた彼に初めて教えた打撃のコツ。
『くそー!! まじか!!』
直近七本目のホームランは、かつて私が打っていたようにライトスタンド前列の上から、ポトンと落ちるようなホームラン。私が、パワーのない彼に教えた、私の打ち方。
「変わるもんですわね。人って」
打った瞬間ソレと分かる当たり。と言うものがあるが、ついに彼にも感じたようだ。飛ばした感覚が。
大きいフォロースルーは外国人のスラッガーのように地面にバットを当て、そのままポトっと落とす。打球の行く末を見た彼はおそらく、無意識に歩き右手を上げていた。
35という年齢からでも、変われるらしい。だからこう言おう。
「いや、だから誰ですのよあなたは!!」
サヨナラのホームランを打った彼の顔は澄ましてるようで嬉しそう。少しだか口角の上がった表情をしていた。
ホームベースを踏み、チームのメンバーに揉みくちゃにされた彼はメットを脱ぎ、水をかけられて濡れた髪を掻き上げる。
「流石にこれは、叔父も喜ぶでしょうね……」
『いや、良い雰囲気なところ悪いけど、これでシーガルズ4位だからね? ウィングスに抜かれたからね?』
コメント:草
コメント:草
コメント:現実なんて見るな
コメント:畿通と3ゲーム差か
コメント:草
「ヒーローインタビュー、ヒーローインタビューです! 本日のヒーローは間違いなくこの方。九回裏一二塁の場面で、サヨナラホームランを打ちました! 水口良輔選手です!!」
俺はここ数日ずっと立っている白い台の上に立ち、両手を上げて歓声を浴びた。
どれだけ年数を経ても、ここに立つことはとても嬉しい。
「格好いい確信歩きでしたが、やはり打った瞬間わかりましたか?」
「そうですね。正直、下手に引っ掛けてしまうのが怖かったので、とりあえず外野の奥に落とすイメージで振ったんですけど。思ったよりも綺麗にバットが出てくれたので、いつもと違う感触が手に残りました」
「いつもと違う感触ですか。普段であれば併殺が多いですね。最近は打って打って打ちまくっていますが、そう言った感覚がしっかりと掴めていることが好調の秘訣でしょうか?」
「いい感覚を掴めたのはあると思いますが、やっぱり一番は、何がなんでも勝ちたいと思ってるからじゃないですかね。チーム全体が」
「逃げるくらいなら死ね。ですか?」
「いや、それはもう擦らないでくださいよ……。まあ、打席は一対一の勝負ですから。なあなあで戦うんじゃなくて、相手を押し潰すくらいの気合でいかないとダメだと思いますし。俺たちはパワーブルズなんで。打てないと後ろ向きな気持ちになるくらいなら、この名前を背負うことはできないかなと」
「力強い言葉、信念。ありがとうございます。それでは最後に、シーガルズとの三連戦。最終戦になる明日に向けて、ファンに一言をお願いします」
「あー。牛男! 牛子の皆さん!! なんとか逆転で勝つことができました!! おっさんエースが頑張って投げてたので、負けをつけずに済んで安心してます」
水口の言い様に、思わず笑いが出てくるブルズスタジアム。球場スクリーンには、ベンチで笑っている水走の顔が映り、それも笑いを誘う。
「俺たちはパワーブルズです。持てる力を出し切ります。そして、それでも勝てない時、背中を押してくれるのが、ファンの皆さんです。皆様の声に、応援に、畿通への愛に応える活躍を残りの1ヶ月出し切りますので、明日以降も、応援お願いします」
「ありがとうございます! 以上水口選手へのヒーローインタビューでした!!」
水口がだんだん、捕手を続けたベンちゃんに見えてきた。どうしよう。
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