妖精と白兎の愛育日記   作:護人ベリアス

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二人で決めた希望の名前

 優しく温かな光が瞼を照らしてくる。

 

 その光に導かれるように私はゆっくりと目を開けた。

 

 …アリーゼと話すことができた。一言一言までは覚えていなくとも忘れようのない確固たる記憶がある。

 

 そしてアリーゼにとても大事な話をされた。

 

 今すぐにでもベルに相談しなければならない大事な話が。

 

 私はそう思い立った途端に、隣にいるであろうベルに今すぐにでも話しかけようと身体をベルの方に向ける。

 

 が…

 

 聞こえてきたのはベルのすーすーという寝息。

 

 熟睡したままのベルの無防備であどけない寝顔。

 

 そんなベルを見てしまうと私はベルの眠りを邪魔するなど到底考えることができなくて。

 

 …頭の中でアリーゼが少々騒いでいる気がしなくもないが、私はベルを起こすのをやめた。

 

 結果目が折角覚めたのに手持無沙汰になってしまった私は音が立たぬよう気をつけながらも徐に手を伸ばす。

 

 私の手が触れたのはベルの綺麗な白い髪。

 

 ベルの寝顔を見ているうちに無性に触れてみたくなったのだ。

 

 短い髪をくるくると私の指に巻いてみたり、髪を優しく優しく撫でてみたり。

 

 ベルの髪に触れていくうちに不思議な楽しさを覚え始める私。

 

 私はベルが目を覚まさないのをいいことに見出してしまった不思議な楽しさの虜になっていく。

 

「んん…」

 

「あっ…」

 

 ただそんな風にベルの髪や頭を撫で回してしまえば、ベルが目覚めてしまうのもある意味致し方ないことで。

 

「…あぁ。リュー…おはようございます」

 

「おっ…おはようございます。ベル。…すみません。起こして…しまいました…その…ベルの眠りを邪魔してしまって本当に申し訳…」

 

 ベルがうっすらと目を開き朝の挨拶を私に贈ってくれる。

 

 私が快楽を追及したがためにベルを起こしてしまった。

 

 罪悪感を覚えずにはいられなくなってしまった私は謝罪を口にすると共に慌ててベルの髪を撫でていた手を自らの布団の中に引っ込めようとする。

 

 だがその手をベルは瞬時に掴んで止めると、私の目をまだ眠そうな細い目のままポツリと言った。

 

「…気持ちよかったので…もう少し…撫でていてくれませんか?」

 

「はっ…はい…」

 

 …あどけない表情でベルの告げられたお願いに私の心は一瞬にして射抜かれてた。

 

 そのため私はそれ以上手を引っ込めることなく私の手はベルの髪へと舞い戻っていた。

 

 そうして再開される私によるベルの髪撫で。

 

 ベルは目を覚ましたからか私の髪を撫でる一挙一動に反応するようにくすぐったそうにしたり、気持ちよさそうにしたり…

 

 先程まで感じていた不思議な楽しさがさらに私の中で倍加したような気がした。

 

 

 ベルの髪を撫でるのはなぜか楽しい。

 

 

 そんな新しい趣味を発掘してしまった私はベルの髪を撫で続けてそのまましばらく時を過ごす。

 

 その後二十分くらいが経った頃合いだろうか。

 

 この頃にはすっかり目を覚ましたベルは私に髪を撫でられながら私の空いたもう一方の手を両手で握り締めていた。

 

 言葉を交わすことなくほとんど距離を作らずベルと私が布団の中で過ごす何気ない一時。

 

 そんな一時をずっと謳歌するのも良いのだが…というか二十分も謳歌し続けても尚私的には物足りないのだが。

 

 ただ頭の中にいるアリーゼがそろそろ煩くなってきたような気がしたので、私はようやく話を切り出した。

 

「そういえば…ベル?実は私から一つ相談があるんです?」

 

「相談…ですか?あっ…実は僕からも相談が…」

 

「えっ…ベルもですか?」

 

「リューもだったんですね…」

 

 何の偶然か朝起きてすぐに私もベルも相談したい事柄があるという状況に二人揃って小さな驚きを見せずにはいられない。

 

 ただ私は心の何処かで納得している部分もあった。

 

 同時にベルが何を相談しようとしているのか直感からか分かったような気もした。

 

 だから私は一つの提案をしてみることにした。

 

「ならば…ベル?お互いの相談を一緒に言ってみませんか?」

 

「つまり…リューはリューと僕の相談したい内容が一緒だと考えている…そういうことですか?」

 

「はい…私とベルは以心伝心の仲なので恐らく相談したい内容も一緒なのでは…そう考えています」

 

