励みになってます!
…やべーしばらく全くイチャイチャしない回が続く…
あらすじ詐欺か?うーん…手を打たないといけませんね…
あとプロローグ前のエピソードが長期化することが確定したため、章分けを変更しました。
「…」
「…」
「何黙り込んでるんだい?早く話せばいいじゃないか。リューは碌に仕事に手を付けられない程度にはそわそわしてたし、坊主だってあんな勢いで店に駆けこんできたんだから何も話すことはない…なんてことはないだろうに」
日が昇って間もなくのこと。
まだ『豊穣の女主人』も開店準備さえも始めていないような早朝。
…そんな時間にも関わらず私とベルはなぜか向き合って座っている。…それもミア母さんが腕を組んで見守る中で。
そして私もベルもミア母さんの指摘通り向き合いつつも視線を交わすこともできずに黙り込んでいる。
その理由として早朝で人と会うための準備を何ら整えていなかった私は未だ寝間着だから…という言い訳は一応立つ。こんな格好でベルと会うのはあまり好ましくない。
確かに【深層】で言葉で言い表せないような醜態でベルと共に過ごし、その後の入院生活でも同じ部屋で過ごした私とベルの間柄を考えても今更?
しかしせめて髪を整え身を清めるくらいはした方が…
いや、いつかはベルとこんな無防備な格好でも会えるほど親密な関係になれるはず。
そう思うと、心が躍る。
これももしかしたらいつかベルと共に暮らすための予行練習に…
そう考えが行き着いたところで壁に衝突する。
…私とベルは数日前に仲違いしてしまったばかりだという事実の壁に。
…私はとんだ楽天家か愚か者なのか?
今まさに私はベルと親密な関係どころか破局寸前という最悪な状況に置かれているというのに…
現実は私の甘い考えを一気に忘却の彼方へ追いやる。
…そしてこの思考のループを私は頭の中で何度繰り返したか分からない。
その結果の私の沈黙。
…素直に吐露するならば、現実逃避してベルとの甘い生活を考えていなければこの場にとどまり続けられないのだ。
それくらいに今ベルと向き合うのは気まずく、そして掛けるべき言葉を見つけられない。
…要はベルにどう謝り、和解すればいいのか分からない。
私が悪いのは分かっている。
ベルを罵倒し追い出すなど言語道断だった。
最善策はシルが言ったようにベルと話し、ベルの事を理解できるように努めること。
そしてその上で私とベルの双方が納得できる結論を導き出すこと。
そのためにはまず謝罪して和解しないといけないのに…言葉が出てこない。
…私が選んだベルを追い出すという行いがシルとの関係を繋ぎとめるのには最善だった…そう思ってしまうからだ。
ベルの介入を許していれば、今頃シルとの関係にひびが入っていたのは明白。私はこの点では間違ってなかった…そう思ってしまう。
ただ自らの過ちを認めベルに謝罪するだけでは同じことを繰り返してしまう…だからベルの行動にも過ちがあったことを指摘しないといけないのに…
そんな都合のいい言葉は思い浮かばない…
うぅ…私は一体どうすれば…
そう迷いに迷う私の耳元に飛び込んできたのは盛大な溜息であった。
「はぁぁぁ…あんた達は一体いつまでそうしているつもりだい?一生無言でいるつもりかい?確かに気が進まないことを話す必要もなく一緒にいられるんだから、別にいいかもしれないねぇ」
「ちっ…違います!私はそんなつもりでは…!」
「じゃあどうして二人揃って何も言わなんだい?二人ともお互いに何が問題か分かってるはずじゃないのかい?特にリューが何をすべきか分かっているのはあたしは知ってるつもりだけど?」
「くっ…くぅぅ…」
…ミア母さんの指摘に私は言葉を詰まらせる。ミア母さんの言う通り私は何を話すべきか分かっている。
とにかく話を切り出さないと何も始まらないのに…
「本当に見てられないねぇ…このバカップルは。要はお互いに自分の間違いには気付いてるけど、相手の間違いも気になるから謝れないってとこかい?リューの融通の効かなさは知ってたけど、坊主もだとは思わなかったよ」
