現役生活二十六年。疲れたので、バ美肉して野球解説系Vtuber始めます 作:義藤菊輝@惰眠を貪るの回?
私と木鷹さんによる、爆笑ビリビリプロ野球クイズのプレミア配信が行われるまであと数時間という中、私は幸田先輩のでお馴染みのバッティングセンターであるポートファームにいた。
「いやぁ、飛ばしますね。アンディ」
「飛ばすのが仕事だからな。谷君と違って」
タイミングよくいい音を鳴らすアンディの後ろで、私は中報の谷と話していた。
今日はたまたま東京に私たち三人が全員揃っていたこともあり、いいタイミングだと引き合わせた形になる。
本来なら後楽園の東栄ドームでデイゲームをしているはずの谷は成績不調という名の体調面のことで登録抹消。アンディも、ドームなのに雨が降るでお馴染みの秩父ウルフズドームで試合があるが、彼の場合は先日乱闘を行い出場停止。
「いやぁ、久しぶりにあんな乱闘見ましたけどね。ニュースで見て驚きましたよ」
「畿通の馬鹿はみんな血の気が多いからね。私が指導してるからって喧嘩っ早いところまで似なくても良いんだけど……」
先日あった乱闘。日にち的には18日の試合でのこと。雨天中止の加減で無理やり試合をゲームで行った配信の次の日、それは三打席に渡って行われた。
始まりは一打席目。ウルフズのピッチャー
続く二打席目。先ほどの直撃の後軽い治療を行い続投した井桶だったが、対するアンディに向かってすっぽ抜けたカーブを足元に向かって投げたのだ。飛び跳ねて避けたアンディだが、一打席目が体に近かったこともあり、これにアンディが苛立ち少々険悪ムードに。二、三歩マウンドへと詰め寄るもののウルフズ捕手の林に止められてその回はフォアボールで出塁となった。
そして問題の三打席目。7回にやってきたその打席の初球。今度は井桶はストレートを投げ込み、アンディの右腿に直撃させた。
「まあ、流石の私でもラリアットしたことはないね」
「あそこまでのは久しぶりですね」
ブンブンと鬱憤を晴らすようにバットを振り込むアンディだが、約2メートルの大男が地面にヘルメットを投げつけ壊し、バットを叩きつけそれも破壊した上で突進。
大きな体躯に見合わず一塁到達の平均タイムが3.9秒の俊足がマウンドの井桶へ走り出す。キャッチャー含め選手たちは止めに動くが間に合わず、彼の胸元にアンディの左腕が炸裂。そのまま井桶は地面に転倒した。
そこからは両軍乱れる乱闘。
ウルフズだと林と村中。畿通はエドと芳岡がアンディを押さえつけていた。因みに、退場者は渦中の井桶とアンディ。それとアンディを止めるために蹴ったら、ウルフズのバッテリーコーチである
多分オフシーズンの珍プレー好プレーの乱闘編で面白おかしく拾ってくれるだろう。それにしてもアンディと思って蹴ったら相手のコーチって……。流石に引く。やりすぎだ。
まあ、これでアンディは二試合の出場停止。一日を実家で暮らし、二日目が今日だ。
「それよか、体調不良で登録抹消って大丈夫?」
「まあ腰はしょっちゅうじゃないですか? ただ、無安打も続いてたのと、新人を使いたいので体裁は整ってましたし、10本目も打ったしで。来年のためにも体を整えろと球団からは言われましたね」
打率は低いながらも四年連続で二桁は打っているのだ。そう言う執念は流石と言える。本人も来年が勝負だと話しているから、どこに持っていくかはわかっているらしい。
今シーズン最下位が確定していることもあり、中報は若手の育成にシフトを変えている。谷は、来年のバッティングのために今日ここにきていると言っても過言ではない。
「ふぅ、気晴らしできました」
そんなことを話していれば、30球全てを打ち返したアンディがホールへと戻ってきた。肩をぐるぐると回した後にバットの端を持ち体を伸ばしているが、腕を上に伸ばせばもう巨人だ。
