励みになってます!
ちなみに16巻の試し読みを読んだ結果、リューさんとシルさんの衝突を描いた今作は暫定的にですが正しかったと証明されました。
やはりシルさんは簡単には引きませんよね。それこそ決着が決まっていない以上当然の判断です。
…そしてリューさんの反応は案の定。この点を改変した今作のリューさんはある意味リューさんではないと言えるかもしれません。
今作のリューさんはこれでも結構色ボケに頭振り切ってますからね…
今何に執着してるかはおいといて。その執着もそろそろ終わりです。
『豊穣の女主人』でのシルさんとリリを交えたリューさんとの相談から一週間。
物事はリューさんの思うがままに進んでいた。
ダイダロス通りに調査のための拠点を構えて。
リューさん、僕、シルさん、リリの四人での聞き込み調査は順調に進んで。
リューさんは確かに今調査の中で探している連続窃盗犯に着実に近付いていた。
それはリューさん的には望ましかったに違いない。
その代償にリューさんはこの一週間休みなくダイダロス通り中を飛び回っていた。
ある時は酒場などでの聞き込みに徹して。
またある時はシャクティさんと情報交換をして。
その働きぶりは四人の中で一番だったのは間違いない。
もちろん僕は常にリューさんのそばにいた訳だけど、僕なんて半分ただの付き人兼護衛ぐらいの役割しか果たせてないから、リューさんの働きには到底及ぶはずもない。
僕はリューさんと一緒にいることができればそれでいい。
だからどれだけリューさんと一緒に働いて疲れても、それは心地よい疲れでしかない。
リューさん自身着々と成果が上がり、連続窃盗犯に近づいていくことに大きな達成感を得ているよう。
今のリューさんはとても充実した生活を送れているように見える。
その充実したリューさんの生活に僕も貢献できていると考えると僕も充実した生活を送れていると感じることができる。
今のリューさんの瞳は…確かに輝いていて…そして懸命に動く姿は僕の大好きなリューさんの姿そのものだった。
…だが日に日に疲労を蓄積していくリューさんを見ることになるのは話が別。
…疲れを必死に隠すリューさんの姿は僕自身に蓄積される疲労とは比較にならないほどの辛さを僕の心に与えた。
その疲労の蓄積も当然と言えば当然。
たったの一週間で【ガネーシャ・ファミリア】の調査の成果を上回ったという時点でどれだけ睡眠と休息の時間が削られているかは説明する必要もないかもしれない。
リューさんは充実した生活を送ると同時に常に張り詰め過ぎた生活を送っていたのだ。
そしてその張り詰め過ぎた生活はいつか破綻する…
僕はそう直感していた。
だがリューさんの充実した様子を見てしまうとどうしても止めようという勇気は生まれず。
もう一週間が経ってしまった。
…そろそろリューさんに自制してもらわないと…そう何度目か分からない決心をしたこの日。
リューさんと僕の転機となる事件は起きた。
⭐︎
「ではベル。今日も行きましょうか?」
「…はい。行きましょうか」
そう僕に確認をするリューさんは粗末なフード付きのロングケーブにロングスカートをその身に纏っている。
このスタイルがリューさんの潜入調査の時のお決まり…らしい。
確かにこのスタイルならダイダロス通りにどこにでもいそうな凄く可愛くてついつい僕の視線が釘付けになってしまうような美人の…
…いや、そんな人リューさんしかいないからどこにでもはいないか。
などという訳の分からないことをリューさんの姿を見ながら考えたのは半分は現実逃避のため。
今日こそリューさんに休んでもらうように言わないといけない。
…だが話す決心がどうにも付かない。
今目の前にいるリューさんは今日も調査を進めようと凄く張り切っている。
そんなリューさんの闘志に水を差すことは僕には…容易にはできない。
その結果今日もリューさんを止めることができない流れになっていき、時間だけが過ぎていく…かに見えた。
「今日は手始めに近所の酒場で軽食を取りつつ聞き…うっ…うぅ…」
「リュッ…リューさん?どうしました?」
確認をしながら玄関のドアに手を伸ばそうとした途中で唐突に不自然な声を漏らすリューさん。
ドアへと伸ばされるはずのリューさんの手は口元を押さえ、リューさんの歩みも止まる。
その不自然な身振りの原因を掴めない僕は一瞬戸惑うもリューさんへの心配から距離を縮めようとする。
だがリューさんはスッと手を上げ僕が近づくのを制止した。
「…大丈夫です。…少し…欠伸をしただけです」
…違う。
欠伸ではそうはならない。
欠伸では…ない。僕はそう確信した。
リューさんは制止すると同時に僕から口元を覆ったまま顔を背けた。そのためリューさんが口元を隠した理由は分からない。
だがその瞬間垣間見えたリューさんの顔色は…明らかにおかしかった。
さっきまでとは打って変わった歪んだ表情でどこか…気分が悪そうだった。
…リューさんは…どこか体調が悪い?