「いや…その…はい。ミアさんの言う通りで…僕がやってはいけないことをしたのは分かってるんです…でも…その…」
「はいはい。あんた達の言い分はあたしからしちゃなんだっていいんだよ。あたしからすれば、大事なのは過去の失敗じゃない。これからあんた達がどうしていくか…違うかい?」
「「…っっ!!」」
ミア母さんの言葉にハッと気付かされる。
…それもその通りだ。
私の中で謝罪はあくまで話をするための過程。欠かすことはできないという考えはあっても…本当に重要なのは過去ではない。
私達がこれからどうしていくかの未来であった。
「…あんた達が過去の失敗のせいで話を進められないと言うなら、ひとまず脇に置いておくのも悪いことじゃないと思うがねぇ。リューの話を聞くに過去で失敗したのは、リューと坊主の間で考えに食い違いがある上にお互いにその考えを理解していないから。これからどうするか話せば自ずとそれも分かるし、過去になぜ失敗したかも分かる。一石二鳥で話が行き詰まらずに済む。あたしはその方がいいと思うけど、あんた達はどう思う?」
「…ミア母さんの言う通りかと」
「…僕も同感です」
ミア母さんの提案は名案のように聞こえた。
過去の失敗を蒸し返してお互いに話を進められなくなるくらいなら、未来の話をした方が有意義…ミア母さんの言う通りだ。
その時ようやく私とベルの視線が絡み合う。
…お互いにようやく話をする決心がついた…と言ったところか?
…と思いきや話はそう簡単には始められなかった。
「では…まずはベルのお考えをお聞かせください。ベルはこれからどうしていきたいか…」
「いっ…いえ!僕は後でいいのでリューさんから!」
「…遠慮しないでください。…というかベルはファミリアの方々に私達のことをきちんと認めて頂けたのですか?その前提が分からない限り私は自分の考えを示すこともできないのですよ?」
「とっ…当然ですよ!リューさんだって僕のこと信頼してくれてないじゃないですか!そう言うリューさんだってシルさんとの話はきちんと決着付いたんですよね?僕を追い出しといて進展なかったとかい言ったら…」
「しっ…失礼な!言うまでもなく私はシルと話をしました!ベルに心配をかけるような結果には至っていません!そもそもベルは話を逸らさないで…」
…話を始めようとしたにも関わらず早々に爆発したのは双方の不満。
お互いに和解したいという意志はある…はず。少なくとも私はそれを切実に願っている…つもりである。
だがお互いに自らの過ちに気付く一方相手の過ちに気付いてしまっているから始末に負えない。
先にどちらから考えを話し始めるか遠慮し合っていたはずが、いつの間にやら非難の応酬に変わり果てる。
これでは結局話が進められない…
ベルに憤りをそのままにぶつけながら、心のどこかにいる冷静な私がそう自らに警告する。
が、私自身では制御もできず。
最終的に見事に脱線した私とベルの軌道修正は私とベル以外に委ねることになってしまった。
「ゴチャゴチャやかましいよ!あんた達!?」
「「ひっ…」」
…この時ばかりは私とベルの漏らした悲鳴は揃ってしまった。
ミア母さんの怒号に壁にヒビが入る轟音が響けばそうもなってしまう…
そうして『ゴチャゴチャやかましい』私達が黙り込んだのを見て、ミア母さんは呆れ返ったような溜息と共に呟いた。
「なぁ…あんた達…あたしの話を聞いてたのかい?あたしは未来の話をしろと言ったんだ。現状報告は必要なのは分かるけど、あたしは一度たりとも相手を責めろだなんて言った覚えはないよ?違うかい?」
「…その通りです」
「…そうです」
「じゃあとっととあたしの言われた通りにしな。先に話す方が決まらないなら…坊主の方から話しな。そしてリューは不平は漏らさず大人しく聞く。いいね?…今度余計なこと喚いたら埋めるよ?」
