妖精と白兎の愛育日記   作:護人ベリアス

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さて今回からポンコツCPリュー×ベルの本領発揮ですよ!()


〈懐妊編〉第四章 希望を宿して
何気ない日常を恋人と


「やっと二人だけになれますね?リュー?」

 

「…ええ。全てベルのお陰です。本当にありがとうございました」

 

「いえいえ。リューのためならこれくらいどうってことないですよ」

 

 私のお腹に子供がいると発覚してから数えれば四日になるだろうか。

 

 私は入院による体力の回復を済ませ、ベルはその間に私の持ち込んだ連続窃盗犯の後処理を完了させた。

 

 そのお陰で私とベルは四日ぶりの帰宅を果たすことになった。

 

 帰宅先は調査用の拠点になるはずだったこのダイダロス通りの貸家。

 

 …結局改めて別の場所を借り直すのも手間であるということで何か不都合な事情でも生じない限りはこの貸家で当分の間は過ごすということに入院中の相談で決まっていた。

 

 そして今日はベルによる私と二人で過ごしたいという一点張りによって二人のみでの帰宅…ということになった。

 

 …本当はこの貸家に本格的に住むとなればそれ相応の準備が必要であり、早々に準備に取り掛かる必要があった。

 

 そのためシルやアーデさんの力を借りつつその準備を進める…というのが望ましいはずであったが、ベルの猛反対で翌日に延期。

 

 少々不本意ではあったが、ベルと全力でイチャイチャするとお伝えした以上自らの言葉を覆すのも問題。

 

 ということで今日くらいはベルと二人で過ごし…イチャイチャしようと私は決めたのである。

 

 そうして一通り片付けを終えた私とベルは顔を見合わせる。

 

 二人で過ごす、と言っても特別すべきこともなく。

 

 片付けを終えてしまってからどうすればいいか私とベルは揃って困ってしまう。

 

 二人して互いに顔を見合わせたまま棒立ちになる。

 

 それからしばらく見つめ合っているうちに段々恥ずかしくなってきて、頰が熱くなってきてお互いの顔を見れなくなる…というアクシデントを経て。

 

 一悶着の末にベルが過ごし方に関して話を切り出してくれた。

 

「えっ…!えっとですね!?とりあえず…一緒にソファーに座ってお話でもしませんか?」

 

「はっ…はい!それが良いかと…」

 

 そう二人の間で即座に合意が交わされ、少々気まずさもあった空気が崩される。

 

 そしてササっと並んで座った私達。ただ私とベルの肩と肩の距離が大きく思えてしまった。

 

 …イチャイチャするなら…もっと距離を縮めなければ。

 

 そう思い立った私はベルに気まずい空気を打ち崩してくれたお礼代わりにほんの少しベルに寄る。それと共にベルの手の甲にそっと触れながらベルの顔を見つめ、一つお願いをしてみることにした。

 

「…ベル?手を…繋いで頂けませんか?ベルの温もりを…感じたい気分なのです」

 

「あっ…えっ…ええ!もっ…もちろんです!」

 

 微笑みと共に告げた私のお願いにベルは表情を綻ばせ快諾してくれる。

 

 指と指を絡ませ掌と掌を合わせて繋がれる私とベルの手が温もりを交換し合う。

 

 その暖かさに心を和ませながら私はポツリと呟いた。

 

「…こんな風に落ち着いて手を繋げるのは…【深層】の時のような気がします…」

 

「…それもそうです。それはきっとリューの悩みがようやくみんな解消されたお陰ではないですかね?【深層】から帰ってきてからのリューは悩みっぱなしでしたから…それこそ【深層】の時よりも」

 

「…ベルの言う通りです」

 

 私は思い返してみる。

 

 シルとの関係。

 

 過去の正義(希望)

 

 …周囲から見れば些細でも私にとっては重大な悩み。

 

 ベルの言う通り【深層】から帰ってきて以来ずっとそれらの悩みに悩まされてばかりだった気がする。

 

 だが今はどうか?