いつか配信でこいつが打席に立ったら、でかーい! 体の長さ1219メートル!! とか適当なことでも言ってみようか。
「よし、二人とも準備運動は終わったし、指導してくか」
「はい」
「よろしくお願いします」
三人で頭を下げて挨拶をすれば、それまでの和気藹々とした軽い空気は霧散する。そこには更なる活躍を求めて研鑽をする二人の男と、それを見守る私。
「確認だけど、二人とも率の話で合ってる?」
二人とも、気にしていたのは打率のこと。
アンディの場合は最近飛ばすコツを覚えたのか最近ホームランを量産しているものの、来た球がなんでも飛ばそうとして引っ掛けるところをよく見かける。
谷君の場合はちょっと……。基本を確認しよう。流石に打率を求められている選手ではないとは言え、FA戦士として打率0.233はよろしくない。
「いつもすみません西野さん」
「いいんですいいんです。津路嶌さんが来てるのをSNSに上げたら人が来るようになりましたし、茉莉も心なしか楽しそうに帰って手伝ってくれるので」
このバッティングセンターのオーナーである西野由紀夫さん。幸田先輩こと西野茉莉ちゃんの叔父にあたる方で、少しでっぷりとしたお腹と頂点が薄くなった頭がトレードマークの彼は、私たちが練習に訪れるとそれはそれは嬉しそうに準備を手伝ってくれる。
正直ボールを入れるコンテナを二つ買ってくれただけでありがたかったのだが、練習をする時間を伝えれば、奥のボックスにボールでパンパンになったそれを準備してくれている周到さ。打ちっぱなしもさせてくれるし、本当に感謝してもし足りない。これで練習終わりにはスポーツ飲料もタダで渡してくれる。
「それじゃあ今日も2時間くらい奥の方お借りします」
由紀夫さんにそう伝えると、左のボックスにアンディ、右のボックスに谷君が来るよう、ちょうど二人にトスをあげれる中間の位置に行く。
球の入ったコンテナに座ると、両手で一球ずつ持つ。因みに、由紀夫さんが横から球が飛んでこないようにとネットまで買ってくれたので、一応ヘルメットを私はつけているが、プロテクター等は装着していない。ほんと由紀夫さんには感謝してもしきれない。今度二百万くらい寄付するか真剣に悩んでいる。
「まずアンディだけど、最近ヒッティングゾーンを広げ過ぎだ。変化球に対応できるようになったし、好き嫌いもしてないのはいいことだけど、そもそも全部に対応できるほど器用じゃないんだから」
「はっ、はい!」
「ゾーンを絞る。もしくは球種を絞る。アンディの場合だとどっちかだ。どっちかを絞った上で、嫌な球にも合わせるって言う対応が必要になってくる。まあ逆でもいい。この球種を打つって決めて、それ以外を合わせてく」
どっちが得意かを聞いてみれば、アンディはゾーンを絞る方がいいと言う。次に、どのコースをバッティングゾーンとして絞るかを尋ねてみれば、アウトコースを打ちたいと言う。
「よし、理由は聞かんとこう。お前にはお前の考えがあるからな? んじゃあ、アウトコースを今以上に強くするにはどうすりゃいいと思う? たぶん今はな、無意識で出来てたことがずれてしまって引っ掛けているイメージがあるな」
一つ一つ動きを確認させる。
まずは打席に入る状態から。ボックスの後方に左足を置き、肩幅の二倍ほどの間を空けてオープンスタンスで構えを取る。左肩に乗せたバットはスイングしやすいよう寝かす。
何回かスイングさせてみて思うのは、アウトコースのボールに対応するためにレベルスイングをしようとしすぎて、インコースに来るとヘッドが下がってしまう。パワーを乗せきれてないから内野を抜けない。
「まず第一に、アンディの場合は元のパワーがあるんだから、バットを寝かすとパワーをロスする。やめた方がいい。寝かしてレベルで打とうとするからインハイの絶好球でヘッドが下がる。グリップ位置を高くして後ろから……。後ろの位置から右手でバットを引き抜く形だな。イメージは、グリップはダウン。ヘッドはレベル。理論上それができるとヘッドは上がったままだろ?」
