妖精と白兎の愛育日記   作:護人ベリアス

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イチャイチャ要素が完全に欠落していた時期にデート回として時系列を無視して投稿した話です。


街へ出掛けてお買い物

「…やっぱりこの部屋…殺風景…ではないですか?」

 

「それは…ええ。その通りです」

 

 ベルの作ってくれた簡素な朝食を食べ終え、ベルと肩を寄せ合いのんびりとくつろいでいる時のこと。

 

 ベルが唐突に漏らした呟きには同意せざるを得なかった。

 

 私達の視界に映る殺風景なものとは、私とベルの住む部屋のこと。…所謂…シルの言う『リューとベルさんの愛の巣』のこと。

 

 これはあくまでシルがそう表現したのであって、念を押して主張するが私が名付けた訳ではない。

 

 ただ私に積極的にこの部屋でベルと一緒に愛を育んでいこうという意志があるのは言うまでもないことで、この『愛の巣』という表現は凄く気に入っていている。

 

 その証拠に『愛の巣』という言葉を頭の中で反駁するだけで幸せな気分で頭が今にも蕩けてしまいそうに…

 

 …というのはともかくベルが私達の愛の巣が殺風景だと評したのには理由がある。

 

 要はとにかく必要最低限の家具や日用品しか置かれていないのだ。

 

 以前の私の感覚からすれば当然であった。あくまでこの部屋は調査に用いる仮の拠点に過ぎなかったから、必要以上の物は一切必要なかった。実際問題当時は寝る時以外この部屋は用いていなかったことが以前の私の感覚正しさを証明している。

 

 だが状況は変わった。

 

 調査は終わり、この部屋は仮の拠点から二人で…いやお腹の中にいる我が子を加えて三人で暮らす愛の巣になった。

 

 そうなれば自ずと必要な物も増やさざるを得ない。

 

 …ここまで物がないと暮らす分には不便だ。それをベルが伝えようとしているのだと私には分かった。

 

 ならば、と私はベルの方に向き直り、先手を打つように提案することを試みた。

 

「では…この殺風景な部屋を…一緒に華やかにしませんか?」

 

「えっ…いいんですか?」

 

「もちろんです。なので…えっと…ですね?あの…その…」

 

 だがいざベルに提案しようとした所で私は言葉を詰まらせる。

 

 部屋を華やかにする…即ち目的は家具を揃えたりすることだと考えられる。

 

 ただそれ以上に大事なのは『ベルと一緒に』という点。

 

 ベルと一緒に家具を揃える…つまりベルと一緒に買い物をするということ。

 

 これは所謂…デッ…デッ…『デート』と…呼ばれる行為なのではないか?

 

 そう気づいてしまった瞬間私の顔はポッと急に熱くなり、私は続きの言葉を紡げなくなってしまったのだ。

 

『デート』という言葉を口にすることを恥ずかしさで思わず躊躇してしまう私。

 

 だが当然ベルとのデートには是非とも行きたいという思いがあまりに強く、このまま何も言わないというわけにはいかない。

 

 だから私は『デート』という言葉を口にしようと必死になる。

 

 そんな中勝手に恥ずかしがって頬を赤く染めているであろう私を見て、ベルはポワンとまるで私に見惚れているかのような表情を…

 

 …見惚れている?ベルが私に見惚れている!?

 

 まさか…そんなこと…これは所詮ただの私の勝手な思い込みで…

 

 しかしベルは私の表情に釘付けになっている上に若干うっとりして頬が赤くなっている気も…

 

 …と、完全に脱線した思考に邪魔されつつも私はしばらくの間ベルと無言で見つめ合う時間を終えて、ようやく『デート』という言葉を口にすることができた。

 

「だからっ…デッ…デデデ…デートをしましぇんか?」

 

「…え?」

 

「…ぁ」

 

 …噛んだ。

 

 凄く肝心な提案の場面で私は噛んだ。

 

 ただでさえ『デート』という言葉だけでも恥ずかしいのに…

 

「いっ…今のはなしです!?わっ…忘れてください!?」

 

「いっ…嫌です!ぼっ…僕は絶対忘れませんから!」

 

「どうしてです!?」

 

「そんなのリューと一緒にデートをして、イチャイチャしたいからに決まってるじゃないですか!!」

 

 噛んでしまった事実を闇に葬るために直前の言葉を取り消そうとする私にベルは断固とした表情で拒絶の意思を示す。

 

 ベルに拒絶されるとは思いもしなかった私は即座にその理由を問い返すと、ベルは恥ずかしさを覆い隠すためかのように大声で自らの思いを叫んでくれた。

 

 ベルの叫びから分かったこと。それは…

 

 

 私とベルのデートをしたいという思いは一致していたということであった。

 

 