そう予感した僕は即座に尋ねていた。
「あの…リューさん?もしかして気分が悪かったりしませんか?」
「ちっ…違います。気分が悪くなどありませんっ」
僕の疑念を即座に否定するリューさん。そのあまりの反応の早さに僕は…逆に疑念を強めた。
…リューさんは何かを隠そうとしているのではという疑念を抱いたのだ。
僕はその疑念の真偽を確かめるべくリューさんとの距離を縮める。
「…本当ですか?本当は気分が悪いだけでなく体調が悪かったりしませんか?本当に大丈夫ですか?」
「ベルッ…心配は不要です。私の体調は万全ですからっ…」
「本当に…本当にですか?本当ならまず僕と目を合わせてくれませんか?」
僕がリューさんの顔色をもう一度確かめるべくリューさんの顔を覗き込もうとする一方リューさんは僕から目を背け続ける。
それはまるで僕の疑念から逃げているかのよう。
余計に疑念を強める僕から逃れようとしているかのようなリューさんの攻防が続く。
そんな時リューさんが開けることのなかった玄関のドアが唐突に開かれた。
「あれ?鍵開いてる…ってリューとベルさんは何をやってるの?」
「シッ…シルさん?」
その声の主はシルさんであった。
…ただどうして?朝からシルさんが来ることなんてこれまでなかったのに…
ただでさえリューさんの体調に関して疑念で頭が一杯なのにシルさんが現れたことによってまた一つ疑念が増える。
…今日は一体何が起きてるんだ…?順調に行きすぎた反動で変なことでも起きているのか?なんて心の中で愚痴る。
そんな愚痴を心に秘めながら僕はシルさんに視線を向けることなくリューさんとの攻防を続けつつシルさんにまたもや増えた疑念を尋ねていた。
「シルさん?今日はどうなさいました?何か問題でもありましたか?シルさんには今日も聞き込み調査をお頼みしてあって、夕方に情報共有する予定と昨日取り決めてあったはずでしたが」
「あーそれはね?何となく朝のリューとベルさんはどんな風に過ごしてるのかなーって気になってお邪魔しようかなーって思ったんだけど…いつもこんな風にイチャイチャしてるの?」
「「イッ…イチャイチャ!?」」
シルさんの答えに今の今まで攻防を繰り返していたはずのリューさんと僕の声が重なる。
リューさんと僕は今イチャイチャしてる…のか?なんて不思議に思ってるとシルさんは続けて言った。
「え?今ベルさんがリューにキスを迫っててリューが照れて避けちゃってるとかそういう状況じゃないの?私から見たらどう見ても二人はイチャイチャしてるように見えるなーベルさんがリューの顔を覗き込んでリューが口元を押さえてベルさんを避けてる感じ…まさかもうキスした後?あ、じゃあ私お邪魔虫だったねーごめんなさーい」
なっ…なるほど…周囲から見ればそう見えるのか…
じゃない!?