かなりの暴論ではあるが、理論上はそうだ。実際そんなことを打席でできるわけないが、イメージというのは重要だ。
「ダウンスイングとヘッドが立つって言うのは別だからな? 谷君もそうだけど、レベルスイングっていうのは、バットの芯とその付近の通る位置が、地面に対して平行に近いかどうか。で考えなきゃ。だから変なレベルスイングして2軍に居続ける奴が多いわけ」
「アウトコースだとそれが出来てるってことですか?」
「お前がホームラン打ってる時、だいたいベースの外側だろ? インコースでホームラン打つことの方が少ないけど、それで打った時は基本的にヘッドがちゃんと立ってる。あとは、コースに対してどう捉えるかだよね」
谷君はオーソドックスなスクエアだが、私やアンディはオープンで構えるため、少しだけボールに対する距離感の認識がしやすい。
「私たちの打ち方は割とコースの見極めがしやすい奴。ピッチャーと正対気味だからね。だから、違う方法でアジャストする方法考えよう。まずはタイミングだろうね。私が一番嫌いな奴」
「あれですか? 待てるとかどうとかって奴ですか?」
「谷君の言う通り。待たないといけないんだけど、私には無理。面白いぐらいにできない」
なぜできないかもわからないし、なぜできるやつがいるのかもわからない。
私自身は力を流動的な物だと考えているから、余計に溜める。留めるという感覚が分からない。力を溜めることができないからこそ、あのバッティングフォームだ。
足を軸足側から大きく動かして踏み込む。右足の股関節に力の源があって、少しずつ絞り出しながら大きな円を描く。インパクトのタイミングは左足に全体の3か4の力が乗っていて、残りが軸足にある。振り切ったタイミングでは左足にあった力は全部右足の股関節に帰ってくるイメージ。
「ほんっとに私のは参考にならないからね。動きを止めてって昔指導されたけど、それだと動き出しが分からなくて諦められたし諦めたから」
タイミングの取り方はいろいろある。私みたいに無意識だが足を動かす時間だったり、あとは腕でバット上下させたり。クルクル回す奴もいる。千差万別で、傾向はあれど種類はたくさんある。
「谷さんはどうしてます?」
「割と体揺らしてることが多いかな?」
左足でタイミングを取る加減で体が揺れいているように見えるのが谷君のバッティングフォーム。
「とりあえず、タイミングの取り方と、バットの立て方に意識しながらトスしよう」
「はい! よろしくお願いします」
それで、次は谷君。谷君の場合は基本の確認的なところになる。
谷君の打撃フォームは基本的なバッティングフォームをそのまま突き詰めたようなそれだ。
「打てない原因はわかる? 谷君の場合は、もう分かってないとだめだけど」
「一応は、アウトコースですよね」
そう。谷君も谷君でアウトコースが問題なのだ。
谷君の場合は高めとインコースにヒットゾーンがあり、低い打率とはいえ、しっかりと内に対するコツを分かっていると言える。
今年の谷君の場合は大体こんな感じ。正直、ボールゾーンに手を出したりとかもするので、25分割すればもう少し変わってくるが、ストライクゾーンに限ればこんな感じになる。
| アウト | ミドル | イン | |
| ハイ | ◎ | ◎ | 〇 |
| ミドル | × | 〇 | 〇 |
| ロー | × | △ | ◎ |
◎(かなり得意):0.333~
〇(得意) :0.250~0.332
△(苦手) :0.225~0.250
×(かなり苦手):~0.224
ちなみに、私の通算だと大体こんな感じ。
| アウト | ミドル | イン | |