「ベルもデートをしたいの…ですか?」

 

「もちろんです!この部屋をリューの言うように華やかにしたいっていう思いもありますが、それ以上にリューとデートをしたいなーって…デートは初めてですし」

 

「そういえばそう…ですね。ならば今からデートにお付き合い…頂けますか?」

 

「喜んで!リューとデート!そう考えるだけで僕はとっても幸せです!リュー大好き!」

 

「なっ…ベル!?」

 

 私はベルに遠慮がちに本当に私とデートをしたいのか確認してみる。

 

 そんな私にベルは満面の笑みを浮かべて快諾してくれるだけでなく、そのまま抱きしめてまでくれた。

 

 私とベルの考えは一緒だった。やっぱり私とベルは以心伝心。そう改めて確認する。

 

 そしてベルはデートをしたいという言葉だけでなく抱擁までしてくださり、とても幸せな気分にさせてくれた。

 

 そこまでベルにしてもらってしまったら、私もそれ相応のことをしないとベルに愛を示せない、と思い至る。

 

 だから抱擁される中でベルの温もりを感じつつ、私はベルの耳元に近づき小声で呟いた。

 

「…ベル。私も大好きです。ベルにこれだけ私とのデートを喜んで頂けて…私は婚約者としてとても幸せ者です」

 

 そう言いつつベルを抱き締め返すと、ベルはポソリと言った。

 

「…そのリュー?これってみんなわざと…ですか?シルさんに教えてもらったとか…そういうことですか?」

 

「何の…ことですか?ベル?」

 

 シルに教えてもらった…?一体何を?

 

 私はベルの問いの意味を図りかね、困惑する。

 

 ベルの言葉から察するに…何か私はまずいことをしてしまった…?

 

 そう一瞬の逡巡で思い至った私は思わず息ができなくなる。

 

 だが私の危惧は完全に的外れだった。

 

 …それは想定した方向性とは全く違った…という意味だけではあったが。

 

 私は『シルに教えてもらった』というベルの言葉の意味をきちんと理解すべきだったのだ。

 

「…例えば今僕の耳元で僕のことが好きだって囁いてくれたのとか…わざと…ですか?」

 

「普通にベルへの愛をお伝えしたかっただけで特別何か意図があった訳ではないのですが…」

 

「あとさっきデートをしたいか確認してくださった時も…ちょっと上目遣いでしたし…」

 

「…え?別にそのようなつもりは…」

 

「さらに先程リューが噛んだ時も…まさかみんなわざとじゃないですよね?」

 

「ちっ…違います!どうしてそのようなことをベルは疑うのですか!?シルには何も教わっていません!!」

 

 ベルは私の無意識な行動をなぜかわざとでシルに教えられたと疑っている。

 

 そんな疑いをベルに抱かれる謂れはない。そもそもベルはなぜそのようなことを確かめようとするのかが分からない。

 

 するとベルは躊躇いがちにその理由を述べた。

 

 

「だって…今のリューいつも以上に可愛かったので何かあるのかなーと。僕の婚約者のあまりの可愛さに僕の心臓すっごくドキドキしちゃいましたよ。さてはリュー…天然…ですか?」

 

 

「ベッベル!?!?」

 

 この後私が茹で蛸の如く真っ赤に染め上げられたのは言うまでもない。

 

 私はベルに可愛いと褒められた嬉しさと無意識にベルを半分誘惑するような行いをしていたという恥ずかしい事実のせいでしばらくの間ベルの腕の中で悶絶する羽目になった。

 

 …悪いのは私ではない。私のことを可愛いとベタ褒めしたベルが悪い。

 

 決してベルの言う『天然』ではない…はず。

 

 ただそれもシルの関与を事前に否定してしまったせいで、もう可能性が私が『天然』であるか私自ら誘惑したかの二択しか残されない訳で…

 

 私は進退極まり、ベルの温もりの中に逃げ込み、答えを出すことを放棄した。

 

 このお陰で私とベルのデートが本当の意味で始まるまでには二時間の時を要することになった。

 

 …これは決してお互いを抱き締めてるうちに離れられなくなった…という訳ではない。

 

 

 

 ⭐︎

 

 

 

「じゃあまずは家具を揃えましょうか?ベル?何が必要だと思いますか?」

 

「うーん…やっぱり衣装箪笥とか…ですかね?」

 

 ようやくと言った形で買い物に出掛けることができた私とベルはダイダロス通りを出て、市場に来ていた。

 

 そうしてベルに必要なものを確認すると、真っ先に口にしたのは衣装箪笥であった。

 

 …ただこの意見に私はあまり積極的に賛成できなかった。

 

「…衣装箪笥は不要かと。別に私は服にこだわりはありませんし、持っている服もそう多くはありません。なので衣装箪笥など買っても無駄遣いかと…」

 