「なるほど…分かりました。リューの提案通りにしましょう」

 

 一緒に相談内容を伝えないかという私の提案に当初は迷いをベルは示すも即座に承諾してくれる。

 

 私とベルは以心伝心の仲で一心同体と言っても過言ではない。

 

 ならば相談するタイミングが一緒にも相談する内容が一緒にも当然そうなる。

 

 私とベルは一呼吸置いた後、互いの相談の内容を告げた。

 

 

「「私(僕)達の子供の名前を決めませんか?」」

 

 

「「…っ!リュー(ベル)!!」」

 

 私の直感は外れることなく私とベルが以心伝心の仲であることがまた再確認できた。

 

 その喜びを共有した私とベルは互いの名前を呼び合い、固く手を結び合う。

 

 私もベルも相談しようとしていた事柄は私達の子供の名前。

 

 私のお腹に子供を授かってからもう既に八週間。

 

 そろそろ名前を決めても遅くない頃合いだと私だけでなくベルも考えたのであろう。

 

 何より私は夢の中でアリーゼに一つの提案をされ、ベルとの相談の上で受け入れることにしていた。

 

 ベルが私とアリーゼの提案にどんな反応を見せるかは分からない。

 

 だから問題なのはこれからであった。

 

 私は喜びに浸り続けて話が進まないのもまずいと考え、咳払いをして浮かれた気分を沈めてから話を再開する。

 

「それで…です。ベルには我が子に付けたいご希望の名前はありますか?」

 

「…はい。一つあります。リューはどうですか?」

 

「私も…あります。大切な意味のこもった一つの名前が」

 

「そうですか…ならこの名前も一緒に言うことにしませんか?以心伝心の仲の僕達ならきっとその名前も一緒だと思うので」

 

「分かりました。ベルがそう仰るなら…私は拒む理由はありません」

 

 私はベルの提案に即座に乗った。

 

 ベルがそう言うなら…きっと私とベルの望んだ我が子の名前は一緒だろう。そう信じたからである。

 

 もう一度息を吸いなおしてタイミングを合わせようと試みる私とベル。

 

 二人揃って口にした名前は私とベルを結ぶ愛への信頼を寸分たりとも裏切らぬものであった。

 

 

「「私(僕)達の子供の名前は『アリーゼ』にしませんか?」」

 

 

 見事に、としか言いようがないことだったのかもしれない。

 

 何の偶然だろうか。

 

 それとも必然でもあったのだろうか?

 

 私とベルの望む我が子の名前は『アリーゼ』で本当に一致してしまったのである。

 

 いくら私とベルが以心伝心の仲とは言え私も若干の驚きは覚えずにはいられない。

 

 そのため思わず私はベルに問い返していた。

 

「ベル…本当に宜しいので?『アリーゼ』という名前は…ベルも恐らく私の仲間の名前だと分かっているはずです」

 

「もちろんです。アリーゼさんは…【アストレア・ファミリア】でリューさんと共に他の人の幸せを守るために戦ったお方だと思っています。そんなアリーゼさん名前を頂ければ、僕達の子供は他の人の幸せのために頑張れる素敵な人に成長してくれるんじゃないか…そう僕は信じています。そして僕にはきっと劣りますが、アリーゼさんはリューさんのことを凄く愛していたお方なんだと思います。だから僕達の子供がリューさんを今まで以上に幸せにしてくれる存在になることを願って…僕は『アリーゼ』という名前が一番相応しいと考えました」

 

「ベルッ…!」

 

 ベルの『アリーゼ』という名前を選んでくれた理由の説明に私は思わず感極まって瞳を潤ませてしまう。

 

 ベルはアリーゼに一度も会ったことがないのに本当にアリーゼのことがよく分かっている。

 

 私の大切な仲間のことにベルが好印象を抱いてくれていることはやはり私にとって嬉しいことであった。

 

 それも私とベルの子供の名前に選んでくれるほどなら尚更である。

 

 ただ『僕にはきっと劣りますが』という言葉をベルが棘を含み気味に強調した辺りは少々気になるが…

 

 それはともかくとしてベルが『アリーゼ』という名前を選んでくれた理由を説明してくれた以上私もお返しに説明しなければと考えた。

 

「ベルに多くを言われてしまった気もしますが…アリーゼは…とても明るく周囲に笑顔と希望をもたらしてくれる太陽のような素晴らしい方でした。まるで私にとってのベルのように。私は私達の子供にアリーゼのように生きて欲しい…そう願っています」

 

「なるほど…ちなみにお聞きしますが、アリーゼさんと僕のどちらの方がリューさんにとって素晴らしいんですか?」

 