 

 私はベルへの愛という本当に大切な正義(希望)をより深く心に刻み込むことができている。

 

 それだけでなくベルとの愛の象徴でもある私とベルの愛によって恵まれた私のお腹にいる大切な我が子というもう一つの正義(希望)。その存在を私はようやく認知することができている。

 

 ベルの恋人として。

 

 これから生まれてくる私達の子供の母親として。

 

 私の心はいつになく正義(希望)に満たされている…そんな気がした。

 

 そんな私の満ち足りた思いを察したかのようにベルは私の手を握りしめる力をほんの少し強めながら言う。

 

「そして…こんな日がこれからもずっと続くんです。リューと僕が平穏に幸せに暮らせる日常が…そんな日常に遠くないうちに僕達の子供も加わって…もっともっと僕達の日常は幸せで満ちていくんです」

 

「きっと…そうでしょう。ベルといればそんな幸せな日常が手に入る…私はそう信じることができます。もちろん私もベルと私達の子供の幸せのために努力を惜しみません。私の持つ全ての力を以て…」

 

「そんな気張らなくてもいいですよ?僕にとってはリューがそばにいて笑顔でいてくれればそれでいいんですから」

 

「しかし…これまでベルに散々迷惑をかけておいて何もしない…などということは私にはできません。精一杯ベルを笑顔に出来るように頑張ります」

 

「…分かりました。一緒に笑顔になれるようにこれから頑張っていきましょう?リュー?」

 

「ええ。もちろんです。ベル」

 

 何気ない日常。

 

 それが私達の幸せに暮らせる日常。

 

 …今なら私はその大切さを重々理解できる。

 

 これまではずっと平穏からは程遠い生活をずっと続けていて。

 

 その生活が如何に私の今の正義(希望)にとって障害となり得るか気付いてしまった今だからこそベルの言う『平穏に幸せに暮らせる日常』が如何にと尊いかに気付けた気がした。

 

 そしてその日常を私とベルは努力を重ねてこれから守っていかなければならない。

 

 ベルのため。

 

 ベルとの間に恵まれた我が子のため。

 

 …私自身のため。

 

 その決意を改めてベルと共に固める。

 

 この決意は何度確認しても多いなんてことはないと私は思う。

 

 …なぜなら私は頭に血が上るとすぐに大切なことを忘れてしまう傾向があるから。

 

 だから何度も何度も確認して刻み込む。同じ過ちを繰り返さないために。

 

 そんな決意を私が固める一方ベルは遠い目をして呟く。

 

「結婚式に…新婚旅行に…出産…これからは幸せで一杯のイベントばかりですから。どれも今から僕はすっごく楽しみです」

 

「けっ…結婚…?ベルはそこまで考えているのですか?」

 

 ベルの口からサラリと飛び出した『結婚』という言葉に私は正直驚く。

 

 私達は恋人。

 

 そこまでは私も当然理解していた。

 

 だが結婚して…そして夫婦になる…そういう未来は私の発想を越えていた。

 

 ベルがそこまでの未来を私と共に考えてくれているのが私は嬉しい。

 

 私とベルが夫婦になるという明るい未来が私の心を満たしていく。

 

 そして私が思わず口にしてしまった呟きにベルはさも当然のように返す。

 

「え?もちろんですよ?リューは母親になって、僕は父親になります。責任を取るという意味よりかリューと生まれてくる子供のために結婚は是非ともしたいと思ってたんですけど…ダメでしたか?リュー?」

 

「めっ…滅相もない!私も当然ベルと結婚したいです!ならば私とベルは恋人を越えて婚約者、という理解で大丈夫ですか?」

 

「ふふ…そうですね。僕達は婚約者です。僕達は婚約者なんです」

 

 不安そうな眼差しと共に私に結婚の意志がないのか尋ねてくるベルに私は大慌てで否定する。

 

 私がベルと結婚したくないなんてことあるわけもない。

 

 …つまりは私がベルよりも視野が狭く未来が見えていなかった…ということ?