「なっ…何を言ってるんですか!何言っちゃってるんですか!リュー!それは違いますよ!!」

 

「ベッ…ベル?」

 

 唐突に声を張り上げ、私の意見に猛反発するベルに私は困惑する。

 

 だがベルのもたらす私の困惑はこの程度まだ序の口に過ぎなかった。

 

「いいですか?リュー?リューはですね。とっても可愛いんです。それこそ服を着ていても着てなくてもウェイトレス姿も冒険者の姿もワンピース姿もドレス姿も女神様みたいに美しくて可愛いいんです。そんなリューが僕の婚約者って考えると、僕はとっても幸せな気分になれるんです」

 

「服を着ていなくてもとは…ベル…あなた…今ここがどのような場所か考えて…」

 

「でも!リューのその考えはいけません!リューはどれだけ服がリューの魅力を高めてくれるか分かってません!リューは色んな服を試して着てみることでさらにさらに可愛くなれるんです!リューにはリューの魅力を高めてくれる服がたくさん必要で、その服を収納するために大きな衣装箪笥が絶対に必要なんです!」

 

「だっ…だからベル!?ここは公共の場でっ…周囲の視線が!?」

 

 …痛い。周囲の視線が痛すぎる。爆死しろと言わんばかりの殺意の篭った視線が私達に数多突き付けられている。

 

 そんな殺気を感じられぬ視線も少なくないが、それはそれで妙に微笑ましく見守っていると言わんばかりの生暖かい視線ばかり。

 

 熱弁するベルを他所に私は尋常ではない居心地の悪さを感じさせられていた。

 

 その原因がベルが私のことを可愛いと連呼していることにあるのは言うまでもない。

 

 …あと『服を着ていなくとも』という言葉がいつかの【深層】での情事を私の脳裏に呼び起こしてしまったというのもあるが。

 

 だがベルは私が居心地の悪さを感じていることもその視線達にも気付くことはなく。

 

 ベルの熱弁は止まらなかった。

 

 それだけでなく私が反論する方向をベルとは違えてしまったせいで、私はベルを止める機会を失ってしまってまでいた。

 

「ということでリュー!衣装箪笥よりも前に服を買いに行きましょう!リューは自分の目で服一つでどれだけさらに可愛くなれるかちゃんと知るべきです!」

 

「ちょ…ベル!?」

 

 ベルは有無を言わさぬとばかりに私の手を掴み、目的地のはずの家具屋とは全く違う方向に向かい始めてしまう。

 

 それを本当は止めるべきだったのだが…

 

「僕はリューの可愛い姿をもっと見たいんです!」

 

 …という言葉に思考を奪われて、ベルの成すがままにされるのを許してしまったのであった。

 

 

 

 ⭐︎

 

 

 

「如何…ですか?流石に私には似合わ…」

 

「すっごく可愛いです!やっぱりウェイトレス姿もお似合いなので大丈夫だと思ってましたが、リューにはスカートがお似合いです!あ、次こっちを試して頂けますか?以前のリューのワンピース姿も是非見てみたいので」

 

「え、あ…はい。分かりました」

 

 ベルの選んだ上下の服を着替えて着衣室のカーテンをめくってベルに確かめてみると、ベルは私をベタ褒めした上でさらに追加の服をひょいと渡してくる。

 

 これで…6着目か?

 

 エルフ向けの服を売る店に入ってからもう既に1時間以上経過していた。その間ずっと私はベルの着せ替え人形状態になっている。

 

 現にちゃっかりベルは着替える前の服を回収する抜け目さを見せ、その上私が着替えを終える度に新しい服の組み合わせを用意してくるという徹底ぶり。

 

 お陰で私は脱いでは着ての繰り返し。

 

 ただそんな作業もベルが私の着替えた後の姿を見る度に一喜一憂して、可愛いとか綺麗とか口々に褒めてくれるので私としても決して気分が悪いものではない。…というかベルにこれだけ喜んでもらえるなら私も段々楽しくなってくる。

 

 そんな感じに当初は服になど関心がなかったものの、気付けばベルの反応を楽しみにしつつ積極的に新たに渡されたワンピースに着替えていく私。

 

 そうしてベルの反応を見ようと、私は再びカーテンをめくった。

 

「あ、リュー!やっぱり白いワンピースは清楚なリューにお似合いですね!その服を着こなすリューも最高です!」

 

「ありがとう…ございます」

 

 またも聞かせてもらえた遠慮の一切ないないベルの賛辞に私は恥ずかしさを感じつつも素直にお礼を伝えた。

 

 …本当は店の中にいる周囲の同胞の客や店員の視線が恐ろしく痛いのだが、私は気にするのをやめた。

 