「「…はい」」
…ミア母さんの圧には私もベルも異論を挟めなかった。
こうしてお互いに和解を願っている反面不満を溜め込んでいるのは明らかと言わざるを得ないとしつつも話はやっとのことで進み始めようとしていた。
最初に話すのはミア母さんの指示通りベルであった。
「…えっ…えっと…まずさっき話しかけたんですけど、ファミリアの皆にはリューさんとの関係に関しては話しました。そして皆に認めてもらうことができました。さらに神様にはリューさんとの今後について許可をもらえました」
「…その許可とは?」
「…リューさんと二人だけで暮らすための許可です。リューさん。僕と一緒に新居に移りませんか?」
「なっ…なっ!?」
ベルの突拍子もない提案に私は目が飛び出んばかりに驚いてしまう。
…ベルは私の求め以上の答えを神ヘスティアから勝ち取ってきてしまったことに驚きが隠せない。
だが状況は何も変わっていないのだ。
私のそばにいればベルに迷惑がかかる。その厳然たる事実は揺らがない。
だからベルがそんな答えを得てきたのはあまりに軽率だと思ってしまった。
よって私は思わず反論しようと口を開こうとする。
「黙りな。リュー。坊主の話はまだ終わっちゃいない。言ったろう?余計なことを言ったら埋めるって。反論はあんた自身の意見が終わった後にしな」
「…はい」
だがそんな反論ミア母さんが許すはずもなく。
私は声を上げる間も無く口を閉ざす。
その間オドオドと私に何を言われるかと戦々恐々としていたらしいベルは私とミア母さんの顔を交互に見た末に間を置いて再び話し始めた。
「…この際僕の考えをはっきり言います。僕は…僕はリューさんを僕の力で守りたいんです!…失礼かもしれませんが、ミアさんにお任せしたままにはしたくありません。自分の愛する人を自分の力で守れずしてどうして恋人を名乗れますか?僕は…誰かにリューさんを任せることなんてできません。そして相手がリューさんを恨んで命を狙う人でもシルさんであろうと僕にとっては何ら変わりはありません。リューさんに危険をもたらした時点で僕の敵。絶対に許しません。その考えは変わりません」
「ベ…ル…」
「僕は僕の力でリューさんを守るために一緒に暮らしたいです。僕がいつでもリューさんのそばにいれば、どんな障害があろうともリューさんを守れますから。僕自身ダンジョンに行くのをやめて、今後は目立たないようにするつもりです。リューさんを守るため…一緒に生きていくためだったらなんだってできます。そんな覚悟を僕は抱いている…それをリューさんには知っておいて欲しいと思います」
自らの思いを伝えようとする切実さと時折垣間見える冷徹さ。
…優しいベルらしくない。
思わずそう思ってしまうほどに予想外の言葉が混ざっていた。
私に危険をもたらした時点でベルの敵と見做し、許すことはない…
これはつまり相手がベルにとって知り合いであるシルであろうと私に刃を向けた時点で容赦する余地はないということ。
そしてベルは私が何物よりも私を守ることを第一に考えている。…それこそ私を守るためなら、周囲になど一切構わずという過激さを伴う程に。
私とシルの話への介入や私との同居を強硬に進め神ヘスティアからその許可を得てきたことがその過激さを反映していると言える。
ベルは私の身を案じ守ることを優先するあまりにシルや神ヘスティアだけでなく私自身の思いさえも無視してしまった…ということか?
…私はこれまでこのようなベルの一面を見た記憶がない。
確かにかつて私の死に急ごうとする意志に構わず私を生かそうとしたという行いからその片鱗は見えるとも言えるかもしれない。
だがそれは人として当然の考えと言える。
…だから今回のベルの行動は少々過激さを帯び過ぎている。
これは優しかったベルを私が変えてしまった…ということなのか?
これは私の前だから見せてくれる本当のベル…ということなのか?