 

 …やはり私はベルの婚約者としてベルと共有しなければならない考えをきちんと共有できてないような…

 

 と、自虐的考えに陥っていく私を他所にベルは婚約者という言葉を噛み締めるように二度呟く。

 

 そうしてベルはふと何かを思い立ったように私の顔を覗き込みつつ言った。

 

「そういえばすごく今更なんですけど…お腹に子供がいるとは言ってもお腹に何か変化はあるんですか?僕にはよく分からなんですけど…」

 

「え?…それは…【戦場の聖女(デア・セイント)】のお話によるとまだ目立った変化はないとのことです。ですが来週頃には子供の心臓の鼓動が始まるとか」

 

「そうなんですか…少しずつお腹の中で成長していっているんですね…そう考えると、なんだか嬉しくありません?」

 

「同感です。私のお腹でベルとの子供がすくすくと成長していると考えると…私も嬉しいです。どんな子供が生まれてきてくれるのか今から楽しみでもあります」

 

「あーシルさん達とその話ですっごく盛り上がってましたもんねー」

 

「…ベル?」

 

 ベルと子供の成長に関して考えを共有できていたことに先程抱いた自虐的な考えをほんの少し打ち消すことができた私。

 

 だが逆にベルはなぜか唐突に頬を膨らませて不満げな表情を浮かべる。

 

 わざとベルが頬を膨らませていると丸分かりなこともあり、ベルに可愛さを感じてしまう…

 

 …という点は置いておいてベルの不満の理由が分からない私は首を傾げつつベルを見つめる。

 

 するとベルはその不満そうな表情を打ち消したかと思えば、得意げにも見える笑みと共に言った。

 

「あ、そうです!ちょっとリューにお願いしてもいいですか?リューのお腹に近づいてみたいです。僕達の子供をそばで感じたいなぁ…なんてつい思ってしまって」

 

「いいですけど…特に変化はありませんよ?」

 

「その点は大丈夫ですから。いいですね?リュー?」

 

「えっ…ええ」

 

「ありがとうございます!」

 

 食い気味に私のお腹に関心を示すベルに私は戸惑うが、断る理由も特になく私はすぐに承諾する。

 

 その承諾にベルは笑顔で礼を告げると、早速身体を傾け私のお腹にゆっくりと近づき耳を当てる。

 

 そしてベルはふぅと息を吐くと、耳を澄ませるように黙り込んだ。

 

 その間これは膝枕に近いようで違う…お腹枕?

 

 などというよく分からない疑問にぶつかっていたが、ベルの呟きによってその疑問はどこかに吹き飛ばされた。

 

「…やっぱり聞こえませんね」

 

「それは…当然です」

 

「ははは…でもリューの温もりを別の形で感じられて何だか心地いいです」

 

「それは良かったです」

 

 …どうやら案の定というか私のお腹に耳を当てても何も分からなかったらしい。

 

 ただベルは私のお腹の上に顔を置くことを心地よいと言ってくれた。

 

 それだけでも私にとっては意味のある行為だったと思えた。

 

「あの…これはシルさんはやってませんよね?」

 

「シル…ですか?シルは私のお腹に触りはしましたが、ベルと同じ行為はしていません。それがどうかしましたか?」

 

「…良し!」

 

 私のお腹の上でガッツポーズを決めるベル。

 

 …もしかしてベルはベルと同じくらいに私と距離が近いシルに嫉妬していた…

 

 だから先程不満そうな表情を浮かべていた?とベルの考えを私は推測してみる。

 

 その間にもベルは余程私のお腹の上をお気に召したらしく耳を私のお腹にスリスリ擦り始めたり、私の顔を時折見上げてはにこっと笑みを浮かべるという愛らしさまで感じる行動を繰り返す。

 

 可愛らしいとしか表現できないベルの様子を私は微笑みを浮かべながら眺めつつ繋がれたままのベルの手を握り締める。

 

 何気なくベルと触れ合える心地よい時間。

 

 そんな時間を過ごしていた私とベルの耳にその和んだ空気を読まぬ音が鳴り響いた。

 

 

 くぅぅぅ…

 

 

「…あ」

 

「…え?」

 

 響き渡る間抜けさまで感じてしまうような音。

 

 …その音は…明らかに私のお腹から放たれていた。

 

 そしてその原因は…

 

「…今の音…お腹の子供の泣き声だったりとか!?」

 

「えっ…!?ちっ…ちっ」

 

 盛大に勘違いを起こしたベルはガバッと身体を起こし、興味津々に私のお腹を眺める。

 

 …違うんです!?