シルさんは言いたいことだけ言い終えるとそのままスーッとドアを閉めて玄関に入りもせずに帰ってしまおうとする。
だがリューさんを問い詰めている真っ最中のシルさんの登場は大きな力になると予感させた。
…シルさんならリューさんから聞き出せるかもしれない。
そう思った僕は即座にシルさんを呼び止めていた。
「シルさん!待ってください!それは誤解なんですが…それはともかく聞いてください!ちょっとリューさんの体調がおかしいかもしれないんです!」
「ちっ…違います!わっ…私は…」
僕のシルさんへの呼び止めと共に伝えたリューさんの体調が悪いかもしれないと言う予想。
僕の呼び止めにリューさんは慌ててシルさんが戻ってくるのを防ぐためか反論をしようとする。
だがその言葉は続かなかった。
「うっ…うぅ…うぅぅぅ…」
「リューさんっ!?リューさん!?」
リューさんから再び漏れる不自然な声。
その声と共にリューさんは崩れるように蹲り、その動きを見逃すなど有り得ない僕も続くように跪く。
そうなれば流石にリューさんも隠し通すことはできなかった。
口元を押さえるリューさんの指と指の間からポタポタと漏れる液体。
その液体から漂う異臭に僕は察した。
リューさんは嘔吐していたのだ、と。
「シッ…シルさん!?早く来てください!?リューさん!?大丈夫ですか!?大丈夫ですか!?」
「…リュー?リュー!?どうしたの!?」
顔色が悪いなどという次元を越えたリューさんの体調に僕は動揺の極みに達し、声を張り上げてしまう。
その声にシルさんは大慌てで玄関に入ってきてくれる。
僕はリューさんの気分が少しでも良くなるように背を摩る一方、シルさんはリューさんの髪を掻き上げその額に手を当てて体温を確認する。
「ちょっと…凄く熱い…リュー熱あるんじゃないの?」
「え!?熱!?」
「ベルさん…どうして気付かずに調査に出かけようとしてたんですか?」
「いやっ…その…リューさんが…いえ…今の今まで気付きませんでした。…すみません。僕の注意不足です」
シルさんの失望に満ちた視線に僕は言い訳を呟きかけるが、その言い訳は心の中に封じ込めた。
言い訳などする資格はない。そう思ったから。
…僕の失態だ。
いつかこんな張り詰めた生活が破綻する日がいることに気付きながら僕はリューさんを止められなかった。
リューさんに疲労が蓄積されているのに気付きながらリューさんに休息を求められなかった。
こんな風に嘔吐する姿を見せられるまで僕はリューさんの体調が決定的に悪くなっていることに気付けなかった。
…僕自身の不甲斐なさを本当に呪いたくなる。
だが悔いてばかりでは何も進まない。
今はリューさんのこの体調にどのように対処するか考えなければ。そう心に決める。
だがその決心の前には障害があった。
それは僕の不甲斐なさではない。
リューさんであった。
「…だい…じょうぶです…少し…だけ…ですから…何の…問題も…ありません…」
リューさんは口元を押さえつつも空いた手でリューさんの背を摩る手を掴む。
そして途切れ途切れになりながらも言葉を紡いでいく。
僕の手を掴んだ意図はその言葉から明白だった。
…リューさんはこの期に及んでまだ体調に問題がないふりをしようとしている。
どうして?
どうしてそうまでしてリューさんは頑張り続けようとするんですか?
僕やシルさんがこんなにも心配してるのに。
リューさんの体調はこんなにも悪くなっているのに。
胸に中に蟠りが溜まり続ける。
「何…言ってるんですか?問題だらけじゃないですか…」
「まさか…問題なんて…ありません…私は…私は…」
「リューさん…」
「私は…行かなければ…」
リューさんの名前を呼ぶ。
だけどその僕の声はリューさんには届かない。
リューさんの目をじっと見つめる。
だけどリューさんは目を合わせてもくれない。
「今も…困っている人が…いる…彼女達が救おうとした…困っている人がいる…うっ…だから…私は…行かなければ…」
「リューさんっ…」
吐き気を催しても尚諦めないリューさん。
こんなにも僕が情けない声で名前を呼んでいるのに気付いてもくれないリューさん。
どうして僕の声はリューさんに届かない?
どうしてこんなにもリューさんは聞き分けが悪い?
蟠りがどんどん溜まっていく。
「私は…彼女達の
今のリューさんに見えているのは僕ではない。
今のリューさんに見えているのはかつての仲間の方々。
リューさんは彼女達の背ばかり追っていて。
リューさんは僕どころか自分自身さえも見えていない。
…それは違う。
リューさんの
リューさんの人生を豊かにするためにあるのであって、リューさんを苦しめるためにある訳では決してない。
リューさんを苦しめる正義は…希望とは思えない。
それにリューさんと僕は一つの
愛という
リューさんの
リューさんの今語る
違う。
違う。違う。違う。
溜まる一方の蟠り。
いつまで経ってもリューさんに届かない僕の声。
どうすれば届かせられる?