そこまでは私には読み取れない。
だがベルが何を考えているのかはようやくはっきりと分かった。
ベルはただ私の身を案じ、守りたいと思ってくれているだけなのだ。
過激さを伴おうとそれがベルの私への『愛』の証。
ベルの私への『愛』が軽かったという訳ではない。
まして私への信頼云々ではなく言うなれば私と向き合うシルを信頼していなかった。
私を守るという強い覚悟。
それが恐らく目の届かない場所にいる私の身を案じる不安に繋がってしまった。
そしてその不安がベルを突き動かし、ベルと私の衝突を招いてしまった…
ベルの話を聞けた今の私はそう結論付ける。
私はベルの言い分をようやく納得して受け入れることができたのだ。
ベルは私を納得させてくれた。
ならば今度は私がきちんと私の言い分を話し、ベルに納得して頂かないといけない。
…そしてベルの言い分には納得できても私の言い分上ではベルの提案は受け入れる訳にはいかない。それをきちんと伝えなければならない。
主張すべき言い分は終わったとばかりに口を閉ざし、私をじっと見つめるベルに今度は私が口を開こうとする。
だがその前にミア母さんが唐突にベルへと指摘を飛ばしていた。
「…坊主?今あたしは聞き捨てならないことを聞いたような気がするんだけど、気のせいかい?あたしにリューを任せることはできない?つまりうちの店員を拐って行こうとでも言うのかい?リューはあたしと店員としての契約も結んで借金だってしてるんだ。それでも意地でもリューと暮らしたい…そう思ってるのかい?」
「はっ…」
ミア母さんの指摘に私ははっと息を呑む。
その指摘には私自身懸念していた事項が混ざっていたからだ。
…ミア母さんの元にいる方が安全。
確かにベルにはそう伝えたが、私はミア母さんの言う通りの事情を抱えている。この事情がある以上私は『豊穣の女主人』を離れることができないのだ。だからベルの提案を断らざるを得ない理由の一つとなっていた。
それをミア母さんが先に指摘してくれたことにより結果的にそれへの反応をベルから先に聞き出せるということになった。
私がベルの反応に意識を集中する中、ベルはミア母さんの指摘に淡々と答えた。
「関係ないです。僕はリューさんと一緒に暮らしたい。その思いは寸分たりとも変わりません。細かい点はリューさんの考えを聞いてからですが、リューさんがもし僕の提案を受け入れて一緒に暮らしてくれると言ってくれたら…借金は僕が絶対に返すとお約束します。そしてミアさんにはリューさんが『豊穣の女主人』を離れ、店員を辞める許可を頂きたいです」
「あたしが嫌だと言ったら?」
「…リューさんのお気持ち次第では荒技を使ってでもリューさんを連れて行きます」
「ベベべ…ベル!?」
最後に告げられたベルの衝撃の宣言に私は目を白黒させてしまう。
『荒技』を使ってでも?
それはミア母さんを打ち倒してでもと言うのか!?
借金云々の話よりも想定を遥かに上回るベルの断固とした態度に私は驚きを隠せない。
…ベルのミア母さんにぶつける視線を見れば、その言葉が全く偽りでないことが分かってしまうから。
ベルは私の気持ち次第ではミア母さんと一戦交えることさえも辞さない…
この発覚した事実は私のこれより告げる言葉が決定的な重みを持つと規定したも同然だった。
…あのミア母さんが素直にベルの言い分を認めるわけがない。そう思ったからである。
が、ミア母さんは小さく溜息を吐くと、これまた思わぬ反応を見せた。
「…だそうだよ?リュー?坊主はそれだけの覚悟を持ってリューと向き合ってる。それを絶対忘れずに坊主にあんたの考えを話しな。先に言うと、あたしはリューと坊主の決断の邪魔は絶対しない。それこそ契約だろうと借金だろうとどんな事情があろうと、ね?あんた達が望むようにすれば良い。良いね?」
「あ…はっ…はい」
つまり…私が望めば『豊穣の女主人』を離れることも不可能ではない…そう言われているのか?