| ハイ | ◎ | 〇 | 〇 |
| ミドル | ◎ | 〇 | △ |
| ロー | ◎ | 〇 | 〇 |
アウトコース絶対に打ち漏らさないマンとかしていた私は、インコースの球が苦手だった。それでも普通の人よりも打っていたが。
とりあえず、谷君自身、自分と対戦すればどういうリードをするかとか、対戦バッテリーの傾向なんかをしっかり考えているとは思う。私だってそんなことをしてた。
「実際アウトコースはよく使われる?」
「いや、多くはない印象がありますね。ただアウトコースを捨てて高めと内側に決めてるのはあります。絶対インコースには投げさせるじゃないですか。キャッチャーって」
「ならインコースの打ち漏らしを減らさないとな。インコース真ん中の体に近いボール球に手を出してボテボテのセカンドゴロとかよく見るし。せめてファールにしないと。1-2でシュートとか、ツーシームとか」
もちろん、そのあとに来るアウトコース低めの落ちる球を見逃すかカットできないと論外だが。
そういえば、木鷹さんとのクイズで、一打席最多ファールを記録した打者は誰? と言う問題。スターライツの亀山捕手が20球近く投げさせてた記憶があったが、答えは北九州モバイルホークスの赤穂君だった。14球連続ファールとか気が狂う。
「基本のおさらいだな。10秒一本足。そこから足の踏み込みの柔らかさをしっかり意識してインコースの打ち込み。いいな?」
二人に指示を出した私は、何度か体の動きを確認させてからトスをあげる。アンディに2球投げてから谷には1球。それでちょうどいいくらい。
そこから約1時間半ほど、私は二人に対して色々とアドバイスをしながらずっとボールをトスし続けた。
◆◇◆◇◆
「皆さんお疲れ様です!! これどうぞ」
練習を終わらせた私たちがバッティングボックスからぞろぞろと出れば、むさ苦しい男たちに近づいてくれる可愛らしい女の子。
「いつもありがとうね。茉莉ちゃん」
「いえいえ津路嶌さん! 役得ですよ役得」
あははと笑う西野さんは、私たちにスポーツドリンクとタオルを渡してくれた。
他のお客さんは遠くの方で私たちを見ているだけで、気安く話しかけてくれるような感じはない。そう意味では確かに役得だろう。現役と元プロの三人から感謝を受ける立場だから。
「良い子ですね。茉莉ちゃん」
「気配りもちゃんとできる子だしね」
私と谷君で彼女の方を見れば、身長の高いアンディを見上げながらタオルとスポーツドリンクを渡し何かを話している。
茉莉ちゃんは笑顔でハキハキと話している感じ。それを受けるアンディはタジタジとしながらも笑顔で対応している。
「あ、叩かれた」
パシッと肩を叩いた茉莉ちゃんはニコニコである。アンディは若干涙目だが。
「茉莉アンてぇてぇか?」
「まりあん? なんですかそれ」
「谷君……。正直私もよくわかってない」
そういえば茉莉ちゃんの方が一つか二つ年上だったか? アンディが19とかのはずだし。よし、また後で聞いてみよう。風タソには気になる選手を聞いてみてアンディと答えれば勝ちだ。勝ち負けとかはないけど。
「アンディ、良くしてくれてる茉莉ちゃんのためにも、明日の謹慎明けホームランな」
「え? 私のためにホームラン打つの?」
「いや、その、えっと……」
ぐぐっとアンディに近づいた茉莉ちゃんは、彼の左肩に手を置いた。
「打てたら褒めてあげる」
わたわたと慌てて両手を動かしていたアンディは、顔を真っ赤にして「ハイ」と返答した。
うむ。茉莉アンてぇてぇだな。これ。
尚、翌日行われた9月21日の畿通対北九州の試合。
背番号14のアンディ加藤は、4打数4安打。ソロホームラン2本による2打点を挙げる大活躍。なお、近畿通運パワーブルズは、2ー6で敗戦となった。つまり「なお畿」である。
ラブ的要素ってどう書けばいい?