「…え?なぜそのようなことをお聞きになるのですか?私にとってベルもアリーゼも尊敬しているヒューマンであり…」

 

 一瞬納得しかけたかと思いきや思わぬことを尋ねてくるベル。

 

 驚きもあって私は本心のままにベルもアリーゼも尊敬していると告げてしまう。

 

 が、ベルが私の回答に対して浮かべたのは頬を膨らませた強い不満を顕わにした表情。

 

 私はベルの望んでいない回答を返してしまい、ベルに不満と不安を与えてしまったのだと瞬時に理解する。

 

 そのため私は慌て気味に言葉を付け加えた。

 

「あっ…ただ尊敬という意味では、です。愛という意味ではベルだけです。確かにベルもアリーゼも多くの方に笑顔と希望をもたらしていましたが、私にとっては…愛するベルこそが唯一無二です。ベル以上に笑顔と希望をもたらしてくださる方はいません。私が愛しているのはこれまでもこれからもベルだけです」

 

「ですよね?リューが愛してるのは僕だけですよね?」

 

「もちろんです!私が他の誰を愛するというのですか!私が愛してるのはベルただ一人です!」

 

「ふふっ…すみません。ちょっと意地悪なことを聞いてしまいました。リューの想いはきっと僕達の子供に伝わりますよ。そして僕達の子供は僕達の願い通り育ってくれる…そうに違いありません」

 

 私のベルだけを愛しているという言葉にクスリと笑って謝ってくるベル。

 

 得意げな表情になっているのは私の気のせいだろうか…?

 

 それはともかく改めてベルは私の理由の説明を力づけるようなことを言い、微笑みと共に頷く。ベルは私の説明に納得してくれたようだった。

 

 実は私は私達の子供に『アリーゼ』と名付ける本当の理由をベルに語っていない。

 

 なぜならこれまでの正義(希望)への迷いもアリーゼ達を忘れてしまわないかという不安もベルは知る必要はないから。

 

 どちらもベルに余計な不安を与えるだけである上に我が子にこの名前を付けた時点で忘れるはずの迷いと不安だ。

 

 何よりこんな身勝手な母親の思いをベルが知る必要は何処にもない。私がただ心の中に秘めていればいい事柄だ。

 

 私達の子供には…『アリーゼ』にはただアリーゼ・ローヴェルのように生きて欲しいという願いが伝わってくれることのみを私は願った。

 

 こうして互いの『アリーゼ』という名前を選んだ理由を伝え合った私とベル。

 

 これ以上話し合う必要もない。私とベルの心は通じ合い、多くを語ることなく私達の子供の名前は決めることができたのである。

 

 

 今日から私とベルの子供の名前は『アリーゼ』だ。

 

 

 しばらく表情を綻ばせて見つめ合った後、ベルはゆっくりと私のお腹へと手を伸ばしてくる。

 

 そうしてベルの視線は私の顔からお腹の方へ移ると共にその手は私のお腹を優しく撫でてきたかと思うと、ベルは優しい声色で呟いた。

 

「アリーゼ…パパがママとアリーゼを幸せにするから…安心して僕達に顔を見せてね?僕達は待ってるから」

 

「ベル…」

 

 ベルは私のお腹に向かってそう語り掛ける。

 

 言うまでもなくアリーゼが答えてくれることはない。

 

 だがベルはあえてその言葉を口にした。

 

 ベルが私達の子供に名前を付けたのを機に自らの決意を改めて口にし、再確認しようとしているのだと私は察した。

 

 だから私がこれからすべきこともまた一つであった。

 

 私もまたベルと同じようにお腹へと手を伸ばし、撫でるように触れると静かに自らの決意を告げた。

 

「アリーゼ…不甲斐ない母ですが…それでもあなたと父であるベルを幸せにするため力を尽くすと約束します。だから早く会いたいです。アリーゼ。私は…ベルと共にあなたに会える日を心待ちにしています」

 

 私の語り掛けた決意にベルは笑顔を浮かべてくれる。

 

 私とベルで。

 

 私とベルの二人で。

 

 アリーゼを幸せにする。

 

 そして私達三人で幸せになる。

 

 そんな幸せな日々を得るために私達が為すべきことはまだあった。

 

 

 それは迷宮都市(オラリオ)の脱出。

 

 

 今回のデートを終えればその私達の為すべきことに挑まなければならなかった。




リューさんとベル君の子供の名前はアリーゼで決定!…と言うだけの回。ちょっといつもより短めでしたね。
ただ他の回の添え物にしても良い内容ではないのでこれで一回分…ということで。

そしてリューさんの趣味にベル君の髪をいじることが加わったようですね!(笑)
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