ミア母さんの言ったことの意味は理解してもミア母さんがなぜそうもあっさりしているのか測りかねる私。
だがとりあえずミア母さんも私に話すように促し、ベルも私の言葉を待っているかのように眼差しを向けている。
…今度は私が自らの言い分を話す番であった。
一度深呼吸を挟み気持ちを落ち着かせた後に私はゆっくりと話し始めた。
「…まずは報告を。シルとは蟠りなく和解することができました。その点はご安心を。そしてベルがファミリアの方々と話をきちんとしてくださったと分かったお陰でようやく心の整理ができました。…ベルは自らの思いを忌憚なく話してくださいました。そして私もこの機会にきちんと話すことにします。聞いてくださいますか?ベル?」
「…っ!もちろんです」
私の確認にベルは真剣な表情で頷きつつそう言ってくれる。
その真剣なベルの表情に背中を押されつつ私は私の思いを語り始めた。
「…私はベルのことを愛しています。私はベルに愛されたいし、ベルを愛したい。私はベルの恋人としてそばにいられると考えると、いつだって心が躍ります。私はこれまでで一番の幸福を手に入れようとしている…そう確信しています。…ですが私にはそれ以上に不安が大きいのです。私の立場はベルに迷惑をかけてしまう。…私はベルに絶対に迷惑をかけたくない。ベルに不幸をもたらしたくない。…私の思いはただ一つ。ベルの幸せの邪魔には絶対になりたくないということ。私自身の存在がベルの邪魔なら、どこか遠くでベルを愛し続けるという選択肢もない訳ではない…そう考えることもできました」
「そっ…そんな!リューさん!」
ベルは悲鳴のような声を上げ、表情を歪める。
…私の言葉は暗にベルの提案を断るどころかベルとの関係を途絶えさせることを認めるかのようであったから。
ベルは恐らく私が最悪の選択をすると予期してしまったのだろう。
…こんな声をベルに上げさせ、表情を歪めさせる私は本当に罪作りだ。
だが私は自らの思いを忌憚なく話すと決めたのだ。だからこの考えを避ける訳にはいかない。
これもまた私の心にある考えの一つ。
私はシルと向き合った時確かにその考えを選び取る可能性があったと記憶している。
…だが話はまだ終わりではない。
考えを整理する中で辿り着いた結論を話し終えていないのだから。
「ですが…今の私はベルの覚悟を明確に知っています。お陰で今まで私の中にあった迷いは消えました。ならば…私も覚悟をきっちりと決めましょう。ベル…私はあなたに迷惑をかけ、不幸をもたらすかもしれない決断を下します。それでも…本当に大丈夫ですね?ベル?」
「当然です。リューさんのためならどんな苦難だって迷惑なんかじゃないです。リューさんのためならどんな苦難だって立ち向かう…そう【深層】で決めましたから。僕達は互いを支え合う恋人同士です。そうでしょう?リューさん?」
「…その通りです。…結局は二人で解決すると宣いながら、一人で問題と向き合おうとした私の過失。私とベルは恋人同士なのに私は互いに支え合うことを拒絶してしまった。…私の覚悟が足りなかったばかりにベルとの仲を危機に陥れてしまった…ということですね。…私はベルの恋人失格です」
…私はそう力なく自嘲する。
【深層】で確かに誓い合ったはずだったのに。私とベルは互いを支え合い、共に苦難を乗り越えていくということを。
にも関わらず私はベルの介入を拒絶し、共に苦難を乗り越えていくという意志を示さなかった。
シルに言われたようにお互いの思いを話し合い、理解し合うことこそがそのための最善策だったのに、あの時はそれさえも拒絶した。
…私とベルの関係を思えば、本当に正しかったのはベルの方だったと言わざるを得ない。私の方が間違っていたのだ。
私はその過ちをこの機会にはっきりと認めなければ…
「そんなことないです!リューさんは僕の自慢の恋人ですよ!…ただこれからは一緒に問題を解決できるようにしていけたらなぁ…と思います。…ってリューさん。過去の話で気が滅入るより未来の話をしましょう?その…リューさんのお気持ちは分かりました。リューさんは僕を茨の道に連れて行ってくれるんですよね?」
「…なぜ嬉しそうなのですか?ベル?私のせいで茨の道を歩むのは決して嬉々として語ることではないと思いますが…」
ベルは自らを自嘲し気分が沈んでいく私を大慌てで励まそうとしてくれる。…とは言っても自らの不満は早々には消せなかったよう。
ベルが漏らしてしまった不満を心に刻み、改善を心で誓いつつ私はベルに苦笑いを浮かべてしまう。
…どうしてベルはこうも嬉しそうに話すのだろうか?