どうすればリューさんに僕達の
考えた。
リューさんが悲痛な声と共に届くことはない仲間の方々の背を必死に追う中で考えた。
どうしたらリューさんが僕を見てくれるか必死に考えた。
どうしたらリューさんが幸せに近づけるか考えた。
だが全くその方法を見出さない僕の無能な頭脳。
その無能さに僕は憤るしかない。
この無力感に僕はさらに蟠りを募らせる。
そしてその蟠りをリューさんはさらに増長させる。
「私は…私の
こんなにも僕が悩んでいるのにリューさんは僕の悩みになど全く気付かず独りよがりに呟き続ける。
そんなリューさんの態度にもう我慢ができなかった。
もはや僕の心に溜まり続けた蟠りは…もう爆発を避けることができなかった。
その爆発がこれまでリューさんに遠慮して自らに課してきた遠慮を全て取り払った。
その爆発がこれまで僕にはできなかったことを遂行するための力を与えた。
全てはリューさんに僕の声を届かせるために。
僕は声を張り上げた。
「リュー!!!」
僕のリューの名を呼ぶ怒鳴り声にリューの表情が驚きと恐怖で歪んでいたのが分かった。
僕の抑えきれない怒りがリューにも一瞬で分かったのだろうと思った。
だがそんなことに構うことなどできなかった。
怒りに呑まれた今の僕にはもうリューの言葉に聞く耳を持つ余裕などなかったのだから。
「一回黙ってください。これ以上僕を不快にさせたら僕は何をするか分かりません」
「しかしっ…」
「リューの
ようやく吐露できたずっと僕の心に溜め込んできた蟠り。
リューが人助けにこだわり始めて以来ずっと溜まり続けていた蟠り。
この時ようやく溢れ出した。
そして遠慮がなくなった僕はもう止まることはなかった。
「リューが何を言おうと今の僕は絶対に聞きません。リューは僕だけを見ていればいいんです。他の誰も見る必要なんてない。リューは僕のものです。人助けのためでも…絶対に渡さない」
僕はずっと言いたかったことをようやく告げられた。
その言葉に心を動かされてかは分からないが、僕の手を掴んでいたリューさんの手の力が弱まる。
その機を僕は逃すことはなかった。
元々リューさんの背に添えられていた手と共に蹲るリューさんの膝の下に無理矢理腕を差し込むと、そのまま力任せに持ち上げた。
その目的は言うまでもない。
「シルさん。手が空いてないので戸締り等お願いします」
「うっ…うん。それでリューとベルさんは?」
「アミッドさんの治療院へ診察してもらうためにリューを連れて行きます」
「ベッ…ベル!?うぐっ…うぅ…」
「吐きたくなったら遠慮しなくて大丈夫です。リューのなら僕は全く気にしません。それよりちゃんと僕の首に腕を絡ませてくださいね?離したら許しませんから」
「ベル!?きゃっ…」
僕の言葉にと言うよりは突然浮き上がらされた反射で僕の首にリューが腕を絡ませたのを肌で感じた僕はその瞬間には走り出していた。
漏れたリューの可愛らしい悲鳴にも構う精神的余裕は生憎僕には残されていなかった。
ドアを蹴り開けると、僕は玄関を飛び出す。
これまで冒険者として足の筋力を高めてきたのはこの時のためとばかりに走る僕。
僕は歩き慣れ始めたダイダロス通りの狭い街路を全速力で駆け抜ける。
向かうはアミッドさんの治療院。
リューの体調の悪化の原因をアミッドさんなら明らかにしてくれる。
今尚吐き気を催すリューを気に掛けつつ僕は無我夢中に駆けた。
一つ言いましょう。
全速力のベル君にお姫様抱っこされてアミッドさんの治療院に連れて行かれたリューさん。
リューさんは嘔吐するほど気分が悪かった。
…揺られまくって余計に気分が悪くなったと思うんです。
本当に大変です…(悪いのは無理を重ねたリューさん確定ですが)
そしてようやくと言えばようやくリューさんに振り回されないベル君が到来しました。
時間かかりましたね。ずっとリューさんに振り回されてもいいんですが、リューさんの諫言役もやってもらわないといけないので。
息をするようにお姫様抱っこしたりリュー呼びに変わったのもブチ切れて遠慮を忘れたからです。(ずっと初回以来契機を探してた作者が無理矢理ねじ込んだと言っても過言では…ない)
…まぁベル君のいつもの調子だと次どうなるかはお察しですが…
さてリューさんの体調不良の原因は…言うまでもありませんね。
ようやく辿り着きました。
ということで調査回事実上のほぼカットです。こっちこそが本命で調査回は転換を象徴する事件が必要だっただけでもあるので。
自分の小説のメインはイチャイチャ・演説・対話、です!(自称)