妖精と白兎の愛育日記   作:護人ベリアス

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今作の1日でのPVとお気に入り登録数が過去最高だったのに衝撃を覚えた作者(笑)
やっぱりリュー×ベルはポンコツカップルというのがベストということですかね?(笑)


プロローグー妖精と白兎の秘密ー②

「なるほど。つまりお前達は交際していて、ゆくゆくは家族になる予定だから、お互いのことは出来るだけ知っておきたい、ということだな?それなら私も私なりに配慮する。【白兎の脚(ラビット・フット)】の同席を認める他ないだろう」

 

「あっ…ありがとうございます」

 

 ようやく納得へと辿り着いた私は【白兎の脚(ラビット・フット)】の同席を承認した。

 

 ただそれに応じるのは【白兎の脚(ラビット・フット)】のみ。

 

 その理由は先程まで怒号を飛ばしまくり、【白兎の脚(ラビット・フット)】への愛を否定されたと勘違いして激昂していたリオンが【白兎の脚(ラビット・フット)】の隣で轟沈しているため。

 

 …どうやら怒りのあまり自分がどれだけ小恥ずかしいことを連呼していたのか気付いていなかったらしい。今は羞恥で真っ赤に染まった表情を隠すようにテーブルに顔を沈めている。…最も耳先まで赤く染まっているのまでは隠しきれていないが。

 

 そんなリオンを慰めるように【白兎の脚(ラビット・フット)】は優しく頭を撫でているというのは何とも物珍しい光景だ…

 

 リオンも変わった…そういうことか…

 

 と、感慨に耽っていた私であったが、リオンと【白兎の脚(ラビット・フット)】の暴走のお陰で本題をすっかり忘れていたことに気付く。

 

「それで、だ。そろそろ本題に移らせてもらおう。…リオン?大丈夫か?」

 

「…大丈夫…です…」

 

 …顔を伏せたままでどこが大丈夫なのか是非教えてもらいたいものだが、これ以上話を遅らせるのも正直面倒。そう考えた私は話を続ける。

 

「ここ最近連続窃盗犯が出没していて、その者に関する情報が欲しいと私に頼んできたのは覚えているよな?」

 

「…っ」

 

 私の問いにリオンは肩をビクリと揺らす。

 

 当然だ。心当たりがあるに決まっている。

 

 最初に私との密会を求めてきたのはリオンの方だったのだから。

 

「だがリオンはその後『豊穣の女主人』から行方を晦まし、連絡を絶った」

 

「あっ…」

 

 今度は【白兎の脚(ラビット・フット)】が気まずそうな表情を浮かべる。…どうやら【白兎の脚(ラビット・フット)】も一枚噛んでいるらしい。そう疑念を抱きつつ私は続ける。

 

「お陰でわざわざ【小巨人(デミ・ユミル)】に呼び出してもらうと言う形を取るしかなかった。これが私の問いたい事情の一つ目。だがこれだけではない。…それに前後して連続窃盗犯の被害者の元には盗品が密かに返還された。全員分だ。…まさかその犯人が返還したなどということはあるまい。…お前の仕業だろう?リオン?」

 

「…」

 

 リオンは否定もせず顔を伏せたまま沈黙を続ける。

 

 そしてこのタイミングでの沈黙は認めたに程近い。そう考えた私はさらに追及を続ける。

 

「…リオン。私は情報提供の依頼を受けた時、独断専行だけはせず私への報告を欠かすなと伝えたはずだ。それが情報提供の条件である、と。お前は今は故人だ。かつての同志である私とて独断専行は認められない。オラリオの治安のためにもリオン自身のためにも、だ。それは伝えてあったはずだ。なのになぜ連絡を絶ち、独断で連続窃盗犯を討った?それだけではない。お前はその連続窃盗犯を発見した場合は私に連絡して引き渡すと言う取り決めだったにも関わらず見逃したか殺害したということにはならないか?…弁明してみろ。リオン」

 

「…」

 

 私の追及にリオンは沈黙を続けたまま。

 

 視線を合そうともしないリオンとリオンを鋭く睨む私が沈黙の中で対峙する中、それに挟まれた【白兎の脚(ラビット・フット)】がオロオロと私とリオンを交互に見る。

 