そんな私の疑問にベルは一瞬考える素振りを見せると、サラリと答えた。
「だって…そうすればリューさんの背負ってきた痛みを分かち合えるかなって思いまして。それにリューさんと一緒にいられるなら茨の道でも火の中でも水の中でも僕は幸せですよ?あの【深層】で僕はもう生きるも死ぬもリューさんと一緒って心に決めましたから」
何の戸惑いもなく笑みまで浮かべてそう告げるベル。
ベルが私の痛みを背負う。そう言ってくれた事は素直に嬉しい。そんなベルの優しさを私は愛している。
…だが死さえも私のためなら厭わないと何の躊躇もなく言えるベルはある意味怖い…そう思ってしまった。
そしてそんなベルに呆気に取られかけるが、私自身を鑑みた瞬間に気付く。
…私もまたベルがいないとどのような行動を起こすか分からない…そう思ったことを。
私自身ベルを失うとなれば、茨の道の道にも火の中にも水の中にも身を投じるだろう。死さえも厭うことはない
なら…私の答えもまた明白であった。
「ふふ…私も同じであると素直に白状しましょう。ベルのため、ベルへの愛を貫くためなら死さえも怖くはありません。もちろんベルと共に過ごすために死は望んでいるはずもないですが…ベルとの愛を守れるならば、どんな苦難でも乗り越えられると誓うことができます」
「じゃあ僕と同じ考え…ということでいいですね?」
「ええ。ベルと同じです。私達はお互いのためならどんな苦難だって立ち向かえる。私はもうベルの側から離れません。今ここでそう誓います」
「…リューさん!」
「遅ればせながら私が覚悟を決めたことでようやく私とベルの考えは一致しました。…これまで余計な迷いを抱いてしまい申し訳ありません。ベル」
私もまた笑みを浮かべ、ベルと同じ境地にいることを素直に吐露すると共に誓いを口にした。
もうベルの側から離れないと言う誓いを。
そして同時に同じ境地に至れていなかったことを素直に謝罪する。
その謝罪にベルは首を振ると、期待の眼差しと共にベルは尋ねてきた。
「いえ、今この瞬間リューさんと僕の考えが一致しただけで僕は十分ですよ。なら…リューさんの僕の提案への答え…聞かせて頂けますよね?」
「…もちろんです」
ベルの私と一緒に暮らしたいという提案の答え。
私が覚悟を決めることができた今その答えはただ一つ。
私は覚悟を決めて、ベルの提案への答えを告げた。
「ベル…私はあなたと一緒に暮らしたいです。ベルの提案を心より歓迎します」
「…っっ!!!やったぁぁ!!」
微笑みと共に告げた私の答え。
それを聞いたベルは喜びを爆発させて歓声を上げる。
それほどベルが私と一緒に暮らすことを待ち望んでくれていたことに嬉しさを覚えつつも私にはまだ触れなければならない事項があったため、緩みそうになる頬を自制しつつミア母さんに視線を向けた。
「…という決断を私は下しました。本当に私は『豊穣の女主人』を離れても問題ないのですね?」
「きちんとうちの馬鹿娘達に話を通したら、ね。あたしは事情を理解しているから止めないよ」
「その…ありがとうございます。そして…すみません」
「礼も謝罪もあたしになんかいらないよ。少なくとも坊主のことに関してはあたしは大したことはしてない。あんた自身の言葉で決めて話したんだ。まぁ…雇い主としてはその謝罪しっかり受け取っておこうかね?」
「…すみません」
「ま、何かあればいつでも来な。料理を振る舞うことや相談に乗るくらいはあたしにもできるからね」
「…ありがとうございます」
