妖精と白兎の愛育日記   作:護人ベリアス

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並び立たぬ正義に別れを

「お帰りなさい。ベル」

 

 ドアを開けた瞬間。

 

 僕の耳に届く透き通るような美声。

 

 僕の心を瞬時に浄化してくれたのではと思うほど眩しく美しい微笑み。

 

 そんな美声と微笑みが僕に贈られる。

 

 もう次の瞬間には先程までの調査の疲労も調査の過程で生まれた悩みも全て消し飛ばされたんじゃないかと思いまでした。

 

 それほどまでに目の前にいる僕の自慢の恋人であるリューの存在は僕にとっての癒しだった。

 

 僕がこれまで調査に精を出してきたのもリューの笑顔を見るため。リューに喜んでもらうため。ただそれだけ。

 

 リューの笑顔と喜びをご褒美としてもらえればそれ以上の僕の喜びはないはずだった。

 

 そのつもりだったのに、リューは僕に予想を上回るご褒美をくれた。

 

 

 それは『お帰りなさい』という僕の帰りを出迎えてくれる魔法の言葉であった。

 

 

 

 ⭐︎

 

 

 

「もう一回言って頂けませんか?」

 

「お帰りなさ…い?」

 

「もう一回お願いします!」

 

「お帰り…なさい…?」

 

「…ベル様?いつまでリュー様に同じことを言わせるつもりなのですか?流石のリュー様も困惑気味のようですが…」

 

「はっ…!すっ…すみません!?」

 

 気付いた時にはリューの身体を起こしつつも横たわるベッドの近くの椅子に腰を下ろしていた僕。

 

 どうやら僕はリューの『お帰りなさい』の癒し効果のあまり何度もリューに言ってくれるように頼み込んでしまったらしい。…それも衝動的に。

 

 それをリリの冷ややかな指摘によって気付かされ、今更のように我に帰る。

 

 うっ…リューに変な風に思われる…かな?

 

 と、伺うようにリューの顔を見る。

 

 リューは最初のうちはリリの言ったように困惑した様子で無言のままだった。

 

 だがすぐに何かを考え込むような思案顔になり、しばらくしてリューは先程まで見せてくれていた眩しくて美しい微笑みと共に言った。

 

「つまり…私なりにベルをお出迎えできた…ということですね?それこそベルの苦労を僅かでも労える程度には」

 

「はい!もちろんです!これからリューに毎日こんな風に家に帰る度に出迎えてもらえると思ったら、もう疲れなんて一切溜まりませんよ!」

 

「…それは何よりです。せめてものお礼になれば良いのですが…」

 

「お礼なんてもう!むしろリューの眩しい笑顔というご褒美を頂けた僕の方がお礼をしたいくらいです!リューの笑顔は眩しくて美しくて可愛くて…もう言葉では表現できないくらいです!」

 

「なっ…ベル!それは流石に褒めすぎです!」

 

「褒め過ぎじゃないですよ!これが真実です!というか頂いたご褒美のお礼にすっごくリューを抱き締めたくなったんですけど良いですか?」

 

「だっ…抱き締める!?しかしそれでは迷惑をかけた私がご褒美を頂いてしまう形に…」

 

「…あのーリューにベルさん?私達を放置して息をするようにイチャイチャするのやめてくれないかな?私もアーデさんもちょーっと流石にイラッとときちゃうよ?」

 

「否定は…しません」

 

「「…はっ」」

 

 シルさんの突っ込みとリリの気まずげな呟きに事実上リューと僕だけの世界に入り込んでいた僕達は頬を真っ赤にして我に帰る。

 

 …こう突っ込まれてしまうとリューを抱き締めようにも凄くやりにくい。…くっ…しばらくお預けかぁ…なんて考える僕。

 

 一方のリューはシルさんの指摘に言い訳を述べようと思っているのかアタフタしていて凄く可愛い。

 

 そんなことを考えていると、リリがわざとらしい大きな咳払いと共に呑気にイチャイチャするリューと僕に首を刺すように低い声で言った。

 

「…ベル様もリュー様も今日が何の日かお忘れで?ベル様とリリはリュー様とシル様にご報告しなければならないことがあるとリリは思うのですが」

 