 そして沈黙を破ろうとしないリオンに代わって【白兎の脚(ラビット・フット)】がとうとう私の追及に応じた。

 

「シャクティさん…リューは何も悪くありません。その…僕から説明します」

 

「ベルッ…!」

 

「大丈夫。きちんとシャクティさんに話せば、何にも悪いことは起こりません。だから大丈夫です」

 

「…ベル…」

 

白兎の脚(ラビット・フット)】が私の追及に応じるのを止めようとリオンはようやく顔を上げるが、【白兎の脚(ラビット・フット)】は考えを変えない。

 

白兎の脚(ラビット・フット)】の判断に納得したのか諦めたのか分からないが、彼の名を呼んだまま再びリオンは沈黙し、【白兎の脚(ラビット・フット)】は弁明を始めた。

 

「まず盗品を返還したのは連続窃盗犯の方自身です。リューの説得に応じて改心してくれました。それだけでなく盗品をお詫びの品と共に被害者の方にお返ししたんです。だからリューはその改心に免じてシャクティさんに伝えることをやめたんです。これでは弁明になりませんか?悪いことをやめて償おうとした方まであなた達は捕まえると言うのですか?」

 

白兎の脚(ラビット・フット)】の言い分に私は頷きで応じるしかない。…そのような事情があったのなら、独断専行にも少しは言い分を認められる。私達が赴けば見せしめという意味でも見逃すことはできないのだから。

 

 だが連絡を絶った理由への説明は何らできていなかった。

 

「それは分かった…だがその事実を私に伝えれば済んだ話だ。連絡を絶ち、『豊穣の女主人』からも消息を断つ理由には全くならないと思うのだが?」

 

「そっ…それは並々ならない事情があって…その…」

 

「その並々ならない事情とは何だ?私に話せないほど後ろめたい話なのか?」

 

「うっ…」

 

 今度は【白兎の脚(ラビット・フット)】も言葉を詰まらせる。

 

 …人に向かって後ろめたいことを話すのではと疑っておいて、自分達が後ろめたい事情を抱えているとは全く笑えない事実だ。

 

 私は疑いを強めつつ、リオンと【白兎の脚(ラビット・フット)】を交互に見る。

 

 するとリオンは小さく息を吐くと、諦めたように話し始めた。

 

「シャクティ…その…あまり驚かずに聞いてくださいね?」

 

「…心配するな。お前達には先ほど散々驚かされたからもうこれ以上驚くことはあるまい」

 

 リオンの心配げな表情と共に呟かれた言葉に私は苦笑いと共に応じる。

 

 あのリオンが交際し、触れ合うことを受け入れられる異性が現れたということ以上に驚くべき事実がどこにあるだろうか?

 

 …本当にないよな?

 

 と若干の不安を抱きつつも私はリオンの言葉を待つ。

 

 リオンは一方の手では【白兎の脚(ラビット・フット)】を握り締め、もう一方の手では自らの腹を優しく撫でるように触れ始める。

 

 そして頬を赤くしつつリオンが漏らした事実は私の想像を遥かに上回る衝撃をもたらした。

 

 

「実は…私のお腹には子供がいるんです」

 

 

「え…あ…は…?」

 

 リオンの衝撃の告白にもう私は愕然という言葉だけでは言い表しがたい衝撃に襲われた。

 

 リオンに…子供…?

 

「…やっぱりシャクティさん。ビックリしすぎて言葉も出てこないみたいですよ…」

 

「そう言われましても、聞きたいと言ったのはシャクティですし、これはあくまで事実ですから…それよりもこのことを話すといつもまずい方向に話が進んでいく気が…」

 

 情報の整理が出来なくなる私から視線を逸らしつつお互いの手を固く握りしめるリオンと【白兎の脚(ラビット・フット)】はそう呟く。

 

 …流石に自らが告げた事実が恥ずかしいという言葉では表現できないほど衝撃的なことは理解しているらしい。

 

 リオンが交際しているという事実に加えて子供ができたという事実は寸分たりとも簡単に受け入れられる事実ではない。だが情報の整理が必要だと考えた私は深呼吸までして何とか言葉を紡ぎ出した。