 

 ベル。お腹の中の子供は泣き声を上げたりなどこの時期にできるはずもなく…

 

「あ、もしかして僕がそばにいるのを気付いて反応してくれたとかですか?流石僕達の子供です!僕達の愛がちゃんと伝わってるんですね!」

 

「ベッ…ベル!?実は…その…」

 

 勘違いしたままのベルは嬉しそうに私に話す。

 

 …お陰で尚更話を切り出せない。

 

 原因が原因で普通に話すだけでも恥ずかしい。

 

 その上ベルの勘違いのお陰でさらに話しにくくなる。

 

 うっ…ベルに話せばベルに恥をかかせてしまうことに…

 

 などと戸惑っているうちにベルの勘違いはさらにエスカレートしていく。

 

「反応してくれてありがとうね。パパはここですよ~ママと一緒に会える日を楽しみにしてまちゅからね~」

 

 私のお腹に楽し気に声まで掛けだしてしまったベルに私はもう耐えられなかった。

 

 この際ベルに恥をかかせてしまってしまっても仕方ない。

 

 私の恥など尚のことどうでもいい。

 

 今言う機会を逃せばベルはさらに恥を重ねることになる。

 

 それだけは何としてでも防がなければならなかった。

 

 私はベルにショックを与える覚悟を決めて、とうとう声を上げることができた。

 

 

「違うんです!これは私が空腹でお腹が鳴っただけなんです!」

 

 

「…え。えっ…ええええええ!?」

 

 ベルはショックのあまり後ろに飛び退きつつ叫ぶ。

 

 …その反応も私には十分理解できてしまう。…もし私がベルの立場だったら…恥ずかしさで…

 

「じゃあつまり僕は…ただただリューのお腹に話しかけていたんですか?お腹の子供には一切関係ないのに?」

 

「…」

 

「若干の赤ちゃん言葉で?しかもリューのお腹の上で?これはまさかおじいちゃんの言う『あかちゃんぷれい』…!?いや、違いますよね!?違いますよ!」

 

「…?」

 

 ベルが意味不明な言葉まで口走りながら悶絶する。

 

 …すみません。

 

 ベル…私が恥を恐れたばかりに…

 

 そう申し訳なさを感じるが、今更遅い。

 

 ベルは私に向かって救いを求めるように叫んだ。

 

 

「リュー!?お願いだからさっきのことはどうか忘れてください!?」

 

 

 ベルの懇願に程近い叫びに私はコクリと頷いて、ベルの醜態を忘れたということにする。

 

 …ですがすみません。ベル。

 

 そう心の中で謝らなければならない。

 

 なぜならどんな形であれベルの私達の子供への愛を感じることができた今のベルを私は多分忘れることはできないから。

 

 こうしてベルの求めに反して私の記憶にはベルの今の行動の全てが刻み込まれたのであった。

 

 ベルの私と私達の子供への愛の深さを感じさせてくれる大切な大切な記憶として。




凄く平穏な日常回。…今作のテーマってこういう話がずっと続くんじゃありませんでしたっけ?気のせいですか?気のせいですね。はい。(すっとぼけ)

自分の小説はなぜか息をするようにプロポーズして受諾される…というパターンが少なくない気がします。
…まぁ今作は特に子供が既にできてるので結婚が既定路線…というのは固定概念でしょうか。
それはともかく結婚式の日取りが全く決まってないのでそのタイミングにどうせもう一回プロポーズし直すんですけどね?結局は。

あと『あかちゃんぷれい』のくだりはネタで組み込もうとして、調べたらなんか微妙に違う気がしたもののまぁいっかと残存してしまったネタです。
作者にはリューさんに赤ちゃんプレイをしてほしいなどという願望はございません。せめて主従関係にしてください。お願いします。

…というどうでもいい冗談はともかく。
リューさんのお腹が空腹により鳴り響きました。リューさんの戦いの始まりの合図です。(は?)
次回は料理回です!
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