「…そういえば…そうでした」

 

「…リリの言う通り…だね」

 

 リリの言葉が浮かれるリューと僕の気持ちを鎮静化させた。

 

 …僕の方が報告しなければならないことがある以上僕がそれから目を背けるのは望ましくない。

 

 その内容は…正直気が重いが、リューに話して判断を仰がないわけにはいかず。

 

 僕とリューが落ち着いたことによって訪れた厳粛な雰囲気の下、僕は深呼吸をする。そしてリューとシルさんに交互に視線を向け、二人ともが話を聞ける様子であることを確認した上で話し始めることにした。

 

「えっと…ですね?まず今日の踏み込みは無事完了しました」

 

「お怪我はありませんでしたか?ベル?」

 

「ええ。僕もリリも大丈夫です」

 

「…良かった」

 

 リューは深々と息を吐き安堵した様子を見せる。

 

 …リューには相当心配をさせてしまっていたよう。そのことに僕は心の中で謝る。

 

 僕達に任せてしまったことに負い目を感じているようだとシルさんとリリから聞いてもいるし、それも原因なのかもしれない。

 

 …リューのための苦労なら厭わないと何度も言ってるはずなんだけど…優しいリューの性格だと僕がどう言おうと納得はし難いのかもしれない。

 

 そして僕にもリリにも怪我がなかったというのは全くの偽りのない事実である。

 

 よって僕の気を重くしているのは、別の内容。それを踏み込みの結果とと共に話さざる得ないという訳であった。

 

「それで…踏み込みの結果ですが…連続窃盗犯には接触できました。できたんですが…」

 

「…接触できたのに逃げられた…みたいな感じですか?ベルさん?」

 

「…ベル様とリリがいてそんな不手際は流石にしませんよ…普通は…普通は…」

 

「…一体何があったのですか?ベル?アーデさん?」

 

 歯切れを悪くする僕とリリにリューもシルさんも不思議そうに首を傾げる。

 

 それも当然だ。連続窃盗犯は【ガネーシャ・ファミリア】の推定では第三級冒険者。僕とリリの二人で手を焼くほどの相手でもない。

 

 連続窃盗犯に手を焼かされる形になり、僕の気を重くさせている原因は他にあった。そしてその原因が問題を引き起こしてしまっていた。…だがそれを話すのには躊躇があって…

 

 僕がそうやって言葉を選んでいると、リリが大きな溜息とともに僕に代わってその原因を話してくれた。

 

 

「…その連続窃盗犯の方。二人の子供がいる女性の方だったんです」

 

 

「…え?それが…何か関係あるの?」

 

 シルさんはリリの言葉にポカンとして首を傾げる。

 

 …それも当然だ。その事実が何か問題をもたらすなど普通は考えられない。

 

 だが僕には問題を引き起こした。

 

 そしてそれを知るリリは溜息混じりにその続きを僕に代わって話し続けてくれた。

 

「…要はですね。窃盗を繰り返していたのはその方のお子さんを養うためだったそうなんです。何でもそのお子さんは同じファミリアの男性の方とのお子さんだったそうで…ですが不幸なことに稼ぐためにダンジョンに潜っていた際にその方はそのファミリアのパーティと一緒に全滅。子育てをしていて離れていた彼女だけが生き残ってしまった。再建に力を注ぐファミリアには稼ぎ手になれない彼女を養う余裕はなく。稼ぐ方法を失った彼女は生活にも困るようになり半分自暴自棄に窃盗に走った…とのことです」

 

「それでその話を聞いちゃった優しい優しいベルさんが感情移入しちゃって捕まえられなくなった…みたいな流れ?」

 

「シル様の仰る通りです。ね?ベル様?」

 

「…うん」

 

 リリの呆れ混じりの説明とシルさんの嫌味の含まれた物言いに僕は背を縮こまらせながら頷く。

 

 …リューの顔が見れない。リューが僕の不甲斐ない行いに怒ってしまいそうで怖い。

 

 だが僕には僕なりの言い分があった。それをせめてリューに伝えるべく僕はリューに視線を向けられないながらも言い訳を始めていた。

 