 

「リオン…ひとまずおめでとう…そう言っておこうか?」

 

「ありがとうございます。シャクティ」

 

「僕からもお礼を。ありがとうございます」

 

 私の祝いの言葉にリオンも【白兎の脚(ラビット・フット)】も笑顔で応じてくれる。

 

 そうして段々落ち着いてくるうちにようやく事実が繋がり始める。

 

「その子はリオンと【白兎の脚(ラビット・フット)】の間の子…ということだな?」

 

「はい。そうです。正真正銘私とベルの子供です」

 

「それでつまり…子供ができたから安静にする必要があり、調査等が出来なくなると同時に『豊穣の女主人』で働くのをやめていた…ということか?」

 

「そういうことです。…あまり私達のことを多くの方にお話ししたくなかったので…申し訳ありません。シャクティ。報告が大変遅れました」

 

「いや…それはいい。それならもう私から言うことはない。子供の安全が第一だということは私にも分かる」

 

 ようやく全てに説明がついたことで私もようやく追及をやめられる。

 

 ただその時私には再び疑問が湧いてくる。

 

「…ちなみに聞くが、今妊娠何ヶ月目だ?」

 

「えっと…それは…」

 

「アミッドさんの診断によると七週間目だそうです。それが分かったのが大体ニ週間前でしたよね?でしたよね?リュー?」

 

「ベッ…ベル!?それをお話しすると…」

 

「なるほど。ニ週間前に分かったのか。そして私に情報提供の依頼をしてきたのは三週間前。対応の変化も致し方なし、と言ったところだな。了解した」

 

 私の問いにリオンが歯切れを悪くする一方【白兎の脚(ラビット・フット)】がサラリと私の問いに答える。それになぜかリオンは妙に慌てて止めようとする様子に違和感を覚えさせられる。

 

 なぜそうもリオンが慌てているのか最初は分からなかった私であったが、【白兎の脚(ラビット・フット)】の言ったことを考えているうちにあることに気付く。

 

「…待て。七週間目?七週間目と言ったか?」

 

「えっ…あっ…はい。そうです。七週間目です」

 

 七週間目。

 

 つまりは約二ヶ月前。

 

 約二ヶ月前と言うと…

 

 

「…その頃お前達はダンジョンにいて【深層】を彷徨っていた頃では…なかったか?」

 

 

「あっ…」

 

「ベル…やはり気付かれてしまいました…」

 

 私の指摘に【白兎の脚(ラビット・フット)】は気まずそうな表情を浮かべ、リオンは観念したように空笑いをする。

 

 私の推測が正しければ、七週間前と言うと【白兎の脚(ラビット・フット)】とリオンはそもそも交際していたと言う話自体聞いたこともない。

 

 それどころか七週前のこの二人の動向は前半はダンジョンの【深層】を彷徨い、後半には【戦場の聖女(デア・セイント)】の治療院で治療に専念していたはず。【戦場の聖女(デア・セイント)】がそのような行いを治療院内で許すはずもない。

 

 

 つまり機会があるのは私の深く事情を知らないダンジョンの【深層】にいた期間のみ。

 

 

 私は恐る恐る質問を重ねる。

 

「まさかお前達は交際前に子供を作ってしまった…なんてことはないよな?」

 

「うっ…」

 

「ガハッ…」

 

「あっ!リュー大丈夫!?」

 

 この反応…まさに図星…

 

白兎の脚(ラビット・フット)】の表情には気まずさがさらに増し、リオンに至っては羞恥心余ってかテーブルに頭を叩きつける始末。それに【白兎の脚(ラビット・フット)】が心配の声を掛ける。

 

 …ただ正直言って心配なのはリオンの外傷よりもリオンと【白兎の脚(ラビット・フット)】の倫理観の方だと言ってやりたい。

 

「その上お前達はまさかダンジョンで子供を作った…なんてことはないよな?」

 

「「…」」

 

 とうとうこのポンコツ達は返す言葉さえ失ったよう。

 

 私ももう何も言えなかった。

 

 これらの確認を二人から取り、事実上認めるような反応を見てしまった以上もう何も言えない。

 