 何せ嫉妬等々によると思われる痛い視線を集めるに済まず、異種族のヒューマンであるせいで余計に同胞の不快感を買ってしまっているベルが全く気にせず店内の服を選び回っているのである。

 

 …なら妻として私も堂々としなければ、立場がない。

 

 そう思い至ったことで私も堂々と恥ずかしがり堂々とベルとの試着デッ…デートを楽しもうと決めたのだ。

 

 周囲の視線など気にせず私とベル二人の世界で思いっきり幸せになろう、と。

 

 そんな思いでデッ…デートを楽しんでいた私がベルを見ていると、ふとあること気付く。

 

 ベルの手にはこれまで私が着たうちでベルが大絶賛した服があったのである。上下合わせれば7着もである。

 

「あの…ベル?その服は…」

 

「あ、今から買ってきますね?そのワンピースは着たまま購入できるように店員さんに頼んでみますのでご心配なく!」

 

「ぜっ…全部買うおつもりなのですか!?お待ちくださいベル!?そんなに買って頂く訳には…というかまず私はただ試着した姿をお見せして、ベルに喜んで頂ければそれでいいと…」

 

 早速先程試着した服を買いに行こうと背を翻すベルを慌てて私は止めようとする。

 

 正直私はその言葉通り買ってもらうつもりはなかったのだ。

 

 だが振り返ったベルの説得に私はあっさり折れることになった。

 

「やっぱりリューは服には興味持てません…かね?僕のためにお洒落はしたくない…ですか?」

 

「ベル…」

 

「リューが嫌ならいいんです。買うのは諦め…」

 

「いっ…いえ!私はベルのために是非ともお洒落したいです!すみませんが、やっぱり欲しいです!」

 

 …私が購入を拒絶しようとしたことでベルがシュンと沈んでしまいそうなのは見ていられなかった。

 

 そのため私はベルのために、そしてベルの笑顔を見たい私自身のために服を買って頂こうと決意したのだった。

 

 その私の言葉にベルはパーッと花が咲くように笑みを浮かべて言った。

 

「ありがとうございます!実はリューにプレゼントを渡したくて、それで最初に服が買いたいなって思ったんですよね」

 

「私にプレゼント…ですか?」

 

「そうです。お気に召して頂けたら嬉しいんですが…」

 

「それはもちろんベルからのプレゼントなら何でも嬉しいです!ありがとうございます!」

 

 ベルからの私へのプレゼント。

 

 そう考えるだけで私の心は幸せで一杯になりそうだった。

 

 そんなベルの想いを形として受け取れるとなると、嬉しさが溢れそうになる。

 

 プレゼントが何かは正直大事ではない。

 

 ベルが買ってくれようとしている服はベルが選び、ベルがプレゼントとして買ってくれる服。そんな込められることになる意味が大事なのだ。

 

 私は即座にベルの買ってくれる服を大切に着させて頂き、またその時にベルに喜んで頂けるよう頑張ろうと心に決める。

 

 そうして結果的に心の底から服を購入することに納得した私はベルと一緒に実際に購入するために精算に向かった。

 

 ただ…

 

「合計で126000ヴァリスになります」

 

「…え?」

 

「あ…」

 

「…足りますか?ベル?」

 

「もちろん足りますよ!ただこれで予算を全部使い切ることになるので買い物は終わり…ですね」

 

「…」

 

 …私の服に予算を投入しすぎてその後のデートは事実上のウィンドウショッピングに成り果てることになった。

 

 それはそれで楽しかったのだが…というかベルと一緒に並んで手を繋いで歩ける時点で幸せで一杯なのは言うまでもないのだが…

 

 この後私達は本来の買い物の目的を帰宅後に思い出し、二人揃って言葉を失うことになる。




もしかして:バカップル?
正解です。もう末期です。ついでに言うと堂々と二人で手を繋いで買い物して歩いてる時点で自らの立場をすっかり忘れているアホです⭐︎
さらに言うと当初の目的である家具の買い揃えも見事に失敗しました。やっぱりアホですね。はい。
代わりにリューさんを着せ替え人形にした挙句洋服代で家具用の予算をほとんど消し飛ばしました。やっぱりアホですね。はい。第一に衣装箪笥自体買いそびれましたし、どこに服を収納するのでしょうか。()
これはオラリオに何でもあるのがいけないんだ…どうしてオラリオには極東の味噌まであるんだ…(そこは聞いてない)

あとベル君のリューさんへの服が如何にリューさんの魅力を掻き立てるかを語るノリが若干ギャルゲーを語る時の安芸倫也になってしまった気が…
このままいつかコスプレプレイとかに行き着きそうですね。このベル君。()

ちなみに126000ヴァリスはジャガ丸くん4200個分です。ま、火精霊の護布2着分よりは安いので全然お金使ってないですね!(多分)
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