「…本当は僕が間違っているのかもしれません。でもっ…!彼女の話は他人事ではない気がして!…リューを一人にして僕がどこかに行くと同じことを起こしてしまいそうで怖くて…だから!」

 

 偽りなき本心だった。

 

 犯罪者に同情なんて必要ないのかもしれない。窃盗は罪だ。それは揺るがない。

 

 …だが他人事ではなかった。

 

 彼女の悲痛な事情を話す時の表情は忘れられない。その表情は絶望で染め上げられていた。

 

 …その時僕は彼女を思わずリューに重ね合わせてしまっていた。

 

 僕が彼女と同じ境遇をリューにもたらす可能性がある。そう考えると怖くて。

 

 その時点で僕は彼女を裁くという判断は消えていた。

 

 彼女をどうにかして助けたい。

 

 本来リューのことは関係ないのに。

 

 そう思ってしまっていた。

 

 僕はそんな思いを込めて。リューに理解してもらいたくって。

 

 僕は切実な声と共にリューにその思いを伝えようとする。

 

 そうして思わず顔を上げ視線をリューに向けていた時。リューの表情に僕は言葉を詰まらせていた。

 

 

 なぜならリューの顔色は完全に青ざめてしまっていたから。

 

 

「…つまり…その連続窃盗犯は母親…だったのですか?」

 

「えっ…はい…そうなりますね…」

 

「なら…私は…子供達から母親を奪おうとした…?嘘…私は何をしている…?私は…『人助け』の名の下にそのような悪行を働こうとしていたのか?」

 

「リュ…リュー?」

 

「そんな…なら私が正しいと思い込んでいた正義(希望)は本当に正しくなかった…?子供から親を奪うことが正義(希望)のはずがない…違う…絶対に違う…私は…私は…」

 

「リュー!おっ…落ち着いてください!」

 

 リューの肩が震える。

 

 リューが頭を抱えて動揺する。

 

 リューの表情が絶望に染まる。

 

 その様子を見ていられなくなった僕はリューの名を呼び、動揺から引き戻そうと試みる。

 

 だがそれだけではリューの動揺は深まるばかりでリューの頭を抱える片手を無理矢理引き寄せ、両手で握り締め少しでも動揺を抑えてもらえないかとさらに試みる。

 

 そんな中リューはポツリと呟いた。

 

 今のリューにとって決定的な意味を持つ言葉で。

 

 それはリューの『人助け』という一つの正義(希望)が崩れる合図になった。

 

 

「私は…彼女を裁かなければならないと…もう言うことはできない…その裁きは… 絶対に正義(希望)にはなり得ない…」

 

 

 それは僕が導き出した答えと同じ。

 

 リューにとってはこれほどまでの動揺を引き起こす衝撃的な答え。

 

 だが僕にとっては望ましい展開に繋げ得る答えでもある。

 

 リューを慰めないといけない。

 

 彼女は罪を犯した以上償わなければならず裁きは不可欠である、と。そうリューに伝えるべきだという常識的な考えが生まれる。

 

 だがリューが今後『人助け』に執着しないようにこの動揺を利用しなければならない。そんな醜い考えも生まれる。

 

 リューに仲間の方々が抱いていたと思われる正義(希望)を汚すような考えを抱かせてはいけない。

 

 リューをこれ以上『人助け』などという僕達の正義(希望)にはなり得ない代物に苦しめさせる訳にはいかない。

 

 僕の心に相反した考えが渦巻く。二つの考えが衝突して僕はリューにかけるべき言葉を見出せない。

 

 そうして僕までも動揺する中でリューは呟き続ける。

 

 その呟きは自ずと幸か不幸か僕の一方の望み通りに進んでいった。

 

「この正義(希望)では…多くの方に窃盗犯の恐怖から開放される反面確実に不幸になる方を生んでしまう。…これは正義(希望)ではない…皆が笑顔になれることを望んだ彼女達の正義(希望)ではない…ベル?私はどうすればいいのでしょう?私は一体どうすれば…」

 

 リューは僕に救いを求めるように尋ねてくる。

 

 リューが苦しまずに済むようにする答え。

 

 リューを苦悩から救う答え。

 