 そうしてしばらくして顔を上げたリオン。

 

 叩きつけた額を真っ赤にして、痛みでか羞恥心でかは分からないが瞳に涙を溜めたリオンは苦し紛れに言った。

 

「これが…私とベルの愛の証です…何か問題でもありますか!正式に交際していなくとも場所がいかなる場所であろうとも愛を育んだという事実の価値は全く変わりません!」

 

 そう逆ギレに近い形で反論してきたリオンであったが、言葉に凄みを遂に与えることはできなかった。

 

 それはリオンも【白兎の脚(ラビット・フット)】も自分達がどんなに末恐ろしいことを成し遂げたのか理解しているからであろう。その証拠に二人とも恥ずかしさで死にそうな表情をしている。

 

 

 ダンジョン内で子供を作る。

 

 

 …これは恐らく前例が全く存在しない如何にも神々が喜びそうな『偉業』であろう。

 

 …このようなことをさせたのは若気の至りかはたまたリオンの言う『愛の証』としてか…

 

 それは愛を育んだことが未だない私には正直分からない。

 

 だが一つ言えることは、この二人の前途はこのような行き当たりばったりでは危ういということ。

 

 子供の安全を考え、身を隠し面倒事から遠かったのはよい判断だ。下手に神々に知られれば格好のネタにされた挙句確実に面倒事に巻き込まれる。

 

 だが正直これまでの経緯を考えれば不安で仕方がない。あまりに軽率に物事を進め過ぎているという評価を与えざるを得ない。

 

 本音としてリオンの安否が分かって安堵していた私だったが、これでは安堵などとてもできない。

 

 せっかく悩みの種が消えたと思えば、今度はより深刻な悩みに直面したことに正直溜息を吐きたくなる。

 

 だがかつての同志のために何かしてやりたい。

 

 あのリオンが愛を囁けるほどの信頼を置く異性と出会ったと言うのならば尚更。

 

 さらにそのリオンがその異性との間に子供を授かったとまで言うのである。

 

 …そんなリオンが子供を授かるという一つの幸福を手に入れようとしているのを助けようと思うのがどうして間違っていようか?

 

 私はこんな未熟な二人のために何かできることはないかと考えた。

 

 …その思考がダンジョンで末恐ろしい行為に走った二人の情景の想像が頭にちらつくことに邪魔されながら、ではあったが。




ダンジョンで子供ができた…ビックリしますよね。…と言うか理解不能ですよね。分かります。シャクティさん。
ただ、ですね?
(ほぼ)裸で抱き合ったというのは公式なのであとは抱き合ったの意味を変えれば、何にも問題ないよね、という飛躍理論。
これは決して唐突に思い浮かんだ訳ではなく半年前から構想自体はありましたし、きっと少なくない方が考えたことあると思うんです。
…シャクティさんには徹底的に軽蔑されてたけど、仕方ないですよね。若気の至りってやつです。仕方ない仕方ない(どこが?)
それでも心配はしてくれるシャクティさんは優しい…と言う設定。一応シャクティさんは今後も近所の優しいおばちゃん(え?)的立ち位置で登場し続けて頂きたいところ。

ということで次回からは子供ができた経緯を語る過去編に突入します。
言うまでもないかもですが、最初を飾るのは【深層】での出来事。ここが今作の転機になります。あと結構大事な意味合いを持たせる予定です。
…一応先に言いますが、際どい線に触れるつもりはないですよ?表面をサラッと触れて、リューさんの心情的問題に触れる感じです。行為は書きません。…書きませんよ?(しつこい人)
…それはともかくダンジョンで子作りに衝撃を受ける周囲を毎度描くことになるんですね…リューさんとベル君途中で憤死しそう…

内容を一番厚くした方が良い時期ってどの時期ですか?話を進める上で長期的に参考にしたいです。(アンケートで表記した子供と言うには第一子のことであり、何人子供が登場するかは検討中です。)

  • リュー×ベルが付き合うまで
  • リュー×ベルの子供ができるまで
  • リュー×ベルの子供の幼少期
  • リュー×ベルの子供の思春期
  • リュー×ベルの子供の青年期

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