ミア母さんの快活な笑みと共に贈ってくれた言葉に私は感謝の念を抱くことぐらいしかできない。『雇われた者』としては申し訳なさで一杯だが…
それはともかくミア母さんの承認を得られた以上『豊穣の女主人』を離れる上でも障害はない。
よって次は喜びに浸るベルに視線を向けていた。
「ベル。共に苦難を乗り越えるのはいいのですが、正直私とベルが同居することで何が起こるか分かりません。よって慎重に慎重を期して…」
私の口にしたのはやはり不安に関して。
共に苦難を乗り越える覚悟を互いにしているのはいいが、対策を練れるものは練っておきたい。
そんな考えを伝えようとした私であったが、喜びに浸るベルは笑みを崩さず答えた。
「確かにリューさんは不安でしょうけど、まずは新居をどこにするか決めなきゃ何も始まらないですよ!なので同居する準備が落ち着いてからそのことは考えませんか?リューさん?」
「…それもそうですね。そうしましょうか」
…私は笑みを浮かべて気付けばそう答えていた。
ベルの楽観的な考えに乗っては危険だ…心のどこかでそう言う自分がいる。
だが私にとってはそれ以上にあんな非情な言葉を突きつけたベルがあれ以上私を責めることなく私を許してくれたことが嬉しくて。
ベルがこうやって私と一緒に暮らせることを心から喜んでいる様子を見れるのが微笑ましくて。
…ベルとの関係が破綻するのではと地獄にいるかのような思いをしていた私からすれば、そのベルの楽観的な考えは魅惑的過ぎた。
だから私は現実から目を背け、新居探しより始まるベルとの同居という誘惑に負けた。
こうして私とベルは互いの考えをひとまずは共有し合い同居という私達の関係の新しい段階へと足を踏み入れ始めた。
…その様子をミア母さんが複雑そうな視線で見守っているのを私は見なかったことにしながら。
序盤夫婦喧嘩が収拾が付けられなくなるかと思いました…
結局お互いに謝らずに過去の過ちを放置しつつ未来の話をしながら過去の過ちの本質を見出していく…という形を取りました。
以前ならこんな頑固なリューさん描かなかったんですけど、輝夜さんへの態度が想定以上に酷かったので多分遠慮がなくなったらこうなるんだろうな…と導入してみました。
謝罪合戦をしても良かったんですけど、互いに言い分は存在する。そしてそれが二人なりに相手を想っての言い分だから強い愛の持ち主であるベル君とリューさんは尚のこと譲れない。これなら謝罪合戦より罵倒合戦の方が相応しいかなーと。リューさんいつも輝夜さんとやってましたもんね。(3周年の影響を多大に受けていくスタイル)…結果罵倒合戦が優先になり、それもミア母さんの一喝で終了しました。減点式は不毛ですからね。
夫婦の円満な生活は夫婦喧嘩を幾度も越えてこそ…と個人的に思ってたので第一作で避けてしまった夫婦の衝突をしっかり組み込んでいきたいですね。
喧嘩を超えた後のより夫婦仲の深まった状態でのイチャイチャは二人にとって最高ですよ?(多分)
そして若干歪み始めたベル君…相変わらずのリューさん中心主義のご都合ですが…
今のベル君は【深層】にてリューさんのための死を覚悟した結果、リューさんのために茨の道に突っ込み命を使うことに喜びまで感じている。
ま、リューさんにも元々ベル君に対して命を使いたがる傾向があったのでベル君にも伝播しただけです。
段々と歪み始めたリュー×ベルですが、ご心配なく。
今はちょっと交際開始ホヤホヤ+芳しくないリューさんの立場の影響で頭がぶっ飛んでるだけなので。
少しずつ常識的行動に修正されていきますから。