 それはもう僕の中では一つしかなかった。

 

 リューの考えが揺らいでいるなら…僕はリューの幸せのためにその考えを伝えなければならない。

 

 僕は決断した。

 

 これまで僕はリューの話す仲間の方々の正義(希望)が本当にリューの正義(希望)になり得るかずっと疑ってきた。

 

 その疑いをこれまでリューは退けてきたが、今のリューはその疑いに揺らいでいる。

 

 

 僕はこれを機にリューの正義(希望)を僕と僕達の子供のための愛だけにする。

 

 

 そんな醜い独占欲も含まれた考えがとうとう僕の思考を占拠した。

 

 そしてその考えはリューに言葉を紡がせた。

 

「簡単ですよ?リュー?みんなが笑顔になるための方法が僕には分かります」

 

「本当ですか!?ベル!?」

 

「ええ。その女性の悩みがなくなれば窃盗犯がいなくなります。窃盗犯がいなくなれば多くの方々が笑顔になれます。リューも笑顔になれます。要はそのための手を打てばいいんです」

 

「その手とは…」

 

「実はその女性は生活に困らないようお金をいくらか渡してきてあるんです。その女性が生活に困らなくなれば窃盗犯は完全にいなくなる訳です。もちろん盗品はお返し頂きました。…ま、売り払っちゃったりしているとのことで弁償が必要なんですけどね。その手配を僕にお任せ頂けませんか?」

 

「…任せるも何も手配を始めちゃってますよね?ベル様?」

 

「そうなのですか…なら引き続きベルにお願いします」

 

 リリのツッコミの通り確かに僕はもう既に僕の考えに基づいてこの事件の後処理を始めていた。

 

 …リューに認めてもらえるか若干の不安はあったが、これで問題ない。あとはリューに確認を取るだけで済みそうだった。

 

「その女性に関してはお金を渡した所、窃盗は二度としないと約束してくださいました。なのでお金の心配さえなくなればもう大丈夫でしょう。ただ生活の資金的な支援はいつまでもできる訳ではないので、ミアハ様に何とかならないか相談してみます」

 

「神ミアハに…なるほど。あのお方なら信頼できそうです」

 

「…あえて女たらしのミアハ様を選ぶのがなんというか…だね。ベルさん」

 

「…え?」

 

 後処理の方針を話していると、シルさんに不思議な突っ込みを入れられるが…意味もよく分からないので聞き流して僕は話を続ける。

 

「それで何事もなければ【ガネーシャ・ファミリア】に身柄を引き渡さずに済むのでは…と考えています。シャクティさんにはその経過を見た上での報告でいいかと思います。如何ですか?」

 

「ちょっ…ベル様?それは流石にまずいのでは…」

 

「…シャクティに話を通せば即座に身柄を拘束しようと動くと思います。ベルの言う通り彼女の改心と生活の安定のための時間を確保するためにも報告は遅らせるべきかと」

 

「…それでは立場回復に繋がらないような…その窃盗犯を【ガネーシャ・ファミリア】に引き渡す、もしくは協力して捕まえる…が目的でしたよね?ついでに言うと、常時連絡を絶やすなという釘を刺された上で」

 

「その点は…窃盗がなくなったということで大丈夫じゃない…かな?」

 

「…そう…なのでしょうかね?」

 

 リリは納得いかなさそうだが、リューはすっかり納得してくれた模様。

 

 …恐らくリューの頭の中は窃盗犯になってしまった女性をどうしたら助けられるかで一杯なのだろう。

 

 もちろん僕もその女性を助けたい。だからリューの確認を取る前に既に彼女のために便宜を図った。

 

 だが…僕にとって一番大切なのはリューの安全と笑顔である。

 

 …実はこれはリューとシャクティさんの接触を防ぐための方便に過ぎない。

 

 リューの正義(希望)が揺らぐ今シャクティさんとの接触は『豊穣の女主人』における『人助け』への執着を生んだ時のように余計な波を起こす可能性があるから。

 

 そして僕はその女性への後処理を一通り話し終えると、次は僕にとって一番大切なリューの笑顔を守るための話を切り出した。

 

「それで…ですね?僕は常々思うんです。リューはみんなを笑顔にしたいって切に思ってます。それは僕も同じでその考えはとても素晴らしい考えだと思います。ですが…そのためにリューが笑顔になれないのはおかしいんじゃないかなって思ってしまうんです」

 

「ベル…」

 

「だからまずはリューが笑顔になれるように頑張りましょう?僕もお手伝いします。リューを笑顔にできるように精一杯頑張ります。なので…今は『人助け』とかリュー自身の笑顔に関わらない正義(希望)は一度忘れませんか?その正義(希望)のせいでリューが笑顔になれず苦しむのを…僕は見てられないんです」

 

「それは…分かります。今の私にとって一番大切な正義(希望)はベルとお腹の中にいる我が子への愛であることは間違いありません。…夢の中で仲間達が伝えようとしてくれた正義(希望)もこれだったのではと…今は納得できます。…彼女達には子供はいませんでしたから。…この子は私とベルの愛を象徴し、私の幸せを体現してくれる存在なのでは…と思うのです」

 

 リューはそう言って自らのお腹をそっと撫でる。

 

 その表情は優しさで満ちていて…リューが本当にお母さんになったらこんな風に僕達の子供の頭を撫でてくれたりするんだろうな…なんて事まで考えてしまったり。

 

 リューが必要のない正義(希望)のために苦しむことがなくなった先にはこんな幸せそうなリューの表情が見られる。

 

 そう思うと尚のこと僕は念を押さずにはいられなかった。

 

「ではリュー?これからはリューと僕とお腹の子供の三人で暮らしていきましょう?他のことは気にせずまず僕達が幸せになるために生きていくんです。それがいいと思いませんか?」

 

「…ベルの言う通りだと思います。以前も言った通りベルを悲しませ、お腹にいる我が子に不幸をもたらすことは私の望みでは到底ありません。もう既に私の決心はシルに話してありましたが、『人助け』という過去の正義(希望)はこの機に捨てます」

 

「それは何より…!」

 

 …と喜びかけた僕。

 

 だが僕は今聞き捨てならないことを聞いた気がした。そのせいで言葉を詰まらせる。

 

 

 『もう既に私の決心はシルに話してありました』…?

 

 

 僕よりも、前に?シルさんに?

 

 恐る恐る視線をリューから移すと、そこにはニマニマと笑みを浮かべたシルさんが…

 

 ちょっとシルさん…?

 

 今僕がリューの説得をしていたはずなのにもう既にリューの決心が終わってるってどういうことですか?もちろんリューが決心してくれたこと自体は嬉しいのは当然だけど…

 

 と心の中でぶつぶつとシルさんへの文句を垂れていると、シルさんは勝ち誇ったような表情と共に言った。

 

「フフーン。ごめんね?ベルさん?リューがベルさんの恋人としてこれまで以上にイチャイチャして、ベルさんとの子供をベルさんと一緒に愛情一杯で育てるっていう話は私の方が先に聞いちゃったんだ〜」

 

「…え?」

 

「シッ…シル!?確かに私はベルの恋人としてベルとの子供の母親として生きていくと決心したのは確かですが、そこまで言った記憶は…」

 

「あれーリューはベルさんとイチャイチャしたくないのー?これまで通りだとあんまりイチャイチャできないんじゃないのかなーそれだとベルさん笑顔になれないよー?」

 

「ぐぅ…それもそうです。ベル!ベルの笑顔のためこれからベルと全力でイチャイチャします。…恐らく手加減はできません。…覚悟してください!」

 

 …リュー?全力でイチャイチャするための覚悟って…何?

 

 シルさんのからかい半分の指摘に顔を真っ赤にして凄く曖昧だけどなんだか凄いことを口走るリューに思わずそう突っ込む。

 

 …これはつまりこれからはリューにあんなことやこんなことをしても断られない…ということ?

 

 でも僕から何を頼めばいいか分からないし、僕からリューとイチャイチャしようとするのは恥ずかしいし…

 

 などと一人頭の中で僕が苦悶する一方、シルさんのリューへのからかいは止まることはなかった。

 

「それにしてもリューとベルさんの子供ってどんな子が生まれてくるんだろーね?女の子ならリューみたいな美人さんかな美人さんかな?」

 

「シル…私を褒めても何も出てきませんよ…ただ男の子なら常日頃は愛嬌がありつつもいざと言う時はとても凛々しくカッコ良い…そんな子になると私は思います」

 

「…それってまるっきりベルさんのことだよね?」

 

「…はっ。シル…お願いですから忘れてください…私は今ついついベルの魅力の一つを話してしまい…」

 

「あー無理だな〜ベルさんは愛嬌がありつつもいざとなるとカッコ良い…それには私も賛成!アーデさんはどう思いますか?」

 

「…どうしてリリに話を振るんですか?まぁ…リリも同感ですけど」

 

 …そうして気づけば僕だけ話から置いていかれているという現実。

 

 リューとシルさん、そしてリリはそれからすっかり所謂女子トーク(?)を始めてしまい僕は放置。

 

 …と言ってもその間リューは時折微笑んだりして終始楽しそうだったので僕は口を挟むことはなかった。

 

 僕はホッとしたあまり一人考え事をしたかったからそれで良かったから。

 

 

 …リューがようやく『人助け』という正義(希望)を捨ててくれた。

 

 これが正しいのかは分からない。

 

 けれどリューの笑顔を守るためには絶対に必要だという確信があって。

 

 だからこそ僕は今回だけはリューに僕の考えを押し通した。

 

 …この判断がリューのために必要であったと僕は信じたい。

 

 これからリューの笑顔が溢れてくれると信じたい。

 

 そして僕もまたリューの恋人として、そしてリューのお腹にいる子供の父親として、覚悟を決めよう。

 

 リューと僕達の子供のために僕は精一杯頑張ろう。

 

 それこそシルさんではないけど、リューとこれまで以上イチャイチャして、リューとの子供を愛情一杯で育てよう。

 

 その覚悟を僕は改めて心の中で密かに決めた。




作者の作品では実は珍しいお人好しベル君発動。リューさんの存在の影響みたいに書いてますが、これ性格ですから。リューさんの存在がその思いを強くした程度です。
普段のリューさんならベル君ぶん殴られているかもです。犯罪者を許せるほどの器の大きさをリューさんは案外持ち合わせていないので。
ですが今回は少々話が違った。
ベル君と同じようにリューさんは彼女と自らを重ね合わせてしまい…その結果裁けなくなった。
そうして行き着いたのが許すだけでなく援助までするという流れ。地味に3周年のアーディさんと同じ境地に達したリューさん。
とは言ってもその許すことを思い出した以上に犯人が自らと同じ母親だったという事実の悪影響の方が強かった。というかアーディさんとは同じ境地でも考えていることが完全に違う。
子供を大切に思う自らと同じ立場の人間を裁くということに躊躇が生まれてしまった。

…いや、だから罪は罪。事情は事情。なんですけどね?
ただ事情を気にし出したら、犯罪者をこれまでのように悪と一刀両断できなくなってしまって。
これまでに裁いた犯罪者の中にも実は自らと変わらぬ境遇の人がいたのではと考えると、自らの所業に戦慄してしまって。

リューさんの一つの正義が崩れてしまいました。『人助け』を行うことで誰かを助けることで誰かを傷つけることができなくなった…的な。

この話を入れることにした原点は外伝5巻におけるリューさんと闇派閥の人間の会話ですね。
要はタナトスの元にはリューさんと似た境遇、大切な人を失って悪に走った人々がいた。
その事情を知った上でリューさんが悪を裁けるのかという疑問。
この話で分かる通り作者は裁けなくなると思ってます。
そしてこのジレンマを乗り越える…というのが普段の作者のテーマになりうる…というか今作のテーマのはずでしたが。
テーマ変更により過去の正義の放棄のための話と化しました。よってここで話は終わりです。

ということで『人助け』をやめたリューさんとベル君は本格的に尽くすべき相手を見出していきます。
ただ『人助け』を本当にやめていいのかという迷いはリューさんに一生付きまとうんですけどね。それは『人助け』の正しさの問題だけではないので…
まぁ今回のリューさんのベル君への宣言により今作序盤における度を超えたイチャイチャへの道が開かれましたが!()
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